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◆九白真緒
「とうとう、この時が来てしまったか……」
これから先に起きることを考え、私は一人呟く。
師匠イベントが予想外の形で終了し、ほっと一息ついたところで、すぐに次だ。
次のイベントは学校行事だ。
数日後、社会見学がある。
そこで、マンガでは最大規模の被害を引き起こすイベントが発生するのだ。
脱獄犯襲撃イベントは死人が出るが、今回のイベントもそういった可能性が大いにある。
一体何が起きるのかといえば……。
――爆発事故である。
学校行事で工場見学に行った際に、爆発事故が発生するのだ。
このイベントは事前に発生日時が分かる。
そのため、予防策が打てる。とはいえ、不確定要素も多い。
特に、爆発原因が偶発的なものなので、未然に防ぐことができない。
更に、このイベントは、家も霊術も関係ない。
つまり、日高さん、ナナちゃんのどちらを主軸に発動してもおかしくないのだ。
それに加え、現段階でイベントに変化が起きていた。
どんな変化かといえば、行き先の変更だ。
マンガでは見学に行く工場は化粧品関係だった。
しかし、行き先が霊薬工場へ変わっていたのだ。
ただ、その変化は、ある意味頷けるもの。
実は、化粧品工場も霊薬工場も、雲上院グループ系列なのだ。
マンガでは、雲上院グループが運営する霊薬工場など存在しなかった。
そのため、見学の選択肢に入らなかった。
しかし今では存在する。
雲上院家と九白家で共同出資した工場が、元気に稼働中なのである。
そんな霊薬工場は、最新の設備でセキュリティレベルが高い。
名家の学生を見学に行かせるのなら、安全性が高い霊薬工場が選ばれるのも頷ける、というわけ。
マンガのイベントでは工場の爆破は大規模で、その後の稼働に影響が出るレベルだった。
霊薬工場でそのレベルの事故が発生してしまうと、後の生産数に影響が出るかもしれない。
一応、生産がストップしても、しばらく持ちこたえられるだけのストックはある。
最良なのは、人への被害をゼロにするのはもちろんのこと、工場への被害も最小に抑えたい。
しかし、どうしたものか。
マンガのイベントでは、工場の爆発は様々な偶然が重なって発生する。
そのため、予測が難しい。
更に、見学先がマンガとは違う。別の工場に変更になってしまった。
こうなってしまうと、爆発の事実を知っていても対策が取り辛い。
そもそも、本当に爆発が起きるかどうかも分からない状況だ。
できれば、いつ何が起きてもいいように見張っておきたい。
しかし、そんなことをすれば、工場見学に参加できない。
そのうえ、レイちゃんとナナちゃんに不審がられる。
だけど、爆発事故が起きるから見回りをしたいなんて言えない。
何の確証もないし、証拠や前兆を提示することも叶わないからだ。
これは困った……。
「何か迷っていますね」
と、レイちゃんに言い当てられてしまう。
私は意を決し、当日、自分がとる行動を話した。
「事情は説明できないんだけど、今度の工場見学は別行動を取るよ。班には、探査霊体を付けるから」
「また、あれ? フォローするのが大変なんだけど……」
と、ナナちゃんから苦情が出た。
「うう、すみません。一応、スピーカーの音に合わせて口を動かせるようにしたので、マスクは不要になりました。スピーカーも上等なものを使用するので、音声もクリアになると思います、はい」
私は縮こまって謝った。
責められてしまうのも仕方ない。
前回、使用した際に多大なご迷惑をおかけしてしまったのだ。
だけど、ナナちゃんは探査霊体を使用することには反対しなかった。
こちらの意をくみ、自由な行動を受け入れてくれたのだ。
これには感謝しかない。
一応、探査霊体もバージョンアップしたので、前回ほどのご迷惑をおかけすることはないと思いたい……。
「それでは、わたくしの探査霊体も作っていただけますか。火属性で作ると、ひと目でバレてしまいますので」
という、レイちゃんからの突然の要望。
「え、なんで」
私は驚いて聞き返した。
「もちろん、マオちゃんに同行するためですわ」
何を今更、といった顔でレイちゃんが即答する。
すると、それを聞いたナナちゃんが机を叩いて勢いよく立ち上がった。
「ちょっと待って! それって、マオちゃんとレイちゃんの探査霊体の面倒を私が見るってこと!?」
両手をわなわなさせながら、絶望の表情となるナナちゃん。
しかしレイちゃんは、すまし顔。洋扇で口元を隠し、目を細める。
「そうなりますわね。工場は広いですし、日高さんの動向を把握するためには、人が多い方が良いでしょう。ですが、三人全員を探査霊体に代えるわけにはいきませんから、ナナちゃんには残っていただくしかありませんわ」
「あ、日高さん絡みだって分かってるんだ」
ことごとく行動パターンが読まれてしまっている。
恐るべし、レイちゃん。
「これで何度目だと思っているのですか? いくらわたくしが疎いと言っても、察します」
と、バッサリ言われてしまう。
く、ぐうの音も出ませんとも。
というか、これでレイちゃんの同行が確定してしまった。
ここで反対しても受け入れられないし、今のレイちゃんは頼りになる。
ここは大いに当てにさせて貰うとしよう。
「後で焼肉! しょうがないから、それで手を打つ!」
ナナちゃんが覚悟を決めた顔となり、仁王立ちで肉を要求した。
そこでレイちゃんが、パチンと音を立てて洋扇を閉じる。
「決まりですね。終わったら、わたくしの家で打ち上げをしましょう」
「もう……、良いお肉用意しておいてよ?」
というナナちゃんの念押しにより、その日の打ち合わせは終了した。
――そして、工場見学前日。
今回は雲上院系列の工場でイベントが発生する。
そのため、多少の無茶も通る。
というわけで、前日に視察することが叶った。
工場到着後、レイちゃんから関係者に事情説明を行う。
そして、無断でウロウロすることを承諾させた。
と、ここまで秒の出来事だった。
雲上院系列において、レイちゃんの発言力は絶大で絶対。
反論など許されないのである。
結果、出入りも顔パスとなる。
というわけで、早速調査開始。
その際、後藤さん率いる黒服グループにも、調査を手伝ってもらった。
隅々まで調べてみたが、爆発が起きそうな要素はなし。
管理が行き届いており、大規模な事故に発展するような兆候はない。
そもそも、この工場は新しい。機材、備品の劣化はなく、新品同然。
管理体制もしっかりしているので、事故を誘発するような状況にはなっていない。
――これはもしかすると、爆発事故そのものが発生しないかもしれない。
そう思わせてくれる位には、厳密な管理が行われていた。
そうなってくると、マンガの方の行き先だった化粧品関係の工場のことが気になる。
そちらの方も事前に調査してもらうよう、レイちゃんに無理を言ってお願いした。
レイちゃんは、私に何も聞かず即答で了承。
調査の結果、設備の一部で危険な状態が発覚。どうやら経年劣化が原因のようだった。
見過ごしていた場合、いずれ事故に発展しうる破損であったため、速やかな対処がなされた。
これで、化粧品関連の工場では何も起きないだろう。
後は、社会見学時に霊薬工場の警戒を強めていくしかない。
工場に不備がないことに安心した私はレイちゃんと共に、工場長である矢間田さんに挨拶へ行った。
あの人、生産体制が自動化したのをいいことに、ほとんど工場に顔を出していないらしい。
今日の訪問に対応してくれたのも、全て副工場長だったのだ。
というわけで、寮の最上階にある矢間田さんの部屋へ到着。呼び鈴を押す。
すると、高そうなスーツを纏った矢間田さんが現れた。




