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 ――あ、そういえば相談しておきたいことがあったのだった。




 今は密談できる状況を作ってくれているみたいだし、ついでに話しておこう。


「実はミカちゃんに、相談しておきたいことがあったんだよ。今、ついでに言っちゃうね」


「もしかして余罪が! 他にも何かやらかしておったのか!?」


「もう……。さっきも言ったけど、私の事なんだと思ってるわけ?」


「レイちゃんのことになると、見境が無くなるバーサーカーかの」


 と、ミカちゃんが即答。その顔は、混じりけ無しの超フラット。


 質問する意味がないことを聞かれたかの如く、反射での返答だった。


「う、この状況では強く否定できないのが辛い……。って、そうじゃなくて、ナナちゃんの事なんだよね」


「ほう、どんな話じゃ?」


 と、ミカちゃんが傾聴姿勢に入ったので、結界があった場所で起きたことを、かいつまんで説明した。


 ここで会うまで詳しい事情を知らなかったミカちゃんは、その話を聞いて大層驚いていた。



「なんと! ナナちゃんが玄宮当主の血を引いていたとは……。だから、五属性だったのじゃな。フフ、何となく相性が良いと思っていた、わらわの勘も満更でもないのう。して、霊獣との契約は?」


「ん? 今、玄宮家の当主をやってる人がいるんでしょ? その人が契約してるんじゃないの?」


 と、私は尋ねた。


 元々、ナナちゃんの祖父に当たる人が当主だった。


 その後、ナナちゃんの父親と母親が順に当主を継いだと日記にはあった。


 けど、残された日記や結界の状況から見て、彼らが生存している可能性は極めて低い。


 そもそも、北海道へ向かった人たちは秘密裏に行動した上、全滅している。


 つまり、北海道へ行かず、東京に残った玄宮の人が当主になって、霊獣と契約しているのではないかと思ったのだ。


「四柱の当主として活動している者はおるな。だが、霊獣とは契約しておらん。前当主であるナナちゃんのお祖父さんに当たる人が行方不明になってから、霊獣も行方が知れない状態となっておる。そのことがちょくちょく問題になっておってな……」


「あ……、そういえば、霊獣は結界になってるみたいなことが書いてあったわ」


 と、ミカちゃんとの会話中に思い出す。


 確か、当主と霊獣の魂の力で結界を作り出したとかなんとか……。


 そんな記述があった気がする。あの後、色々ありすぎたせいで、すっかり忘れていた。


「なるほどな。それでは霊獣と契約できんわけじゃ。そうなると、結界が消えない限り、誰も霊獣と契約できん、ということかのぅ」


「う~ん、当事者がいないから、はっきりとは分からないね」


 残念だが、あの結界に詳しいと思われる人物で北海道へ向かったメンバーは全員死亡寄りの行方不明。


 その辺りの事は、東京にいる玄宮家の人に聞けば何か分かるかもしれない。


 けど、それをすると詳しい事情を話さなければならなくなるため、別の問題が発生してしまう。


「そうなると、ナナちゃんが玄宮の血を引いていることを証明するのは難しいかもしれんな」


「住んでいた家が分かっていて日記と手紙があるし、うまくいけばDNA鑑定も出来るかもしれないよ」


「ほな、いけるか……」


「でもまあ、ナナちゃんとしては玄宮の一族ということは伏せておきたいみたい」


「ほな、いかないか……」


 その辺りの事については、日記を読ませてもらった際に少し話したのだ。


「ぽっと出のナナちゃんが前当主の血縁って発表したら、荒れるでしょ? 最悪、今の当主をやってる人と争うことになるかもしれないし」


「そうじゃの。権力争いになるじゃろうな」


「ナナちゃん的には、そんなことより結界の維持と中の妖怪に集中して欲しいって。私も同意見かな。お家騒動が起きるくらいなら、伏せておいた方がいいと思う」


「確かに。いずれ露見するかもしれんが、それまでは妖王と戦う準備を進めておいた方がいいか……」


 と、ミカちゃんも納得してくれる。


 ナナちゃんは当主の座に興味はない。


「で、問題なのは、結界の事と中に閉じ込められている妖王のことを、どう説明するかってことなんだよね。ナナちゃんが玄宮の人間ということを伏せておくためには、日記と手紙を見せられないじゃん? だけど、それ無しで説明しても信じてもらえないよね」


「無理じゃな。代わりになりそうなものは何かないのかの?」


「ないんだよねぇ」


 結界についての情報を伏せておくわけにはいかない。


 最重要討伐対象である妖王が閉じ込められているからだ。


 それに、結界はいつか壊れてしまう。


 その時、妖王の所在を不明なままにしておくと、こちらが出遅れることになってしまう。


 それだけは避けなければならない事態だ。


 しかし、ナナちゃんの出自を伏せたまま、結界と妖王のことについて納得してもらう説明ができそうになかった。


 今は私が捕まった影響で、十家に調査報告の提出をしていない状態。


 なんとか今の内に、こちらに都合のいい情報だけを選りすぐって報告したいところだ。


「目撃者の証言でも構わんぞ。結界の発生に立ち会った者がおれば、話が早いのじゃが」


「多分、全員亡くなってると思う。人を雇って偽装する?」


「う~ん……。それでは気づかれそうじゃな。生存者がいないのが辛いところだのう……。む、そうじゃ、生きていなくて構わないのじゃ」


 二人で悩んでいると、ミカちゃんが何か思いついたようだった。


 だけど、私はピンと来ない。


「どういうこと?」


「ほれ、結界で人型の妖怪を倒したと言うておったじゃろう。その妖怪が話したことにすればよい。それなら、目撃者はマオちゃんたちになるしの」


「お、いいね。それでいこっか」


 それはいいアイデアだ。


 胃根が、中の妖王を解き放とうと画策していた、ということにすればいいわけね。


 実際、結界の破壊を目論んでいた可能性は高いし、説得力がありそうだ。


 というわけで、妖王と結界の情報元は胃根ということが決まった。


 これで事情説明は何とか切り抜けられそうだ。


「うむ。レイちゃんとナナちゃんには、後で話しておく。そうすれば、報告を受けた後の会議で、結界の調査が決まるじゃろう。実際に結界を調べれば、妖王が封印されていることも分かるはずじゃ」


