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◆九白真緒
レイちゃんのお祖母さんが滞在している拠点に到着すると現在進行形で戦闘中だった。
近づけば近づくほど、戦況が芳しくないことが分かる。
妖怪の数が多すぎて、じわじわと押されているのだ。
「これは飛び入りで援護した方がいいね」
「そうですわね」
「じゃあ、私から行くね」
私の意見にレイちゃんが同意し、扉側に座っていたナナちゃんが霊装を取り出す。
心構えは万全である。
「ギリギリまで接近して急停止します。衝撃に備えてください」
後藤さんが警告し、ハンドルを切る。車が停止直前で曲がり、扉が進行方向に向く。
「出るよ!」
ナナちゃんが勢いよく扉を開けて飛び出す。
私たちもそれに続いた。
ナナちゃんが、霊術を放つ。広範囲攻撃の風の霊術だ。相手の数が多いので最良の選択といえるだろう。
次いで、レイちゃんが霊気放出で妖怪を倒す。なるべく遠方まで届くように射程を調節した非常に効果的な一撃だ。
二人の攻撃のお陰で、前方の密集した妖怪の集団が消滅。
次群が接近してくるまでの時間が空く。
これならちょっと溜めを作る時間を確保できると判断した私は、指揮棒型の霊装を取り出す。
そして軽く霊気を溜めた後、一気に放出した。
効果は絶大。こちらへ攻めてきていた妖怪は全滅した。
中学の入試時は、霊気放出の幅に合わせて霊装の形を変えた方が大きさを調節しやすかったが、今となってはそういった微調整は必要なくなった。
どんな大きさの霊気放出だろうと指揮棒型の霊装で事足りる。
それが可能になったのはフォーゲートの練習を頑張ったためである。
そうなると、コンパクトなサイズの方が取り回しがしやすいので、最近は指揮棒型を愛用しているのだ。
「ふう、なんとかなったね」
危機一髪といった感じだったが、割りと何とかなった。
「後何回か霊術を撃って全滅させるつもりだったのに、なんで一発で全滅させてるのよ……」
「危険な状態でしたし、早く済む分には問題ないですわ」
周囲の安全が確保されたので、ナナちゃんとレイちゃんがこちらに駆け寄ってくる。
ナナちゃんは若干引き気味、レイちゃんは当然といった顔をしている。
そんな私たちを見て、周囲の人が驚愕の表情となっていた。
「あ、あんた達、何者だ……」
「あれ……、助けたのに警戒されてない?」
なんというか、もっとこう……歓迎ムード全開で喜ばれると思っていた。
皆が私たちを見る目は、タイマーが作動した時限爆弾を発見したかのような反応だ。
「それだけ威力がキモいってことよ」
「ふふ、一撃で畏怖を覚えさせるとは、さすがマオちゃんです」
と、ナナちゃんとレイちゃんが、私の攻撃のせいで皆が引いていると言う。
しかし、それには異議を唱えたい。
「いや、私だけとは限らないでしょ! みんな攻撃したじゃん」
最後に攻撃したのは私だけど、皆で一発ずつ撃った。
このリアクションは私だけが引き起こした結果とは言えないのではないのでしょうか。
そんな風に三人で口論していると、おずおずといった感じで一人の男性が近づいてきた。
「あんた、もしかして五属性なのか?」
「いえ、一属性です。五属性はこっちですけど」
と、ナナちゃんを指す。すると、男性が困惑顔になった。
「待ってくれ、言っていることがよく分からない」
尋ねてきた人が額に手を当てて考え込み始めてしまう。
他の人たちも、話しかけていいのか躊躇しているようで無言の間が訪れる。
……これ、こっちから話しかけても大丈夫なのかな。
なんとも気まずい雰囲気である。
と、そんな状況の中、集団の中から沈黙を破る声が響いた。
「レイカお嬢さんじゃないか!」
声が聞こえた方を見れば、こちらへ駆け寄ってくる榊さんの姿があった。
