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 そういった次の瞬間、レイカ様の顔が険しくなる。




「周囲を警戒していた班が突破されたようです。……おかしいですわ。弓子さんが帰ったとはいえ、あの班が対応できないなんて」


「気を付けろ、そっちに行ったぞ!」


「え」


 誰かの警告の声が聞こえ、そちらに視線を向けると、警備員のグループが強盗犯たちに体当たりを仕掛けるところだった。


 護衛対象が逃げられるように、身を挺して時間稼ぎをしているのだ。


 だが、その後の展開は予想外のものとなった。


 なんと強盗犯たちは、警備員の体当たりを片手で払いのけてしまったのだ。


 そしてそのまま、猛然とこちらへ逃げてくる。


「もしや……、霊気?」


 と、強盗犯を凝視するレイカ様。その後の対応は早かった。


「とにかく移動しましょう。この場は危険です」


 しかし、強盗犯たちはわき目も振らず、こちらへ接近してくる。


 その目は血走り、私とレイカ様に向けられているように感じた。


 そこで気づく。きっと、子供の人質を取ろうとしているに違いない。


 私たちの間に障害物はなく、直線で迫ってくる。


 その速度は異様で、ずっと逃げ続けてきた人間が出せるとは思えないものだった。


 だめだ、今から逃げても間に合わない。


 私の足では必ず追いつかれてしまう。


 そう判断したのはレイカ様も一緒だった。


「わたくしが相手をしますので、暮舞さんは他の警備員と合流してください」


「で、でも……レイカ様を一人にするわけには!」


 強盗は三人。押さえ込もうとしていた警備員は跳ね飛ばされて、行動不能。


 応援が駆け付けるまで、レイカ様だけで相手をすることになってしまう。


「その優しさ、尊敬に値します。そんな暮舞さんに対して申し訳ないのですが、貴方がいては守りながら動くことになるので、あらゆるリスクが跳ね上がります。早く移動を!」


「は、はい」


 レイカ様の鬼気迫る言葉に、私は頷くことしかできなかった。


 邪魔になってしまうと言われては、退くしかない。


 私は少しでも離れようと、振り返らずに全力で走った。


 すると正面から警備員の方が駆け付け、素早く保護してくれた。


「ありがとうございます。早くレイカ様も!」


「護衛対象は君だ。彼女の援護ももちろん行うが、まずは君の安全が優先される」


「そ、そんな」


 周囲を見れば、誰もいない。強盗犯たちとレイカ様のみ。他の人は全員避難に成功していた。


 弾き飛ばされた警備員の人たちも、気が付けばいない。


 レイカ様と強盗犯を中心にして、広い空間が確保されている状態になっていた。


「誰か……、早く」


 体感では何分も経過したかのような錯覚を覚える中、誰も応援に来ない。


 まるで、故意に作られたかのような、異質な空間が形成されていた。



 ◆銀行強盗犯



 俺たちの眼前には女子が一人で立ちはだかっていた。


「逃げた方向が悪かったですね。ここには警備員が大量にいます。見ての通り、貴方たちは完全に包囲されています。抵抗を諦め、投降することをお勧めいたしますわ」


 女子は全く緊張した様子もなく、俺たちに投降を勧めてくる。


 こちらは三人。向こうは子供一人。どちらが有利なのか明白だ。


 どこからそんな自信が湧いてくるのか。


 だが、逃げないのは助かる。


 こちらとしては、ありがたい話だった。


「側に誰もいなければ、そうしたかもな。だが、お前がいる。子供を人質にとれば、包囲も突破可能だ」


「そういうことだから大人しくしろ。しばらく同行させるつもりだから、傷を負わせたくない」


「お前もさっさと逃げるべきだったな」


 と、俺、沼染、所川が女子に対して順に降伏勧告を行う。


 こちらとしても、子供を痛めつける趣味はない。


 そう思っての発言だったが、女子の反応は薄い。


「投降の意思なしと判断し、拘束します」


 そう言った瞬間、女子の姿が消えた。


 次に視界に捉えた時は、沼染の眼前だった。一気に距離を詰めてきたのだ。


 女子は素早く身をかがめた。


 そのまま沼染の足をすくい取るように右手を払いつつ、左手で首の側面を押す。


 すると沼染は、まるで風車のように回転。頭から落下し、地面へ叩きつけられた。


「はいっ」


 短い掛け声を出した女子は、沼染の足首を掴んで放り投げてしまう。


 子供が大人の足首を掴んで投げる。普通ではありえないことだ。


 だが、そんな事が目の前で起きた。


 沼染は三メートルほどの高度を維持したまま、警備員たちが包囲している地点まで飛んでいってしまった。


「オーライ、オーライ」


 まるで緩い外野フライでもキャッチするかのように、警備員が沼染を拘束。


 ここまで数秒の出来事だった。


「舐めた真似を!」


 余りの光景に呆気に取られて見ていた所川が、我に返って女子に殴り掛かる。


 が、それもひらりとかわされてしまう。


 女子は、拳を繰り出したことで伸びきった所川の腕を掴み、背負い投げをした。


 所川は派手な音を立て、地面に叩きつけられてしまう。


 相当勢いが強かったのか、地面に接触した後、所川の身体が軽くバウンドした。


 その瞬間を待っていたかのように、女子が所川の横っ腹を蹴った。


 すると、キーパーのパントキックのような軌道で、所川の体が宙を舞う。


 落下地点には先ほどと同じように警備員たちが待ち構えており、華麗なキャッチを決める。


 一体どうなっている!?


