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 ◆九白真緒



 ここ最近、井和倉慶二と特定の刑務官が急接近。


 なんか仲良くなり始めた。


 結果、施設内でのバランスが崩壊。


 以前は炎泉派と井和倉派で均衡を保っていた。


 それがここに来て、井和倉派が勢いを増したのだ。


 ちなみに私は、炎泉派に認定されていた。


 よく留美さんたちと一緒にご飯を食べていたからだろう。


 そもそも、出所後は炎泉派の皆さんと北海道で仕事をする予定なので、派閥に所属していると認識されるのは、案外正解なのかもしれない。


 そしてとうとう、一部の刑務官が井和倉派の贔屓まで始めてしまった。


 その結果、優位を確信した井和倉派の人間が、更に調子づく状態に発展。


 完全に悪循環となってしまう。


 そんな状態が数日続き、向こうの目的が何となく分かってきた。


 炎泉派にストレスを掛けて、暴力的行動を誘発させようとしているのだ。


 こちら側の立場を限界まで弱くしたいのだろう。


 井和倉派の人数を増やしたいということなのかな。


 そんな中、留美さんが標的にされてしまった。


 ぶつかられたり、食べかけの食事をかけられたり、と無茶苦茶だ。


 さすがに酷いので、なるべく側にいてガードしていたが限界がある。


 炎泉派の人は男性が多く、留美さんは共同エリア以外で一人になりやすい。


 そこを狙われてしまうのである。


 私が圧をかけた人間は二度としなくなるが、そもそもの人数が多すぎた。


 これは何か手を打たないと……。


 そう考えている間に、炎泉派の人たちが切れてしまった。


 炎泉派と井和倉派。


 両者が食堂で一堂に会した際に、激しい口論に発展したのだ。


 井和倉派の人たちは余裕の表情で煽ってくる。


 殴って見ろよ、と顔を近づけたり、つばまで吐きかける始末。


 炎泉派の人たちは我慢の限界に到達していた。


 このままでは、殴り合いの喧嘩に発展しそうだ。


 刑務官が止めた方がいいんじゃない、と周りを見て、妙に人数が少ないことに気づく。


 そして、とうとうそれは起きた。


 炎泉派の一人が挑発してきた井和倉派の男を両手で押して、離そうとした。


 多分、それほど力を入れていないと思う。


 が、押された男は、机を倒しながら盛大に吹き飛んだ。


 そして、体を押さえて、「痛い痛い」と転げまわる。


 完全な当り屋的行動である。


 それを見て、井和倉派の人間が待っていましたと言わんばかりに、「よくもやりやがったな!」と、炎泉派へ殴り掛かる。


 結果、両派閥が激突し、大乱闘へ発展してしまう。


 こうなると誰にも止められない。


 どんどん喧嘩の規模が大きくなり、全ての受刑者を巻き込む形で混乱が加速する。


 それなのに、刑務官が止めに入らない。突っ立って、ぼーっと事の成り行きを見ている。


 これは私が全員を押さえ込むしかないか?


 そう思っていると、一人の刑務官が逃げ込むようにして食堂に駆け込んできた。


 その背後には複数の妖怪の姿が。


 この施設は玄宮家の結界により、霊気が出にくくなっている。


 それは刑務官も例外ではない。だから、妖怪に遭遇すれば、逃げるのも当然かもしれない。


 ――その顔を見なければ、私もそう思っただろう。


 逃げ込んできた刑務官の顔は、恐怖ではなく喜悦。


 妖怪をこの場にわざと誘い込んだ、と言われた方がしっくりくるほどの邪悪な策士顔。


 ナイスアシストしてやったぜ、と言わんばかりのドヤ顔だったのだ。


 これは何かが目的で、故意に誘導したと考えるべきだろう。


 結果、大乱闘の舞台に妖怪が新規参入。


 混乱が激しさを増し、食堂が混沌化することとなってしまう。



 ◆とある受刑者



「……どうするんだよ、これ」


 俺は、眼前の光景を目にし、絶望していた。


 少し前、炎泉派と井和倉派が殴り合いの喧嘩を始めた。


 両者とも人数が多いので、食堂は大混乱となった。


 俺は新参者。ここに来て日が浅いので、どちらの派閥にも所属していなかった。


 そのため、非常に居心地の悪い思いをしていたのだが、事ここに至っては幸運だったと言える。


 どちらかの派閥に所属していれば、あの喧嘩に混ざらなければならない。


 そうなると、刑期が増える。


 そうならなかったことに安堵し、どちらにも加担していないことをアピールするために、端に逃げた。


 それと同じタイミングで、刑務官が必死の形相で食堂に逃げ込んできた。


 何事かと思えば、妖怪だ。


 臆病な刑務官が妖怪を連れ込んできやがったのだ。


 何考えているんだ。もっと他に逃げる場所があっただろうに……。


 お陰で非常事態と判定され、警報が鳴りだす。


 現在食堂内は警報がけたたましく鳴り響き、赤い回転灯が激しい光を放って回っていた。


 そんな中で、炎泉派と井和倉派が殴り合いの喧嘩をし、そこに妖怪が混ざって大混乱。


 ……もう滅茶苦茶だ。


 あんなところに近寄りたくない。


 そう思ったのは、俺だけではなかった。


 喧嘩に参加していなかった受刑者が、出入り口に殺到したのだ。


 が、遅かった。


 警報が鳴った瞬間に全ての出入り口がロックされ、移動不可能状態となってしまったのだ。


 まあ、緊急事態だし当然の処置だ。


 そうなることを予測していた俺は、出入り口には近づかなかった。


 あんな、すし詰め状態の所に居たら、妖怪に襲われちまう。


 しかし、予想外の事態が起きる。


 なんと受刑者の一人が、ロックされた扉を強引にこじ開けてしまったのだ。


「……身体強化か?」


 金属の格子や扉が、ねじ曲がっている。


 どう見ても霊気を大量に使ったとしか思えない。


 まさか、霊気が使えるのか? ――もしかして自分も……。


 そう思って集中してみると、抵抗なく霊気が使えることが分かった。


「……まさか、全員霊気が使える状態になっているのか?」


 それを裏付けるように、他の受刑者たちの暴れっぷりが凶悪なものに変わっている。


 これは、結界の機能が低下していると見るべきか。


 誰が話したわけでもないが、時間が経過するにつれ、霊気が使えることを全員が認識していく。


 そしてとうとう、乱闘している連中が霊装を取り出し霊術を使い始めた。


 一人が使えば、抵抗しようと他の受刑者も使い出す。


 ほんの数秒で状況が一変してしまう。


 ……最悪だ。


 中には、施設を破壊して脱獄しようとする輩まで現れ始めた。


 ……ここにいたら巻き込まれる。早く逃げないと。


 そう思うが、出入り口に向かうためには、霊術が飛び交う乱闘エリアを抜ける必要がある。


「……無理だ」


 俺は早々に逃げ出すことを諦めた。


 机でバリケードでも作って引きこもるしかない。


 そんなことを考えていると、とある人物と目が合う。


 井和倉慶二だ。


 あいつは自分の派閥の面々が喧嘩している横を抜け、一人出入口から出ていってしまった。


 てっきり先頭に立って暴れまわっているものだと思っていたが、逃げることを優先するとは驚きだ。


 井和倉が抜けたせいか、喧嘩は炎泉派が優勢となっていった。


 炎泉派が井和倉派の連中を次々と拘束しながら、ついでに妖怪も倒していく。


 そんな中で、異彩を放つ存在が一人いた。




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