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私は悩んだ末、レイちゃんとナナちゃんに、そのまま話すことにした。
「ナナちゃんと日高さんが乗る飛行機でトラブルが起きる気がするの。でも両方監視するのは難しいから、ナナちゃんには日高さんが乗る飛行機に便を変更して欲しい」
「便を変更したら、搭乗予定だった前の飛行機ではトラブルが起きなくなるの?」
「多分。人を狙って発生する類いのトラブルだから」
マンガでは、ヒロインを狙ったものだった。
しかし、そう言われると自信がない。
便は変更してもらうのは確定として、両方の便に監視を付けるべきかもしれない。
「トラブル発生理由は? どんなことが起きるの?」
「ごめん。不確かな事で勘に近いから、詳しく話せない。おみくじで大凶を引いたくらいのレベルで考えてほしい」
ナナちゃんからの質問攻めに、あいまいな答えしか返せない。
詳細を話しても、その通りの出来事が発生するとは限らないので、なるべく話したくないのだ。
詳しく話した結果、別のトラブルが発生した場合、事前に入れた情報がノイズとなってしまうためである。
私の返答を聞き、レイちゃんが頬に手を添え、口を開く。
「なるほど、明確な根拠を示せないというわけですね」
「うん。でも嫌な予感がするって感じだね」
「なるほど、ストーキングを連日行ったせいで、関連知識が集約されて予知じみたプロファイルが出来るようになったって感じか。つまり、私の方のトラブルも日高さんと何らかの関係があるってわけね……」
「理解が早くて助かるんだけど、もう少し言い方をどうにしかしてもらえない?」
ナナちゃんの納得の仕方に納得がいかなかった私は、つい愚痴ってしまう。
「それでは、日高さんを含めた全員、わたくしの自家用機で行きますか? そうすれば何も問題ないと思いますが」
「陸路を使うことも含めて、それも考えたんだけど、不確定要素が起きて予想しづらくなるから避けたいの」
レイちゃんが提案した計画については私も検討した。
けど、予測しづらくなるから止めたんだよね。
「承知しました。マオちゃんの提案通りにいきましょう」
「だね。こういう時のマオちゃんの予想は結構当たるからね」
「説明が足りないのに、賛成してくれてありがとう」
私は、同意してくれた二人に素直にお礼を言った。
「そうなると、わたくしたちは変装した方がよいでしょうか」
「え、レイちゃんも来るの?」
てっきり、自家用機で移動すると思っていた私は、つい声に出して驚いた。
しかも、変装まで考えた周到さ。
「当然でしょう。なぜ、わたくしだけが除け者になって、自家用機で移動しなければならないのです! そんなの嫌ですわ!」
飛行機でトラブルが起きると言っているのに、仲間外れになる方が嫌と言うレイちゃん。
「あ、はい」
そんなレイちゃんに対し、私は素直に同意することしかできなかった。
だって……、駄目って言っても来る流れだったし……。
「変装は止めておいた方がいいんじゃない? 空港でバレたら、別室に連れていかれるよ。あと、私まで変装に巻き込まないでくれる? 特殊メイクとか勘弁してよね」
と、ナナちゃんが苦言を呈した上に、変装を拒否した。
「うん。別の面倒ごとになりそう。特殊メイクは控えて、眼鏡とかマスク程度に抑えておく方がいいかな」
私もそう思っていたので、今回は軽く顔を隠す程度にしようと考えていた。
「わぁ! わたくし、そういう方向の変装もやってみたかったのです。これは楽しみが増えましたわ」
と、別のところで喜ぶレイちゃん。
ナナちゃんも、その位ならいいか、と受け入れてくれる。
とにもかくにも、二人の理解を得られ、日高さんと同じ飛行機に搭乗することが決まった。
後は、日高さんにバレないように動くだけだ。
◆ハイジャック犯
――思い知らせてやる。
俺は忌々しい男の顔を思い浮かべ、拳を握り締めた。
自分は、最近までこの空港で航空整備士として働いていた。
