112
◆九白真緒
遅ればせながら、フォーゲートの大会の打ち上げを行うこととなった。
参加者は、私とレイちゃんに、ナナちゃんとミカちゃん。
そして、ミカちゃんの護衛が後ろに控える。
それに加えて顧問の校長。そこになぜか教頭も参加する形となった。
大会で優勝した時、私たちは即、北海道に向かった。
そのため、祝勝会や打ち上げ的な催しを全くやらなかったのだ。
まあ、部員が最低人数な上、顧問が校長だからというのもあるけどね。
仮の部室に集まった私たちは、持ち寄ったお菓子とジュースで、ささやかな宴会を開くこととなった。
「いやあ、まさか優勝してしまうとは驚きだよ」
「本当だ。よくやったぞ、君たち!」
と、ほくほく顔の校長と教頭が褒めてくれる。
二人とも非常にご機嫌だ。その理由は、もちろん私たちが優勝したからではない。
我らが第二フォーゲート部の早期廃部が決定し、懐も潤ったからである。
面倒な問題がベストな形に収束したので、ニマニマが止まらないといった感じだ。
「一属性で大した力もないのに、工夫して頑張ったようだね。私は感動したよ」
などと校長が口を滑らすも、ご愛敬。
確かに大会中、さんざん工夫する羽目になった。
だけど、それは運営の妨害工作があったからだ。
妨害がなければ、単純な力のみでねじ伏せることができたと思う。
とにかく、優勝できたのはありがたい。これで次の行動に移れるというものである。
「いやあ、一年生の間に目的達成しちゃったねぇ。こうなると、この学校でやることもなくなっちゃったな」
「……そうですわね。なら、いっそ転校しますか?」
私のつぶやきを拾い、レイちゃんが転校を提案してくる。
確かにそれは良いアイデアだ。最早、ここで学べることはない。
そう考えると、一属性ということでウザ絡みしてくる連中が大量にいる場所にとどまる理由はない。
「うん、いいかもしれないね。もし転校するなら、当初の予定だった煌爛学園?」
「今から転入すると中途半端ですし、それは高校入学時の楽しみとして取っておきたいですわ。できれば別の学校にしませんか」
「そうなると、家から近い近所の学校とかかな。それなら、修業が一杯できるし……」
まさか、レイちゃんから煌爛学園への転入を止めようと言い出すとは思わなかった。
そうなってくると、特に良い案があるわけでもない。無難に近所の学校だろうか。
そんな風に考えていると、レイちゃんが意を決した表情で口を開いた。
「マオちゃん、転校先は北海道にしませんか?」
「ええ? なんでまた」
レイちゃんの希望を聞き、驚く。
「お祖母様の後を引き継ぎたいのです。高校に入学するまでの間ですけど……。それでも、やってみたいのですわ」
レイちゃんの考えを聞き、納得する。
なるほど、北海道の学校へ行きたいわけじゃなく、高校に入学するまで北海道で霊術師として活動したいわけね。
これはナイスアイデアではないだろうか。ただ、それなら北海道へ転校する必要はない。
「ふ~ん、面白そうだし、いいんじゃない。でも、それなら北海道の学校じゃなくて、テストで合格点さえとれば、通学しなくていいような琴清小学校みたいな学校を探したほうがいいかもね」
「それですわ!」
私の提案を聞き、ぱっと笑顔になるレイちゃん。
そんな風に転校の話で盛り上がっていると、校長と教頭が益々上機嫌になる。
「なに、転校するつもりなのかね?」
「そ、それは残念だな。大会優勝の選手がいなくなるのは我が校にとっても損失だなぁ……」
などと言っているが、非常に嬉しそうだ。
どうせ、一属性の人間がいなくなれば学校の評判も上がるとか何とか考えているのだろう。
と、ここまで黙って話を聞いていたナナちゃんが会話に加わってきた。
「ねえ、私もそれに混ぜてもらってもいい?」
「え、むしろ転校しちゃってもいいの?」
私たちはフォーゲートの大会優勝が目的だったが、ナナちゃんは違うはず。
こんな早期に転校してしまってもいいのだろうか。
「う~ん、人脈作りになるから行った方がいいって言われて入学したけど、もういいかなって。霊術師の資格は元々持ってるし、随伴免除証もゲットできちゃったしね。このまま在学して、霊術師の知り合いを作った方がいいのかもしれないけど、なんか合わないんだよね」
