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 ◆兎与田七海



 頷き合った真緒と礼香の二人は、霊鎧へ向けて駆けだした。


 七海は二人に加わらず、鳳宮未花の警護に加わる。


 三人で攻めた方が確実だが、彼女を放っておくのも危険と判断したのだ。


「ねえ、霊鎧ってどんなものなの?」


 霊鎧の攻撃をかわしながら接近していく二人を見守りながら未花に尋ねる。


「超大型の妖怪に対抗するために作られた兵器と聞いておる。作られたのは、ずっと昔。現存しているのは、あの一機だけじゃ。掃討戦時には実戦では使用せずに、あれを解析して量産を試みたようだが、失敗したのじゃ」


「超大型の妖怪用か。簡単な攻撃じゃあ、壊せそうにないね」


「うむ。というか、壊されても困るんじゃが……。あれが最後の一つじゃから、修理不能になったら切り札の一つが無くなることになる」


「まあ、いくらあの二人でも、あんな大きい物を完全に壊すことは無理でしょ。うまく足とかを壊して動けなくするんじゃない?」


 と、七海が言った次の瞬間、強烈な光が霊鎧を襲い、右半分が消し飛んだ。


「グワァァッ!」


 その拍子に、炎泉が霊鎧から転げ落ちる。


 光の発生源へ視線を向ければ、真緒が霊装を振り下ろしている姿が見えた。


 つまり、彼女の攻撃が命中したのだ。


「レイちゃん!」


 真緒の呼びかけに、礼香が目で頷く。


「ここですわ!」


 隙あり、と言わんばかりに礼香が大技を放った。


 炎でかたどられた巨大なマンタが、損傷した霊鎧に直撃。


 全身をくまなく炎で包んだと思った次の瞬間、全てが消し炭となり、塵と化して吹き飛ばされた。


 完全な大破で、完全な消滅である。


「……あぁぁ」


 粉末となって風に乗る霊鎧を見た未花の口から、ため息とも嘆きともとれる声が漏れ出る。


「跡形もなく消えちゃったね」


 七海は目の前の光景を正確に呟いた。


 もはや、修理がどうといったレベルではない。


 復元すら不可能。新しく作るしかない状況だ。


 しかし、その製法は途絶えてしまっている。


 残念だが、霊鎧を再現するのは不可能と考えるべきだろう。


 多分、礼香と真緒は、霊鎧の希少性については何も知らない。


 自分も今知ったくらいだ。


 脅威を徹底排除しようとして行ったことなので、仕方がないともいえる。


「な、なんだ、あの子供たちは……」


「……霊鎧を吹き飛ばしたぞ」


 事の成り行きを見守っていた大人たちのざわめきが耳に入る。


 動揺は伝播し、鳳宮派と炎泉派の両陣営が、霊鎧があった場所を呆然と見つめていた。


「あ、ありえない」


「なんて霊力なんだ」


 ギャラリーの驚愕の声に、私もそう思うと、心から同意する七海。


 フォーゲートの大会に参加することになってから今日に至るまで、何度そう思ったことか……。


 様々なツッコミの思い出が脳裏をよぎり、中空を見つめた七海は、現実逃避気味に感慨に浸った。


「馬鹿な……。霊鎧だぞ。超大型妖怪の攻撃をしのぐように設計されているんだぞ……。もしや劣化していたのか……?」


 炎泉が消滅した霊鎧があった辺りを虚ろな視線で見つめながら呟く。


「古いから性能も落ちていたの?」


 と、七海が未花に確認する。


「まあ、多少は……、考えられなくもないかもしれない。その……、可能性としてはゼロではない……」


 言葉を選びながら答える未花。


 どう聞いても、ショックを受けている炎泉に気を使っているようにしか見えない。


 霊鎧は、解析の対象として慎重かつ丁重に扱われていたものだ。


 メンテナンスも行き届いていたのだろう。


 炎泉からすれば、ほぼベストなコンディションの霊鎧を手に入れ、これからの未来が拓けることに確信を抱いていたはず。


 それなのに、眼前で一瞬の間に跡形もなく吹き飛ばされた。


 抜け殻のようになってしまうのも頷ける。


 彼がやったことには賛同も共感もできないが、一瞬で未来が潰えたことには同情する。


 動機も、北海道を妖怪から奪還することであったし。


 なんか、ちょっとかわいそうではある。



 ◆九白真緒



 霊鎧を破壊した後の展開は一方的だった。


 炎泉家の反乱は、炎泉派全員が拘束され、双方に重傷者はゼロという結果に終わった。


 私とレイちゃんは、ぼうっと座り込んでいる炎泉さんに近づいた。


「こんな事をしなくても、普通に北海道に行けばよかったのに。私たちとレイちゃんのお祖母さんが前線の拠点を取り戻してから、結構順調に侵攻できてますよ?」


