3-9.真紅の猟団3
レイチェルが礼二を守るように現れ、彼女とアインは互いに見つめ合うように立ち止まっている。2人の空気を読むように吹いていた風は、いつの間にか止まっていた。
「う、うーん…」
レイチェルの後ろに屈していた礼二は、アインから受けた大きな一撃から目を覚まそうとしている。
彼の声を聞いたレイチェルは少しだけ後ろを振り向こうとしたが、目の前にいるアインは後ろを振り向いた瞬間を逃さないだろう。
2人は礼二が起きてからの互いの行動を警戒した。
彼の行動によっては動くタイミング、行動することが変わったりするからだ。
「う~ん…」
眠りから覚めるときの唸り声は、朝起きる時の声ととても類似している。
この人まさか…この声が寝起きのものであることに気付いてる?
レイチェルは細い目で見つめるアインに気付いて感じ取った。彼は剣を下段に構え、彼女に向かって走り出す。
彼女は槍の穂先を下に構えて迎撃態勢に移った。
「女、この俺に建て付くつもりかよ…!」
アインの体が左右に揺れる。揺れはどんどん激しくなり、次第に彼の姿が3つに別れた。
分身…? 揺さぶろうとしているのね。
レイチェルはぶれるアインの存在を気にせず正面を見つめる。
相手の動きや体の位置に合わせて目を動かしていれば、言葉通り惑わされることになる。
アインの思惑に乗せられないようにするための目配せだ。
アインは両側にいる2つの分身と共に正面から切り込もうと突っ込んできた。
レイチェルは3つの体から繰り出される攻撃を受け止めようとした。しかし、真ん中にいたアインは空へと舞い上がり、両側の体が剣による一閃を放つ。
彼女は2体分の攻撃は距離を取って避け、槍を横振りに斬りつけて空に飛んだアイン本体の攻撃は柄を使って防ぐ。
自身の攻撃が防がれたことを確認したアインはすぐさま距離を取りながら、周囲に魔弾を発生させて放ち始めた。
攻め方が上手い……
レイチェルは正面に魔防壁を展開して魔弾との接触を防ぐ。次の攻めまで一息付くと思ったが、戦闘の流れは予想外な方向へと進んでいった。
「ちょ、ちょっと…!」
いつの間にか現れたのか、アインの姿をした新しい分身が彼女へと剣を振るおうとしていた。
レイチェルは咄嗟に槍を構えて防御態勢を取ろうとする。彼女の行動を見てからなのか、上空から本物らしきアインの姿が見えた。
「はっ、甘いんだよ!」
彼は上空から剣を振り下ろす。槍は正面の分身の攻撃に対しての防御に使われているので、仕方なく魔防壁を展開して防御した。
この瞬間、レイチェルの横からアインが素通りしていった。
「嘘っ…!」
彼は無言で寝起きの礼二に向かって袈裟斬りを仕掛けようと、剣を上段に構える。十分に上へと上げると、彼はそれを思い切り振り下ろした。
そのまま礼二は斬り殺されるように思えた。しかし、アインの思惑通りにはいかなかった。
「何っ!?」
振り下ろされた剣は礼二の前に展開された魔防壁に受け止められ、彼の魔力が込められた拳はアインの腹にめり込んでいる。
実力差のある相手に対しての初の一撃。
アインは殴られた衝撃で後ろへと飛ばされた。
「このガキ、狙っていたのか…?」
アインは飛ばされながら考えていると、礼二の居た方向から魔弾の一斉に飛んできたことを確認した。
彼は正面に魔防壁を展開し、衝突と共に周囲に煙幕が立ち上がる。
「小賢しい!」
彼の周囲の視界が悪くなったところに、煙の外から魔弾が飛んでくる。
あのガキ……
アインは礼二に苛立ちを抱きながら、体の周囲に防壁を展開して防ぐ。透明な壁に着弾した魔弾は消滅せず、そのまま残り続ける。その後に弾の1つ1つは発光し、急に爆発した。
◇ ◇
今のでやったか……?
