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◆ハイジャック犯
手荷物検査を済ませて待っていると、アナウンスが聞こえて搭乗が始まった。
乗客が集まり、列が形成される。
そこで違和感を覚える。いくらなんでも客の数が少なすぎるのだ。
今は北海道旅行がブーム。かつ、スキーシーズン。
もっと人で溢れていないとおかしい。
そもそも、チケットを購入した時は、席がほとんど埋まっていた。
集団食中毒でも発生したのか? そう思ってしまうほど人が少ない。
しかも、並んでいる客全員が黒いスーツとサングラスを着用していた。
団体客だろうか。北海道で社員研修でもするのか?
明らかに異様な光景だ。
不審さを覚えながらも搭乗し、機内を見渡す。
中はがらんとしていた。離れ小島のようにぽつんぽつんと、人が密集して座っている。
よく見れば、普通の格好をした乗客の周囲を黒服の乗客が囲うように座っているのだ。
なぜ黒服だけで固まって座っていないんだ……。
不自然な席順に疑問を覚えながら、自分の席に着く。
隣は学生のようだった。マスクとキャップを付けているせいで、顔がハッキリと分からないが、若そうに見えたのでそう思った。
問題は、それ以外の座席だ。
学生の隣と、自分の前後は他の座席と同様に黒服の乗客が陣取っていたのだ。
不自然極まりないが、黒服が何かするわけでもない。
普通の乗客として振る舞い、迷惑行動を起こすこともなかった。
きっと集団キャンセルのせいで、怪しく見えるだけだ。
俺は、そう結論付けた。
きっと、流れとしてはこうだ。
初めに集団の予約が入って席が埋まった。
その後、集団から距離を置いた席を普通客が予約。
最後に黒服の集団が予約しようとしたが、席が点在状態だったために、ばらけてしまった。
とどめに、初めに予約した団体客が全キャンセルして、今の不自然に見える状態が出来上がった。
つまりはそういうことだ。少し考えれば気づける。単純な話だった。
理由が分かり、ほっとしたのと同時に飛行機が飛び立つ。
しばらくして水平飛行に入り、ベルトサインが消えた。
(よし、やるか)
覚悟を決めた俺は、持ち込んだ鞄をまさぐる。
鞄の補強部品に偽装して隠していたパーツを取り外し、手探りで組み立てていく。
そして、凶器を完成させた。
きっちり固定されていることを確認し、グリップを何度も握る。
興奮を抑えるために深呼吸を行った後、意を決して立ち上がろうとした。
が、立てない。隣の学生が押さえ込んできたためだった。
片手で肩を掴まれているだけなのに、立てない。
凄まじい握力で掴まれているせいで、凶器を持った腕も振るえない。
なんとか抵抗しようと身をよじっていると鞄が落ち、凶器があらわになる。
離せと言おうとしたら、凶器を叩き落された。
次いで、湿った布で鼻と口を塞がれる。
途端、意識が遠のいた……。
◆九白真緒
というわけで、スキー旅行当日を迎えた。
私、レイちゃん、ナナちゃんの三人は、日高さんにバレないように変装を行った。
日高さんとは面識がある。
彼女に気づかれると動きづらくなるので、顔を隠す必要があった。
といっても、髪型をいじって、キャップとマスクと眼鏡を付けただけの簡素なものだ。
今回はガチの変装は見送った。
特殊メイクをしたのが空港の警備にバレると、取り調べを受ける可能性があったためだ。
「うふふ、何だかドキドキしますね」
と、浮き浮きのレイちゃん。
簡易変装でバレないように行動するのが、楽しくて仕方ないようだ。
「まあ、これだけ離れてたら大丈夫でしょ」
ナナちゃんが言う通り、私たちは日高さんから限界まで距離を空けていた。
といっても、不測の事態が起きないか警戒するため、常に視界には入れておく。
しばらくすると、搭乗開始のアナウンスが流れ、乗客が飛行機に乗り込み始めた。
乗客の数が少ないため、あっという間に列がはけていく。
「ねえ、あそこまでする必要あったの?」
と、ナナちゃんが、やりすぎだと言わんばかりの表情で私たちに聞いてくる。
「不確定要素の排除のために必要だと思ったからやった。悔いはない」
私は真顔で返答する。
何をやったかと言えば、座席の買い占めだ。
日高さんの乗る便が確定した瞬間、空席を全部買い占めた。
そうすることにより、ハイジャック犯が他の乗客に危害を加える可能性を抑えたかったのだ。
「迅速な対応が出来ると思ったから配置しましたわ。悔いはないですの」
と、レイちゃんが真顔で返答する。
何をやったかといえば、護衛の大量投入だ。
レイちゃんは、私の買い占めより先に予約した乗客の周りに護衛を配置してくれたのだ。
これにより、ハイジャック犯が暴れても、護衛が乗客を守れるという寸法である。
ハイジャックの事は話していないのに、何かを察して手を回してくれる。
さすがレイちゃんである。
――後は、誰がハイジャック犯なのかだが……。
残念だが、全く分からない。
事前に個人情報を入手できれば何とかなったかもしれないが、難しかった。
仕方ないので、一人で予約している乗客をマークしていく。
ハイジャック犯であれば、コクピットへの移動が第一目標となるはず。
そう考え、自分の座席は前方通路寄りの席を予約している乗客の隣にした。
レイちゃんとナナちゃんには、それ以外の一人客の隣を担当してもらった。
そして、飛行機が上空に到達した瞬間、案の定、隣の客がやらかそうとした。
予想通りの展開でありがたい。私はすぐさま対応。凶器を手放させ、意識を奪う。
そして、護衛の方に拘束を任せ、客室乗務員に知らせた。
私と護衛の人という複数の目撃証言が完備されているので、信ぴょう性は充分である。
事情を聞いた客室乗務員は機長と相談し、ハイジャック犯を拘束。
他の乗客には知らせないまま飛行することが決まった。
今、乗客全員に知らせれば、飛行中に不安や混乱を招くだけ。
誰にも気づかれていないのなら、無理に知らせる必要はないだろうという判断になったのだ。
「ふう、無事に済んでよかった」
これで一件落着である。後は、のんびり現地に着くのを待つだけ。
快適な空の旅を楽しむとしよう。
などと考えていたら、ナナちゃんの座席の方でも動きがあった。
まさか、もう一人いたの?
ナナちゃんの座席は後部。移動には時間がかかるし、目立つ。
どうすべきが迷っていると、こちらを察してレイちゃんが動いた。




