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 ◆兎与田七海



 七海は礼香に呼ばれ、校内の駐車場へ来ていた。


 煌爛学園高等部は、通学を自宅の車で行う生徒が多い。


 そのため、登校時間帯はちょっとした渋滞になるほどだ。


 結果、路上で一時停止して降車していると、近隣に迷惑となってしまう。


 そういった問題を解決するため、広大な敷地内に専用の駐車場が設けられているのだ。


 七海は周囲を見渡し、礼香を探す。すると、付き人の後藤が迎えてくれた。


 案内されたのは、大型トラック。


 荷台が部屋の様になっているカスタム車だった。


 案内されて中へ入ると、礼香が優雅にお茶を飲んでいた。


「ご足労をおかけして申し訳ありません。少しお話しておきたいことが出来たので、足を運んで頂いた次第です」


「ううん、大丈夫。で、どうしたの?」


「実は、マオちゃんが日高さんを付け回しているようなのです」


「ああ、あの子? あれは、中二病監視の副産物だと思うけど」


「いえ、それがどうやら違うようなのです。それに裏付けも取れました」


 という言葉と同時に後方を遮っていたカーテンが開き、その奥の景色があらわとなる。


 そこには大量のモニターが配置され、リアルタイムの画像が映し出されていた。


 まるで、報道機関が使う中継車のようだ。


 部屋の中心には後藤が座り、全てのモニターに目を光らせていた。


 と、ここで七海は驚愕する。


 真緒と同じことをやっている! と。


 これは同じ穴のムジナ。同類が惹かれ合うというそれ。


 これはまさしく覗きであり、盗撮。


 しかも、機材が本格的。


 後藤を巻き込んでいることから、真緒より質が悪いように思えてしまう。


「ちょ、覗きは駄目だって!」


 七海は溜まらず声を上げた。


「いえ、これは公式のものです。正式に学校の許可を得ています。防犯目的の監視として教師陣も承諾し把握していますよ。当然、その正式な許可の範囲に、マオちゃんの監視も含まれるように手は打ってあるので、何も問題はありません」


 真顔の礼香は、当然のことを説明するが如く、あっさりそう言い放った。


 その言葉を聞いた七海は、ここで一番大事なことを思い出す。


 そうだった、彼女は雲上院礼香。この位は平気でやってのけてしまうのだ。


 そして彼女の言い分が本当なのであれば、何一つ問題がないことになる。


 ――完璧だった。


 となると、七海が口出しできることは何もない。


 そして、真緒の監視も公認のものとなってしまった。


 ここは切り替えて、礼香の話にさっさと耳を傾けるべきだろう。


「そ、そっか、なら安心だね。で、日高さんのことだっけ」


「ええ、こちらをご覧になってください」


 そう言って、礼香は一つのモニターを指さした。


 そこには、倉庫に閉じ込められた日高千夏が炎に囲まれていた。


「ちょ、ちょ、ちょぉおおおい! はよ、助けにいかんと!」


 言葉が乱れた。


 乱れたのは言葉だけではない、精神も動揺の極致に達していた。


 な、何をやっているんだ。


 モニターの中では、日高千夏が火災に遭遇していたのだ。


 しかも、扉が閉ざされ、脱出不可能になっている。


 どう見ても一刻を争う状況である。


 しかし、礼香と後藤の二人は、真顔で「燃えていますわね」、「ええ、燃えています」と言うだけで動こうとしない。


 何を悠長に茶をすすってモニターを鑑賞しているのか。


 すると、こちらの慌てぶりを察して、礼香が口を開く。


「落ち着いてください。日高さんの周りには、すでに人員を配置済みです。それに、マオちゃんも側で待機しているのです」


「それなら、早く助けないと!」


 自分にとっては、当たり前のことを言ったつもりだった。


 が、返ってきた返事は、待て。


 動くなというのだ。


「わたくしも、そうするべきだと思うのですけど、マオちゃんが動かないのです。ですので、ギリギリまで待機状態を維持します。ずっと見ていましたが、マオちゃんは火事の発生を未然に防げました。それなのに、放置していたのです」


