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そして、積極的行動に出られない理由は、もう一つあった。
それは、マンガのストーリー進行が、このまま日高さんを中心に起きた場合のこと考えてしまったためだ。
もし、このまま日高さんと綾小路君の間で、きら☆スピのストーリーが展開されるのであれば、瀬荷城宝子はある程度放し飼いにしなければならない。
なんせ、瀬荷城宝子の妨害があることによって、日高さんと綾小路君の仲が深まり、お互いの好意が高まっていく部分も多分にあるからだ。
そしてこの部分が、非常に悩ましい。
正直、瀬荷城宝子の妨害やいじめで二人の仲が深まろうとも、日高さんへ掛かるストレスや負担を考えるなら即刻止めるべきだ。
が、そうなると、これから起こるイベントの数々がどうなってしまうのか、全く予想が立たなくなってしまう。
特に深刻なのは、危険度が高いイベントだ。
一番危険なのは死亡事故が発生する脱獄犯襲撃イベントである。
しかし、実はそれ以外にも、危険なイベントが複数存在するのだ。
きら☆スピはマンガであり、フィクションだ。
だから、インパクトのあるシーンだけが切り抜かれ、その前後はバッサリはしょられていたりする。
当然だ。そうしないと、間延びしたシーンになって面白さが半減してしまう。
が、そこが問題になる。
そういったイベントがフィクションではなく、実際に現実で起きると編集された部分を加味しなくてはならない。
そうなると、生死の危険を伴うものや、大怪我を負う可能性があるものが存在する。
例えば、マンガでは一瞬で場面転換していたが、実際には出血を伴う大怪我を負い、時間が経過していたとなれば、人は死ぬのだ。
きら☆スピでそういったシーンはないが、実際に起きるとどうなるか分からない場面はチラホラある。
その際、先回りができなくなってしまう。
発生するイベントは全て、物語の主人公周辺で起きる。
それが、ナナちゃんなのか日高さんなのか。今はまだ確定できない。
でも、現行の人間関係を見ると、日高さんの周辺で起きる可能性が高い。
そうなると、瀬荷城宝子の排除や強制介入に積極的になれないのだ。
日高さんが大変な目に遭うのは申し訳ないが、人の死や一生ものの怪我などと天秤にかけると、どうしても後者に傾いてしまうのである。
妥協案としては、悪質なものは未然に防ぎつつ、軽度のものは見逃す。
そして、ヒーローポジションであろう綾小路君に日高さんのメンタルケアをさせ、仲を実らせていく、という形が落としどころだろうか。
それとも、問答無用で瀬荷城宝子を追いつめるべきだろうか。
……それは得策ではない気がする。
現在の状況が、レイちゃんやナナちゃんがメインストーリーから外されて、代役がたてられた状態だと仮定する。
そのうえでメタ読みすると、瀬荷城宝子を排除しても、第二の悪役令嬢が出てきたり、第三の主人公が出てくる可能性も捨てきれない。
結局、誰かが主人公と悪役令嬢ポジションに落ち着き、その二人の間で新しいいじめが起きる。
――そういう考え方もできてしまう。
それなら、今の状態で事に当たるべきだろう。
今の環境や人物配置は、監視や小規模介入には最適。
新しい主人公や悪役令嬢が発生した場合、今以上に良い環境になることはないと断言できる。
というわけで、現状のまま突っ走ることにする。
基本は見守ることに徹し、日高さんのフォローは綾小路君に任せる。
ストーリー展開で酷いものは未然に防ぐ。もしくは後にフォローを入れる。
そんな感じで、やっていくしかないだろう。
そんなわけで、現状維持で事を進めていくことにした。
――という決定を下して数日。
瀬荷城宝子の一方的な感情により、日高さんとの関係がギクシャクとし始める。
その後、瀬荷城宝子を泳がせて、教科書紛失まで持っていくことに成功。
これにより、日高さんと綾小路君が教科書を一緒に見るイベントを完遂させる。
これで、二人の距離が少し縮まったはず。
その過程で、瀬荷城宝子たちが盗んでため込んでいた日高さんの私物を捨てた。
私は、それらを回収。日高さんのロッカーに返却しておいた。
そして瀬荷城宝子の方は、マンガのストーリー展開と同じく、自分が仕掛けたことが逆効果になって激高。
次の嫌がらせに繋がる布石となった。
ここまでは、順調な滑り出しと言えるのではないだろうか。
一つ問題があったとするなら、途中でナナちゃんにバレたことだろう。
まあ、大々的にやっていたので、仕方ない。
ここは変に言い訳せず、ありのままを話した。
そして、ナナちゃんとの話し合いの末、一部のカメラを撤去することが決まった。
個人的には、授業中に人気が無くなるトイレは、脱獄犯の侵入ポイントとして要チェックなのだが、禁止を言い渡されてしまった。
あまり抵抗すると通報されそうだったので、やむなく条件をのむこととなる。
残念だけど、仕方ないね。
………
というわけで、今日も監視に励む。
そろそろ次が来そうなので、手を抜けない。
しかも、次に起きるイベントは、かなり重要なものなのだ。
ちなみに、次のイベントの概要はこんな感じとなる――。
まず、悪役令嬢が旧校舎の倉庫にヒロインを閉じ込める。
その時、偶然地震が起きて断線。その影響で漏電が起きて、火災が発生。