アインに放った魔弾が爆発し、爆発によって生まれた煙が周囲に行き渡っていた。煙は次第に薄くなり、立っている彼の姿が現れた。
「ダーク…あなたはいつから目が覚めてたの…?」
「最初から。相手が止めを刺すような動きを見せたら反撃するつもりだった」
レイチェルは礼二の隣へと移動する。彼女は礼二の目覚めについて確認を取った後、顔をふくれっ面にして彼に向ける。
礼二はチラッとレイチェルの顔を見てみると、「何故私も騙した」と言わんばかりの意志を発していた。
「じゃあ、最初から動いて欲しかったわね…」
「相手を騙すには、まず味方からって言うでしょ?」
ふくれっ面のままのレイチェルを軽く言いなだめていると、立ち込めていた煙の中からアインが正面から突っ込んできた。剣先は礼二に向けており、そのまま突き刺そうと直進してくる。
「げっ…!?」
礼二はやってきたアインが持つ剣の刃先を剣の刀身で受け止めて右へと流す。右へ流されたアインは、前へと伸ばした腕を大きく振るう。礼二は反応して再び剣で受け止める。
「いいねぇ…もっと楽しもうぜ!」
彼の反応の良さに楽しみを抱いたアインは暴れるように剣を振るう。縦振り、横振りと大振りながらも素早く振られる一閃はあまり目で捉えきれず、一撃一撃を剣で防御するので精一杯だ。
なんなんだ…この暴れるような太刀筋は…
振られる一閃はとても重く、長くは抑えきれない。
礼二が苦し紛れで防御に徹していると、アインの横からレイチェルが槍による一突きを与えようと割り込んだが、彼は攻撃を受けないように距離を取った。
「大丈夫!?」
彼女は、防御だけで息が上がっている礼二の体を気遣う。
アインから放たれる剣の一閃は素早い上にとても重い。防御する際に響いてきた手に負担がいっていたのか、プルプルと手が震えている。
「あぁ、助かった」
礼二は震える手を彼女伝いでアインに悟られぬように、手が痺れていることを隠した。あまり掴みきれていない剣を再び握り直して構える。
あぁ…手が凄く痛い……
刃物による攻撃を防いでいるはずなのに、ハンマーで手だけを執拗に攻撃された気分。剣を持つのも少し苦しい。
「へぇ…2対1か。いいぜ、まとめて相手してやる」
少し距離を取ったアインは、礼二とレイチェルが2人して自分の相手をする点を見て言った。
あれだけ激しい攻撃をしておきながら、彼は息が上がっていない。
なんて体力だろう。
あんなに動いて全く変わらない様子から、尋常じゃない鍛え方をしていることを察した。
[礼二、二手に分かれて戦うわよ。相手の接近戦に2人して巻き込まれたら動きづらいし]
[分かった。俺は右から行く]
頭の中からレイチェルの声が響いてくる。彼女は礼二に動き方についての指示を行った。
これに了承した彼は、彼女に右から行くことを伝えた上で動き出す。
礼二の動きを見たレイチェルは、彼の動きに合わせて左から攻めることにした。
彼は剣を中段に構え、レイチェルは槍を突き刺すように構えて左右から攻めようとする。
2人の動きを見たアインは最初にレイチェルの方へと向かい始める。
彼女の腹辺りを斬るように剣を横に構えると、レイチェルは動きを読んだように槍を直立に立てた。
金属通しがぶつかり合う音。
アインの剣とレイチェルが持つ槍の柄がぶつかり合い、互いの身に刃を届かせないように力を押し付け合っていた。
数秒すると、アインはレイチェルの腹目掛けて蹴りを放つ。
「がっ…!」
腹の肉が内臓を押し付けるような重い一撃が彼女を襲う。
この重い一撃により彼女は、ビルの屋上から落ちる手前のところまで吹き飛ばされた。
嘘…あのレイチェルがあっさりやられるなんて……
