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◆日高千夏
最近、ちょっと困ったことになってしまった。
きっかけは、テスト結果だ。
少し前に、実力テストが行われた。この学校は点数上位の者を掲示する習慣がある。
結果は、私が一位。二位は、また綾小路君だった。
そのことがきっかけで、綾小路君と話す機会が増えた。
彼は、ちょっと我が強い部分があるが面白い人だ。
成績が同じくらいなので、勉強の話も盛り上がる。
どちらの視点から見ても、競争相手として最良なのだ。
そんなわけで、お互いに冗談を言い合えるくらいの間柄になった。
――その頃から、異変が起きた。
私物がなくなり始めたのだ。
初めは、自分がうっかりしていたからだと思っていた。
だけど、あまりに頻度が高い。
直前までの記憶があるのに、目を離した隙になくなってしまう。
日を重ねるごとに、無くなる物のサイズが大きくなっていく。
初めは、ペンや消しゴムと言った文房具類。
そこから、上履きやノートに変化した。
自分がどこかに置き忘れたわけではない。
どう考えでも、こちらの隙を突いて誰かが持ち出しているのだ。
これは、綾小路君に相談すべきだろうか。
正直こういうことを話すべきか躊躇してしまう。
クラスに女子の友人がいれば、相談したのだが、いない。
このクラスに女子の特待生は自分しかいなかったためだ。
同じ境遇の人なら話も合ったと思うのだが、一般入学やエスカレーター式で入学した人はお金持ちばかり。どうしても、話が合わなかった。
そのせいもあって、うまく友達を作ることができなかったのだ。
中には声をかけてくれる子もいたけど気後れしてしまって、うまくコミュニケーションが取れないでいた。
そして、このクラスには入学式でひと悶着あった瀬荷城さんがいる。
彼女はあの日、雲上院さんに立ち居振る舞いについて指摘されたが、一切変化していない。
そのせいもあって、クラスメイトは、綾小路君と関わると面倒になると分かっているせいか、瀬荷城さんや綾小路君と距離を置いている。
そして、私は綾小路君と仲が良いため、敬遠対象にカテゴライズされていた。
そういったこともあって、身近に気軽に相談できる相手がいないのだ。
――私物の紛失は誰がやったか分からない。
疑いたくはないが、クラスメイトの可能性もある。
こんな時、頭に浮かぶのは雲上院さんだ。
入学式の時、困ったことがあればいつでも頼って欲しいと、彼女が言ってくれたことを思い出す。
だけど、雲上院さんは違うクラス。
その上、いつも沢山の人に囲まれていて、とてもじゃないが話しかけられる雰囲気ではない。
雲上院さんは、学年に関係なく沢山の人に慕われている。
そのため、周囲に人が絶えることがない。
それに加えて、入学前からの知り合いと思しき人たちが、いつも周りにいる。
そんな元々あるグループに、新参者一人で突入して話しかけるのは勇気がいるのだ。
そういうことを察してか、たまに雲上院さんから声をかけてくださることがある。
千載一遇のチャンスなのだが、そう意識してしまうと緊張してしまう。
結果、上ずった声で、最低限の事しか言えずに終わってしまうのがパターンとなっていた。
雲上院さんの振る舞いから、私をグループに引き入れようとしてくれていることが窺える。
周りの人たちも、それを察して気さくに声をかけてくれる。とっても優しい人たちなのだ。
そんな雲上院さんたちに相談していいものか、余計に気を遣わせるのでは……。
などと考えて何もできないでいるうちに、教科書までなくなってしまった。
他の物は替えが利くが、教科書はまずい。
初めに配布されたものは特待生枠で無料になったが、二度目からは違う。
もし、見つからなければ、買う必要がある。
ここの教科書はどれも高額なので、かなりの出費になってしまう。どうしよう……。
と思ったら、気づいた綾小路君が見せてくれた。
机を引き寄せ、自分の教科書を私が見やすいように配置してくれる。
「まったく、頭が良いのにおっちょこちょいな奴だな」、などと言われてしまう。
そして、一冊の教科書を二人で見て授業を受ける。
自然と距離が近くなってドキドキしてしまった。
その日は、綾小路君のお陰でなんとかなった。
だけど、明日からどうしたらいいか分からない。
これは考えをまとめて、教師に相談すべきだろうと覚悟を決めた時、それは起きた
下校時、下駄箱を開けたら大きな布袋が入っていたのだ。
恐る恐る取り出して、袋を開けてみる。
すると、無くなった物が丁寧に整理されて入っていた。
確認してみると、この数日で紛失した物が全てあった。
買い直さなければいけないと考えていただけに、ほっとする。
でも、これは一体どういうことなんだろう……。
誰かが一時的に借りて、用が済んだから戻してくれた、というわけでもないと思うけど……。
◆兎与田七海
七海は戦慄していた。
最近、真緒の奇行が留まるところを知らない。
礼香がいないところで怪しい動きを連発するのだ。
そのことに気づけたのは、以前より一緒に行動する機会が増えたためだった。
――この学校に入学してから、明らかにおかしい。
まるで、中学で初めて会った時を想起させるほどのクレイジーっぷりだった。
わけの分からない言い訳を付けては壁に張り付いたり、全てのクラスのロッカーを開けてまわったりする。
終いには男子トイレにまで入ろうとした。
今は誰もいないから大丈夫と言うが、何が大丈夫なのだろうか。
そんな中、クラスで席替えが行われた。初めは出席番号順だったが、授業が本格化する前に変わることになったのだ。
結果、七海は窓際の一番後ろの席となった。
思い返してみると、この席を引く確率が異常に高い。
まるで自分の指定席の様だ。
そして、前の席が真緒になった。
礼香は席が離れたので、悔しそうにしていた。
金を積んで席順をどうにかしようとした時は本気で止めた。
普段はお淑やかで気品溢れる令嬢という感じなのに、真緒の側に行こうとする時だけ狂信者のようになってしまうのは、何とかならないのだろうか。
席替えが終わると、通常授業が始まった。特に何の変哲もない授業風景だ。
同じ席ばかり座っているせいか、中学となんら変わらない景色に見えてしまう。
……のはずだったのに、突如、異物感を覚える。
その原因は、前の席にあった。
――真緒だ。
明らかに動きがおかしい。絶対に授業を受けていない。
早弁だろうか、何かゴソゴソしている。
注意深く見ると、机の中が照明をつけたように明るい。
もしかして、携帯端末かゲーム?
(ふうん、結構まじめそうに見えたけど、こういうサボり方もするんだ)
真緒の意外な一面を知って、驚く。
後で礼香に言って困らせてやろうかな、などと思いながら、教師に気づかれないようにしつつ、身を乗り出して真緒の席を覗き込んだ。
「は?」
――すると、そこには異質な光景が広がっていた。




