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 ◆胃根みどり



 胃根が都内で仲間との接触を終えた後、紫前の関係者の拘束が加速する。


 紫前は、金と力を得るため、あらゆることに手を出していた。


 その際に、かなり際どい物や非合法な物も手に入れていた。


 その範囲は多岐にわたり、関係者も鼠算式の広がりを持った。


 結果、人数が多すぎて捜査が停滞するほどであった。


 が、それも少しずつ解消されていく。


 そういった取引に関係していた者が、とうとう捕まり始めたのだ。


 胃根が扱っていたのは、非合法な毒物。当然、取り締まり対象である。


 ほどなくして、自分の身にも捜査の手が及びそうになる。


 危険を察知した胃根は、当初の計画通りに動いた。


 北海道にいる仲間と接触し、凶石を受け渡した後は身を隠す。


 そのため、すぐに北海道へ向かった。


 仲間が活動している場所へ赴くも、住処としている場所には姿がなかった。


 ならば今も熱心に仕事中だろう。そう思い、結界がある場所へと向かう。


 以前は、結界に近づくと彼が破壊活動を行う音が聞こえてきていた。


 だが、今日は何も聞こえない。無音だ。


 そこに違和感を覚え、慎重に進む。


 すると、奥から複数の話し声が聞こえてきた。


 その中に仲間の声はなく、全て人間のもの。


 怪しいと感じた胃根は、物陰に身を隠しながら結界の様子を伺った。


 すると、そこには人間の女子が三人いた。


 そのうちの一人が結界に力を注いでいる姿が見える。


 目視で確認できるほど強力な何かが結界に注がれている。


 もしや、修復しているのでは。そう考え、結界を凝視する。


 外見を見た印象では、以前より強固になっている気がした。これはまずい。


 そして、こんな状況を仲間が黙って見過ごすはずがない。


 そう考えた胃根は、仲間の姿を探した。だが、どこにも見当たらない。


 代わりに、さして警戒もせずに雑談に興じながら結界の保持に努める三人が目につく。


 あれは、周囲に脅威がないことを確信しているからこそできる行動だ。


 つまりそれは、この場に頻繁に足を運んでいたはずの仲間が来ないことを意味する。


 ――死んでしまったのだ。脅威と判断されて、倒されたに違いない。


 倒した相手が眼前の子供たちとは考えにくい。が、再会は叶わないとみるべきだろう。


 しかし、件の仲間は我々の中でも攻撃に特化した者だ。彼を倒す者がいるとは驚愕である。


(鬼谷はいなかった。さて、どうするべきか……)


 胃根は迷った。本来であれば、仲間と再会を果たした後は、凶石を受け渡して身を隠すつもりだったのだ。


 しかし、仲間はおらず、代わりにいたのは女子三人。


 これがただの子供であれば、彼女たちを無視して潜伏するべきだ。


 だが、三人のうちの一人が結界の機能を回復させている。


 あの結界は時間経過で自然消滅するはず。


 その消滅する時間を早めるために破壊担当の仲間を送り、消滅後合流するための戦力増強活動を行っている仲間がいる。


 しかし、機能を回復された場合、いつ消滅するか分からなくなる。


 十年後か、二十年後……。もっとかもしれない。


 最悪、あの子供が力を送り続ける限り、結界の機能は失われないのかもしれない。


 それでは困るのだ。つまり、なんとしても、あの子供だけは消しておく必要がある。


(久々に殺しをしなければならないようですね)


 相手は子供。胃根の能力であれば、三人でも楽勝の相手だ。


 幸運なのは、攻撃特化型の仲間を倒した敵が不在ということ。


 結界を回復させる能力の持ち主が子供だったため、護衛対象の心理負担を減らすために同年代の子供を選んだのだろう。


(このチャンスを逃すわけにはいかない)


 胃根は、ターゲットとなる三人を注意深く観察した。


 そして、驚きの事実を発見する。


 それは、三人のうちの一人が雲上院礼香だったということだ。


(まさか、こんなところで再会するとは。彼女には、不幸の星でも憑いているのでしょうか)


 胃根が金を手に入れるために利用した母子。


 母親である紫前は、あまりに性格が歪んでいたせいで、後に決裂。


 しかも、その後に拘束され、こちらにまで捜査の手が及ぶ始末。


 利用しやすい相手ではあったが、大きな損害をもたらした人物だ。


 その娘である礼香には、自分が動きやすいように、母親にとって都合のいい思想を浸透させた。


 結果、歪んだ個性が確立し、将来の道が狭まった。


 そんな存在だったはず。


 だが、自分の目の前にいる雲上院礼香は、まるで別人に見えた。


 明るい顔で友人たちと話し、笑顔に囲まれている。


 なにより、立ち居振る舞いが違う。


 強い力。存在感や影響力といった方が近いか。


 カリスマ性と呼ぶに相応しい何かが全身に漲り、あふれ出している。


 父親である雲上院昭一郎からも感じた独特の雰囲気。


 あの強烈な存在感が、彼女の内から溢れている。


 胃根は驚愕した。以前とあまりに違う。


 幼少時の面影を認めることができなければ、別人と判断しただろう。


(同じ人間とは思えない変貌ぶりですね。一体、彼女に何があったのでしょう)


 雲上院礼香の変化に驚きつつも、三人の会話を聞こうと意識を集中する。


 どうやら結界への力の補充は、まだ完全ではないらしい。


 ならば、これ以上の補充を許すわけにはいかない。


 この場で阻止する。


 そう決意した胃根は能力を解放。


 効果が薄い代わりに、無色無味無臭の麻痺毒を霧状にして発生させる。


(弱らせて確実に仕留める)


 これが、胃根の戦闘スタイル。


 遠距離から毒でしっかりと弱らせ、相手が動けなくなったところで接近して止めを刺す。


 次のターゲットに警戒されて警備を厚くさせてしまうほどの成功率を誇る特技。


 相手に逃れる術はない。



 ◆九白真緒



 私の目の前では、ナナちゃんが両手を膝に置き、肩で息をしていた。


「一応、終わったよ。というか、これ以上は無理……」


 結界への力の補充を終えたナナちゃんが、辛そうな表情で呼吸を整えている。


 彼女がここまでして、力を補充したのなら結界も大丈夫になったのかな。


「結界の状況はどんな感じ?」


「まだまだって感じ。何年も補充してなかったから、凄い勢いで根こそぎ吸い取られたわ」


 私の問いに、ナナちゃんが首を振る。


 どうやら、まだ時間がかかりそうだ。


 辛そうにしているナナちゃんを見て、レイちゃんが心配そうな顔で調子を尋ねた。


「ご体調はいかがですか」


「うん、大丈夫だよ。でも、補充はしばらく無理。何日か休んでからじゃないと再開は無理かも。……あれ?」


 と、ここでナナちゃんが足に来て、ふらつく。


 危うく倒れそうになったが、私が前に出て支えた。


「消耗しすぎだよ。もう少し時間をかけるように調整した方がいいよ」


 いくらなんでも頑張りすぎだと思った私は、負担を減らす提案をした。


「そうかも。なんか手足が冷たくて、感覚がなくなっちゃったみたいになってる」


「……わたくしもですわ。この洞窟が冷えるからでしょうか?」


 ナナちゃんだけでなく、レイちゃんまで寒さで体に異変を感じると言う。


 二人の言葉を聞き、私は首をひねった。


 洞窟内は外に比べて肌寒さはある。


 だけど、動きや感覚に支障が出るほどの温度ではないと思うんだけど……。




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