02 私メリーさん
俺の名前は宇慶亨 (うけい とおる)。
都内の大学に通う一年生だ。
大学に入学して数日。今日も生活費を稼ぐためにバイトだ。仕送りなんてないからな。世知辛い。
近くでは花見帰りの人たちが騒いでいたりする。もう大分散っているだろうに。
そんな俺は今日もバイトをこなし、家に帰宅する途中だったのだが、不意にスマホが鳴ったので、何の気なしに取ってしまったのだ。それがよくなかった。
不用心だと言われるかもしれないが、なぜだかとらないといけない気がしたのだ。
「はいもしもし」
「わたし、メリーさん。今、あなたの後ろ………」
「え?」
振り返ると、そこにはスマホを持った金髪の疲れた顔をしたスーツ姿の女性がいた。
「……にいるのぉオロオロオロオロオロオロ…………」
まさか振り向きざまに盛大にゲロを吐きかけられるなんて……。俺そんなに悪い事しただろうか?
そして、えづきながら、白い顔をして蹲る女性。
「だ、大丈夫ですか?」
声をかけるが反応がない。
どうしようか。このままこんな場所に置いておくことも出来ないし。
それに、さっきまで騒がしかったのに、人っ子一人見当たらない。
そこらへんで酔って騒いでいた連中はどこに行ったのだろうか。
まぁ、いたところで戦力になるとは思えないが……。
仕方ない。ここは割り切って置いていこう。
社会人ならその辺考えて行動できるはず。後始末もね。それにさっさと洗ってお風呂入りたい。
踵を返して去ろうとしたところで、両足首を掴まれた。
「待ちなさい」
俺は回避行動すら出来ずに地面のアスファルトにダイブした。
「っつー! 何すんだよ!」
「お願い。置いていかないで!」
そんな別れを切り出された彼女みたいな言い方されても。
そもそも俺が何かする必要なんてないんだが。
あぁめんどくさい。
「なんすか」
「連れてって」
えぇやだぁ。俺にゲロを吐きかけた満身創痍のメイクの崩れたメンヘラよりの女性を介抱するなんて。
これ、ゾンビ映画の主人公の方がマシだぞ?
だが、結局押し負けた俺は、彼女に肩を貸しながら俺の住むアパートまで連れてかされたのだった。
途中四回程のリバースタイムを挟んで…。
そして、部屋に入るなり浴室へと駆け込む女性。
「何でユニットバスなのよ!」
何でこんな言われなあかんのだ。
暫くすると、シャワーの音が聞こえたので、嫌々ながらもタオルとジャージを洗濯機の上に置いておいた。
ゲロ塗れの服をそのまま洗濯機で洗う訳にはいかない。
暫くすると、「ふぅー」とさっぱりしたのかタオルを頭に巻いて出てきた。
ふむ。崩れたメイクをとったら、それはそれで美人だとすぐに分かる顔つきをしていた。
だが、どう見ても外国人だよな。でもほんの少し入ってるからハーフかな?
そんな女性は出てくるなり、「ドライヤー貸して」と感謝の言葉も無く要求した。
これがカルチャーギャップか。
俺は水の入ったコップとドライヤーを渡した。
一瞬きょとんとした顔をするが、「分かってるじゃない」と言って一息で飲んで、ドライヤーのスイッチをオンにした。
俺はシャワーを浴びるついでに浴槽で服を洗い、洗濯機へと放り込んだ。
色々見えた気もするが、疲れすぎて何も思わなかった。
最後に浴槽を洗い、俺自信も綺麗にして出たら、腹を出して、勝手に俺のベッドで眠っていた。
「マジでなんなんだ」
俺じゃなかったら襲われてるぞ?
マジで幻滅するなこれ……。
とりあえず、お腹の部分を直して布団を掛け直す。
寝相が悪いのか、何度も蹴り飛ばされるので、途中でそのまま放置した。もう知らん。
「はぁ…疲れた……」
俺も座布団を枕代わりに寝ようとしたところで、振動音が聞こえた。
どうやら彼女のスマホからのようだった。
それは絶えず送られるメッセージの通知音と、切れるまで延々と鳴り響くマナーモードの振動音だった。
これ誰か心配してかけてきてるんだよな。
出た方がいいのだろうか?
だが、この見た目だ。もし相手が英語だったらどうしようか。フランス語やロシア語だったらお手上げだ。
とりあえず明日の朝掛け直してもらうとして、俺も寝よう。そう思ったのだが、明け方近くまで寝ることは叶わなかった。
それは絶えず振動しているスマホと、工事現場かと思うようなイビキのせいだった。
どんだけ疲れてんだよ。
俺も疲れてるし、明日講義あるんだぞ?
座布団で両耳を塞ぐが効果は無かった。




