65 こごえるくらいつめたい
お盆を過ぎれば、暑さも和らぐと言われているが、どんどんと暑さが増していく。
「あー! 暑い暑い暑い! あっつーーーーーい!」
髪の毛を振り乱しながらそう叫ぶのはエレナだ。
「なんでこんなに暑いのよーーーー!!」
「いや、エアコンガンガンかけてるはずだぞ? 18度にまで下がってるし」
エアコンのリモコンは18度になっている。それでも部屋の中にいると汗がダラダラと垂れてくる。
「あちゅーい」
アンジュもぐったりしている。犬のようにベロを出している。よっぽど暑いらしい。
ベランダの窓を開けると、生ぬるいが、部屋の中よりは涼しい風が入ってきた。
「もしかしてエアコン壊れた?」
「嘘でしょ!?」
「だっていくら下げても温風しか出ないし。というか、温度下げたのエレナだろ?」
「そうだけど? だって、朝から暑いんだもん」
エアコンの吹き出し口に手を当てる。温風が出ていた。
「マジか」
エアコンを切る。
「これいつ買ったエアコン?」
「んー、5年くらい前かな……」
汗を拭いながらエレナが答える。エレナじゃどこで買ったのかとか、長期保証がついてるかなんて分からないだろう。
聞こうにも、アイリさんは仕事中なのか繋がらない。
「仕方ない」
メーカーのサポートへ電話するが、同じような案件で予約は埋まっており、修理に来られるのは九月末らしい。
夏が終わってしまうな……。
買っても納期は同じくらいかもしれない。
「修理来れないって」
「死んだ……」
諦めたかのようにその場に突っ伏したエレナ。
「床がぬるいー」
干からびたカエルのように伸びている。
そこで、気がついた。アンジュがいない。
「あれ、アンジュ?」
あまりの暑さにどこかに退避しているのだろうかと見て回るがいなかった。
「マジか」
でもこの暑い部屋にいるよりはいいか。問題はどこに行ったかだ。
ホッカイロのようになったスマホにメッセージが届いていた。
『さむい→』
「寒いってなんだよ……」
暑さでイライラしていたのか、声に出てしまった。
「寒い!? アンジュどこにいるの? サイゼ? ココス? 夢庵? それともバーミヤン?」
なんで全部ファミレスなんだよ。
というか、アンジュがファミレスに一人で行くとは……ありえるかな? どうなんだろ……。
『こごえるくらいつめたい→』
一体どこなんだ……。
冷凍倉庫? それとも遊園地の冷たい部屋みたいなところだろうか?
何か……何かヒントを……。
暑くて頭が回らない。
そしてなぜかアンジュからはYOUTUBEのリンクが貼られていた。
それを見て理解した。
なるほど。確かに真夏のクソ暑い時期にここは天国だろう。
場所が分かれば、あとは移動するだけだ。
「亨、どうしたの?」
「アンジュを迎えに行く」
「どこに?」
「宇都宮」
「は?」
「エレナはお留守番してるか?」
「嫌よ。わたしだって涼しいところに行きたいわ。でもなんで宇都宮? アンジュ、餃子でも食べてるの?」
「いや……」
三人分の長袖も持って部屋を出た。
「なんでそんな服持ってるのよ。暑いから要らないでしょ?」
「いや、多分必要になる」
「宇都宮に氷の室でもあるの?」
「ある意味あってる」
そうして、駐車場へ行く。
「ねえ、なんか車綺麗になってない?」
「あまりにもボコボコでかわいそうだったから、お店に持ってって直してもらった」
心なしか車のフロントマスクがドヤ顔に見えた。
ドアを開けると、サンシェードを付けてなかったからだろうか、むあっとした熱気が俺とエレナを襲う。
「「あっつ!!」」
エンジンをかけて車内が冷えるまで待ってもいいが、こんなところで立っているわけにもいかない。
窓を全開にして、エアコンも全開にして出発した。
しばらく走ればだんだんと熱気が抜けてきた。
窓を閉めてエアコンを全開にした。
「ああー涼しいー」
エレナはやっと一息できたとばかりにくつろぎ始めた。
ちなみに、この車は俺が運転しても保険が効くようにしてもらっている。
なんだかんだでお世話になってるよな。帰りになんか買ってくるべきだろうか。
そうして高速に乗り、走っていくと、エレナがサービスエリアに近づくたびに入るようにせがんだ。
「あ、羽生サービスエリアだって。寄ってよ」
「いや、すぐだから。アンジュ迎えに行く方が先だろ?」
「むぅ……」
ふくれっ面でエレナはスマホをいじる。
「あら、アンジュったら、なんか外に出たんだって」
「え?」
「中に入れなくなっちゃったからかき氷食べるって……あー、美味しそう。きな粉黒蜜だって」
なかなかに渋いもの選んだな。
まぁ、チケット買って入ってないんだから、入ることはできないだろうな。
そうして、利根川を渡ると、またぞろエレナがせがんだ。
「佐野サービスエリアよ。ここで寄らないでいつ寄るのよ」
「帰りに寄ってやるから」
「まぁ、そうよね……。仕方ないわね……」
ふて腐れながらも、渋々納得したエレナ。
途中でコンビニでも寄れば良かったな。
佐野を越えたとき、名残惜しそうに振り返っていた。
「佐野ラーメン……。さの丸焼き……。いもフライ……。桜あんぱん……。レモン牛乳……。新生姜……」
「……………………」
そういえば、止まると思ったんだろうが、そういうのは、サービスエリア手前で言うべきだ。
過ぎてから言っても仕方がない。
宇都宮インターを出て国道293号線を南下する。
途中でエレナが「ろまんちっく村ですって。わたしと亨にぴったりじゃない?」と訳分からないことを言っていた。
とりあえずスルーしながら、「帰りな」と言って過ぎた。
もうすぐ着くんだからな。
そうして黙々と走り駐車場に車を止めた。
近いところは埋まっており、少し離れた場所だ。
昔は入り口手前まで乗り入れできたらしいが、今は歩かないといけない。
駐車場から入り口までの距離で、冷えた体はまた熱を取り戻すだろう。
そうして日差しに晒されながら歩いていく。
一瞬洞穴から冷気が漏れ出てきており、とても涼しかった。
そこから動きたくなかったが、そんなわけにはいかない。
坂を登り施設の入り口まで一気に歩いていく。
もう汗だくだ。
ようやく辿り着くと、入り口で仁王立ちしているアンジュを見つけた。
「お待たせ」
「待ったー」
「じゃあ、入るか」
「その前にかき氷よ」
エレナは、十分待っただろうと言わんばかりに俺の手を引いて、カフェへと向かった。




