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◆とあるサロン参加者
私は夜月澄香。
今年、中学一年になる。
私には悩みがあった。
自分が置かれている現在の状況が特殊なのと、持ち前の控えめな性格が相まって友達作りに苦戦していることだ。
そんな私の様子を見て、両親が雲上院家のサロンへの参加を提案してくれた。
雲上院家の一人娘である、雲上院礼香さんが主導となって最近始めた催しらしい。
参加者には非常に好評で、その噂を聞いた両親が勧めてくれたのだ。
そこなら、私にも友達が出来るかもしれない。
そんな期待を胸に参加したが、結果は惨敗。
うまく行かなかった。
サロンは大規模なため、クラブの様に趣向に合わせた集まりごとに分かれている。
といっても、いきなり放り出されるわけではない。
初参加の人は、まずは一か所に集められ自己紹介を行う。
そして、雲上院さんからサロンの説明を受けつつ、この場の雰囲気に慣れていく。
その後は、それぞれ自分が興味のあるグループへ移動する流れとなっていた。
私は、手堅くクラシックと絵画の集まりに参加してみた。
が、それがよくなかった。
その場に参加していた人たちは、本当にクラシックと絵画が好きな人たちだったためだ。
自分は軽く嗜んでいるだけ。
他の参加している方の様に、会話にのめりこんだり、盛り上がったりすることが出来なかった。
むしろ、会話が上滑りして、他の方に気を使われてしまったほどだ。
場を盛り下げてしまい、申し訳ないという気持ちで一杯になってしまった。
サロンが終わった後、改めて自分の好きなものが何か見つめ直してみる。
好きなものはある。だけど、どれも深くない。いいな、と思って楽しみはするが浅い。
そう思ってしまうと、どうしたらいいか分からなくなってしまった。
結果、サロンから足が遠のいてしまう。
もう一度参加しても、うまくいかないだろうと考えてしまい、気が重くなってしまったのだ。
すると、運営の一人であり雲上院さんの友人でもある九白真緒さんが、心配して私に連絡を取ってくれた。
内容は気分転換にお祭りに行かないか、というお誘いだった。
私は断るのも悪いと思い、二人で遊びに行くことに承諾した。
――お祭り当日。
実際に会うと、お互い名前を知っている程度で初対面に等しいため、初めは会話がぎこちなかった。
それに加え、九白さんは顔が鋭く高身長なため、側に居ると圧迫感を覚えて身構えてしまう。
私は、いつにも増して無口になり、相槌も一言二言返すのがやっとの状態になってしまった。
けど、九白さんの気遣いにより、少しずつ会話が自然にできるようになっていく。
待ち合わせ場所から、お祭りの開催場所に到着する頃には、すっかり打ち解けていた。
気が付くと、会話の流れでサロンでの悩みを打ち明けていた。
ため込んでいたものを吐き出したというより、楽しいおしゃべりの一環、失敗談や愚痴の一つとして笑顔で話せていたのだ。
それは自分にとって、なんとも不思議な体験だった。
きっと、九白さんが聞き上手で自然とそんな雰囲気になっていたのだろう。
何より、こんなに楽しくおしゃべりできたのは久しぶりだ。
そのせいで、ちょっと張り切ってしまって空回りすることもしばしばあった。
だけど、その都度、九白さんがさりげなくフォローしてくれる。
というか九白さんが凄い。
エスコートし慣れているというか、気配りが凄いというか……。
その瞬間には、あまりに自然で何も気づかない。
後で遅れて、あの時の行動や発言はそういうことだったのか、と気づくのだ。
きっと雲上院さんの側にいつもいるから、そういった気遣いも鍛えられているのだろう。
お祭りを楽しんでいる間に、私はすっかり九白さんの虜となってしまっていた。
隣にいるだけで胸が高鳴るというか、ソワソワするというか……。
平静ではいられなくなってしまった。
婚約者と一緒にいる時のドキドキとは違う。
これが推しが尊いという気持ちなのだろうか。
そんな九白さんのアドバイスにより、自分を見つめ直すことが出来た。
サロンに参加した時は、気を張りすぎて自分からハードルを高く設定しすぎていたのだ。
もっと普段通りの自分でいい。そう思えた。
気の合う友人との出会いを求めて参加したのだから、あまり畏まって遠慮するべきではなかったのだ。
そういったことに九白さんが気づかせてくれた。
お祭りの終盤に一緒に花火を見ている頃には、私の気持ちは晴れ渡っていた。
そして、もうすぐお祭りが終わってしまう。
このまま九白さんの側にずっと居たい……。けど、それは駄目だ。
彼女は運営側。
今回もスーパーバイザーのような立ち位置で、私を励ましてくれたにすぎない。
その辺りの距離感は守るべきだ。
何より、九白さんの隣は雲上院さんであるべきだろう。
私がその間に入り込むなんて、解釈不一致も甚だしい。
九白さんには、一番輝ける場所で最大限に力を発揮し活躍してほしい。
その隣に相応しいのは間違いなく雲上院さんだ。
私は、二人のそんな輝かしい姿を側で見ていたい。
……そして、私自身も次のサロンで、九白さんと雲上院さんのような関係になれる相手を見つけたい。
そう思えたし、またサロンに参加してみたいという気持ちになれた。
それもこれも九白さんのお陰だ。
彼女には感謝しかない。
――それから数日経ち、次のサロンが開催された。
私が参加する前は、大きなイベントに絡めて開催されていたらしいけど、最近はサロンのみで頻繁に開かれるように変わってきているらしい。
それは自分にとってありがたいことだった。
私は気持ちも新たにサロンに挑む。
今回は自分を飾らず、本当に好きなことの集まりを探して見せる。
そう思って、交流会の一覧を見る。
――あった!
