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驚いた私は、ナナちゃんに聞き返した。
「そういうこと。でもさ、一般枠って表現おかしくない? この学校を受験すること自体が、一般の範疇外だと思うんだけど……」
「まあ、それはそうだと思う。一般枠の受験資格を得るには、いろんな条件があったと思うけど、大丈夫だったの?」
私は、ナナちゃんの意見に同意しながら、受験資格について思い出す。
煌爛学園は、誰でも受験できるわけではない。
特待生枠は、試験の成績さえよければ問題ない。
だが一般枠は、受験条件が厳しいのだ。
受験を受ける前の段階として、受験資格を得るための書類選考と面接があるんだよね。
「まあね。今の私は金持ち霊術師。しかも五属性だよ? だから家柄的にも問題ないんだよね~」
「確かに……」
そう言われると確かにそうだ。
地頭が良いナナちゃんであれば、面接も猫を被ってやり過ごせるだろう。
「でも、ここの学費はやっぱり高いわ……。庶民の感覚が抜けない私からすると、胃に穴が開くレベルの贅沢だよ」
と、心底参ったといった顔になるナナちゃん。
するとレイちゃんが、疑問を感じたのか声を上げる。
「でしたら、無理にこの学校でなくても良かったのでは。ナナちゃんの成績と霊術師の実力であれば、どんな学校でも行けたでしょうに」
「……そんなこと言わないでよ。やっぱ、二人と一緒の学校に行きたいじゃん……」
ナナちゃんが、照れくさそうにそっぽを向きながら、呟くような声量で言う。
その言葉を聞いたレイちゃんは、ハッとなり頭を下げた。
「これは失礼しました。わたくしも、その方が好ましいのは事実です。別に邪険にするつもりで言ったわけではないので、絶対に誤解しないでくださいね」
「分かってるって」
そう言って、ナナちゃんがニカッと笑う。
私たち三人、いやミカちゃんを含めた四人は、親友同士。
気心も知れているので、この程度で誤解が生まれることはない。
「私も嬉しいよ。でも、それだけじゃないよね?」
私はそう言って微笑んだ後、ニヤニヤ顔に移行してナナちゃんを肘でつついた。
「なんのこと……?」
と、とぼけるも、視線を彷徨わせるナナちゃん。
どうやら、図星の様だ。
そんな私たちの会話を聞いて、レイちゃんが首を傾げる。
「どういうことですの」
「アキラ君も、この学校だったからでしょ」
私は正答を言った。
すると、レイちゃんが両手を合わせて、大喜びとなる。
「まあ! それは盲点でしたわ! きっとそれが本命に違いありませんわね」
「一緒の学校に行こうって約束してたんじゃないの、そうでしょ?」
私は追及の手を緩めない。
いつも弄ってくるんだから、こういう時はしっかりやり返しておかないとね。
「そうだよ、悪い? 高校は一緒の所に行こうねって前から約束してたの。別にいいでしょ」
すると、ナナちゃんが吹っ切れて開き直った。
「はい、問題ありません。ごちそうさまです」
「ウフフ、それは素晴らしい事ですね」
私たちは、優しい笑顔で首肯した。
二人には、このまま幸せになって欲しいものである。
――と、そんな会話をしながら考える。
ナナちゃんと、マンガの主人公である因幡七海の入学理由が変わってしまった。
因幡七海の入学理由は学費免除と学校の格の両立。
養父母に迷惑をかけないため、金額を安く抑えつつも名門の学校に入るというのが煌爛学園の選択理由だった。
しかし、ナナちゃんの入学理由は人間関係。
しかも、自力で資金調達までしてしまった。
それにしても驚きだ、まさか通常手段で入学していたとは。
あれ……、そうなると、代わりに特待生枠で受かった生徒がいるのかな。
特待生枠は制限があるが、一人限定ではない。
まあ、合格者の内訳が一人変わっただけだ。
大きな変化に繋がるようなことはないだろう。
――そんな風に結論付けた時、掲示板の方が騒がしいことに気づく。
声が遠くまで響くせいか、少し離れた場所にいる生徒たちも、掲示板の方が気になっている様子。
つい、野次馬根性を発揮した私は、声が聞こえた方に誘われるように近づいてしまう。
「ちょっと、どこいくのよ」
「マオちゃん?」
私の動きにつられて、ナナちゃんとレイちゃんも掲示板の方へ。
結果、三人で人ごみに突入することとなった。
そこには、掲示物を確認するのとは、別の人だかりができていた。
隙間から覗き込むと、人だかりの中心で女子生徒と男子生徒が会話していた。
「お前がテスト一位の日高千夏か。この俺様を凌駕するとは大した奴だな」
と、何やら不遜な態度で女の子に言い寄る男子。
……その台詞、なんか聞き覚えがあるんですけど。
「え、誰?」
顔を確認するも、見覚えがない。
「存じませんわ」
私の呟きを拾ったレイちゃんが、首を振る。
振り返って、ナナちゃんの方を見るも、同様の反応だった。
え、本当に誰?
