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現状に満足した私は、自然と緩む口元を引き締めながら、皆とテスト結果と所属クラスが張り出されている掲示板へ向かった。
…………
生徒でごった返す掲示板前に到着し、早速テスト順位を確認する。
すると、ナナちゃんとアキラ君が、一位と二位ではなかった。
てっきり、ワンツーを取ると思っていただけに驚きである。
ちなみに、ナナちゃんが六位。アキラ君が五位という結果だった。
「私は、てっきりナナちゃんとアキラ君が一位と二位になると思っていたよ」
ちょっと気になったので、そう質問してみる。
すると、両者ともに気まずそうな顔になる。
「どうされたのですか?」
と、レイちゃんが尋ねれば、ぽつぽつと理由を話してくれた。
「いやぁ、仕事漬けでさ。北海道にずっと居たから、あんまり勉強しなかったんだよね」
「俺も勉強の優先順位を落としたためだ。霊術の修業の時間を増やす代わりに、勉強時間を減らした影響だな……」
という二人は視線を落とし、項垂れていた。
二人とも真面目な性格なので、勉強をサボったという感覚なのだろう。
「お二人とも、別の事と並行して勉学に取り組まれて、十位以内に入ったのですから、充分素晴らしい結果だと思いますわよ?」
というレイちゃんの言葉に、私も全力で乗っかることにする。
「うんうん。時間配分が上手いよね。私なら、両方とも成果を出せずに終わりそう」
二人を落ち込ませるつもりはなかったので、これで何とか……。
すると、私たちの言葉を聞いて、二人が元気を取り戻した。
そう言われればそうだよね、と二人揃って納得している。
そんな会話をしていると、背後から声を掛けられた。
振り返ると、智仁君が手を振っていた。
彼のフルネームは雪沢智仁。
マンガのきら☆スピでも、こちらの世界でも、鷹羽アキラの幼馴染みの親友だ。
彼の呼び方も、アキラ君の呼び方が変わった時点で、「僕だけ苗字呼びって酷くない?」と、訴えられて変化した。
そんな彼が、笑顔で合流してくる。
「皆、お揃いだね」
「出迎えご苦労。案内は任せたぞ」
と、アキラ君が智仁君の肩に腕を回す。
「何言ってるの。僕だって高等部には、ほとんど行ったことがないんだから、案内できる所なんてないよ」
「それでも、俺より詳しいだろ」
「中等部に居ただけで、大差ないよ」
いつもの仲良さげな感じで会話している二人。
と、二人の話を聞いたナナちゃんが、疑問の声を上げる。
「あれ、アキラも智仁君と一緒に中等部にいたんじゃないの?」
「いや……、それは……」
すると、明らかな動揺を示し、言葉を詰まらせるアキラ君。
その様子を見た智仁君が、いじわるそうな笑顔で口を開いた。
「フフ、こいつね、霊術師系の中学校に転校したんだよ。しかも、自由な時間のほとんどを使って修業を頑張ってたんだ」
「おい、言うな!」
「ふぅん、そうなんだ……」
慌てるアキラ君を見て、ナナちゃんが意味ありげな視線を送る。
と、ここまで会話を聞いていたレイちゃんが言った。
「ということは、中等部には智仁君しか通っていなかったのですね」
「そうだよ。ずっとアキラと一緒だったのに、中学で離ればなれになったから、寂しくて寂しくて……」
智仁君はわざとらしい感じで泣く仕草をする。
すると、アキラ君が智仁君にヘッドロックをかけた。
「見え見えの演技をするな」
「いたっ」
「で、なんで、そんなことをしたわけ?」
じゃれあう二人を前に、ナナちゃんがアキラ君に問う。
その言葉を聞いたアキラ君は、頬を赤らめながら視線を逸らす。
そして、とつとつと話し出した。
「お、お前の手伝いをしたかったんだ。結局、北海道に入ることができなかったけどな。制限が解除された後も、家族に反対されて駄目だった……」
と、照れながら不器用に告白する。
「その辺のことは先に調べときなよ。そしたら、休みの時に二人で遊びに行けたじゃん」
アキラ君から訳を聞いたナナちゃんは、まんざらでもない様子だった。
こちらも頬を染めながら、とつとつと返事を返す。
「お、おう。次からはそうする」
アキラ君がぶっきらぼうに言った。
それにつられてナナちゃんも「う、うん」と、ぎこちない返事を返す。
そんな二人の様子を見ていたレイちゃんは、頬に片手を添えながら、ほぅと溜息を吐いた。
