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 ◆矢間田妙ヤマダ タエ



 私は矢間田妙。


 天才霊術師で天才薬師だ。


 そんな私が、急に押しかけてきた連中に拘束され、地方の工場に閉じ込められてから早数か月。


 待遇は悪くはない。が、ここに連れてこられた過程は、拉致に近かった。


 住居は、工場の隣にある寮だ。


 寮の最上階のワンフロア全てが、私の住まいとなっている。


 どの部屋も豪華だが、特にリビングが特別だった。


 部屋の壁面がガラス張りとなっており、高所から周囲が見渡せるようになっているのだ。


 仕様としては、高層ホテルのラウンジに近い。


 しかし、窓から見える景色は山だけ。山の先には山が見え、その先にも山が見える。


 寮の周囲には何もなかった。


 工場とは、物を大量生産する場所だ。


 そのため、色々な機材を設置する必要があり、広さが必要になる。


 それに加え、地価や騒音問題なども考慮する必要がある。


 更には、作っている物が特殊なため、侵入者対策も強化しなくてはならない。


 というもろもろの事情を加味した結果、田舎の人里離れた山奥に建てられたのだ。


 町まで遠く、簡単には出歩けない環境のため、限界集落で暮らしているも同様の状態だった。


 だが、生活自体は快適だ。


 敷地内に大体なんでもある。


 小型のスーパー、コンビニ、食堂、ジム、スパ。


 従業員数を考えると、絶対赤字になるラインナップだ。


 ここで買えない物もネット通販を利用すれば解決できる。


 現在の待遇を考えると、生活環境としては最上の部類に入るだろう。


 それでも、ずっと同じ場所にいるとストレスがたまる。


 もともとアクティブな性格ではなく、家でゴロゴロしているタイプだったが、それでも辛いのだ。


 理由は分かっている。


 自ら望んで閉じこもっているのではなく、閉じ込められたからだ。


 しかし、逃げ出すと、鮫歯の化け物に追いかけまわされる展開が待っている。


 だから大人しくしているしかないのだ。


 そんなストレスまみれの精神をギリギリで繋ぎとめていたのは金だ。


 ここに居ると爆速で金が貯まっていく。


 なんやかんやで、それなりの月日が経過したためだ。


 寮が出来て、工場が完成し、試験運用が終了。


 生産が安定化し、順調に在庫が増えている。


 が、一切市場に出していない。


 物を売っていないのだ。


 にもかかわらず、給料だけは容赦なく振り込まれてくる。


 そして、ここにいると最低限の消費しかしないので、金が減りにくい。


 しかも、給料以外にも霊薬絡みでよく分からない金がドンドコ振り込まれてくる。


 ついでに言うと、少し前に解毒薬を作った際に貰った報酬もゼロの数が洒落になっていなかった。


 結果、通帳の額がエグイことになってきた。


 これは宝の持ち腐れ。


 しょうがないので、投資することにした。


 まずは、みんなやってるワンルーム投資。これで感じを掴む。


 数戸で慣れてきたので、リゾートマンション、田舎の中古アパートへ移行。


 こういう変わり種もあるがどうかと、安い山を勧められたので片っ端から買っていく。


 いやあ、山一つが数十万とか破格すぎる。


 締めに、クラウドファンディング型不動産で三年後に完成予定の海外のタワーマンションを購入。


 特に収支はチェックしていないが順調そのものだ。


 この辺りから、セミナーや勉強会に誘われることが多くなった。


 なんでも、投資に成功している選ばれた者だけが特別に招待されるらしい。


 すると、そこから派生して、飲食店の誘いが来た。


 こういうのはタイミングが命!


 行けると思った時が勝てる時なのだ。


 私はひたすら金をかき集めた。


 幸い、今は寮住まい。スーツケース分の私物と仕事道具を残して後は全て現金化。


 私が作ったレアな薬と、確保していた素材が思った以上に高値で処分できたのは嬉しい誤算だった。


 逆に愛車は廃材扱いを受け、安く買いたたかれそうになったので、オークションを利用した。


 妖怪をひき殺すことに特化した激重君を手放すのは心苦しかったが、やむを得ない。


 さらば、激重君。


 警察から厳重注意を受けた前任のトゲトゲ君とギザギザちゃんも、天から見守ってくれていることだろう。


 とどめに、第一オーナーに賃金の上昇と特別手当を交渉し、合意を得る。


 これで実弾は確保した。


 準備を整えた後は、キッチンカー、海が見えるおしゃれなカフェ、コーヒー豆専門店、からあげ弁当屋、タピオカミルクティ店、マリトッツォ店、アサイーボール店、カレーパン屋、冷凍餃子の無人販売店と一気に行く。もちろん全部フランチャイズだ。

