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 ◆兎与田七海



 朝食を済ませて制服に着替えた七海は、姿見で全身のチェックを済ませる。


 問題ない。綺麗に整っている。


 その時、側に飾ってある写真立てに視線が行く。


 そこに収められているのは集合写真。


 北海道の山中に建てた仮設の墓を東京に移設した際に撮影したものである。


 結界前の山中に墓を建てた時、誓いを立てた。


 ――妖王が倒されるところを見届けてもらうと。


 無事、その約束を果たすことができた。


 そのため、初めに計画していた通り、墓を東京へ移したのだ。


 墓は鳳宮家、鷹羽家、雲上院家の力を頼って多少無理を通し、兎与田家の墓の近くに建てることが出来た。


 移設時のことを思い出すと、自然と笑みがこぼれる。


 多くの友人に囲まれ、非常に賑やかな雰囲気で沢山笑った。


 とても騒がしかったが、それが心地よい時間でもあった。


 今の自分の生活に憂いがないことを両親にも知ってもらえた気がする。


 あの時、移設を終えて皆で写真を撮った後に、真緒から話があると呼び出しを受けた。


 話の内容は、高校で行っていた奇行についての説明だった。


 以前、時が来たら話すと言っていた約束を守ってくれたのだ。


 それは、端的な結論の導入から語られた。


 ――要約すると、不確かな予知夢。


 なんでも、幼少期に高校生活時に起きる出来事を、何度も夢で見たそうだ。


 その夢には、自分が知りえない情報や知識があり、それが現実でも合致した。


 そのため、夢を信じて高校に入るまでに様々な対策行動を取ってきた。


 それが幸いする部分と、災いする部分があった。


 良かった部分は準備に時間を割けたこと。


 良くなかった部分は準備をした結果、未来が変化してしまった事。


 未来を知っている真緒の行動が、小さな変化を無数に生み出してしまった。


 それが積み重なった結果、夢に見ていた出来事と違う未来に変化してしまったそうだ。


 大筋では夢に見た未来に向かっているが、細部が全く違う。


 全体の流れは変わらないが、対象人物に変化が見られた。


 そのため、上手く説明できる気がしなかった。


 説明しても、予知夢と実際に起きることに差異が生じるため、信じてもらうのは難しいと判断した。


 だけど、夢に見た出来事には危険なことがあったから強行した。


 それが奇行の原因であり、話せない原因であった、と。


 そして、夢に見た出来事は全て終わった。


 一応、全て無事に解決することが出来た、というものだった。


 そう説明されると、納得できる部分が幾つかある。


 自分の身に降りかかった出来事で言えば、ハイジャックや雪山での事件などだ。


 また、未来の予測が不安定になったという部分にも頷ける要素があった。


 ハイジャックの時、便の調節をしたことなどが、それに該当するのだろう。


 何より、中学で初めて会った際の言動にも説得力が生まれる。


 私の名前や、それまでの生活を自信たっぷりに間違えていたことを鮮明に覚えている。


 当時語ったことが夢で見た事というのであれば、一定の納得感があった。


 だから七海は、その説明を信じた。


 真緒は、話しても信じてもらえるか自信がなかったようだ。


 そのため、こちらが何の疑問もなく真緒の話を受け入れたことに対して、非常に驚いていたのが印象に残っている。


 七海からすれば、未花の能力のこともあるし、真緒の話を受け入れることにそれほど抵抗を覚えなかった。


 真緒の話では、これ以降の未来は何も分からないと言う。


 だから、終了の宣言と約束を果たすために話してくれたそうだ。


 その話を聞いて、充分だと思った。


 自分にとって最も懸念していたのは妖王だ。


 その妖王は無事討伐された。


 妖王の事以外で、未来に気がかりなどない。知りたいこともない。


 それ以外に脅威に感じることなど何もない。


 真緒が、どんな未来を回避しようと奮闘していたかは知らない。


 無事に終わったと言うのだから、それ以上聞く必要はないだろう。


 自分にとっては、今までもこれからも大して変わらない。


 今の自分であれば、どんな未来が来ようと対処できる自信がある。


 変わることと言えば、真緒の奇行が無くなることくらいだ。


 …………いや、本当になくなるのだろうか?