私が胸を張って好きだと言えるものが――。
迷いが無くなった私は、足取りも軽くその場へ向かった。
到着したのは、九白親衛隊。
九白さんを慕う人の集まりだ。まさしくこの場こそが私の居場所に違いない。
という、私の予感は的中した。
参加者の人たちとの会話がとても弾むのだ。
そんな皆さんは、九白さんのことをマオお姉様と呼んでいた。
あぁ、なんてぴったりな呼び名。九白さんに相応しい愛称である。
私もこれからは、マオお姉様とお呼びすることにしよう。
それから私は時間も忘れ、親衛隊の皆さんとの会話に花を咲かせた。
そして、親衛隊の一員として受け入れてもらえることが決まった。
ああ、これほど嬉しいことはない。今日はなんて幸せな日だろうか。
と、そんな風に感傷に浸っていると、突然肩を叩かれ現実に引き戻される。
誰だろうと振り向けば、マオお姉様が居た。
何やら複雑な表情で、ここで何をしているかと聞かれたので、生きがいを見つけたと胸を張って答えた。
すると、腕を引っ張られて移動させられてしまうことになってしまう。
ああ……、マオお姉様と二人きりで手を繋いでの移動なんて、なんて役得。
手を引かれる私を見て親衛隊の皆が羨ましそうにしている。
他の親衛隊の皆さんには申し訳ないですが、こちらから働きかけたわけではないですし、これは不慮の事故。皆さん、お許しください。
移動しながらマオお姉様が、別の交流会にしなさいと言って来る。
く……、いくらマオお姉様のお願いでも、それは受け入れられません。
私が苦渋に満ちた顔で否定すると、マオお姉様は渋々承諾してくれた。
ただし、別の人を紹介するから、掛け持ちするようにという妥協案を提示してくる。
く、マオお姉様の紹介と言うのであれば、無碍には出来ません。
妥協して、掛け持ちを受け入れることにしましょう。
それに、マオお姉様が紹介してくれるという人たちにも興味があります。
一体、どんな方たちなのでしょう。
◆九白真緒
レイちゃんが開くサロンも随分と安定してきた。
最近は、レイちゃんの記念イベントに絡めずに開催しても、人が集まるようになった。
こちらとしては毎回イベントを企画しなくて済むので、ありがたい話である。
これは、普通に交流の場として定着してきた証拠だろう。
そんなサロンで、レイちゃんと共に運営として動く私のポジションは、初めの頃から変わっていない。
うまくなじめなかった人のフォローだ。
その人の性格や好きなものを見定め、気が合いそうなグループへ誘導する。
緊張で警戒が強くなりガードが固い人は、一対一での対話に時間を掛け、相手の精神をほぐしてから、より深いアプローチを心掛けている。
そして今回、私が対応したのは夜月澄香さんという子だった。
かなり構えている感じだったので、気楽に挑めるようにフォローしたつもりだ。
しかし、その結果、彼女は私の親衛隊と言われるグループに所属してしまった……。
以前から、今回のような結果に発展することは何度かあった。
そのせいで、親衛隊と呼ばれるまでの規模になってしまったわけだ。
私としては、もう少し普通のグループに所属してほしいわけで……。
親衛隊に所属した子には、こちらからもう一度接触し、別のグループを検討してもらえないかと打診している。
結果、大体が掛け持ちになって落ち着く。
件の夜月さんも、親衛隊に一点集中して視野が狭くなってしまうのはよろしくない。
なんとか、普通のグループにも所属してもらいたい。
そう考えた私は、早速彼女の手を取り、一旦親衛隊から離れてもらう。
とうの夜月さんは、うっとりした顔で上の空。
私の言葉が届いていない。
親衛隊に所属した人って皆こんな感じになっちゃうんだよね……。
く、どうしてこうなった……。
私は、すっかり様子が変わってしまった夜月さんと一緒に、新たなグループ探しを始めた。
このお話は時系列的には、少し先の話になります
次話より、もとの時間に戻ります




