121
今の私の腕は家庭料理レベルだし、要練習だな。
生活環境は、グレードを上げると重量も上がってしまう。
さすがにベッドを運ぶのは支障が出るしなぁ。
霊術を使ってなんとかならないだろうか。
もしマンガ通りに事が進むなら、一時的に野外で生活する展開が待っている。
一応、未然に防ぐつもりではいるが、どう転ぶかは分からない。
回避に失敗すれば、今よりひもじい思いをさせてしまう。それは断固として阻止せねば。
今から対策を考え、その時までに何とかしておきたい。
これは持ち帰って解決する課題となりそうだ。
そんな感じで新たな課題が見つかったころには昼食も終了し、移動を再開する。
そしてその後の道程も、それまでと同様に非常に安定したものとなった。
結果、規則正しいリズムを維持した状態で、次々と予定を消化。
特に問題らしい問題もなく事を進め、予定日より五日早く折り返しポイントまで到着した。
余裕があるため、記念撮影を念入りにする時間まで確保できてしまったほどだ。
ここまでは非常に好調と言えるだろう。
ただし、帰りもそうなるとは限らない。それは、ルートが違うためだ。
今回の依頼では、帰り道に別のルートが指定されている。
行きと帰りでルートを変えることにより、より広範囲を偵察するためだ。
というわけで、行きは簡単だったから、と気は抜けない。
日程的にはかなり余裕があるため、帰路は行きより遅めの進行を心掛けることにした。
それでも進行速度は行きとほぼ変わらなかった。
なぜかと言えば、行きでコツを掴んだため、無駄な行動が減ったからだ。
結果、慎重に進みながらも進行速度を維持するという、ベストすぎる状態になった。
そんな帰路の途中、無事に日数と予定を消化し、街に到着するまで残り僅かとなったところで、ナナちゃんが急に止まった。
パンクだろうかと、自転車を見るも異常はない。
「どうかした?」
私の声が聞こえなかったのか、ナナちゃんは自転車を降り、道の端へと歩いていく。
そして、しゃがみ込んだ。もしかして気分が悪いのかと思ったが、大きめの石ころをじっと見つめているのだと気づいた。
「その石に何かありますの?」
と、レイちゃんが自転車を降りてナナちゃんに近づきながら尋ねる。
私もそれに続く。遠巻きに見ると、ただの石にしか見えないけど、どうしたのだろう。
「ずっと感じていた違和感と同じものを、この石から強く感じる。これは霊気……」
確信めいた口調でナナちゃんが呟く。
「何も感じませんわ。マオちゃんはどうですか?」
「私も。ナナちゃんが分かるなら、私たちが感じ取れてもおかしくないと思うんだけど……」
どう見ても、ただの石ころにしか見えない。
私たちが、再度石ころを調べようとしていると、ナナちゃんが動き出す。
「奥からも同じ気配がする」
ナナちゃんは、そう言って道から外れ、何もない森の中へ入っていく。
「ナナちゃん?」
「危ないですわ」
私とレイちゃんは、ナナちゃんの後を追って止めようする。
が、ナナちゃんは数歩進んだところで立ち止まって、視線を下に落とした。
そこにはまた、似たような石ころがあった。
「……これだ」
「また石ですの?」
「何も感じないけどなぁ」
相変わらず、何の気配も感じ取れない。
むむむ、と石を凝視するも変化なし。
霊力は私とレイちゃんの方が高いと思うんだけどなぁ。
「まだある……」
ナナちゃんはそう言って、誘われるように森の中へと進んでいく。
私たちはその後を慌てて追う、という行動を繰り返すこととなった。
結果、複数の石を発見。石は辺り一帯に散りばめるように配置されていた。
この感じだと、まだまだ見つかりそうである。
「……つまり、この石の気配を遠くから感じてたってこと?」
「この辺りは密集しているだけで、他の場所でも石が置かれていたのではありませんか?」
「なるほど。で、この石は一体なんだろう」
ナナちゃんだけ感知できる不思議な石。それが、北海道の一部のエリアに置かれていた、と。
「何も感じ取れないわたくしたちには、普通の石にしか見えませんわね」
「う~ん……」
こんなことマンガの中ではなかった。
そもそも、マンガでは登場人物全員が未踏破エリアに行かないのだから、それは当然ともいえる。
……でも、なぜか引っかかる部分もある。
もしかして、何か忘れているのだろうか。
そんなことを考えていると、ナナちゃんが口を開く。
「もうちょっと、この辺りを見て回ってもいい?」
「構いませんわ。ねえ、マオちゃん?」
「うん。予定よりずいぶん早いからね」
「ありがとう」
ナナちゃんのお願いを聞き、周囲を調査することを決める。
自転車の警備は探査霊体に任せ、私たちは更に奥へ進むことにした。
「……で、怪しい洞窟があったわけだけど」
「ここまで来たら入るしかありませんわ」
結果、洞窟を発見。レイちゃんが内部調査に意欲を示す。
きっと探検気分が味わいたくて、ワクワクしているのだろう。
未踏破エリアの調査が簡単に済んでいるため、予想していたほど刺激を得られなかったのが原因かもしれない。
まあ、ここまで来たらとことん調べた方がいいよね。
「じゃあ、懐中電灯を出すね。先頭は私が歩くから」
今まで自転車に乗っていたので、全員が転倒してもいい服装かつ、ヘルメットを着用している。
そんなわけで、意外に安全面はある程度確保できている。
後は、明かりを用意すればいい。
そんな感じで、洞窟へ入る準備をしていると、ナナちゃんが申し訳なさそうな顔になる。
「いや、そこまでしなくてもいいよ。引き返そう」
帰ると言うも、その視線は洞窟に釘付け。
絶対中が気になっているのに、私たちに気を使って帰ろうとしているのが一発で分かる表情をしている。
「でも、気になっているのでしょう?」
「……それは」
レイちゃんに確認され、口ごもるナナちゃん。
「じゃあ、行こうか」
「ですわね!」
私とレイちゃんは視線を合わせて、頷き合う。
そして二人で、ナナちゃんの手を握った。
「ちょ、二人とも!」
私たちは、気が引けているナナちゃんの手を引き、洞窟へ突入した。