「それで、よろしくお願いします」


 そんな感じで会話が丁度一区切りついたところでノックが聞こえ、扉が開いた。


 係の人が「鳳宮様、そろそろ……」と、退室を促してくる。


「後は任せておくのじゃ。とにかく、マオちゃんは出所まで耐えてほしいのじゃ。あと、何で捕まったかは誰にも話してはならんぞ! 真実が広まれば、全てご破算じゃからな!」


 と、私の方を指さしながら注意するミカちゃん。


「大丈夫、うまくやるよ」


 私はニッコリ笑顔で返答。


「本当に頼んだぞ。頼んだからな!」


 ミカちゃんは私に何度も確認しながら、出ていった。


「う~ん……、これは数か月は出られないと思った方がいいのかな」


 偶然だが、転校しておいてよかった。


 前の学校は、生徒も学校関係者も霊術師と縁がある人ばかりだし、変な噂が立ってしまってもおかしくない。


 そういう意味では、ラッキーだったと言える。


 などと考えていると、また扉が開いた。


 面会が終わって部屋に戻るのかと思ったら、レイちゃんの父親である昭一郎さんが入ってきた。


 まさかの第二弾とは。


 今回は監視の人も同伴のままで面会が開始された。


「まず謝らせてほしい。こんなことになってしまってすまない」


「いえ、気にしないで下さい。自分で決めてやったことですので」


 昭一郎さんに頭を下げられ、恐縮してしまう。


 今回の一件は自分の独断専行が原因。


 もう少し時間を掛ければ、昭一郎さんがスマートに解決した可能性もある。


「分別のある大人であれば、君の行いを叱るべきなのかもしれない。だが、私は聞き分けの良い性格でも、成熟した大人でもないと自負していてね。君の決断と行動には感謝しかない。君のお陰で、レイカは死なずに済んだ。本当にありがとう。すぐにここから出られるよう、全力を尽くすので安心してほしい。かならず結果を出すので、しばらく待っていてくれ」


 昭一郎さんの言葉からは、こちらを安心させようという思いが伝わってくる。


「ありがとうございます」


 私は立ち上がって姿勢を正すと、腰を深く折って頭を下げた。


「ひとつ、報告しておくことがある。……胃根のことだ。恥ずかしい話だが、調べても何もわからなかった。あの時、胃根は偶然会ったと言っていたそうだね」


「ええ」


 本人がそう言っていたのを覚えている。


 その言葉をそのまま信じていいかは分からない。


 ただ、レイちゃんに対面した際は、非常に驚いている様子だった。


「それならば、君たちがターゲットとされていたわけではないのだと思う」


「私もそう思います。多分、あそこにあった結界が目的だったのかと」


 胃根は雲上院家と因縁がある。


 そこから考えると、レイちゃんを付け狙ったという推理もできる。


 が、胃根は妖怪だった。しかも、レイちゃんを見て、予想外と言った反応をしていた。


 この二つから考えると、雲上院家絡みというより、あの場所にあった結界に用があったという風に考えた方が、納得感がある。


 そう考えたのは昭一郎さんも同じようで、深い首肯が返ってくる。


「うむ。組織なのか、個人で動いていたのかも分からないので、用心するに越したことはないがね」


「気を付けます」


 初めてあの結界を発見した時も妖怪がいた。


 これから先、結界に近づく際は十分注意する必要がありそうだ。


「それとこれだ」


 と、昭一郎さんが紙切れを取り出して見せてくれる。


 それは、私が胃根を身体検査した際に見つけ出した地図だった。


「あ、それって何だったんですか?」


 結局、何の地図か分かる前に捕まってしまったので、気になっていたのだ。


 昭一郎さんは、一拍の間をおいて口を開く。


「凶石が大量に保管されていた、毒ガスが充満した空間にな」


「ええ、大丈夫だったんですか!?」


 そんなところに近づいたら被害者が出たかもしれない。


「幸い、ガスに色がついていたため事前に察知できた。完全装備したメンバーを使って全て回収済みだ。売却益は君と七海ちゃんで等分するようにしておいた。うちには不要なお金だからね」


「あ、ありがとうございます」


 まさか宝の地図だったとは。


 胃根は何の目的があって、凶石をため込んでいたのだろう。


 やはり、自分を強化するためだろうか。


「お陰で発電所の保管庫が悲鳴を上げているそうだ。それじゃあ、私はこれで失礼するよ」


「はい。わざわざ、ありがとうございました」


 お互いに挨拶を済ませ、昭一郎さんが席を立つ。


「こちらこそ、娘を救ってくれてありがとう。ああ……、それと……」


 昭一郎さんが何かを付け加えようとして、言いよどむ。


「どうかしました?」


 私が首を傾げると、昭一郎さんが視線を逸らしたまま口を開く。


「……健闘を祈る」


 そう言って、すっと退室していった。


 ――と思ったら、バーン! とドアが叩き開かれた。


 そこには、目を真っ赤にし、大粒の涙を溜めに溜めたレイちゃんが仁王立ちとなっていた。




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