 

 そして最後に、コインランドリーを二店舗同時開業で全突っ張。


 ――我ながら手堅い。


 クックック、これぞ万全の布陣。


 蛇口から水が流れ出るように、お金が自動的に増える仕組みの構築に成功した。


 これで工場が終わっても、安泰だ。


 仕事もせず、遊んで暮らせる。


 お金がジャブジャブ湧き出てくるのだから、成金の見本、欲望の化身、軽薄な浪費と、ののしられるような無駄遣いがしたい。


 どれだけ使っても生活に支障がないことを周囲にアピールし、マウントを取りたい。


 成績で負けた同級生や、結婚出産報告をしてきた知り合いに、年収マウントを取りたい。


 なんて小さな人間なんだ、と蔑んでくる奴の頬を札束ではたきたいのだ!


「おい、入るぞ」


 などと妄想にふけっていると、第二オーナーの九白弓子がノックもせずに部屋に入ってきた。


 当然、ロックも勝手に解除して入ってきた。


 そして、こちらが何か言う前に要件を切り出してくる。


「ちょっと生産数が少ないから、増やせ」


 という簡潔な物言い。


 挨拶もなく、唐突に増産指示という名の圧力がきた。


 だが、さすがにこれ以上のペースアップは無理だ。


 今でもギリギリ。これ以上無茶をすれば、品質に問題が出る。


 そもそも作った物を一つも使用していないのに、なんで増やす必要があるんだ。


 と、いうことを説明したいが、目が怖い。


 あれは「やれ」と言っている目。


 しかし品質が劣化したら、殺されるのはこっちだ。


 ちゃんと事情を説明するしかない。


 もしかしたら、妥協してくれるかもしれない。


 私は飢えた獅子に接近するように、細心の注意を払いつつ、恐る恐る口を開いた。


「こ、これ以上生産数を増やすと、品質が劣化します。霊薬作りは繊細な作業です。特に、一属性を発現させないようにする工程が大変で、時間が必要になるんです。安定した品質で供給するためにも、今の生産数で納得していただけないでしょうか」


 よし、言えた。上手く言えたぞ、私。偉いぞ、私。


 と、心の中で自分を褒めちぎる。


 この位褒めておかないと、この後詰められた時に立ち直れなくなるからね。しょうがないね。


 などと考えながら、恐る恐るオーナーである弓子の様子を窺う。


 すると、明らかに雰囲気がおかしいことに気づく。


 違和感を覚えた次の瞬間、襟首を掴まれて持ち上げられていた。


 目がギンギンだ。怖い。


 そんなにクワッと見開かなくてもいいじゃない。


 ひぃぃ、鬼詰めされるぅぅ。


「おい。今、一属性を発現させないようする工程といったな」


「は、はい! 実際にはその処理を行っても、非常に低確率ですが一属性が発現してしまうことはあります。ですが、そこまで確率を下げる作業とお考え下さい!」


 く、そこを突かれたか。


 限界まで下げることはできても、ゼロにはできないのだ。


 何度も試行錯誤したが、それだけは叶わなかったのである。


 まさか、研究して一属性の発現確率をゼロにしろ、とか言うんじゃないだろうな。


 それは生産数を上げろという指示以上の無理難題だからな。


 やめてくれよ。本当にやめてくれ……。


「その工程を省けば一属性を発現する確率を上げられる、ということか?」


「それは、まあ」


 なに当たり前のことを聞いてきてるんだ、この人は。


 低確率にする工程って説明しただろうが。やらなきゃ、確率上がるのは当然だろ。


「それはいい。これからその工程は無くせ。いいな」


「そ、そんなことをしたら、一属性が発現しやすくなってしまいますよ!」


「具体的にどのくらいだ」


 オーナーは興奮しているのか、私の襟首を掴む力が強まる。


 ああ、宙に浮いてるんですけど。


 早く……っ。呼吸が止まる前に説明しないと。




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