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 ◆九白真緒



 突然、目の前に男が現れた。


 男は、こちらのことなど気にせず、わけの分からないことを言い続けた。


 そして、ひとしきり話した後、狭間のようなものを作り出した。


 それに飛び込み、消えてしまう。


 一連の行動を見ると、あれは人型の妖怪だったのだろう。


 結局、人に偽装した妖怪を見分ける術は開発できなかった。


 胃根以外に人型の妖怪と遭遇しなかったため、情報不足でどうしようもなかったのだ。


 そのため、突然目の前に現れると、どうしても判断がつかない。


 そんな妖怪が、どこからともなく現れ、消えていった。


 何もしてないし、無害といえば無害。


 そもそも、消えてしまったので追跡できない。


 そんなことを考えていると、体が透けてきた。


 比喩ではなく、本当に透けてきたのだ。


 手のひらを見れば、透過して下の地面が薄っすらと見えた。


 体の異常を伝えようとして、声が出ないことにも気づく。


 それなら身振り手振りで伝えないと、と思ったら体も動かない。


 全身の自由が奪われ、体が透明になっていく。


 私、消えてしまうの?


 その瞬間、こちらへ近づいてきたレイちゃんと視線が合った。


 たったそれだけなのに、レイちゃんが何かを察して飛び出す。


 その先には、男が飛び込んだ狭間のようなものがあった。


 狭間のようなものは、徐々に縮小している。


 レイちゃんは周りの制止を振り切り、その狭間に飛び込んだ。


 それと同時に、狭間が消えてなくなってしまう。


 そして私も、体が透明になって消えた……。



 ◆雲上院礼香



 眼前に突如現れた男の言葉。


 過去に戻る。赤子の真緒を仕留める。


 不穏な言動の数々を残し、男は消えた。


 真偽を定かにする暇もなかった。


 しかし、男の言葉が事実なのであれば、一大事である。


 礼香は真緒へ近づき、顔を見た。


 男が現れても微動だにせず、反応が薄かったためだ。


 何かあったのかもしれないと思ったのだ。


 その予感は的中する。


 自身の両手を見ていた真緒だったが、不自然な方向で体を止めたまま動かなくなっていた。


 そして、みるみるうちに体が透けて、後ろの景色が見え始める。


 瞬間、真緒と目が合う。


 ――礼香は即座に決断し、駆け出した。


 周りの人間がこちらの行動に気づいて止めに入ろうとするも一歩遅い。


 過去に向かったというのなら、あれが関係しているのは間違いない。


 礼香が見定めた視線の先で、狭間が縮小していく。


 考えている時間はない。


 礼香は跳躍し、狭間へ飛び込んだ。


「う……」


 途端、全身に痛みが走る。


 強烈な力が四方八方から押し寄せ、体を削り取ろうとしてくる。


 礼香は着用していた霊装を変形。分厚くして動きを制限する代わりに防御を固めた。


 更に霊装から霊気を放出。それと同時に、強化術式と防御術式を展開。


 押し寄せる暴威に抵抗する。


 そして、周囲を見渡した。


 そこは一本の長いトンネルのような形をしていた。


 壁面は、透明な壁となっていた。


 壁の向こうには、合わせ鏡や万華鏡を思わせる様に幾重にも景色が歪んで重なって見える。


 しかし、映っているものが、それぞれ微妙に違う。


 共通しているのは、どの鏡面にも真緒の姿が認められること。


 一番近い鏡面には礼香の姿はなく、自身の両手を見て固まっている真緒の姿だけが映っていた。


 その鏡面がいきなり破裂した。


 粉々に砕け散り、一つ先にあった鏡面がせりあがってくる。


 その現象に何の意味があるのか、礼香には皆目見当がつかなかった。


 じっと直視していると、脳が浸食されるような不快感を覚えたため視線を戻す。


 トンネルは下方へ展開され、先が見えない。


 ――見つけた。


