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◆九白真緒
ラブコメマンガである、きらめき☆スピリットスター、『通称、きら☆スピ』は、ヒロインとヒーローの思いが通じ合って結ばれるところで完結する。
ただ、ラストシーンを迎えるのは、非常に中途半端な時期。
高校生活二年目の前半くらいで、完結となる。
高校を舞台にした作品なのに、卒業式や卒業後の姿をチラ見せ、といった定番シーンがない。
それには理由がある。次回作の存在だ。
作品完結後、その後の展開を新作として、再スタートしたのである。
しかも、ただの再スタートではない。なんと、掲載紙を少年誌に移行。
登場人物はそのままに、ジャンルをバトルものとし、新連載という形でのスタートだった。
――しかし、私はその作品を読んだことがない。
存在も、おぼろげにしか知らない。
それでも、その作品について知っていることもある。
それは……、その新連載が打ち切りエンドだったということ。
理由は多々あると思うが、大きな要因は二つ。
一つ、前作を読んだ体で話が進むため、新規読者の獲得がうまく行かなかったこと。
一つ、新作はバトルものだったため、前作のラブコメが好きだったファンが追いかけてくれなかったこと。
新規読者と継続読者、その両方に不評だったため、人気が低迷してしまったのだ。
――というのを、打ち切り情報と共に、ネットニュースで見た。
そして、その新連載のバトルもの作品。
ストーリーは全く知らないわけだけど、多分舞台が北海道なのだろう。
そう考えれば、ナナちゃんが柱の一族であり、両親が北海道で活動していたことに納得がいく。
メタい感覚だが、きら☆スピではナナちゃんのそういった話は一切出てこなかった。
あれだけ大盛りの設定がありながら、作品内で一切活かされていないのはおかしい。
それはつまり、次回作で明かされる設定だったから。そう考えるのが、妥当。
きら☆スピでヒーローと結ばれ、次回作では妖怪との戦いの中、自分の出自が明かされていく。
そういう筋道だったのではないのだろうか。
「だから、妙な引っ掛かりを覚えたのか……」
洞窟で結界を見つけた時、幾度となく何かを忘れているような感覚に襲われた。
しかし、何度思い出そうとしても、私が知っているきら☆スピの記憶には何も引っかからなかった。
当然である。私は、そのことについて何も知らなかったわけなのだから。
知らないということを知っていた。
次回作があるけど読んでいないから、何も知らない、ということを忘れていたのだ。
「そりゃあ、中々思い出せないわけだよ」
今、やっとそのことを思い出せてスッキリした。
こうやって思い出すことができたのも、たっぷりと考える時間があったためだ。
なんせ、今の私は拘束中。何もすることがないのである。
出来ることといえば、物思いにふけることくらい。
そりゃあ、枝葉に分かれた豆知識のような記憶も思い出せるというわけである。
などと一人で納得していると、急に扉が開いた。
「面会です。出なさい」
と、言われ面会室へ向かう。
部屋へ通されると、ミカちゃんがいた。
私が椅子に座ると同時に、彼女を残して全員が引き上げていく。
え、監視する人が一人もいないんだけど……。
「聞かれたくない話をするので、全員出て行ってもらったのじゃ」
私の様子を見て、察してくれたミカちゃんが説明してくれる。
「それって、大丈夫なの? って、やらかした私が心配するようなことじゃないけど」
「うむ、問題ない。では、本題に入らせてもらうとするかの」
そう言って、ミカちゃんは軽く咳払いをした後、続けた。
「まず、結論から言うと、マオちゃんは無罪となる」
「え? なんで」
顔面がクエスチョンマークに変形するほど分からない。どういうこと?