窮地に陥ったヒロインが霊気を発現。単独で脱出しようとするも失敗。
そこにヒーローが助けに来る、といった展開となる。
――つまり、ここで初めてヒロインが霊気を発現するのだ。
霊気の発現は、ストーリーに関わる非常に重要な要素。
このまま行けば、瀬荷城宝子が日高さんを倉庫に閉じ込めることになりそうだ。
そもそも、ナナちゃんは既に霊気を発現している。
倉庫に閉じ込められたとしても、自力脱出も可能だろう。
それ以前に、ナナちゃんを倉庫に閉じ込めようとするような人物は今のところ存在しない。
そうなると、やっぱり日高さんのような気がする。
このままストーリーが進行して、日高さんが霊気を発現するのかどうか。そこが気になっていた。
このイベント。確定で火災が発生する。そのため、かなり危険なものとなっている。
しかし、今後のストーリー展開において、ヒロインが霊気を発現していることは非常に重要になってくる。
だから、事前に火災を防ぐのは避けたい。
介入は最低限にとどめて、見守りたいのだ。
というわけで、日高さん周りの動向を監視した結果、おおよその決行日を掴むことに成功する。
やはり、倉庫に閉じ込められるのは日高さんになりそうだ。
私は事前に倉庫へ侵入し、カメラを設置。万が一に備え、消火器も隠しておく。
また、延焼の状態をコントロールするため、可燃性の物の配置をいじっておく。
これで、内部の動向を把握できるし、イベント終了後の消火作業もスムーズに行える。
後は待つだけだ。
そして、迎えた当日。モニターで画像を確認し、その時を待つ。
すると、旧校舎の倉庫にある資材を取って来いと、偽の指示を受けた日高さんが登場。
倉庫に入った瞬間、瀬荷城宝子たちが外から南京錠で施錠。日高さんを閉じ込めてしまう。
そうこうしている内に、地震が発生。
倉庫の照明の電気コードが断線し、埃の山に火花が燃え移って発火。
火は瞬く間に可燃性の物を伝って大きく膨らんでいく。
日高さんは資材を探していて、そのことに気づくのが遅れてしまう。
気付いた時には火の手が回り、消火不能の状態となっていた。
慌てて外に出ようとするも、扉が施錠されていて出られない。
「あの場に居たのがナナちゃんなら、ここで霊気を発現するわけだけど……」
私は独り言を呟きながら、日高さんの様子を見守る。
が、霊気を発現する気配はない。……これは無理っぽい感じだ。
メタ読みすると、急にキャスティングされたから、能力がなかったパターンか。
マンガのストーリーでは、霊気に目覚めはするも脱出と救助はヒーローが行っている。
ちなみに、どんな展開かというと――。
ヒーローが一緒に帰ろうと、ヒロインを昇降口で待っていた。が、一向に来ない。
そこで、下校中のクラスメイトにヒロインの所在を聞く。
その生徒は何も知らなかったが、立ち聞きしていた別の生徒が旧校舎の倉庫があった方へ行くのを見たと言う。
その情報を元に倉庫へ向かうと、煙が出ていて慌てて中を確認した、という感じだ。
――で、実際にはどうかというと、同じ展開になっている。
カメラの画像を確認すると、綾小路君がこちらへ向かっているのが分かった。
しかし、このままではまずい。
マンガではヒロインが霊力に目覚めて、力技で施錠された扉を半壊させた。
という前段階があって、ヒーローが扉を開けてヒロインを救出できたのだ。
だけど、日高さんは霊気を発現できなかった。
それに加え、綾小路君も霊術師ではない。
つまり、今の二人の力では、鍵のかかった扉を開けるのは難しいのだ。
事前に倉庫内の可燃物を調整したので、火災の規模は限定される。
が、煙を吸って意識を失う恐れもある。
これは少しアシストした方が良さそうだ。
私は、監視カメラの映像を確認し、日高さんが扉以外の出口を探し始めた段階で移動。
素早く倉庫前に行くと、ピッキングで南京錠を開錠。
そして、綾小路君がこの場に来る前に撤収。
物陰に隠れて、映像を確認していると綾小路君が到着。
煙を見て、すぐさま扉を開けた。
開放された扉に気づいて、日高さんは無事脱出。
そこまでを確認した私は、急いで教師を呼びに行った。
その後の展開は、マンガのストーリーに収束していった。
火は無事に消し止められ、周囲に燃え広がることはなかった。
しかし、今回のことで問題も発生した。早急に解決しないといけない事案だ。
まあ、薄々感づいてはいたけど……。
対応が早かったな。
私は足早に駐車場に向かった。
……そして、一応の解決を見た。
そんな感じで、こちらの問題が片付いた後で、火事の一件も片が付いた。
現場検証の結果、漏電が出火原因と判明。
次に、日高さんがなぜあの場にいたのかが問題となり、数々の証言から瀬荷城宝子が理由と判明。
ただし、扉が施錠されていた事実は、私が開錠してしまったことにより霧散。
倉庫は火災で燃えてしまったため、正確な検証をすることは不可能となり、それで終了。
瀬荷城宝子たちは、教師から厳重注意を受けて終わり。
全ては小さな問題が積み重なり、偶然が引き起こした事故ということで片づけられた。
この辺りは、マンガと細部まで同じ展開だった。
完全に一致というやつである。
これで明日からは何事もなかったかのように、通常の学園生活に戻ることとなる。