自分よりも戦闘経験が豊富な彼女が呆気なくレイチェルがやられたことに驚いた礼二は、相手との距離を取ろうと考える。
しかし、アインが一瞬にして彼の目の前に現れたことにより、それは実現できなくなってしまった。
「おらおら! 耐えてみろよ!」
彼は礼二に向かって再び猛攻を繰り返す。
頭、胴体、わき腹、足、手等の部位あちこちに剣を振るい、脊髄反射で凌ぎ続ける。自身の攻撃にここまで反応しきれた相手が居なかったのか、アインは狂気かと思えるほどに笑いながら剣を振り続けた。
耐え切れない……
攻撃を抑えるために掴み続けた手の筋力もそろそろ限界に近く、剣を通して受けた衝撃は手や腕へと渡り、彼の筋肉へとダメージを与えていく。
このままいけば手が動かなくなる…
今、この状況下で手が動かなくなることは繰り出されている猛攻をまともに受けてしまうという事であり、そのまま死ぬ可能性が高い。これだけは何とかして阻止しなければならない。
礼二はアインから放たれる怒涛の一閃を凌ぎながら背後に魔弾を精製し始める。
一閃の一つ一つが速すぎるあまりに集中しないと全く見えない上、自身の後ろに精製中の魔弾を移動させなければならない。
2つのことに意識を集中させないといけない以上、簡単にできるようでとても難しい。
魔弾の精製を始めて数十秒後、ようやく完成に至る。
背後にある魔弾がアインの接近に対しての牽制になるように思えたが、相手から見ればそうはならなかったようだ。
鬱陶しい……
相手の押しては引いてを交互に繰り返す攻撃は、礼二のストレスを助長させる。
この攻め方は、背後に停滞させている魔弾の存在を認識していないように思える。どこかで放つ意志があることを周知させなければ、そのまま攻めきられる恐れがあった。
いつ放つべきか…?
適当に放ったとしても、相手側が攻めやすくなってしまう。攻めづらいままでいさせるには、後ろに停滞させる必要があった。
彼の考えを気にせず、アインは容赦なく礼二に攻撃し続ける。
相手の一撃を防ぎ続ける状況となり、再び手に痛みが走り続けた。
「クソッ!」
近距離で素早く動き続けるアインに対して、後方に構えていた魔弾を放つ。
放たれた魔弾は直線を描きながら帝都内へと向かっていき、霧散する様子も無かった。
「へっ! やけになったかよ!」
アインは微笑みながら剣を横へと大きく振った。
剣で防御するも、あの素早く重い攻撃に比べてまた一段と重く、やがて礼二の手から得物が弾き飛ばされた。
「…っ……!」
重い一撃を受けすぎたせいか、両手の震えが止まらなく痙攣している。
先程の一撃で礼二の態勢を崩したアインは、彼の頭上で上段の構えを取った。やがて、剣は下へと振り下ろされる。
「ぐっ…!」
礼二はこの一閃を魔防壁を展開して防御する。
しかし、衝撃はダイレクトに伝わってくるせいか、キックボクサーの蹴りをまともに受けているような錯覚に陥った。
防御してもこれぐらいかよ…!
アインはさらにもう一撃を横に振るった。
剣も無いままやむを得ず防壁による防御を図るが、伝わる衝撃は強い。
礼二は耐え切れずに吹き飛ばされてしまった。
「どうした? 手応えもないな」
アインはあまり反撃も出来ない様子の礼二を罵倒する。
彼は止めを刺そうと礼二の元へと近づき始めた。
「弱者は死ね」
アインはそう告げながら剣を振り上げようとする。
その瞬間、彼の背後から何かが迫り行く音が聞こえた。
向かい合った彼の後ろには魔弾。気配を感じ取ったアインは、それを剣で切り裂いた。
「これはお前の仕業か? 中々小賢しい手を使うようだな」
魔弾を制御していたのが礼二だと分かると、彼は笑いながら言った。
強引に接近戦に持ち込まれて絶望したと思えば、魔弾をコントロールして相手の死角から一撃を与える。