ナナちゃんの目的は、同年代霊術師の人脈づくりか。
これに関しては、はたから見ていた私でも、うまく行っていない感じがした。
ナナちゃんの属性数は五。霊術師の最上位に位置する存在だ。
だけど、家柄や所属派閥が不安定。
そのせいで、自分の下に置こうと考える連中が後を絶たず、いざこざが頻発していた。
人間関係にうんざりして、転校を考えるのも頷ける話だ。
「転校を一緒にするだけ? もしかして北海道まで一緒に来てくれるの?」
「もちろん、北海道まで」
ニヤリと口角を上げるナナちゃん。
彼女が同行してくれるなら、大幅な戦力アップだ。
こちらとしては願ってもないことだけど、長期間拘束してしまうことになる。
本当に大丈夫なんだろうか。
そんな私の考えを読み取ったかのように、ナナちゃんが話し出す。
「だって、滅茶苦茶稼げるじゃん。この間北海道に行った時だって、あんた達二人で凄い数の妖怪倒してたでしょ? 後で知って、参加できなかったのを凄く後悔したんだからね」
と、ちょっと恨めしい目で睨まれてしまう。
でもあの時は明らかに不調そうだったので、危ない所には行かせたくなかったんだよね。
「ちょっとちょっとちょっと! ちょっと待ったぁああああ!」
ここでミカちゃんが慌てた様子で割って入ってきた。
「どうしたの?」
「いや、ん~……。そんな危ない所に中学生が行くのはどうなのかなぁ……。転校もどうなんだろうなぁ~」
私たちの方をチラリチラリと見ながら、そんなことを言ってくる。
ミカちゃんとしては、転校を止めたい様子。
う~ん、期せずして彼女一人が学校に残る形になっちゃったし、そういう行動に出てしまうのも頷ける。
「ん~、どうする?」
と、ナナちゃんが私たちに視線で問いかけてくる。
「申し訳ありません。わたくし、決めましたので」
「まあ、そういうことだから。むしろ、ミカちゃんも一緒に来る?」
もう行くことは決まった。私とレイちゃんは確定だ。
ナナちゃんも行く方向で固まっているし、後は保護者である兎与田先生の許可次第だろう。
それなら、逆にミカちゃんがこっちに来ればいいという発想で誘ってみた。
「それはできんのじゃ。家が厳しいからの。だから、残ってはくれんか? 折角仲良くなったのに……、離れてしまうのは……」
ミカちゃんは今日まで四人で過ごした日々がとても楽しかったようだ。
「ごめんね。でも、学校以外でも会えるしさ……」
ミカちゃんと会うことは転校してもできる。
が、北海道へ行くには転校した方がいい。残念だが、ここは我慢してもらうしかない。
「未花様、このような者たちに執心する必要はありません。将来関わることなどありえない者たちなのですから。それより、これを機に十家に連なる者たちとの親交を深めましょう。確か、炎泉家の人間が入学していたはずです。やはり、お付き合いされる人間は選ぶべきかと」
と、ミカちゃんの護衛の一人が進言する。こっちを見る目が蔑みの色を帯びている。
そういうの、私たちがいないところで言ってくれませんかねぇ。
ミカちゃんは、そんな護衛の言葉には耳を傾けず、ナナちゃんの袖を掴む。
「ナナちゃんだけでも考え直してくれんか。何も急ぐ必要はない。北海道へ行くのは、もっと実力をつけた後でもよいではないか」
私とレイちゃんはフォーゲートの練習時、コンビで特別メニューこなすことが多かった。
そのため、ミカちゃんと一緒に練習していたのはナナちゃんだ。
だから、私たちより二人でいる時間も長かった。
立場的に部活以外での生徒の交流は少なかったし、この学校でミカちゃんと一番仲良くなっていたのがナナちゃんなのだろう。
しかし、ナナちゃんは無反応。俯いたまま、考え込んでいた。
「何か気になることでもあったの?」
私が尋ねると、はっとした顔で頭を上げる。
「あ、ごめんごめん。よく考えたらさ、どうせ北海道には行かなきゃいけないのをすっかり忘れてたのよ」
と、頭を掻きながら苦笑いするナナちゃん。
そこで、北海道という単語を耳にし、レイちゃんが反応する。
「何かご用事ですの?」




