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 ◆九白真緒



 私が車内に入ると、「なぜ、ここが」と狼狽するレイちゃんと後藤さん。


「そりゃあ、私以外の誰かが監視カメラを大量に設置してるし。今日に至っては、倉庫前に人を配置してたじゃん。そんなことできるのは、レイちゃんだけでしょ」


 以前から、隠しカメラが設置されていることには気づいていた。


 その辺りから、レイちゃんの動きが怪しかったので、そうじゃないかなと思っていたのだ。


「マオちゃんには敵いませんわね」


 レイちゃんはお手上げのポーズを取った後、更に尋ねてくる。


「でもなぜ、日高さんと綾小路君にこだわるのです? どうやら二人の仲を深めようとしているようですが、そこまで手をかけて関わるような間柄でもないでしょうに」


「クラスも違うし、別に友達ってわけでもないよね」


 ナナちゃんがレイちゃんの言葉に同意し、腕組み状態でうんうんと頷いた。


「それは……」


 その辺りを聞かれると、困ってしまう。


 レイちゃん相手に嘘をついて誤魔化しても、絶対見破られる。


 かといって、マンガで読んだから先の展開を知っていると言っても、混乱を招くだけだ。


 強引に、予知と説明することもできないこともない。


 だけど、現実がマンガと違う状態になってきているため、予知と言えるほどの精度があるかというと微妙な状態だ。


 予知で見た光景だと説明した後にイベントが発生しなければ、新たな混乱が生まれてしまう。


 さて、どう説明したものか……。


 私は二人が納得する内容を考えるため、頭をフル回転させる。


「マオちゃん、理由を話さなくても構いませんわ」


 私が色々考えて押し黙っていると、レイちゃんが手で制した。


「いいの?」


 驚いた私は、つい聞き返してしまった。


「信じておりますので」


 と、ニッコリ笑顔。


「……ありがとう。今は話せないけど、いつか必ず話すから」


 私は真剣な顔で、そう言い切った。


 この信頼は裏切れない。


「いつまでも、お待ちしていますわ」


 そう言って、私の手を取って両手で包みこむレイちゃん。


 今、全てを話せないのは心苦しいけど、混乱を招くのは回避したい。


 ここは甘えさせてもらおう。


 私は首肯で応えた。


「え、これで終わった感じ?」


 しかし、ナナちゃんだけが置いてけぼりを食らったようなリアクションを返す。


「ええ。全て円満解決ですわ」


 と、満足げに微笑むレイちゃん。


 それを聞いても、ナナちゃんは納得いっていない様子だった。


「消化不良なんだけど?」


「ごめん!」


 私は、素直に謝った。


 話せないので、謝ることしかできない。


 ここは平謝りだ。


 すると、ナナちゃんが大げさに肩をすくめた後、溜息を吐く。


「ま、しょうがないか。ただ、あんまり羽目を外し過ぎないでよね」


 と、釘を刺されてしまう。


「はい……」


「なら良し!」


 と言って、私の背中をポンと叩いた。


 その顔は、ニッコリ笑顔。


 色々気になることがあるだろうに、こちらを察して割り切ってくれた。


 この厚意に恥じない行動を心掛けねば。


 私は、ナナちゃんに感謝の念を贈った。


 といった感じで、私が色々動き回っていたことが、二人に知られてしまうこととなった。


 ついでに、瀬荷城宝子を見逃し、日高さんと綾小路君の仲を深めていくという計画も、全員のあずかり知るところとなってしまったのである。



「それでマオちゃんは、これからどうされたいのですか? これから先の方針を伺っておかないと、意図せず邪魔をしてしまうことも考えられますので」


 と、レイちゃんにこれからの詳細について聞かれる。


「基本、放置だね。日高さんと綾小路君が自力で解決するのに任せるって感じ。ただ、瀬荷城宝子が、あまりに過剰なことをする場合は介入するかな」


「それって、これから先も瀬荷城宝子がやることを見過ごすってこと?」


 と、ナナちゃんが少し不機嫌になる。


 彼女は正義感が強いので、当然ともいえる反応だった。


 まあ、解決方法は物理寄りだけど……。


 私はナナちゃんに納得してもらおうと、補足説明を行う。


「まあね。瀬荷城宝子は気付いてないみたいだけど、彼女の行動って全部裏目に出てるんだよね。頑張れば頑張るほど、日高さんと綾小路君の仲が良くなってる。だから、放し飼いにしたいわけ。瀬荷城宝子の行動が目に余り、手に負えなくなったら中止するよ」