諦めている要に見せかけて戦意はまだ残っている礼二の精神力に、彼は呆気に取られているように見えた。
「ほぉ…子供なのに、ここまでやれるとはな…いい根性している。俺らのところに来ないか?」
強敵である自分に屈せず立ち向かう礼二に対して、アインは仲間の勧誘をし始める。
どっかで見たな。この状態は……
礼二はこの光景にデジャブを感じていた。
軍の特殊訓練が魔獣によって中止になったあの日。
裏切り者として礼二と戦っていた友人・リディ。
彼も目の前にいる戦闘狂と同じように礼二を組織の中に誘い入れようとしていた。
あの時の誘いは友人として誘われていたこともあってか、少し心が揺らいでしまった。
しかし、アインは人間への復讐を目指し、平和を覆すことを楽しみにしている悪魔だ。
そんな男の言いなりにはなりたくない意志でいっぱいになっていた。
「はは…あなたの要望に答えられませんね……」
あなたのような人と同じ道は歩まない。
礼二はそう思いながら嘲笑気味に答える。
返答を聞いたアインは何も動じず、ただ冷たく彼を見つめるだけ。
「はは…ははははははは!」
アインは唐突に笑い出す。何を思って笑い出したのかは分からないが、礼二が予想通りの返答をしたことによって笑い出したことは想像できた。
彼は体をよじりながら笑い終えると、口元を歪めながら話し始める。
「君がそういう事を言うのは想像していたさ。しかし…要望? こっちはてめぇらの青臭さには付き合ってられないんだよ…ひひ」
青臭さ。それは何に対しての意味で言っているのだろうか。
確かに自分はまだ13だからこそ未熟だと思うが、他の仲間達に限っては理解できなかった。
笑いながら体を動かすアインは礼二に体を向けると、再び口を開き始める。
「てめぇら帝国軍の特殊部隊は、世間が魔術師に対して行っている扱いを知っているのか? 俺らには魔力があって魔術を扱える。そんなところを恐れた人間達は俺らを疎外し化け物と呼び、挙句の果てには数の暴力で傷つける…
クズみたいな奴らを守るてめぇらの精神がおかしい!」
どこかで聞いたような話。魔術師が差別され、生きることさえも苦しむこの世界に憎しみを抱いた言葉だった。
礼二は人間に対しての憎しみを語ったアインの所属する『真紅の猟団』が帝都内で破壊工作を行っている理由について察した。
「じゃあ…あんた達は人間に復讐する為に帝都東京で暴れているのか…?」
「なんだよ…今更分かったか」
彼は「俺達の行動の意図をようやく理解したのか」と言わんばかりに嘲笑う。
特殊部隊側としても犯人が分からない以上、判断しづらい状況であったが、この言われようは少しイラッと来る。
相手がこんなにも強くなければ切り返せたのに、今は何も出来ないでいた。
アインが礼二に目を向けていると、彼の頭上から大きな魔力の塊が落下しているのが見えた。
「ちっ…しつこいな」
彼は呟きながら礼二から距離を取った。先程アインが居た位置に塊が落ちると、足場が崩れて下の階層まで見えるようになっていた。
今のは……
予想外な頭上からの攻撃に礼二は驚く。
すると、塊が落ちた位置から近い位置に影が見えた。
「ダーク、大丈夫か?」
上空には遠藤が空を飛びながら彼に話しかけていた。恐らく先程の一撃は礼二からアインを引き離すための手段のように思える。
遠藤さん、助けにきてくれたのかな?
そう考えていると遠藤を追うように複数の魔弾が彼に襲い掛かった。
「ちっ…」
彼は舌打ちをしながら軸をずらして魔弾を回避し、そのまま魔弾が進んでいく方向へと移動し始める。それと同時に両手に銃を構えたマントを羽織った人物が追って行った。
マント羽織っている奴、カルティアビルで見た人じゃないか…?
