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 ◆とある警察官



 私は、いつもの巡回コースで見回りをしていた。


 ここは大きな公園と図書館が隣接するエリア。


 この辺りは、人通りが多い場所から距離があるせいか、日中でも酔っ払いが現れる事がある。


 時々そういった輩が、図書館へ勉強に来た学生に絡んだりする。


 そのため、この辺りは定期的な見回りを行っていた。


 異常がないか見て回っていると、前方を歩く人物がふらついて倒れそうになっていた。


 熱中症か? まだそれほど気温が高くないが、十分あり得る話だ。


「大丈夫ですか」


 私は慌てて駆け寄り、体を支えた。


 近くで見て分かったが、どうやら十代の少女の様だった。


「にゃんともありましぇんから、はにゃしにゃしゃい!」


 銀髪の少女は激高し、私の手を振り払った。


 そしてそのまま、前屈姿勢で頭を下げたまま、ピクリとも動かなくなる。


 まるで前屈のストレッチをしているような姿勢のまま、微動だにしない。


 と思ったら急に跳ね起き、フラフラとする。


 どうやら直立姿勢を保持できないようだ。


 私は、その状態をつぶさに観察した。


 酩酊状態の様に、ろれつが回っていない。


 視線も定まっておらず、不安定。こちらをしっかりと見ることが出来ていない。


 口が半開きのまま保持され、よだれが垂れている。


 少女は私の支えを振りほどくと、前へ歩き出そうとした。


 が、大きく斜めに進み、そのまま勢い余って倒れそうになる。


「危ない!」


 私は素早く彼女の肩を支えた。


「っ!」


 そこで気づく。


 ノースリーブで露出した肩に、針を刺したような痕跡が多数。


 それらが虫刺されの様になって腫れあがっている。


 意識の混濁。発声の乱調子。歩行困難。


 そして、多量の注射痕。


 ……これはもしかして。


「すまないが、少し事情を聞きたい。時間は取らせないので、同行してもらえないだろうか」


 と、話しかける。


「うるしゃい! わたしは、としょきゃんに行かないといけないのでしゅ!」


 同行を申し出るも、激しく抵抗されてしまう。


 何が何でも図書館に行かないといけないと、頑なな姿勢を崩さない。


「あしょこで大事な用があるの! 会わにゃいといけない人がいりゅの! はやくいかにゃいと!」


 少女は、こちらの手を振りほどこうと暴れまわる。


 一体、何をそんなに焦ってるのか……。


 もしや、図書館が何かの待ち合わせ場所になっているのか?


 これは応援を呼んで、強制連行するしかないか。


 そう思った瞬間、首に軽い痛みが走る。


 蜂かアブにでも刺されたかと首をさすった瞬間、視界が真っ白になった。


 ―――そして、体が揺れる。


 まるで船に揺られているかのような……。


 いや、違う、肩を掴まれて揺すられているんだ。


 と思った瞬間、目が覚めた。


 目の前には黒髪の少女がおり、大丈夫かと聞いてくる。


「な、何のことだ?」


 私は訳が分からず、問い返してしまった。


 すると少女が、「酷くうなされていたみたいだったので」、と言う。


 うなされていた?


 私が?


 一体なんのことだ。


 こちらの反応を見て、話した内容が伝わっていないと察した少女が続ける。


「何か、連行しないと、とか。一緒に来い、とか寝言で叫んでいたんですよ。どう見ても、うなされている感じだったので、悪いとは思ったんですけど、声をかけさせてもらったんです」


 寝ていた?


 黒髪の少女の説明を聞き、ハッとなる。


 私は、いつの間にかベンチに腰かけていた。


「君、銀髪の女の子を見なかったか!?」


 そうだ、私は不審な少女に職務質問をしようとしていたはず。


 一体いつの間にベンチに座ってしまったんだ。


「いえ、私たち以外は誰もいないですよ。おまわりさんの声が響くほどには」


 と、黒髪の少女が周囲を見ながら言う。


 一体、今は何時だ。


 もしかすると私が寝ている間に、あの銀髪の少女は移動してしまったのかもしれない。


 と、公園の中心にある時計を確認する。


 しかし、大して時間は経過していなかった。


 ほんの一分ほどだ。


 さすがにあのフラフラした歩調では、この場から移動するのは不可能だ。


 一体どうなっている……。


 すると、眼前の少女が申し訳なさそうに口を開く。


「あの、言いにくいことなんですけど」


「どうかしたのかい?」


「今、図書館に寄った帰りなんです。本を返却に行っただけなんで、五分位の往復だったんですよ。それで……、行きの時も、お巡りさんを見たんですけど、ずっとこのベンチで寝ていましたよ?」


