09 お迎え係、正式採用
行きよりも安全運転で帰っている途中、案の定エレナさんが予想通りの言葉を言った。
「折角青森に来たんだもの。マグロとか食べて帰りたいわよね」
「まだ食うのか?」
「こっちでもマグロ取れるでしょう? どこかで食べて行きましょうよ。アンジュも食べたいわよね?」
「うん!」
アンジュが元気な返事をする。
アンジュちゃんが食べたいと言うのなら寄っていくべきだろう。
「で、どこかいいお店あるのか?」
「わたしを舐めないでよね。ちゃーんと調べてあるわ」
用意周到なことで。というか、もしかしてマグロ食べたくて来たまであるな。
「あ、そこをばーっと行った先にあるわ」
「もう少し分かりやすく教えてくれ」
「しょうがないわねぇ。じゃあちょっと止めてよ。カーナビに入れるから」
「ああ」
鼻歌交じりに住所を入力していくエレナさん。
「ほい。できたわよ」
「結構距離あるじゃんか」
そうして目的のお店へ行った。
「おいしー」
「ははっ。お嬢ちゃんおいしいかい?」
「うんっ!」
アンジュちゃんがニッコリと頷いた。
「おーしじゃあこれはサービスだ」
「わーい」
「あ、ずるい」
「こっちのお嬢さんにもサービスだ」
「ありがとう」
二人分もおまけしてもらえるなんて気前がいいな。
「なんか、すいません」
「美味しそうに食べてくれるならこっちも嬉しいってもんで。ほらお兄さんも」
「あ、ありがとうございます」
やっぱり美味いな。それはそうと、二人ともよく食べるが、やっぱりエレナさんだけ食べる量がおかしい。
「なぁ、あそこのお嬢さんは何か大食いのイベントにでも出ているんかい?」
「いや、出てないですよ。多分」
そもそも出会ってそんなに経ってないし、あんな目立つ見た目なら分かるはずだ。
しかし、あんなに食べたのに、こんなに安いなんて。安いといっても結構な枚数の渋沢さんが飛んだけどな。
「また来たいわね」
「そうだね」
「ねぇアンジュ」
「ちょ、それはダメだろ」
「?」
「アンジュちゃんは気にしなくていいんだよー」
「?」
「(ちょっとエレナさん、そんなこと言ったら、またこうやって迎えにいかないと行けないじゃないですか)」
「(ダメなの?)」
「(ダメだろ)」
「(むぅ……)」
レンタカーを返却するまでエレナさんは終始不機嫌だった。
しかし、そんなことよりも、レンタカー会社の人の視線の方が気になった。
だってねぇ。一人増えてるわけで。そりゃあ訝しまれるわけで。
だが、そんな不機嫌も駅弁を買ったらコロッと直ってしまった。
ホントに食い意地張ってるなぁ。
「ねぇアンジュちゃん。エレナさんは普段からあんなに食べるの?」
「うーん。分かんない。ちゃんとしたご飯食べてないし」
あの汚部屋では食べるのにも一苦労なのか。
これは俺がしっかりしないとダメなのでは?
帰りの新幹線の中でエレナさんは早速一つ目の弁当箱を開けた。
まだ新青森駅を発車していないし、一時間前にはあんなにマグロを食べたっていうのに。
しかし、一口サイズの料理が沢山入ってるのいいな。俺も買えば良かったかな。
アンジュちゃんは疲れたのか眠ってしまった。
俺も運転で疲れたし、少し眠るとするか。
目覚めると、アンジュちゃんは居なかった。
「!?」
隣を見ると、エレナさんも眠っていた。
嘘だろう? まさかまたどこかに飛んだというのか。
一体なにが原因だったのだろうか?
アンジュちゃんは窓際の席にいたはず。
最悪のケースを想定しかけた時、通路を歩いて戻って来たアンジュちゃん。
「アンジュちゃん……」
「おトイレ行ってたー」
「そうか……」
心臓に悪い。だが、良かった。
でも──
「危ないから一人でどっか行っちゃダメだぞ」
「うん?」
どうしてそこは素直に頷いてくれないのだろうか。
しかし、凄い疲れた。
朝にマンションへ行ったら、そのままアンジュちゃんを追って龍飛崎へ。
今は再び眠ってしまったアンジュちゃんを背負ってマンションへの道を歩いている。
エレナさんはいつ買ったのか、お土産の紙袋を両手に下げている。
マンションの前へ行くとアイリさんが立って待っていた。
「あら〜おかえりー」
随分とまぁ、のんびりとしている。普通焦るもんじゃないんだろうか?
「なんでそんなのんびりしてるんです?」
「まぁ、私も経験あるからね」
そう言ってエレナさんを見るアイリさん。
まぁ、行きの新幹線の中で聞きましたよ。
今後はアイリさんが迎えいに行くのだろう。こんなにも余裕なのだから。
だが、アイリさんは俺の前に立つと、なんてことはないといった感じで口を開いた。
「これからもアンジュをよろしくね?」
「はい?」
「お姉ちゃん。分かってないみたいよ」
「あら」
大仰に驚いて口を手で隠すアイリさん。
嫌な予感がする。
「あのね。アンジュはあんたに懐いてるみたいなの。だから、これからもこういうことあるから迎えに行ってあげてね?」
「マジで?」
「マジマジ。ちゃんとアンジュから電話かかってくると思うから、迎えに行ってあげてね」
まさか、これからメリーさんから電話がかかってくる度に迎えに行かないと行けなくなるとは夢にも思わなかった。
「ところで、どこに行ってたの?」
「マグロ食べに行ってたわよ」
場所じゃなくて食べ物で言うんだな……。
「え、私も食べたかったんだけど……」
「ちゃんとお姉ちゃんの分も食べてきたわ」
「いやいや……ってそのお土産は?」
「これ? これは私のよ」
「ずるい。私にもよこしなさいよ」
「嫌よ」
「だってそれ私のお金でしょう!」
「そうだけど、選んで買ったのは私よ」
「ちょっとー亨! エレナになんとか言ってよー」
アンジュちゃんを背負ってる俺を揺らすな。
というか、これから俺はこんな日々を過ごしていくのだろうか。
「そういえば、なんでアイリさん連絡付かなかったんです?」
「あ、そうそう。聞いてよー。バスに乗ってたんだけど、車道をさー、チャリが真ん中を蛇行運転してんの。しかも低速で」
「あー、そういうルールですからね」
「いや、あれワザとよ。何回もニヤニヤしながら振り返ってたもん」
まぁ、そういうやついるよな。
「だから、取引先とか遅れまくりで、謝りまくってて、出れなかったの」
ご愁傷様です。
「めっちゃムカついたし、リスト乗ってたから、私の対象じゃないけどやっちゃった⭐︎」
そんな簡単に呪うなよ。
しかし、よく俺はそんな呪いを受けなかったな。
こんな明るく言ってるのに恐ろしい存在なんだと、改めて思い知らされたのだった。




