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「よし、断ろう」


 私は即断した。




 あそこと事を構えると、うちへの被害が洒落にならないことになる。


 報酬より、依頼後に減った人材の補充が問題になってくる。


 そもそも、私自身が生き残れるか疑問だ。


 とてもじゃないが、やっていいことなど何もない。


 いや、そんなことより、今すぐにやらなければならないことが……。


「一刻も早く、依頼が来た痕跡を消せ。九白家に今回の事をどこからか嗅ぎつけられた場合、焼け野原にされてしまう」


「かしこまりました」


 私の早口に、秘書が慌てた様子で準備を始める。


 ふぅ……、これで一安心だ。


 やはり依頼内容は事前に確認しておくに限るな。


 どこから流れ弾が飛んでくるか、分かったものではない。


 ――そして翌日。


「あの……」


 秘書が、恐る恐ると言った体で声をかけてきた。


「まさか、九白家にバレたのか?」


 いくらなんでも早すぎる。


 いや、あそこならありえるか……。どうする、逃げるか?


 などと思索を巡らせていると、秘書が首を振った。


「ち、違います。痕跡は消去できました。そうではなくて、それに関連した依頼が来ているのです」


「どんな内容だ」


 秘書の返答は、想定外のものだった。


 どういった依頼か、全く想像ができない。


「その……、うちと同じように依頼内容を確認してしまった同業者からです。依頼は即断ったが、そのことを九白家に知られたくない。だから、その痕跡を消す手伝いをして欲しいといったものでして……」


「よし、受けよう」


 私には珍しく、即決だった。


「いいのですか? 間接的に九白家に関わることになりますよ」


 と、戸惑った様子で秘書が聞いてくる。


 まあ、普通に考えたら、そういう反応になるのも無理はないか。


「だって、可哀そうじゃないか。こんなの貰い事故に等しいぞ」


 引き受けた理由は、シンプルに同情だ。


 普段なら、競合である同業者に手を差し伸べることなどしない。


 が、自分が被害者になった上に、依頼が来たタイミングがぴったり過ぎた。


 そのせいで、つい反応してしまったのだ。


 と、ここで思いついたことを、秘書に付け加えておく。


「この感じだと、あの依頼者は誰彼構わずに依頼をしているのかもしれん。大半の業者は自力で何とかするだろうが、もし、うちに痕跡消去の依頼が来たら受けてやれ。一社だけ特別扱いすると、仲が良いと勘違いされるかもしれんからな」


「承知いたしました」


 秘書が了承し、作業へ戻る。


 それを見送った私は、背もたれに体を預けて一息ついた。


 これで、なんとか危うい状況は脱した。


 頼ってきた同業者も無傷でやり過ごせるだろう。


 しかし、今回の一件は自然災害に等しい。


 いや、無差別通り魔か?


 予測は不可能だし、下手をすれば回避も不可能。


 この業界も長いが、こんな目に遭うのは珍しい。


 今回、無事に済んだのは付け足した独自条件のお陰に他ならない。


 やはり自分の判断は間違っていなかった。


 私はそう確信し、次の依頼に目を通し始めた。


 内容は、武装したカルト集団代表者の暗殺依頼だ。


 殺害方法は問わず。


 専用の収容所に囚われているターゲットを殺せとのことだった。


 報酬額は非常に高い。


 いつもの自分であれば、悩んだ末に受けたかもしれない。


 だが今は、とてもそんな気分になれなかった。


 九白家の一件で、精神的な疲労感を覚えていたためだ。


「この依頼もキャンセルしておいてくれ」


 と、秘書に依頼書を渡す。


 しばらくは報酬額が低くても楽な依頼のみを受けよう。


 私は、そう決心した。



 ◆鶴見史郎



 鶴見は困惑していた。


 事の起こりはこうだ――。


 新興の殺し屋に依頼したら逃げられたので、一流のプロに依頼した。


 特別方式で、先に依頼内容を告げなければならなかったが、仕方がない。


 脱獄計画前には処理しておきたいので、時間がないのだ。


 仕方なくターゲットを伝えたら、秒で断られた。一体、何なんだ……。


 こちらが何をしたというのだ。と、愚痴を言っても、何かが解決するわけでもない。


 仕方がないので、同ランクの別業者に依頼した。


 すると、またもや断られた。一体どういうことなんだ。


 だが、諦めるわけにはいかない。何としても、やり遂げねば。


 気を取り直して、別業者を探して依頼した。そしてまた断られた。


 ――まさかの三度目だ。逃げられたのを含めると、四度目になる。


 こうなったら自棄だ。


 時間に追い詰められた鶴見は、同ランク帯の業者に連絡を取りまくった。


 そして、断られまくった。――全滅だ。


 ――というのが、これまでの経緯となる。


 鶴見としては、普通の依頼をしたに過ぎない。


 それなのに、一体なぜ……。


 依頼の際、複数の業者から忠告された。やめておけ、と。


 それを聞いて呆れてしまった。


 まさか、たかが孤児一人相手に怖気づくとは。


 どいつもこいつも腰抜けばかりだ。


 一流なのは肩書きだけのようだ。


 揃いも揃って無能ばかりとは。


 ……しかし困った。


 これでは、どうしようもない。


 自分の手を汚すことも考えたが、あまり良い手には思えない。


 自分は素人。相手は五属性霊術師。返り討ちに遭う可能性が高い。


 運よく相手をやれたとしても、証拠を残すのは必至。


 当主の側近が次期当主候補をやったとなれば、個人の犯行ではなく組織的なものを疑われてしまう。


 捜査の手が一族全体に及ぶかもしれない。


 そもそも、捕まった自分もただでは済まない。


 ……誰か、喜んで手を汚してくれる都合の良い存在はいないものか……。


 などと考えるも、もう時間切れだった。


 何度も依頼をしている間に日数が経過してしまったのだ。


 気が付けば、決行日が近い。今から新しい業者を探すのは難しい。


 完全に八方ふさがりだ。何か手を考えないと。


 鶴見は必死に考えた。


 ……そして絞り出す。


 妖怪退治を依頼した元十家の井和倉慶二に頼むのはどうだろうか、と。


 どうせ国外逃亡が決まっているのだし、人の一人や二人、殺しても問題ない。


 こうなったら、当主に依頼失敗を報告し、井和倉に妖怪退治以外もやらせるしかない。


 鶴見はそう思い立ち、当主を説得する提案説明の内容を考え始めた。


 ――その後、鶴見は当主に暗殺失敗を報告。


 代案として井和倉に依頼することを提案した。


 結果、強い叱責を受けることとなったが、提案が通り、井和倉に殺害を依頼する運びとなった。




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