「そ、そんなはずは……」


「間違いないです。行きの時に、ベンチに座って首をさすっているのを見ました。で、帰りに見かけたら、うなされていたので声をかけたんです。その時も周りに誰もいなかったし、夢と勘違いされたのでは」


「そ、そうだったのか? いや、そうなのかもしれない……」


 そうはっきり断言されると、自信が無くなってくる。


 首に痛みを感じてから意識が朦朧としていた。


 だが、その時点で夢を見ていたと言われれば、そうなのかもしれない。


 ……妙に生々しい夢だった。


 が、あんな少女が日中の公園を徘徊しているということが現実にあったと思うより、その全てが夢だったと言われた方が説得力がある。


「大丈夫ですか?」


「すまない。どうやら疲れがたまっていたようだ」


「お大事になさってください。それじゃあ、失礼しますね」


 そう言って、黒髪の少女は立ち去って行った。


「ふう、まさか無意識に眠ってしまうとは……」


 相当疲れていたのだろう。


 不思議な経験だったので誰かに話したいところだが、勤務中に昼寝をしたことがバレるとまずい。残念だが、誰にも話せそうにない。


 とにかく、ここからは気を引き締めて見回りを再開しよう。



 ◆九白真緒



 私は離れていく警官の背を見送りながら、手の甲で額をぬぐう。


 いやぁ、危機一髪だった。


 まさか警官が巡回に来るとは。


 少しでも対応が遅れていたら、麻酔銃を連発している姿を見られていたかもしれない。


「すぐに気付けて良かったよ……」


 私はそう呟きながら、木陰に隠しておいた瀬荷城宝子を引きずり出す。


 そして、図書館へ行くルートから外れた場所にあるベンチに座らせた。


「これで、よしと」


 ここなら、目が覚めても日高さんたちと出くわすこともないだろう。


 とその時、二人から告白を受けるも返事を待ってほしいと言う日高さんの声を盗聴器が拾った。


 ふむ。どうやら無事にイベントが終了したようだ。


 展開もマンガ通りとなったようである。


 後は、日高さんたちが図書館から出るのを待って、カメラとマイクを回収しないと。


 事も済んだし、三人の追跡は、これで解除。


 後は、覚醒した瀬荷城宝子に見つからないように帰ればミッションコンプリートである。



 ◆日高千夏



 図書館で綾小路君から告白されてしまった。


 自分にとっては突然の事だった。


 しかも、それで終わらなかった。


 なんと、古畑君からも告白されてしまったのだ。


 今まで、異性に好意を持たれたことなんて一度もなかった。


 告白されるなんて、もってのほかだ。


 それなのに、いきなり二人から告白されるなんて……。


 あまりに混乱したせいか、自分がどう感じているかさえ分からなくなってしまった。


 動揺しすぎた結果、どう答えたらいいのか、どう返事を返したらいいのか思いつかず、言葉が出てこない。


 そんな私の状態を見て、二人も色々と察してくれた。


 唐突な振る舞いを反省して、返事は今すぐでなくて構わないと言ってくれたのだ。


 私からすれば、ありがたい反面、申し訳ない気持ちになってしまった。


 私なんかのために、気を遣わせてしまって悪いという気持ちで一杯だ。


 だけど、適当に返事を返すわけにもいかない。


 ちゃんと考えて二人の気持ちに対する答えを返したい。


 だから返事を待ってもらうことにした。


 そして、少し落ち着きたいと言い、一人で帰らせてもらった。


 とはいえ、帰る方向が同じなので、少し回り道をして時間を稼ぐことにする。


 すると、瀬荷城さんを見かけた。私は無意識に物陰に隠れてしまった。


 今、彼女に会ってあれこれ言われると、混乱が増す。


 とても平静ではいられないと思ったためだ。


 曲がり角に身を潜め、少しずつ後退する。


 すると背中が何かにぶつかった。


 もしかして人に当たってしまったのだろうか。


 慌てて振り向くと、そこには同じように背を向けた九白さんが居た。


 向こうも、私と背中合わせで接触したことに驚いているようだった。


 彼女は、「やあ、偶然」と声をかけてきた。


 私がこんにちはと返すと、用事があるからと走るような速度で行ってしまった。


 九白さんが去って行く背を見て、林間学校で会った時のことを思い出す。


 あの時も、彼女は急いでいる様子だった。


 同じような状況に二度も遭遇したせいか、忙しくて時間に追われている人というイメージで定着してしまいそうだ。


 雲上院さんと親しい方だし、きっとプライベートも予定が詰まっているんだろう。


 もしかすると、こうやって偶然会えたのも、貴重な体験だったのかもしれない。




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