 こんなはずでは……。


 人質を取るはずだったのになぜ……。


 俺たちは霊術師。


 身体強化を行っているので、あんな簡単に吹き飛ばされるはずがないのだ。


 ここまで警官を寄せ付けずに逃げ切ってこれたのも、霊力あってこそだった。


 ――と、ここで気づく。


 そうか、あの女子も霊術師なのか!


 俺たちと同じように身体強化を使っているというのなら、納得できる。


 まさかこんな場所で、霊術師と遭遇するとは……。


 こんな所に霊術師なんかがいるはずがないという固定観念が、気づくのを遅らせてしまったようだ。


 俺も運が悪い。


 こうなったら、負傷させてから人質にするしかない。


 傷の具合によっては、途中で死ぬかもしれないが、それまでは有効活用させてもらう。


 見た感じ、身体強化では互角。


 霊術は発動までに時間がかかる。


 そうなると、こいつを使うべきだろう。


 そう判断し、隠し持っていた銃を抜く。


 俺は女子に照準を定め、躊躇なく連続発砲した。


「なっ!?」


 しかし、女子は予測していたかのように、全ての銃弾をかわしてみせた。


 俺は予想外の事に驚きながらも相手の動きを目で追い、再度照準を定めようとする。


 しかし――


(き、消えただと!?)


 俺が捉えていたと思ったのは、実像ではなく残像だった。


 そう気づいた時には、女子の姿を完全に見失ってしまう。


「ど、どこだ!」


 慌てて視線と銃を左右に往復させ、女子を探す。


「ここです」


 そう背後から声が聞こえた瞬間、後頭部に鋭い痛みが走り、意識が途絶えた。



 ◆暮舞不破子



 私は、ぽかんと口を開けたまま固まっていた。


 ……あっという間の出来事だった。


 なんとレイカ様が三人の強盗を一人で制圧してしまったのだ。


 しかも、その内の二人に対しては体術を用いて、遠くに投げ飛ばしてしまうという意味不明な展開。


 見た感じ、強盗の体型は普通。予想される体重は七〇キロほど。


 なぜレイカ様がそんな人間を軽々と放り投げられるのか……。


 さらに驚いたのは、最後の一人への対処だった。


 なんと最後の一人は発砲してきたのだ。


 流れ弾に当たらないよう、警備員に庇われたので視界が狭くなったが、それでも一部始終が見えた。


 レイカ様があまりに素早く動くため、残像が発生し何人もの人が居るように見えた。


 強盗犯も混乱し銃を振り回していた。


 その一瞬の間に背後に回り、気絶させてしまったのだ。


 そんな風に、当時の光景を思い出した余韻で呆然としている間に、事後処理が進んでいく。


 全ての強盗犯が警備員によって拘束され、警察への引き渡しが行われていると、警備責任者の九白弓子さんが現れた。


 何やら、レイカ様と話されている様子。


 レイカ様の状態が気になった私は、側へ駆け寄った。


 すると、移動の途中から二人の会話が聞こえてくる。


「わざとあの状況を作りましたね」


「狙撃班を配備していたから、間違いが起きる要素は一切なかった。もしかして、自信がなかったのか?」


「いえ、全く。むしろ、銃弾をかわすことも出来ましたし、自分に課した目標はクリアできましたわ」


「あれは、中々良い動きだった」


「恐れ入ります。それで、試験の結果はどうでしょうか」


「今回の最大のポイントは銃だな。発砲させずに銃を奪う場合は、あらぬ方向に暴発してしまう危険がある。今回のような状況では、発砲の方向を誘導しつつの接近がベストだ。それがちゃんと出来ていた。まだまだな部分もあるが、合格点だ」


「ありがとうございます! ふふ、これで良い報告できますわ」


「依頼はまだ終わっていない。気を抜くなよ」


「心得ていますわ」


 と、嬉しそうにするレイカ様。


 仕事の話が一区切りついたようだったので、私は思い切って声をかけてみた。


「レイカ様、お怪我はありませんか」


「ええ、問題ありませんわ。しかし、護衛対象に心配されていては、わたくしもまだまだですわね」


 顎に片手を添えたレイカ様が、溜息を吐きながら首を振る。


 う、そんなつもりではなかったのに。


 というか、心配してハラハラするような場面は一度もなかった。


 華麗な動きであっという間に片づけてしまったので、目の前の出来事を咀嚼するのに、自分の方が時間を要した位だ。


「いえ、そんなことは。とても勇ましく、格好良かったです。それと、試験合格もおめでとうございます」


 勘違いさせてしまったようなので、慌てて言い繕う。


「あら、聞こえていましたか。ありがとうございます」


「とても、嬉しそうですね」


 先ほどから、笑顔が絶えない。


 一緒にいるこちらまで、にこやかな気分になってしまうほどである。


 きっと、訓練の集大成として今回の研修があるという、以前伺った話と繋がるのだろう。


 結果は合格らしいし、本当に良かった。


「ふふ、分かりますか。これで課題はクリア。いつ脱獄犯に発砲されても平気ですわ」


「ダツゴクハン?」


 一体、何の話なんだろう。


 ダツゴクハンというのは、脱獄犯のことだろうか。


 そのような者に発砲されるとは、ただ事ではない。


「お気になさらず。ちょっとした、物の例えですわ」


 そう言ってウィンクされる。


 例えだったとしても、物騒なことに変わりはない。


 私は浮き浮き顔のレイカ様を前に、一人困惑していた。


 一体、レイカ様はどこを目指されているのだろうか……。




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