自分で言うのもなんだけど、相当暴れまわったんだけど……。
痕跡残りまくりだったから、即拘束されたわけだし。
「事実を公表できないからじゃ。表に出せば、家の恥。沽券にかかわる。そして、実害が出たのが家の中だけ。外に被害が及んでおれば、問題があったかもしれん。が、今回はそれがなかった。つまり、何も起きなかったことにできる、というわけじゃな」
「それもそうか。鳳凰がタコ殴りにされて気絶したとか、発表できないもんね」
「そ、そういうことじゃ。何も起きなかったということにするのが、こちらにとって一番都合が良かったというだけの話じゃ」
「でも、そうなるようにミカちゃんが立ち回ってくれたんでしょ。ありがとうね」
表沙汰にできないから無罪なんて、都合がよすぎる。
そうなるように誰かが手を回してくれたと考えるべきだろう。
そんな事が出来るのは、ミカちゃんしかいない。
「……わらわだって、レイちゃんを助けたかったのだから当然じゃ」
「それでも、ありがとう」
「うん」
ミカちゃんは、照れくさそうに小さく頷いた。
「じゃあ、すぐに出られるの?」
無罪というなら、拘束理由がない。
このまま一緒に退室という感じになるのかと思って尋ねたが、ミカちゃんが難しそうな顔で首を振る。
「それがそうもいかんから、話しに来たって感じじゃの」
「そうなんだ」
「あれだけ暴れまわったんじゃから、マオちゃんを許さんと言う輩もそれなりにおる。そ奴らを説得するためにも、一旦収容施設には入ってもらう。反省を促す処置というやつじゃ」
「なるほど、そういう感じね。まあ、しょうがないよね」
大半の人が怒ってるだろうし、妥当な処遇だと思う。
大人しく収監されて反省するとしよう。
「ただし、前科はつかない。そもそも何の罪で収容されるか定かに出来ないのだから、手違いで入ったことになる」
「了解」
特例処置のオンパレードである。
それで丸く収まるなら、何の問題もないけどね。
「出られる時期については、今はまだ明言できん。ただし、なるべく早く出られるように動く。誇りを汚されたと感じて憤っている者たちと、恥なので隠したいという者たちの間で調整が完了したときが、出られる時と思ってくれ」
「まあ、のんびりやるよ」
ミカちゃんの説明を聞く限り、今日明日にどうこうなるような話ではない。
罪に問われることなく放免されることが決まっているだけで、ありがたいと思わないとね。
「こちらとしては、あまりのんびりできんのが厄介なところなのじゃ。なるべく早く結果を出さないと……」
と、妙に焦った物言いになるミカちゃん。
何かを思い出したのか、落ち着きがなくなった感じでソワソワし始めた。
「なんで? 私は気にしないから、じっくり話し合ってくれたらいいよ。収容所で、しっかり反省するからさ」
あれだけやりたい放題やったんだから、調整に時間がかかるのは当然だ。
そもそも、当事者の私が待つと言っているのだから、急ぐ必要なんてないと思うんだけど。
という疑問を口にした途端、ミカちゃんが真剣な顔で身を乗り出した。
「そうもいかんのじゃ! レイちゃんとレイちゃんの父上が、ビキビキなのじゃ! マオちゃんへの対応を誤ったり、あまり悠長なことをしていたりすると、わらわの家が裏から乗っ取られてしまうのじゃ!」
「ビキビキて」
「そこじゃない! とにかく、雲上院家からの働き掛けもあるので、長期間の拘束は問題になるのじゃ」
「そ、そっか……、なんかごめんね」
なんと言葉をかけていいか分からず、雑に謝ってしまう。
私のせいで、ミカちゃんには色々と苦労を掛けることになってしまった。
ごめんよ。
「マオちゃんは、これから霊術師更生施設に移送され、しばらくそこで暮らすことになる。周囲には事情を知った者を一人はつける予定だから、無体な扱いは受けないはずじゃ。雑談程度なら大目に見てくれるくらいの待遇と考えてほしい」
「それはありがたいね」
あんまり厳しい感じにはならないようだ。
「しばらくの辛抱じゃ。向こうでは、くれぐれも問題を起こさないでくれ。人を投げ飛ばして壁に穴を開けるとかしたら、出所時期が延びてしまうからの」
「私の事、なんだと思ってるわけ?」
何の意味もなく、そんなことはしない。
壁に穴が開くことがあるとすれば、それなりの事情があった時だけだ。
――あ、そういえば相談しておきたいことがあったのだった。




