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予知失敗みたいな感じだろうか。
夢を通じて未来を見るわけだし、環境の変化などで精度が落ちるのかもしれない。
「わらわも二度目なので、これがどういった意味を持つのかさっぱりわからん。過去の文献を見ても、似たような事例は見つからなかったのじゃ。元々万能な能力というわけでもないし、こういう結果が出てしまうこともあるのかもしれん」
腕組みしたミカちゃんは、自身の言葉に頷きながら続ける。
「まあ、そういうことなので今回の予知は当てにはならないと思っておいてほしいのじゃ。それじゃあ、先の件で進展があれば連絡するので、よろしくなのじゃ」
というわけで、その日は解散となった。
そして後日、ミカちゃんから連絡が来る。
なんと、なぜかは知らないが、私とレイちゃんの参加が許された。
私たちは、レイちゃん家の車で面談に指定された場所へと向かった。
そこは龍宮家。通された先は、広めの応接室だった。
中では、既に柱の当主三人が勢ぞろいしていた。
挨拶もそこそこに、早速本題に入る。
まずはナナちゃんの口から、霊獣と契約した経緯を話す。
色々な出来事があったので、それなりに時間を要する内容だったが、四柱の当主たちは黙って話を聞いてくれた。
そして最後に、子亀の玄武を呼び出して皆に見せた。
「ほう、今の玄武はそのような状態なのか」
「いえ、これは切り離された分体のようなものです。本体は結界と融合して、今も北海道にいます」
四柱当主、龍宮清正の言葉に、首を振ったナナちゃんが説明を付け加える。
「なるほど。しかし、これで君が契約者ということは証明された」
「今まで黙っていてすみません。結界の状態と北海道の状況変化を考えると、しばらく名乗り出ない方がよいと考えました」
「確かに、ここ最近は激動と呼ぶに相応しい状況だったからな。やむを得ない対応と言えよう。また玄宮勝邦と同じように手柄を欲して、結界を破壊すると言いだす輩が現れるとも限らんからな。……それで、今の結界の状態を教えてくれないか」
ナナちゃんの言葉に納得した龍宮清正と虎宮楓が、次に気になったのは結界の事だった。
首肯を返したナナちゃんは、結界について知りうる限りのことを語って聞かせた。
結界を構成する要素の一つである前当主の魂の力が無くなってしまったこと。
結界がひび割れた際に、応急処置を行ったこと。
それらにより、崩壊の時期が早まったこと。
そして、その時期が近付きつつあることを。
ナナちゃんから結界の現状についての全てを聞き、難しい顔になる当主の面々。
「つまり、例の一件で結界の寿命が縮んだと……。そういうことか?」
「はい」
「結界が崩壊する正確な日時は分かるか」
「内部からの干渉があるため、どうしてもズレが生じます。今の状態が続くのであれば、おおよそ一年くらいかと」
ナナちゃんの返答を聞き、柱の当主たちが目を見開く。
「なんと……、そこまで迫っていたとは。これは覚悟を決めるしかないな」
「しかし、正確な崩壊のタイミングが分からないのはまずいな。限界が近づいた段階で、人を集め、意図的に結界を破壊して、妖王を迎え撃つのがよいかもしれん」
「そうだな。その方が準備を万全に出来る。崩壊寸前となった状況では、数日持たせる意味もないだろう」
龍宮清正と虎宮楓の二人は、すぐさま事実を受け入れ対策を練り始めた。
問題になってくるのは、結界崩壊のタイミングだ。
自然崩壊に任せていると、その間ずっと監視体制を強化し、戦力を待機させる必要が出てくる。
その上、深夜や早朝に崩壊したら、態勢を整えるのに時間がかかる。
そんなことになるくらいなら、絶好のタイミングに合わせて、結界を壊すべきと判断したようだ。
しかし、その決定を聞き、ミカちゃんが難しい顔になる。
「その場合、結界の破壊に玄宮の力を使うことになるのじゃ。でも、高位霊術師は、先の一件で拘束されてしまっているので、人数が足りないと思うのじゃが……」
