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 ◆とある部下



 上長から、未踏破エリアの調査に向かう霊術師たちを見送れという指示が出た。


 見送れというのは、もちろん建前。


 ちゃんと依頼通りに行動しようとしているか監視せよということだ。


 今回の依頼でいうと、最も注視するべきは霊術師以外参加禁止という項目だろう。


 未踏破エリアは非常に危険だ。霊術が使えない人間が深部を探索し、怪我でも負おうものなら、こちらの責任問題になりかねない。


 そのため、未踏破エリアに出る前にしっかりチェックせよ、というお達しだ。


 そんな風に指示内容を思い出しながら、外へとつながる門の側で待っている。


 すると、件の人物たちが乗っていると思われるスモークガラスを張った黒のワゴンが到着した。


 中から降りてきたのは、車を運転していた者を含めて大人が三人、子供が三人だ。


 なぜ、こんなところに子供が?


 一瞬疑問に感じたが、すぐに理由を思いつく。


 きっと親子なんだろう。危険な依頼へ赴く親を見送りに来たに違いない。


 と、思っていたら、子供の方が大きなリュックを持ち出し、移動の準備を始めた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。この中で、未踏破エリアの調査に向かうのは誰なんだ?」


「私たちですけど?」


 と、挙手する子供三人。


 どういうことだ? なぜ、大人が同行しない。


 え、霊術師ではないから一緒に行けない? なるほど?


 免許を確認すれば、霊術師なのは子供三人だけだということが分かった。


 それじゃあ、未成年だけで未踏破エリアに向かわせるのか?


 うちの上長はイカれているのか?


 以前は人が住んでいたとはいえ、今は危険区域となっている場所に子供だけを送り出すなんて、いくらなんでも危険すぎる。


 もしかして奥地まで行かず、ギリギリ未踏破エリアと言えないこともないような場所で鍛錬でもさせるつもりなのだろうか。


 そう思って、改めて依頼書の計画を確認する。


 んー、めっちゃ奥。


 奥地過ぎる。


 何かの間違いかと、穴のあくほど見つめるも正式な書類だ。


 あのクソ上司、頭のネジが外れているのか?


「いくらなんでも、これはおかしい。いったん戻って、依頼内容が正しいか確認するから待ってくれないか」


「いえ、それで合っています。確認したので間違いないです。もう行ってもいいですか?」


「いや、しかし……」


 と、私が渋っていると、同行している大人たちの一人が口を開いた。


「その場に私たちも同席していたので間違いないです」


「同席していたのか!? この内容を見て何も思わなかったのか!?」


 同行していた大人が、平然とした顔で問題ないと言うのを見て動揺してしまう。


 これがどれだけ危険なことなのか分かっているのか。


 この状況で、なぜ子供たちの味方をする。一体どういう倫理観なんだ。


「あの、チェックが済んだのなら、行きますね」


 そう言って淡々と準備を進めていく子供たち。


 子供たちはワゴンから巨大なリュックをいくつも運び出し、最後にオフロード用の自転車を降ろした。


 そうか、未成年しか参加しないから、車が使えないのか。


 これは大変だ。


 しかも、道程はそれなりの日数を消費するものなので、電動アシストタイプの自転車は使えない。


 途中でバッテリーが切れてしまうのだ。


 だからオフロード用の自転車を選択したのだろう。


 それにしても……、いくらなんでも荷物の量が多すぎる。


 大型ベッドのような大きさのリュックが複数個ある。一人一個背負うとして、残りはどうするつもりなんだ?


 まさか、一人で複数背負っていくつもりなのか? いや、さすがにそれは無謀すぎる。


 仮に、軽業師のような能力を持ち合わせていたとしても、重さは変わらない。


 一人で沢山運べても、早々に体力を使い果たして進めなくなる。


「危険だ。止めておいた方がいい。君たちは北海道のことを甘く見過ぎている」


 参加者の年齢から想定される実力。そして、あまりにも少ない人数。


 更には無計画な荷物の量。


 どこをどう見ても、素人や初心者という言葉が釣り合う。


 さすがに口を出さずにはいられない。


「大丈夫です。危険だと思ったら、すぐに引き返しますんで。一応、無線も持っていくので、近い距離なら救助も呼べますから」


 しかし、こちらの言葉は聞き入れられず、依頼に向かうと言う。


 子供たちからは、固い決意を感じる。こちらの説得には応じないようだ。


 これ以上話しても、平行線をたどりそうだ。……行かせるしかないのか。


 ――いや、ものは考えようだ。


 逆に、素人なのが幸いするかもしれない。


 あれだけの荷物を持って自転車で移動するとなれば、すぐに音を上げるに決まっている。


 その時に出される救助要請で、すぐに駆け付ければいい。


 一応霊術師の資格も持っているようだし、弱い妖怪が相手なら対応もできるだろう。


 ここは一旦引いておくか。


「分かった。だが、無理だと思ったら、すぐ引き返すんだ。未踏破エリアは大人の霊術師が向かっても撤退することが普通の場所だ。逃げることは恥ずかしい事じゃない。余力がある状態を保つことが重要なんだ」


「ご心配いただいてありがとうございます。それでは出発しますか」


 そう言って、子供たちは自転車に乗った。


 しかし、リュックは置いたままだ。ひとつも持っていこうとしていない。


 緊張して忘れているのか?


「おいおい、荷物を置いていくつもりか。忘れているぞ」


「いえ、忘れているわけじゃないんです」


 そう言った黒髪の子が霊装を取り出して霊術を発動する。


 すると、ガスマスクと戦闘服に身を包んだ集団が現れた。


 それらが無言で巨大なリュックを背負い、自転車の後ろに付く。


 なんだ今の霊術は!? 初めて見るぞ。得体のしれない霊術を目にし、驚愕する。


「周囲の警戒と防御はお任せください」


 そう言って金髪の子が霊装を振る。


 すると、炎で形作られた魚が大量に出現。周囲を回遊しはじめた。


 多分、敵を発見すると飛びかかる仕組みなのだろう。


 確かに、これなら周囲の警戒と防御の心配は無用だ。


 しかし、この状態を維持するのは並大抵の霊力では不可能だ。


 一体どれだけの霊気を有しているんだ。


「じゃあ、出発!」


「おー!」


 という、軽い掛け声とともに子供たちが自転車をこぎ始めた。


 まるで近所にサイクリングに行くような朗らかな様子だったが、その速度が異常だった。


 下り坂を降りるかのような速さで自転車が進んでいく。


 そして、それに追随するリュックを背負ったガスマスク集団。


 子供にガスマスク集団という不思議な組み合わせのグループは、あっという間に点となって見えなくなった。


 そんな光景を目にして私はふと思った。


 …………なんか、大丈夫そう。


 何事もなく目的を終えて、予定日に帰ってきそうな気がする。




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