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 ◆兎与田七海



 七海は、真緒の母である九白弓子から日記と二通の手紙を受け取った。


 なぜ自分なのか。思い当たる節がない。


 だがそれも、受け取った物に目を通せば分かることだろう。


 まずは日記から確認しようと、ページをめくる。


 日記は、毎日つけられたものではなかった。


 ざっと目を走らせると、初めのページほど文章量が多く、後半に行くにつれて減っている。


 七海は1ページ目から読み始めた。


 序盤は、ここに玄宮夫婦が住むことになった経緯が書かれていた。


 掃討戦時、霊術師全体の決定で北海道への追撃が中止になった。


 が、玄宮家の一部だけは命令を無視して、秘密裏に北海道へ向かった。


 誰にも告げなかったのは、組織内での分裂を避けるため。


 全体の決定を尊重したためだ。


 北海道へ向かった理由は、知能のある妖怪たちの間で妖王と呼ばれている存在を仕留めるため。


 あの存在を倒せば、大きな戦力低下に繋がると考えての行動だった。


 妖王を倒せば、追撃再開の決定を得る判断材料として申し分ないものとなる。


 危険な賭けだったが、挑む価値のあるものだった。


 捜索の結果、潜んでいた妖王を見つけ出し軍勢から引き離すことに成功。


 孤立状態にして戦いを挑んだ。


 が、討伐に失敗。生き残った者も、四柱当主とその子である玄宮夫婦の三人だけとなった。


 しかし、全く戦果がなかったわけではない。


 相手の隙を突いた際に、結界へ閉じ込めることに成功したのだ。


 結界の寿命は、外部から刺激を受けず、中に閉じ込められたものが大人しくしていれば三十年は持つ。


 相手は負傷しているため、かなりの効果が期待できた。


 が、封じた相手が相手だけに油断できない。


 それに加え、行方不明となった妖王を探すために、仲間の妖怪が動くはずだ。


 少しでも結界の発見を遅らせるため、場所を山の洞窟内部へ移動させ、幾重にも偽装を施す。


 周囲には、方向感覚を惑わせる術式を石に施して設置。


 様々な準備を進め、結界を監視する生活拠点が完成する。


 そこまでのことをやり遂げ、数年の後に当主である玄宮轍雄が死去。


 夫婦の夫である玄宮信司が当主を引き継ぎ、結界の監視を行うことになる。


 ――というのが、ここに至ったこれまでの経緯の様だった。


 そこからは、一定期間の報告書のような形で日記が付けられていた。


 内容は、ドーム状の結界について。


 どうやら、あの結界は特殊なものらしい。


 なんでも、霊獣と契約者の魂の力を使って作り出されたものだそうだ。


 しかも、作り出された結界は最大規模。凄まじく強力なものとのこと。


 夫婦はここに住み、結界を守っていたようだ。


 内部からの干渉によって発生した損傷に対し、定期的にメンテナンスを行っていたとある。


 といっても、それは簡易的なもので、完全な修復は不可能。


 あくまで応急処置。


 時間経過とともに劣化が始まり、機能が低下していくのは防げない。


 最終的に壊れるのは確実、とある。


 そして、新しく作りなおすことはできないともあった。


 なぜなら、新しい結界を作り出すためには、一旦現在の結界を解く必要があるためだ。


 あの結界は霊獣の魂と一体化したようなもので、同じものを二つ作り出すことができない。


 新しい物を作るには一度、現在の結界を解除し霊獣の魂を解き放つ必要があるとのこと。


 結界を解除すれば、中に封じたものが自由に動けるようになってしまう。


 だが、そんなことはできない。


 そうなると、現状維持に努めるしかないということになる。


 結界は内部からの抵抗と時間経過が原因で、劣化していく速度がじわじわと速まっていた。


 夫婦は劣化の速度を遅らせるために、かなり無茶な方法で結界を維持していたようだ。


 日記には結界の状態が変化する様子がつづられていた。


 それを読む限り、結界の状態は非常に悪く、危険な状態が続いているとあった。