 今の状態であれば、仲を発展させるのに役立つ。


 ただし、被害が拡大したり、いじめの加害者が増えるような事態に発展したら中止する。


 そう説明すると、何かに気づいたような顔のレイちゃんが口を開く。


「実は、マオちゃんの後追いで監視していた時に、わたくしもそう思いました。いつも、彼女の思惑とは逆の展開になっていますね。まるで、恋のキューピットのようです」


「えぇ~……、悪魔の間違いでしょ?」


 ナナちゃんが嫌そうな声で、大げさに体を逸らす。


「でも、それ位強烈じゃないと、二人の間にある家柄の壁は突破できないんだよねぇ……」


「ああ~、それはレイちゃんも言ってた。その部分に関しては、私も何となく分かるかな」


 私の発言に思うところがあったのか、ナナちゃんが大きく頷いた。


「要約すると、なるべく日高さんが酷い目に遭わないように立ち回りつつも、瀬荷城宝子の好きなようにさせるって感じだね」


 私は、レイちゃんとナナちゃんに自分の行動方針を説明した。


「理解しましたわ。自然な感じで二人の仲を後押ししたいというわけですね」


「了解。ついさっき訳は聞かないって決めたし、分かったよ」


 レイちゃんとナナちゃん、二人から同意を得る。


 とりあえず、話せる範囲でこちらの趣旨は説明した。


 二人とも反論はないようなので、一応納得はしてくれたのだろう。


 と、ここで、前から気になっていたことがあったので、二人に聞いてみる。


「ところで、あの瀬荷城宝子って子について何か知ってる? 私はこの学校で初対面だったんだけど、ずっと東京住みの割りに今まで会う機会がなかったな、と思って」


 瀬荷城宝子は家が大きく、性格も大きい。


 あれだけの存在であれば、遠くにいても気が付けるほどだ。


 それなのに、レイちゃんに同行した社交の場でも、見たことがない。


 入学式で見かけるまで存在を認知していなかった。


 そのことが不思議だったのだ。


「そういえば、そうですわね。後藤、何か知りませんか?」


 というレイちゃんの問いかけに、後藤さんが口を開いた。


「彼女は、お嬢様のサロン招待客から除外されています。また、鷹羽アキラ様の誕生日会招待客からも除外されています。どちらも、行動に問題ありと判定されてのことです。そのこともあって、他のパーティーにも招待されること自体が稀だったようです」


「え、アキラの誕生日会も出禁食らってるの?」


 と、驚くナナちゃん。


「それは筋金入りだね。道理で今まで会わなかったわけだよ」


 まさかのダブルレッドカード持ちとは……。


 それは、どこに行っても見かけないわけである。


「そんな危ない子、さっさと退学にしちゃった方がいいんじゃない? マオちゃんなら、いじめの証拠、一杯持ってるでしょ?」


 と、ナナちゃんが真顔で言う。


 まあ、証拠なら動画で一杯持ってはいるけど……。


 すると、後藤さんが首を横に振った。


「それは難しいかと思われます。瀬荷城宝子は瀬荷城家、かなり実家が太く、学園にも多額の寄付を行っています。厳重注意や、停学にはなるかもしれませんが、退学になることはないかと」


「つまり、変な刺激を与えると、日高さんがストレスのはけ口にされるかもしれないわけね……。これは、慎重に立ち回らないと……」


 注意されたのも、停学になったのも、どれもこれも日高千夏のせいだ、と切れ散らかす姿が容易に想像できてしまう。


 まあ、性格が想像しやすいお陰で、行動が読み易いのは助かっているけど。


 だけど、本当に性格が悪いな……。


「まあ、どうしようもなくなった場合は、瀬荷城家の寄付分も、我が家の方で持てば問題ありません。邪魔になった場合は処理しましょう」


 と、ここまで話を聞いていたレイちゃんが、パチンと音を立てて洋扇を閉じた。


「ほんと、味方に居ると頼もしいけど。発言のスケールが一人だけ違うんだよね」


 自分で退学にすればいいと言っていたくせに、レイちゃんの権力の大きさを目の当たりにして怯えるナナちゃん。


 ――というわけで、話はついた。


 全体での意見もまとまり、私の行動も理解してもらった。


 非常にありがたい話である。




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