私たちの疑問をよそに、会話が進行していく。
男子に名前を聞かれた日高千夏という子が、恐る恐ると言った感じで反応する。
「は、はい」
男子の問いかけに、正面に立つ日高さんが控えめに頷いた。
「ふん、猫を助けに車の前に飛び出す度胸を持っている上に、頭も良い。お前、おもしれー女だな」
「きょ、恐縮です?」
「ふ、次のテストでは負けん。首を洗って待っていろ」
男子は言いたいことを言うと、颯爽とその場を去って行った。
そして、取り残された日高さんは、呆然とその背中を見つめていた。
――という光景を、私たちが背後から見届ける構図となっていた。
ん~~……?
――少し、待ってほしい。
君たちは一体誰なんだい?
顔も名前も知らないんだけど……。
そんなことを考えていると、日高さんが別の女子に声を掛けられる。
「ちょっと、そこの貴方! 日高と言いましたか? 綾小路様に話しかけるなんて、どういうつもりかしら!」
日高さんに話しかけたのは、銀髪縦ロールの女子だった。
レイちゃん以外で縦ロールを見るのは初めてだったので、ちょっと衝撃を受ける。
といっても、彼女の縦ロールは短い。
レイちゃんのが王道のオリジナル縦ロールなら、彼女の縦ロールはアレンジロールだろう。
態度と口調が非常に高圧的であり、話しかけられた日高さんが委縮して固まってしまう。
「え、誰?」
顔を確認するも、見覚えがない。
「存じませんわ」
私の呟きを拾ったレイちゃんが、首を振る。
振り返って、ナナちゃんの方を見るも、同様の反応だった。
え、本当に誰?
私たちの疑問をよそに、会話が進行していく。
「綾小路光毅様は愛知では名高い綾小路家のご子息。学業も優秀で、今年東京へ引越し、こちらでの活躍が約束されたお方。貴方のような人が接して良い方ではありません!」
あ……、すごく説明してくれた。
「へえ、あの綾小路って子は最近引っ越してきたんだね」
「それで存じ上げなかったわけですね」
私とレイちゃんは、なるほどと頷いた。
道理で誰も知らないわけだ。じゃあ、なんで銀髪の子は知っていたんだんだろう。
「あの子たちも、引っ越してきたのかな」
という、ナナちゃんの呟きを聞き、そうかもしれないと思う。
地元が同じなら、綾小路君について詳しくてもおかしくはない。
「私も、入学前に偶然お見掛けして、身元を調査したから分かったこと。貴方が知らないのも無理はないでしょう。ですが、雰囲気で察し、距離を置くくらいの対応はしなさい。この学校に入学したのであれば、格に見合う人付き合いを心掛けるべきです!」
なんか無茶苦茶なことを言ってる……。
話を聞く限り、制服などを貰いに行った入学前登校日に偶然見かけて一目惚れしたようだ。
その後、興信所を使って身元を調査して誰かわかったみたい。
って、かなりアウト寄りの行動だな。
……まあ、完全アウトな事をやりまくっている私が言えた義理じゃないか。
そうなってくると、銀髪の子と綾小路君は面識がないのでは……。
「いえ、私から話しかけたわけではないのですが……」
と、戸惑う日高さん。
もっともな意見である。
すると、銀髪女子の後ろにいた二人の女子が口を開いた。
「でも会話してたでしょ。私、見ました!」
「私も見ました、瀬荷城さん!」
その二人の女子の顔を見て、私は驚愕する。
あの二人は知っている。
四谷真理と九白真緒だ! マリマオコンビだよ!
いやぁ、マンガ通りの登場人物を見るとホッとするなぁ。
って、どういうことよ!
なんで私が二人いるの!?