「そうですわね。わたくしたちも高校に行くまで北海道での活動を主軸に置くつもりでしたし、もう少しやりようがあったのではないのでしょうか」


 最近の北海道の状況を見れば、別にそんなに焦らなくも、と思ってしまう。


 炎泉さんは目を伏せたまま自嘲気味に笑った。


「十家は北海道への立ち入りが許されていない。強硬な手段に出たのはそのためだ」


「十家って辞められないんですか?」


「え」


「辞めて、誰かに譲れば行けるのかなと思って」


 十家で行けないなら、辞めて行けばいいのに。


 霊術師のお家事情に詳しくない素人の私からすれば、そう思えてしまった。


「そ、そんなことをすれば、人員と物資を確保できん。個人でできることなど、高が知れている」


「そうですね。出過ぎたことを言ってすみませんでした」


 炎泉さんに言われ、それもそうかと納得する。


 個人と組織では、出来ることの範囲が大きく変わる。難しいね。


「いや、君のような考えがなかったわけじゃない。だが、それでは限界があったんだ。確実に戦いに勝利し、その後、安定した復興を成すためにはどうしても、力が必要と判断した……。まあ、それで人を傷つけていい理由にはならない。誰からも賛同を得られず、時間だけが過ぎていく中で、焦ってどうかしていたようだ……。すまなかった」


「いえ……」


「罪を償い、外に出られるようであれば。単身で北海道へ向かうとするよ」


 炎泉さんは憑き物が取れたような顔で、薄く笑った。


 その言葉に、炎泉派の人たちが次々に反応する。


「蓮司様、我々もお供いたします!」


「……ああ、頼む」


 と、弱々しく応じる炎泉さんに部長が駆け寄った。


「お父様、当然私も付いて行きますから」


「すまない。お前にまで迷惑をかけてしまったのに……」


「いえ、自分で決めたことですから……」


 そのまま二人は手を握り合った状態で、黙り込んでしまう。


 きっと、お互いにどう声を掛けたらいいのか分からなくなったのだろう……。


 ――と、そこでレイちゃんが二人の前にドドンと仁王立ちとなった。


「北海道のことは、このわたくし、雲上院礼香に任せておけば何の問題もありませんわ!」


「レイちゃん?」


 急な発言に大丈夫か、と心配になってしまう。


「貴方たちの事とは関係なく、北海道で継続的に活動することは考えておりました。活動目的は、当然、北海道の奪還。――まあ、個人でやることなので限界がある、と言いたいところですが、そんなものはありません。自重することなく、徹底的にやるつもりですわ」


 バサッと洋扇を広げて口元を隠したレイちゃんが、北海道を奪還すると宣言してしまう。


「雲上院礼香……? 雲上院グループか!」


 顔を上げた炎泉さんが、目を見開く。


「ええ。ですから、皆さまは、安心して罪を償ってくださいませ。出所するころには全てを終えて、待っていますわ」


 洋扇を大仰に振り、盛大な見得を切るレイちゃん。


 その姿は完璧なポーズで決まっている。決まってしまったよ……。


「……そうか、そうなっていることを心から願うばかりだ」


 レイちゃんの言葉を聞き、フフッと炎泉さんが小さく微笑んだ。


「雲上院さん、九白さん、兎与田さん。北海道をお願いします」


 次いで、部長が深々と頭を下げた。


 二人との会話を終えてしばらく経つと、拘束された炎泉派は全員護送されていった。


「ちょっと、あんな事言っちゃって大丈夫なの?」


 と、ナナちゃんが心配そうにレイちゃんに尋ねた。


「そ、それは……その……なんと言いますか。勢いが余ってしまったというか、なんというか……」


 さっきまでの威勢の良さが消え、歯切れの悪い物言いになるレイちゃん。


 そして、私とナナちゃんの方をチラチラと見ながら続ける。


「わたくし一人では難しいかもしれません。ですが、とても頼もしい二人の助っ人に心辺りがあるのです。どうか、ご助力願えませんか」


「もちろん」


 私は笑顔で即答し――。


「しょうがないなぁ……」


 ナナちゃんが頭を掻きながら笑顔で応じる。


「ありがとうございます!」


 私たちの返事を聞き、ぱっと華やいだ笑顔を見せるレイちゃん。


 そんな顔をされたら、やれるだけやるしかないよね。


「それじゃあ……、北海道奪還を目指して頑張りますか」


 と、私が手を前に出すと、察したレイちゃんとナナちゃんが手を重ねてくれる。


「ファイト―!」


「「おー!」」


 円陣を組んだ私たちは、気合の声を上げた。




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