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 ◆鶴見史郎



 玄宮家当主、玄宮勝邦の最側近である鶴見史郎は、計画の進捗を確認していた。


 当主から命じられた脱獄と妖怪討伐の準備が、おおよそ整った。


 逃走経路の確保、北海道での潜伏場所、海外への移動方法、海外での潜伏場所、玄宮系の刑務官への伝達、全て完了した。


 後は決行前日に妖怪を持ち込めば終わりだ。


 決行日までには、まだ時間がある。


 その間に、もう一つの指示も済ませてしまうこととしよう。


 指示内容は、当主と霊獣が滞りなく契約できるように状況を整えておけ、というもの。


 言葉は濁したが、要は兎与田七海を消せということだ。


 あの女は玄宮の血を引いている可能性がある。


 しかも、当主は四属性なのに対し、兎与田七海は五属性。


 今の状態で霊獣が二人の前に現れた場合、どちらと契約するか分からない。


 だが、兎与田七海がいなければ関係ない。


 この世に存在しなければ、当主が自動的に選ばれる。


 つまりは、そういうことだ。


 当主が滞りなく契約できる状況を整えるということは、兎与田七海がこの世に存在しない状態を構築せよ、ということである。


 ただ、それを遂行するにあたって問題があった。


 自分は人を殺した経験もなく、専門外なのだ。


 到底うまくやれるとは思えない。


 ここは専門の業者を雇うべきだろう。


 今まで利用したことがなかったので、業者探しは難航した。


 が、なんとか依頼できた。


 仕事を引き受けてくれたところは、新興の業者。有名どころではない。


 その代わり、依頼料は安かった。


 この際、仕事が粗っぽくても文句は言わない。兎与田七海が死ねば、それでいい。


 脱獄決行日までに終われば問題ない。


 後は業者の働きに期待し、吉報を待つとしよう。



 ◆とある新興の殺し屋



 俺が本格的にこの仕事を始めて、半年。


 まだまだ固定客が少なく、安定しない。


 競合が少ないだろうと踏んで参入したが、そう甘くはなかった。


 世の中、どこも不景気。それは殺し屋業界も同様。なかなか世知辛い話だ。


 そんな中、新規客からの問い合わせが来た。


 しかも身元がしっかりした上客。


 これはいいところを見せ、お得意様になってもらわないと。


 依頼は即承諾。開業間もない俺が仕事を選べるはずもない。


 確認すると、ターゲットは子供。


 こちとら零細であってもプロはプロ。相手が子供だろうが容赦しない。


 むしろ美味しい。体力差があるので、ドジってもリカバリーできる。


 それに、報酬はターゲットが大人の場合と同額。非常にうま味のある仕事だった。


 きっと依頼者側も、簡単な仕事と分かっているから、料金が安い新興のうちに依頼したのだろう。


 わざわざ依頼料の高い老舗にやってもらうのは、金がもったいないと判断したわけだ。


 早速、取り寄せた資料に目を通す。


 身元は不確か。孤児……と。


 これは楽勝すぎる。


 養父、ターゲットともに霊術師なのはネックだが、その程度。


 これなら失敗はありえない。


 依頼主は、金づるになりそうな現代のお貴族。


 お得意様になってもらうためにも、手は抜けない。


 こちらも張り切って良い仕事をしないといけないな。


 俺は万全を期すために実行を遅らせ、さらに情報を集めることにした。


 ターゲットを尾行し、資料からは分からない個人の性格や癖を探し出そうとする。


 そういったことを把握しておけば、咄嗟の動きにも読みが通る。


 こういった綿密な準備と丁寧な後処理で、好印象を残さねば。


 尾行を継続し、最新の交友関係も洗っていく。


 やはり、実際に話しているところを見ないと、どの程度親密か判断できない。


 周囲に暗殺に勘づきそうな奴がいれば、決行当日に引き離す必要性がある。


 そう考えながら様子を窺っていると、丁度誰かと話す様だった。


 ん、十家一位鷹羽家の息子と知り合い? いや、知り合いってレベルじゃないな。親密すぎるだろ。


 鷹羽家の息子との会話を終えると、また別の誰かと話し始める。


 今度は誰だ。


 んん、雲上院家の一人娘と知り合い? いや、これも知り合いって感じじゃない。どちらかというと、親友って感じだな。


 ん~……、聞いてない……。


 聞いていないぞ!!!