当主の暴挙に加担した玄宮の者は全員拘束された。
そのため、元々少なかった玄宮の一族は、限界まで数を減らすこととなってしまったのだ。
「その時だけ、一時的に解放するしかないか……」
と、龍宮清正が渋い顔で呟く。
すると虎宮楓が、何かを思いついて口を開く。
「壊れる寸前であれば、結界も脆くなっているのだろう? それなら、七海殿一人でも破壊できるのではないか」
と、龍宮清正から質問され、ナナちゃんが首肯を返す。
「多分、大丈夫です。小さい穴を何個か開ければ、時間差で自然と壊れると思うので、私一人の力で行けると思います」
「ふむ、それはありがたい。しかも、すぐに壊れるのでないなら、七海殿も避難する時間があるということだな。それなら、大人数で破壊するより、単独で破壊してもらった方が都合が良さそうだ」
「その辺りも含め、急いで十家と情報を共有する必要があるな」
と、ナナちゃんの返答を聞いた龍宮清正と虎宮楓が今後の方針について話し合っていると、ミカちゃんが口を挟んだ。
「それで、ナナちゃ、いえ、七海殿はどのような扱いになるのじゃろうか。本人の希望としては柱の当主を継ぐことには、抵抗があるそうなんじゃが」
「そうは言ってもな……」
「清正殿、七海殿の負担を考えると、妥協すべきところだと思うぞ。今の玄宮に残っているのは名前だけ。人もいないし、金もない。彼女には、結界の管理という重大な役目がある。その上、家の管理までさせるのは酷というものだ」
「……そうだな。ここは龍宮家の預かりということにするか。七海殿には結界に集中してもらった方がいいだろう」
訴えが通り、ほっとした表情となるミカちゃん。
そんな彼女に、ナナちゃんが笑顔でアイコンタクトする。
と、そんなほっこりした状況を、レイちゃんがぶった切った。
「いえ、ナナちゃんはうちで預かります。あと、玄宮家は雲上院が吸収することにします」
「な!?」
「それはあまりにも……!」
レイちゃんの発言に驚きと噴気が入り混じった顔となる龍宮清正と虎宮楓。
しかし、レイちゃんは動じなかった。
「あら、何か不満でも?」
そう言うと、全身から霊気を発した。
濃密な霊気は、彼女の特性である火属性の色を帯び、全身が朱色に輝き出す。
無言で圧をかけ始めるレイちゃん。
めっちゃパワーで丸め込もうとしてる……。
いくらなんても、やり口がゴリラすぎるよ……。
しかし、効果はてき面。
龍宮清正と虎宮楓の全身から汗が吹き出し、額をハンカチで拭い始めた。
「い、いや……その……」
「我ら柱にも矜持というものが……」
「ご心配なく、悪いようには致しません。いいですね?」
と、ニッコリ笑顔のレイちゃん。
「「あ、はい」」
すると二人同時に、了承する龍宮清正と虎宮楓。
パワー! で、交渉成立である。
結果、霊術師のトップオブトップである四柱に雲上院家が入り込むことが決まった。
これは権力構造がヤバいことになりそうな……。
でも、柱の人が全然強く言ってこない。
もっと激高するかと思ったけど、凄く消極的だ。
レイちゃんの顔色を伺っているというか、なんというか。
なぜこんな交渉の皮をかぶったただの圧力が成立したのか、理解に苦しんだ私はナナちゃんに耳打ちで尋ねた。
「ねえ、どういう状況なの、これ?」
「いや、私もよく知らないんだけど。ミカちゃんは分かる?」
「まあ、何か丸く収まったし、良いんじゃないかの」
と、腹話術の人形のように、無表情で棒読みセリフを言うミカちゃん。
これは怪しい。
「何か知ってそうなのに、誤魔化してる感じがする」
「後でくすぐりの刑だね」
「わらわ、何も知らんのじゃ!」
ナナちゃんが言ったくすぐりの刑がよっぽど嫌だったのか、声を荒らげるミカちゃん。
しかし、事情を把握するまで、ナナちゃんの責めは続くことになるだろう。
私は心の中で手を合わせ、ミカちゃんの無事を祈った。