 閉じ込めた相手の抵抗が強く、崩壊の時が速まっていくのを止めることができないようだった。


 そして、結界の状況報告の間に挟まるように書かれていたのは娘のことだった。


 序盤に、夫婦に娘ができたことが書かれていた。名前は七海。


 夫婦は、伝手を頼って娘を本州の養護施設へ送っていた。


 その際に、これまでの経緯も報告したことが書かれていた。


 子供を施設に預けた理由は、この場が子育てに向いていないこと。


 かといって、夫婦はこの場から離れられないこと。


 そのため、苦渋の決断だったようだ。


 そして日記を読み進めるにつれ、夫婦の行方にも察しがついてくる。


 飛ばし飛ばしに書かれる内容は、淡々とした報告のような文面。


 そこには結界の劣化を少しでも遅らせるために、夫婦がとった手段が書かれていた。


 そもそも、あの結界は霊獣に契約者の魂の力を渡すことで作られている。


 いわゆる、四柱の人間が使える特殊能力である。


 しかも、あの結界は最大規模。必要となる魂の力もそれ相応の物が求められた。


 結果、結界が完成した時点で、霊獣は結界となり契約者であった当主は後に死亡。


 それだけ大きな犠牲を払って作られたものだけに、性能は非常に高い。


 そんな結界の劣化を遅らせるために、求められるものは何か。


 それは当然、魂の力ということになる。


 そのため、当主を引き継いだ夫が、特殊能力で応急処置を施す。


 しかし、内部の抵抗が激しい上に最大規模の結界のため、かなりの消耗を強いられる。


 消耗分の自然回復が間に合わない速度で、特殊能力を使う必要があった。


 結果、消耗の限界を見極めてギリギリのタイミングで、今度は妻が後を引き継ぎ、同じことを繰り返す。


 日記には、着実に疲弊していく状況が事務的に綴られていた。


 そんな短い報告のような短文が続く中、ときおり長い文章が挟まることがある。


 クリスマス、正月など、行事がある月は、娘のことを思って文章量が多くなっていたのだ。


 娘の年齢がそれなりに達した頃、クリスマスには施設に問い合わせて、問題ないことを確認してから冷凍ケーキのカタログギフトを贈ったこと。


 正月には、消耗品の遊具を贈ったこと。


 一番頭を悩ませたのは、誕生日。


 娘の誕生日を祝いたいが、同じ施設にいる子供たちには両親から祝ってもらえない子もいるはず。


 娘だけ特別扱いをするのはよくないと考え、娘の誕生月に施設の子供全員へ向けてプレゼントを贈ったこと。


 男の子にはミニカー、女の子にはぬいぐるみ。


 気に入ってもらえるか不安になり、夫婦で何度も検討した旨がつづられていた。


 日記の内容はおおむねその二つで構成されていたが、途中で変化が起こる。


 周辺に強力な妖怪が現れるようになったためだ。


 そこからは妖怪についての記述も加わることになる。


 現れた妖怪の様子を窺うと、結界を探していることが分かる。


 まだ、場所を突き止めていないが、諦める様子はない。


 調査を進め、妖怪はかなりの強さであることが分かった。


 こちらの戦力は二人のみ。増援は来ない。


 現在のコンディションで戦いを挑んだ場合、確実に勝てる保証がない。


 夫婦は戦闘を諦め、隠れてやり過ごすことを選択した。


 それから月日が経過し、とうとう結界を見つけられてしまう。


 ただし、妖怪が夫婦の存在に気づくことはなかった。


 妖怪は結界に異様な執着を見せるが、それ以外の事には全く注意を払わないせいだった。


 それから、妖怪が結界に攻撃を仕掛けるせいで、修復の頻度が増えていく。


 戦っても勝ち目が薄いため、結界の破壊を防ぐことに力を注ぎ続けた。


 結果、以前は休息を挟んでいたが、それができなくなってしまった。


 限界が近い。文章から、そういった雰囲気が伝わってくる。


 ページを進めていくと、文章と呼べるものではなくなり、箇条書きに変わっていく。


 そして、娘に手紙を出すという、走り書きが最後のページとなっていた。




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