 どっちも、新参の俺でも知っているヤバい家だ。目を付けられると終わる。


 混乱して焦ったため、気配が乱れる。そのせいで、雲上院の護衛から視線を感じた。


 いかん、気づかれたかもしれん。


 動揺して近づきすぎたか……。


 焦った俺は、慌てて気配を殺して離脱した。


 逃げ帰るようにして自室に戻り、ソファに沈み込む。すると、深い溜息が自然と漏れ出た。


 参ったな。仕事を了承し、ターゲットの情報を貰ってしまった。


 今更、断ることなんてできない。


 ――だが。


 上手くやれたら、鷹羽と雲上院に目を付けられる。


 上手くやれなかったら、鷹羽と雲上院の護衛に俺がやられる。


 ん~……、詰んどるがな……。


 これは実行したら駄目なやつだ。バックレるしかない。


 よし、海外に逃げよう。そうしよう。


 ふぅ……、あっけない廃業だったな。



 ◆鶴見史郎



 鶴見は困惑していた。


 雇った殺し屋が逃げたのだ。


 返事が来ないから返り討ちにあったのかと思ったら、音信不通なだけだった。


 調べてみると、失踪していることが分かった。普通はありえない。


 仕事を受けた後に逃げるのは、信頼関係が崩れる悪手。


 まさか、こんなことになるとは……。


 やはり、三流業者は駄目だ。


 依頼料をケチったのがまずかった。


 ただ、初回サービスとやらで、前金を払っていなかったのが幸運だった。


 こうなったら、もう一度殺し屋を探すしかない。


 今度は金を惜しまず、一流のプロを探して依頼しよう。



 ◆とある一流の殺し屋



 自画自賛のようで嫌だが、私は一流の殺し屋。


 客観的な実績が、それを証明している。


 顧客満足度も高いので、そう言い切って問題ないと自負している。


 そんな私に、ご新規さんから仕事の依頼が来た。


 依頼者は、珍しく貴族さんだった。


 といっても本当の貴族ではない。霊術師を揶揄する隠語だ。


 秘書に依頼者の素性を確認させる。


 報告を聞くと、特に問題はなかった。面倒ごとを起こしたような噂も聞かない。


 これなら依頼を受けても問題なさそうだ。


 相手側にこちらの特殊な条件を話し、納得してもらった場合は引き受けよう。


 うちがこの仕事を長年続けてこられたのは、途中で導入したとある条件のお陰だ。


 その特殊な条件というのは、事前に依頼内容を確認してから、仕事を受けるかどうか判断するという至極単純なものだ。


 だが、普通はありえない。


 相手に弱みを晒せと言っているようなものなので、条件を聞いて断る依頼者も多い。


 それでも、今のやり方を変えるつもりはない。


 なぜそうなったかといえば、名が知れ渡って有名になったが故の問題が起きたためだ。


 何が起きたかというと、注文内容に複雑で面倒なものが増えてきたのだ。


 国政の中心人物を殺れとか。軍のトップを殺れとか。


 空の上の飛行機内で殺れとか。海の上の旅客船内で殺れとか。


 砂漠に置き去りにして殺れとか。火山の火口に落として殺れとか。


 お前は依頼者の皮をかぶった悪質クレーマーなのか、と疑うような無茶苦茶言って来る輩が後を絶たなかったのだ。


 だが、私も自分を一流と自負している。


 前述の依頼が出来ないのかと聞かれれば、出来ると答えられる。


 しかし、出来はするが面倒なのだ!


 仕込みを考えると赤字になるかもしれないし、リスクとリターンが合っていない。


 手間と時間がかかり過ぎる。平たく言って、うま味が少なすぎるのである。


 更に付け加えると、そういった依頼を受けて成功させてしまうと、それが原因で新たに面倒な依頼を呼び込むことになる。


 負の連鎖が始まってしまうのだ。


 私は別に高難易度の依頼ほど燃えるとか、快感を覚えるといった性質ではない。


 できれば負荷は最低限に抑えて、プライベートを楽しみたい方だ。


 だから、面倒な依頼は出来れば断りたい。


 しかし、ややこしいことを言ってくる奴に限って、金は持っていたりする。


 そのため、依頼料を釣り上げて、相手から断らせるという手法がとれない。


 というわけで、事前に詳しい依頼内容を聞いてから、仕事を受けるか判断するようになった。


 それでもいいという依頼者だけ受け入れる様にしている。


 そのことを今回の依頼者に確認すると、それで問題ないと言う。


 というわけで、ターゲットの資料を確認。


 一見、普通の子供に見える。


 早速、秘書に素性を洗ってもらう。


「どんな感じだ?」


 すると秘書が真っ青な顔で首を振った。


「ターゲットの兎与田七海ですが、九白家と知り合いです。子供同士が友人です」


「よし、断ろう」


 私は即断した。




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