「二人とも、とても仲が良いのですね。見ていて癒されますわ」
と言い、何度も深く頷く。
私は、レイちゃんのあの顔を知っている。
あの感じは、かわいい動物のショート動画を見た時と同じリアクションだ。
これは、本当に癒されていると見て間違いないだろう。
マンガの雲上院礼香だったら、嫉妬で怒り狂っていただろうに全く違うリアクションとなっている。
うーん、これは良い傾向だ。
この感じだと、アキラ君が原因で、レイちゃんとナナちゃんが争うことなんて絶対ありえないよね。
私は確認のため、レイちゃんに質問した。
「二人の事をどう思う?」
「どう、とは?」
「う~ん、二人の様子を見て、どんな気持ちになる?」
「そうですね。応援したいですね。二人には今のままで居てほしいですわ」
「だよね」
レイちゃんの口から飛び出したのは、非常に肯定的な感想だった。
私は何度も頷き、同意を示す。
ついでに、アキラ君についても聞いておこう。
「ちなみに、今のアキラ君のことはどう思ってるの? 親の取引先の息子さんって感じ?」
「そういった一面もありますが、どちらかというと、親友の恋人でしょうか。あ、でもこれは早計過ぎるかもしれませんね。こういったことは、周りがはやし立てると逆効果だと言いますし」
口元に手を当て、慌てた様子のレイちゃん。
そういえば、こんな感じだったと思い出す。
今もアキラ君とは距離感を持って接している。
ときどき参加していた誕生日会の時も、何も感じていない様子だった。
この感じだと、むしろ二人の仲が深まるようにサポートしそうな勢いだ。
そうなると、マンガの雲上院礼香とは真逆のムーブである。
そんなことを考えていると、私たちの周りに在学中の雲上院派の生徒が集まりだした。
レイちゃんや私たちに、お祝いの挨拶に来てくれたのだ。
「レイカ様、ご入学おめでとうございます」
「おめでとうございます!」
「我々、この日をずっと待ちわびていたのですよ」
「やっと、レイカ様と同じ学校に……」
といった感じで、アイドルに集うファンのごとく、人が密集し始める。
そんな中、レイちゃんは声をかけてくれた人に一人ひとり丁寧に対応していた。
それと同時に、私の周りにも自分を慕う人たちが集って、お祝いの言葉をかけてくれる
結果、数秒と経たない内にすごい人だかりになってしまう。
「ちょっと人が多くなっちゃったね。これは掲示板を見に来た人に迷惑かも」
「そうですわね。皆さん、移動しますよ」
これはまずいと判断した私とレイちゃんは皆に呼びかける。
迷惑になるので全員を誘導して隅に寄った。
そのタイミングでアキラ君と智仁君は、こちらにアイコンタクトを送り、フェードアウト。
現在、雲上院派と呼ばれるほどに膨れ上がった集団は、アキラ君の誕生日会が発足の原因だったりするので、色々気を回してくれたのだろう。
と、アキラ君たちが去って行く中、ナナちゃんは残って皆と会話を楽しんでいた。
これも、昔ではありえない光景だ。
雲上院派の起源をたどれば、アキラ君とナナちゃんの関係に嫉妬していた者も少なくない。
が、そういった感情に支配されていたのは過去の話。
皆、同性か異性の友人を得て、心に余裕が出来た。
そういった仲が育まれていくのと同時進行で、ナナちゃんに対する印象もアキラ君にお似合いの女の子というものへ徐々に変化していった。
それに加えレイちゃんと私が、ナナちゃんと親友という事実が広まり、彼女の悪いイメージが払拭されたのだ。
今では、レイちゃんが主催するサロンに、普通に出席する状態となっている。
――というわけで、皆からの祝福を何とか捌ききり、ひと段落。
すると、同じ学年で自然とグループ形成がされ、気の合う者同士で集まって思い思いに雑談を楽しむ状態へ移行していく。
それと同時に、私たちはいつもの三人となった。
――そこで気が抜けたのか、ナナちゃんが愚痴りだす。
「ちょっと北海道で頑張り過ぎちゃった……。そのせいで入学費用が凄いことになっちゃったよ」
「仕事を頑張るのと、入学費用にどのような関係が?」
不思議に思ったレイちゃんが質問する。
すると、ナナちゃんが頬を掻きながら言った。
「あ~……、普通に入学費用を払ったってこと。特待生制度を利用しなかったんだよね」
「え、それじゃあ、一般枠で受験したの?」
驚いた私は、ナナちゃんに聞き返した。




