18 おにいはヒモになったの?
「亨ちゃん、今日ご飯なにー……って、あら」
ニコニコしながらアイリさんが入ってきた。
どうやら今日はまだ飲んでないようだ。
「ちょ、おにい、この美人さん誰!」
「やだもう、美人だなんてー、すごくいい子ねー」
まぁ、美人なのは間違いない。頭に『残念』がつくけどな。
「亨ちゃん、この子は、彼女さん?」
これは、一度説明した方がいいな。
アイリさんとエレナさんが座り、対面に環と操が座る。
アンジュはアイリさんの膝の上だ。
ちなみに俺は立っている。
椅子が無かったからな。
「えっと、こちらは俺の妹の環と操です」
「あら、妹さん!? どうりで利発そうな子で」
「いやぁ、それほどでも」
「この人、人を見る目もあるのね」
リップサービスだよ。この人の営業成績なめんな。
「で、こっちが、同居している海道さんで、アイリさん、エレナさん、アンジュちゃんだ」
ペコリと頭を下げる三人。
慌てて二人も頭を下げた。
そして、環が最大の疑問を聞いた。
「あの、おに……兄とはどういったご関係で?」
「家族?」
バカ! 他に言い様あっただろう。
「ちがっ! その、いろいろあって、家事を手伝う代わりに住まわせてもらってるんだ」
「あの、こんなこと言うのもなんですけど、うちのお兄ちゃんがそこまで役に立つとは……」
「ひどっ!」
環が笑いながら突っ込んだ。笑いながら言ってる時点で同罪だけどな。
しかし、操は酷いなぁ。
もう勉強教えてやらないぞ。
「亨は凄いのよ! わたしに勉強教えてくれるし、家事も完璧だもん」
そんな目で見るな。
うちの妹二人の疑うような目が辛い。
本当のこと言えないしな。
「アンジュ、おにーちゃ、しゅき!」
「手……だしたの?」
「ロリコン」
「違う」
「じゃあ、ペド?」
「やめろ」
妹からの評価がこんなに低いとは思わなかった。
そうだ、俺も気になってたんだ。
「環は俺に何の用だったんだ?」
「え? あ、ああ……そうそう。お母さんが荷物出したら戻ってきたから、見てきてって」
「あー……」
これは俺が悪いな。
引越し先伝え忘れてたわ。
「あとで、LINEしとく」
「いいよ、お母さんどうせ見ないし」
だよな。じゃなかったからわざわざ環が学校帰りに来ないよな。
では、もう一つの謎を聞こうか。
「じゃあ、操はエレナとなんで一緒なんだ?」
「塾一緒だし」
「今まで接点あったのか?」
「あったわよ。まぁ、家に来るの初めてだし」
初なのか。なんで急に。
「今まで成績最下位だったのに、模試で一位取ったから、どうしたんだろうって。お兄ちゃん見たら納得した」
「そ、そうか……」
エレナ、よく塾やめなかったな。
「で、なんでお兄ちゃんは、こんな場違いな中で生活してんの?」
「話すと長くなるが、端折ると、生活能力が無くて、つい住み込みで」
「住み込みになる理由が分からない」
「アンジュが気に入っちゃったからよ。あ、わたしもね」
「「!?」」
サラッととんでもないこと言うな。
妹二人がフリーズしてしまった。
俺とエレナを何回も見る。
「ねぇ、正直に言って。本当に手、出してないんだよね?」
「今なら捕まるだけで済むから」
「人を犯罪者みたいに言うな」
そもそも、手を出されたのは俺の方なんだよ。
コロッとこの世から退場しそうになったんだからな。
でも、よく考えたら、よくそんな相手と一つ屋根の下で暮らしてんな、俺。
そんなことを考えていたら、アンジュが場の空気を壊してくれた。
「おなかしゅいたー」
「あら。じゃあご飯にしましょうか」
「そうね。あ、食べてく?」
「じゃ、じゃあ……はい」
「お兄ちゃんの料理スキルを確認しないといけないしね」
家でもたまに作ってただろうに。簡単なやつだけど。
「はあああ? これ、え? これ、おにいが作ったの?」
「うっま! え、いつの間にこんなにレベルが……」
居酒屋でバイトしてたからじゃないかな。
高校の時もファミレスでバイトしてたし。まぁ、あれは温めて出すだけだけど。
「ほんと、お店の味なのよねー」
今日は、妹二人がいるからか、お酒は控えている。
いつまで、その猫かぶりを続けられるか見ものだな。
エレナは、無言でかっくらっている。
少しは猫を顔に乗せろ。五匹くらい隙間なく被せるんだぞ。
そうして、食べ終わると、二人は俺を見た。
「おにいが心配だから、たまにくるわね」
「うん。エレナとどこまで進展したか確認しないとだし」
操は何言ってんだ?
そんなエレナは、ダラシなく座って、お腹をさすっていた。
「ふぅ〜〜〜」
アンジュもお腹いっぱいなのか、船を漕ぎ始めた。
「あー、ダメダメ。ほら、歯磨きはしないと」
「んー」
「嘘でしょ」「マジで?」
洗面台へアンジュを連れていく時に、二人が疑問を口にしていた。
アンジュが歯を磨き終えると、体力の限界に達したらしい。
寝てしまったので、抱きかかえて戻る。
「まぁ、結婚出来ないよりマシよね」
「こんなに立派になって……」
環は未だに苦い顔をしているが、操はハンカチで眦を拭っていた。
そして、その後帰るということで、送ってくと言ったら、やんわり断られた。
「いいわよ、駅二つしか離れてないし」
「そうそう。新婚生活邪魔しちゃ悪いし」
「新婚じゃないし」
二人はまだ何か思うところはあるようだが、今日は素直に帰っていった。
そして、リビングへ戻ると、既にアイリさんは三本程空けていた。
飲むの早すぎませんかね。
戻ってきたらどうするつもりだったんですかね。
「亨……」
エレナが俺のシャツの裾を引っ張る。
「どうした?」
「あ……、や、なんでもない。……今日もご飯美味しかった」
「そうか」
「うん。……あ、後で勉強教えて」
最近は、食後に勉強をするようになった。
たまに、変な勘違いしたりするが、まぁ、前ほど酷くはない。
すぐに修正出来てるからな。
「あ、洗うのも手伝うわよ」
「そう? じゃあ、洗うからゆすいでくれな」
「うん!」
こうして俺の日常は変わらずに続いてくれればいいんだけどな。
俺はそう願いながら、汚れた食器を水に浸した。