 目視で出口の確認はできなかったが、そんなものより重要なものを発見する。


 あの男だ。


 男がトンネルを降りている姿を発見したのだ。


 礼香は姿勢を垂直に維持し、スカイダイビングのトラッキングの要領で加速。


 それと同時に壁面に映る合わせ鏡の画像が連続して破裂し始める。


 連鎖的な破裂の結果、粉々になった破片が星空の様になる。


 礼香は状況の変化を無視し、眼前の男に集中した。


 男へ体当たりし、背後から羽交い絞めにする。


 しかし、衝突の衝撃で二人は回転。


 揉みあいながら落下する形となる。


 そこで初めて、男がこちらに気づいた。


「お前は、雲上院礼香!? なぜここに!」


「まさか、わたくしのことを知っているとは……。何が目的か分かりませんが、貴方の思い通りにはさせません」


「くそっ、離せ!」


 男が拘束を解こうと抵抗する。


 礼香は、必死にそれに抗う。


 現在、トンネル内の圧力に抵抗するため、全ての力を防御に注いでいた。


 そのため、攻撃術式はおろか、攻撃目的の霊気放出も使えない。


 この不安定な空間内で防御を解くのは危険すぎる。


 結果、やむなく肉弾戦を挑むこととなる。


 錐揉み状態かつ、高速で下方へ落下する中、男と打撃の応酬を繰り返す。


 男は片腕を負傷していた。


 しかし、この空間内での行動に長けており、主導権は向こうが握っていた。


 それでも、時間が経過すればするほど、礼香が優勢になっていく。


 その理由も戦闘を継続する中で判明する。


 男は明らかに衰弱していた。非常に消耗しているのだ。


 息も絶え絶えで、とうとう防戦一方となる。


 ――これなら倒せる。


 あと数手で、行動不能に持ち込める。


 激しい攻撃を繰り出す中、礼香は確信した。


「やめろ! これ以上は術が乱れる! 出口がどこになるか分からなくなる!」


 男が焦った口調で口走る。


 しかし、それを聞いた礼香は微笑んだ。


「それは好都合です。つまり、貴方の目的が果たせなくなるということでしょう?」


「馬鹿が! そんなレベルじゃない! これは繊細な術なんだ。座標がズレれば、どこに出るか分からなくなるんだぞ! 二人とも死ぬぞ!」


「ふ、貴方が本当の事を言っているかどうか真偽を確かめる術がありません。わたくしの隙を突こうとしている可能性を考えると、手を止める選択はありませんね」


 礼香は一考ののち、男の言葉を無視することを決める。


 この空間について詳しいのは男の方。


 礼香には、どう変化すれば良い結果に繋がるのか分からない。


 それなら、確実に男を仕留める方がいい。


 そう決断し、男の首を折りにかかる。


「くそ……、あと少しだったのに……」


 男が悔しそうにつぶやく。


 見れば、トンネルの出口が近づいていた。


 どうやら、思いのほか速度が出ていたようだ。


 このままでは出口に到達するまでに、止めを刺せない。


 礼香は、行動を即座に変更。


 男をトンネルの壁面へ叩きつけ、強引に外へ放り出そうとする。


 途端、壁面にひびが入る。


 ――これならいける。


「や、やめろぉおお!」


 男が叫ぶ。


「さようなら」


 礼香は、目一杯反動を付けた後、全力で男を壁面に叩きつけた。


 途端、壁面が崩壊。


 男がトンネルの外へ弾き飛ばされた。


「こんなことをしても無駄だ。少し遅れた時間に出るだけだ!」


 男の悔しげな叫び声が木霊する。


 礼香は、男をトンネル外に出すことによって止めを刺すことができたのかが、気になった。


 しかし、トンネルの出口が寸前に迫っていた。


 この状態では、男の生死を確認することは叶わない。


 男が外に弾き飛ばされた数秒後、礼香自身もトンネルの出口から外へ放り出されることとなってしまった。




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