「私、行くから!」


 堪らず、車を飛び出そうとする。


「ここからでは間に合いませんよ。大丈夫、秒で消せる状態にしてあるので、絶対に何も起きません。ですので、後しばらくお待ちを」


 と、礼香が冷静な口調で言った。


 それなら、なぜすぐに消火しないんだ。


 そう思って、礼香を見つめると、「限界まで静観します。我慢してください」と、言われてしまう。


「……分かった。あ、動いたよ!」


 しぶしぶ七海が承諾した瞬間、モニターの一つに変化があった。


 真緒が動いたのだ。


 彼女は、素早く倉庫の前に行き、扉を開錠したのだ。しかし、そこまで。


 中の日高千夏に何も知らせず、扉を開放する事もなく、どこかへ移動してしまう。


「どういうことでしょう?」


 礼香にも事の真意が計り知れないようだった。


 しかし、数秒後の展開で理由が判明する。


 その場に綾小路光毅が現れたのだ。彼は煙に気づくと、すぐさま扉を開放。


 中に閉じ込められていた日高千夏を救出した。


 更に、そこへ真緒が教師を連れてやってくる。


 後は、消火作業へスムーズに移行した。


「なんで自分で助けなかったんだろう」


 という七海の呟きを聞き、礼香が溜息を吐いた。


 そして残念なものを見るような目で、こちらを見つめてくる。


「今のは分かり易かったでしょうに……」


 と、礼香に言われ、慌てる。


 今一つ分かっていなかった七海は、咄嗟に考えをまとめて口を開いた。


「よ、ようは綾小路君に日高さんを助けさせようとしたんでしょ。そ、それくらいは分かるし」


「では、それにどのような意図があると?」


「う……、それは……」


 答えが分からず、言葉を詰まらせてしまう。


 すると、礼香に加えて、後藤までが溜息を吐いた。


 やれやれといった表情で、礼香が口を開く。


「どうやら、マオちゃんは日高さんと綾小路君を恋仲にしたいようです。そして、恋というものは危険な障害の中でこそ、燃え上がり、激しく花開くというもの。マオちゃんは、恋のフィーバータイムを狙ったようですわね」


「フィーバータイムはダサいと思う」


 上手く言えたと思っているなら、止めさせた方がいいだろう。


「お、おほん! とにかく、マオちゃんの作戦は成功したようですわ」


 動揺した礼香は咳払いをして、仕切り直そうとした。


 七海は、それに乗って話を進めることにする。


「でも、放火はまずいんじゃない。あれ、誰がやったの?」


 七海は、日高千夏の私物が何者かによって捨てられていたことを知っていた。


 そのため、今回の火事も人為的なものではないかと疑っての発言だった。


「閉じ込めたのは瀬荷城宝子たちでしたわ。ですが、発火は地震が原因で、彼女たちは関係ありませんでした」


「そっか。でも閉じ込めはしたんだ……」


 礼香から背景を聞き、腹の底から苛立ちがこみ上げてくる。


「どうも瀬荷城宝子が日高さんに色々とやっているようですね。マオちゃんは、それを未然に防いだり、被害を軽減させているようです。ですが、完全に止めようとはしていません。むしろ、瀬荷城宝子を泳がせているようですね。今回のことも、ギリギリまで手を出していませんでしたし」


「なるほどね。でも、なんで瀬荷城宝子を自由にさせてるんだろ。私なら締めてるけど」


 という七海の発言を聞いた礼香と後藤が、またもや同時に溜息を吐いた。


「マオちゃんにとって、瀬荷城宝子は、日高さんと綾小路君に手ごろな障害を作ってくれる都合の良い存在と見ているようですわ」


「ふ~ん。でもさ、別にそんなことしなくても、くっつく時はくっつくもんでしょ」


 という七海の言葉を聞いた途端、礼香と後藤は落胆の表情を浮かべ、ことさら大きな溜息を吐いた。


「これだからアキラ君とうまく行っているラブラブのナナちゃんは駄目なんです」


「はあ!? ラ、ラブラブじゃないし! それに、その事と今の事は関係ないじゃん!」


 アキラとの仲を言われ、頬が熱くなるのを感じる。


「ナナちゃん、いいですか? 日高さんと綾小路君は、一般的な視点はさておき、家柄に差があります。そして、日高さんは、それほど積極的性格ではありません。そういった諸々の壁を突破するには、大きな反動と助走が必要となるのです。お分かりいただけますか?」


 礼香からの解説を聞いていくうちに、腑に落ちるものを感じる。


「ああ……、そっか。そうだよね。私は孤児の出だから、初めは鷹羽の家と折り合いが悪かったな」


 今となっては懐かしい思い出。


 アキラと今のような仲になるまで、周囲からは色々な反応があったことを思い出す。


 そういったことが日高千夏にも訪れるということか……。


 それは確かに相当な強い思いが必要になるだろう。


 今まで自分の身に起きたことを振り返り、七海は深く納得した。


「まあ、そんな感じなんだよね」


 と、ここで突然、真緒が車内に入ってきた。




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