その際、小さな部品を何度か紛失した。
結果、厳重注意を受け、特別指導が決定。専用の研修を受けることとなってしまった。
俺は、その処分に納得できなかった。
この程度の事で、なぜそこまでしなければならないんだ。
その気持ちは、研修が済んだ後も収まることはなかった。
そんな集中力が散漫な状態で作業をしていたせいか、また部品を無くした。
そしたら、あのクソ上司が異常に怒り出した。
その事が気に食わなかった俺は、この位でいちいちうるさい、と言ってやった。
俺の反論を聞いた上司は、さらに怒り出して詰めてきた。
腹が立った俺は、奴を殴り飛ばしてやった。ざまあみろだ。
だが、その後クビになった。
全くふざけた話だ。
きっと、あの上司が優秀な俺を妬んで、小さなミスを大きなミスに仕立てたに違いない。
いくら俺の方が仕事ができるからと言って、いい大人が嫉妬なんて恥ずかしい話だ。
どんな汚い手を使ったか知らないが、俺がクビになるなんてありえない。
だが、このまま大人しく引き下がったりはしない。
きっちりと代償は支払わせる。
当然、俺を守らなかった会社も同罪だ。
あいつら全員に思い知らせてやるのだ。
俺は、持ち込んだ凶器に触れ、異常がないことを確認する。
こいつで分からせてやる。
誰をクビにしたのかを。
◆とある乗客
最近は、北海道での旅行が流行だという。
だが私は、そんな話題の北海道で仕事だ。短期の出張である。
しかし、仕事で行くには時期が悪い。最悪のシーズンである。
せめて食事位はいいものを食べたい。
そんな事を考えながら、搭乗手続きが始まるのを待っていると、隣に誰かが座った。
空港内は大量の座席が存在する。
今、自分が座っている場所も、他に誰も座っていなかったくらいだ。
それなのに、なぜ隣に座ってくるんだ。もっと離れて座れよ。
不快感を覚えた私は、相手の顔を見た。隣には笑顔の男がいた。
「すみません。ちょっとお尋ねしたいことがありまして」
と、低姿勢で質問してくる。なんだ、聞きたいことがあって隣に座ったのか。
それなら、話が済めばどこかに行ってくれるに違いない。
「何か?」
「九時発のJAA、北海道行の飛行機に搭乗される方を探していまして」
「その便がどうかしたんですか?」
「実は……、恥ずかしい話なんですが、少し腹の具合が悪くて。通路側の席を取っている方を探して席を代わってもらおうと、聞いて回っていたんです」
「そうでしたか。私もその便に乗りますが、窓際です。残念ですが、お力にはなれませんね」
嘘を言ってもバレるし、搭乗後に難癖付けられても困る。だから、正直に答えた。
「いやあ、そうでしたか。安心しました」
だが、男は私の返答を聞き、ほっとした表情となる。
こいつ、話を聞いていないのか?
私はムッとしながら、口を開く。
「聞いていましたか? 私の席は窓際です」
「はい、もちろん。いえね、なぜかは知らないのですが、その便だけ乗客が異様に少ないのですよ。だから、中々搭乗予定の人が見つからなくて、焦っていたんです」
この男は一体何を言っている。
そもそも、空席が多いなら、客室乗務員に事情を説明して席を変えてもらえばいい。
わざわざ乗客を探す必要なんてないじゃないか。
そのことを指摘しようとした瞬間、男が私の首を掴んで締め付けてきた。
「ぁっ……!」
声を上げようとするも、喉が狭まって発声できない。
男は、もう片方の手で私の両の頬を掴み、強引に口を開けてくる。
「少しの間、貴方の体をお借りしますよ。なに、ほんの少しの間だ」
そう言った男の胸元から、何かが這い出して来る。
私は顔を固定された状態で目を動かし、蠢くものの正体を突き止めた。
――蛇だ。
見たこともない色の蛇が男の腕を伝い、私の方へ迫ってくる。
「貴方には何の恨みもないが、諦めていただきたい。なんせ、乗客が少なかったもので」
男の言葉を聞き終わるのと、私の口内に蛇が潜り込んでくるのが同時となる。
――途端、視界が白く染まり、意識が遠のいていく……。