 ちょっと思い返してみると、予知夢とは無関係なところでも奇抜な行動があった気がしないでもない……。


 まあ、それならそれで今までと変わらない生活が続くだけとも言える。


 なんにせよ、これからは普通に学校生活を送ればいいだけなのだ。


 ――と、一区切りついたところで、意識を記憶から現在に引き戻す。


 集合写真の隣には、実の両親の写真が飾ってある。


「おはよう」


 と、習慣になった挨拶をする。


 すると、そのタイミングで部屋の外から兎与田の声が聞こえた。


「おい、アキラ君が迎えに来たぞ」


「すぐ行く」


 と、返事を返し、写真の方を見る。


「行ってきます」


 七海は笑顔で挨拶し、部屋を出た。


 すると、玄関で兎与田とアキラが談笑していた。


 会話の内容ははっきり聞こえなかったが、アキラが兎与田のことを『お義父さん』と、呼んでいることだけは聞き取れた。


「ちょっと、今からそんな呼び方してるわけ?」


「すまん、気が早かったか」


 七海の問いかけに、アキラが聞き返す。


「ううん、そういうわけじゃないけど……」


 アキラが兎与田のことを父と呼ぶと、色々と意識してしまう。


 未来のことを考え、顔がほのかに熱くなる。


 と、ここで兎与田が笑顔で肩をすくめる。


「いいじゃないか、少しずつ慣れて行こうぜ」


 まるで自分には無関係とでも言いたげな、気楽な口調。


 そんな兎与田の態度に引っ掛かりを覚えた七海は、じっとりとした目で彼の方を見た。


「そもそも、アキラの両親とうまくやっていけるわけ?」


「そ、それは……」


 痛いところを突かれたのか、口ごもる兎与田。


 アキラの家は十家第一位。


 野良の霊術師として活動してきた兎与田とは、真逆の立場である。


 これから付き合いが増えていくことになるのだが、大丈夫なのだろうか。


 それに、気になることは他にもある。


 七海は畳みかけた。


「あと、いつ頃この部屋を出てくの? 店長と同棲するって言ってたじゃん」


「そ、それも……」


 兎与田が動揺し返答を濁す。


 七海が聞かされた話では、兎与田は同棲し自分は一人暮らしの練習をしていく、ということだった。


 しかし、今の所そういった展開にはなっていない。


 話を聞いてからしばらく経つが、今までと変わらない生活となっていた。


「私の事ばっかりからかってないで、ちゃんとしなよ」


 こちらの追及に兎与田は及び腰となり、視線をアキラへと向ける。


「そろそろ遅刻するんじゃないかな。なあ、アキラ君」


「う、うす。行こうぜ七海」


「早く出てく準備してよね」


「……はい」


 七海の言葉に縮こまった兎与田は短く返事を返した。


 そんな彼の隣を抜け、アキラと一緒に外に出る。


「……そうしないと、私の方が先に結婚しちゃうじゃん」


 自分が先に幸せになるのは嫌だ。


 自分だけが幸せになるのも嫌だ。


 今まで兎与田は、自分のために散々時間を使ってきた。


 きっと今でも、自分が結婚するのを見届けるまで、こちらを優先させると考えているに違いないのだ。


 もともと、兎与田と店長の仲は中々進展しなかった。


 それは兎与田が亡くなった奥さんのことと店長のことを考え、躊躇いがあったためだ。


 それでもゆっくり時間をかけて、お互いの気持ちが通じ合う状態にまで至った。


 七海としては、自分のことなど気にせずに前に進んでほしいと思っている。


 そんな兎与田が、良好な関係を進展させないのを見ていると、どうしても気持ちが焦ってしまう。


 そんなはやる気持ちが、七海の言葉を刺々しいものに変えてしまっていた。


「大丈夫か?」


 隣からアキラの気遣う声が聞こえてくる。


「あんまりお節介なことはしたくないんだけどさ……。ねえ、お互い相思相愛で、くっつきたいと思っている者同士の仲を進展させるには、どうしたらいいんだろうね」


 と、ため息交じりに呟く。


「……難しいな。雲上院や九白に相談してみたらどうだ? あの二人なら突拍子もないアイデアを思いつくかもしれんぞ」


「劇薬みたいなアンサーしか返って来ない気がするんだけど……」


「…………婚姻届けを偽装して勝手に提出するとか言い出しそうだな」


 アキラの言葉を聞き、礼香と真緒が悪魔の様な顔で高笑いを上げながら、婚姻届けを偽装し、完璧な変装をして役所へ届け出る姿が容易に想像できてしまう……。


「止めてよ! 私は普通に幸せになって欲しいの!」


 こちらが悩みとして打ち明けたら、善意で倫理観ガン無視のウルトラCをひねり出しかねない。


 礼香なら、権力と財力に全振りの解決策を。


 真緒なら、霊力と脱法に全振りの解決策を。


 七海の想像の中では、悪魔の角と翼を生やし眼鏡をかけた礼香と真緒が、『仕事できますよ』というポーズを取って猛烈にアピールしていた。


 ヤバい……。二人には絶対に秘密にしておかないと。


 自分が想像していたものの断片を感じ取ったのか、アキラの顔にも動揺が走る。


「そ、そうだな。なら、時間を掛けて、ゆっくりやるしかないと思うぞ」


「だよね。はぁ……、もどかしいよ」


 七海にとって、目下の悩みはそれだけ。


 たったそれだけなのだ。


 とても平和で、ちっぽけな悩み。少し前なら考えられないことだ。


 その事実に気づいた七海の顔は、自然と微笑を浮かべていた。




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