アイラとレイチェルと礼二が3人で戦ってやっとで戦える二丁拳銃の魔弾使い。
単独で動いているものかと思ったが、アインの行動を妨害した遠藤を追っている様子から、彼も真紅の猟団の一員であることを察するには十分だった。
「まったく…せっかく語り合っているところで邪魔を入られるとね……
おいお前、最後のチャンスだ。俺のところに来い。
お前はまだ幼いし、どこにも染まっていない。力の伸びしろもある。良い魔術師が出来そうだ」
「返事は変わりません。おとと行きやがれ」
体はボロボロ、剣は遠くの位置まで飛ばされて武器も無い。魔力を使った戦闘をすることになっても相手が上手。
そんな状況でも礼二はアインに屈しなかった。
何も恐れずにただ真っ直ぐと、相手に自分の意志をぶつけるだけだった。
「結局、返事は変わらないようだな。なら…今すぐ死ね」
アインは礼二に死刑宣告をすると、真っ直ぐに彼の元へと飛び込んだ。
距離は約10数メートル。
礼二に剣を降り下ろそうとした瞬間、アインの横から魔導砲が飛んできた。
「しつこい!」
彼は飛んできた魔導砲を剣による一閃で凪ぎ払う。
凝縮された魔導砲は切断され、裂かれた魔力は霧散していく。
魔導砲を斬った瞬間を始めて見た礼二は、あんぐりと口を開ける。魔力の塊を剣で斬る者がいるのか、と規格外れな技能に驚いた。
魔導砲が斬られた瞬間、レイチェルがアインの後ろから槍を突き刺そうと走ってくる。
しかし、彼はすぐに振り向き、彼女に向かって剣を振るった。
唐突に振られた刃に気付いたレイチェルは、体を屈めて回避する。
このまま流れで一突きしようとしたところ、彼女の腹に彼は蹴りを入れていた。
蹴られたレイチェルは、再び大きく吹き飛ばされた。
「おいおい、動きが単調過ぎるんだって」
アインは吹き飛ばされたレイチェルに対して、小馬鹿にするように言った。
彼女の体は強い衝撃を受けてからなのか、全く動く気配が無い。アインはレイチェルに止めを刺そうと彼女の元へと向かおうとする。
「やめ…ろ……」
礼二は倒れている彼女に近づくアインを止めようと手を伸ばす。手を動かそうとしても体は重い。
そして彼との距離は離れていく。
動きたいけど、体が言う事を聞いてくれない……
アインの攻撃を受けて悲鳴を上げる体。腕を上げるだけでも異常な痛みが走る。
<力が欲しいか?>
どこかで聞いた重い声が脳内に響き渡る。
唐突に聞こえた声に礼二は内心動揺する。
この声は…朝倉宗治朗と戦った時に聞こえたものと同じ…あんたは何者だ。
頭の中で主に語りかけた。
<我は悪魔神・バモン。生命と死を司る悪魔の神である。汝、我が力を所持していた者との魂の繋がりを感じている。我の力が欲しいか?>
礼二の声に答えるように、重い声は新たな言葉を紡ぐ。
内容の意味はよく分からない。
要約してしまえば、ただ単に「力が欲しいか?」と聞いているように思える。
すると、体の内から意識を乗っ取られそうな程に強い力を感じた。
<我は貴様の考えている通りのことを聞いている。そして貴様の中から湧き上がるような魔力は我の体から生まれたものを元にしている。我の力は憎悪が入り乱れた強欲な力なり>
何て力だ…湧き上がる魔力が体を乗っ取っていくような……
とても危険な力のような気がした。
生命と死を司る悪魔の神・バモン。
名前から察するに、勇者を主人公としたゲームで言う『魔王』的な存在だろう。
自身で悪魔と語っている点、湧き上がる魔力から感じられる精神の侵食具合から感じられる情報だけでも危険な臭いがするのだ。
しかし、目の前にいる傭兵達はどのようにして処理すれば良いだろう。
少し考えても何も思いつかない。
あのままいけばレイチェルは殺され、次に礼二まで殺されてしまう。
彼の中であまり選択肢は無かった。
よこせ。あんたの力を寄越せ!
<いいだろう>
礼二の一言に賛同するバモンは、彼の意識の中で姿を消した。
自然と意識が現実へと戻っていく―――
はっと目が覚めると、頭の中で「殺せ、殺せ」と呟きが響き渡っていた。
恐ろしい殺意が意識を持っていくような錯覚がした。
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。
響く声に抗いながら礼二は立ち上がろうと力を入れた。
「ん…お前、まだ動くの…か? ほぉ…面白い」
異常な魔力を感じ取ったアインは、礼二の居る方向へと顔を向ける。見えたのは黒い魔力が周囲に展開されている彼だった。
波状に広がる魔力は次第に尾のような形へと変貌したりしていた。
「ダー…ク…」
薄れゆく意識の中で、レイチェルの目には黒い刻印に覆われた礼二の姿が映っていた。