「お邪魔しますわ。どうやら大変な状況だったようですね」
榊さんに返事を返すレイちゃん。
と、同時に自陣に私たちを知っている者がいると分かったせいか、周囲の雰囲気から張り詰めたものが消えていく。
「ああ。撤退しようとしていたんだが、突然大量の妖怪が現れて、身動きが取れなくなっていたんだ。本当に助かった。君たちがあんなに強いなんて思ってもみなかったよ」
「いえ。間に合ってよかったですわ」
事情を説明してくれる榊さんに、レイちゃんは微笑を浮かべて対応。
榊さんは予想外の増援で形勢逆転したせいか、興奮が冷めやらない様子だ。
「それで、なぜこんなところに?」
「もちろん、お祖母様に会いに来たのですわ。今はどちらに?」
レイちゃんがこの場に来た理由を答える。
すると、榊さんの顔が曇った。
「それが、実は……」
榊さんは、レイちゃんのお祖母さんが皆に黙って単独行動していることについさっき気づいた、と話してくれた。
「……まさか、一人で先に進んでいるなんて」
事情を聞き、目を見開くレイちゃん。
それを後方で聞いていた私たちもビックリである。なんて無茶なことをするんだ。
「気づいたのが一時間ほど前だ。そのあと、妖怪が押し寄せて身動きが取れなくなってしまった」
「すぐに追いかけないと!」
動揺したレイちゃんが声を上げる。
その気持ちは分かるけど、詳細な場所が分からない。
榊さんは何か知っているだろうか。
「どこに行ったか見当はつきますか?」
何か手がかりはないかと、聞いてみる。
すると、腕組みして考え込む榊さん。しばらく黙考した後、口を開いた。
「……前回の撤退原因となった大型妖怪を倒しに行ったんだと思う」
「その妖怪はどこに?」
「この先、道が二つに分かれ、それぞれに廃墟となった住宅街がある。そのどちらかだ」
榊さんの情報をもとに、有力な候補が二つ。一気に行き先が絞り込めた。
「片方ずつ調べますか?」
レイちゃんの問いかけに、私は首を振る。
「時間が経過しているから、助けるなら二手に分かれた方がいいだろうね……」
できれば同時進行で調べた方がいい。
ただし、それをすると戦力を分散することになってしまうけど……。
と、ここまでの会話を聞き、ナナちゃんが疑問を感じたようで、皆に質問してきた。
「ねえ。そもそもレイちゃんのお祖母ちゃん一人で、そんな所に行けるものなの? 妖怪が一杯いるんでしょ?」
そう言われると、確かにその通りだ。
今も、大人数で妖怪の群れを押し返すのが精一杯だったのに、一人で前に進めるものなのだろうか。
「逆だ。大人数だと妖怪に気づかれる。進むだけなら、少人数で隠れながらの方が妖怪に見つかりにくい。ただ、戦闘になれば周囲の妖怪に気づかれて一気に包囲されてしまうけどな」
と、榊さんが説明してくれる。
気付かれないように隠れて進めばどこまでも行ける。
問題は、見つかってしまった後のようだ。
「つまり、お祖母さんが大型妖怪と戦っていなければ、無事な可能性が高いってわけね」
大型妖怪を探している間は、身を隠しているので安全。
戦闘になっていると、危ないと。
ということは、お祖母さんが索敵中の間に追いつくのがベストというわけだ。
私のまとめを聞き、榊さんが頷き返す。
「ああ、急げば妖怪と戦う前に追いつけるかもしれん」
「となると、大人数で追いかけるのはまずいね。妖怪に気づかれて足止めされちゃう。単独で多数の妖怪に対応できる人を選抜するしかないね」
お祖母さんに追いつくためには、こちらも最低限の人数で臨む必要がある。
「そうなると、俺たちじゃ力不足だ。そうか……、君たちだけで追いかけるつもりなのか。確かに、君たちなら行けるか。なら、こちらから案内を出そう」
私の言葉から、こちらの意図をくみ取り、榊さんが話を進めていく。
「助かります。攻撃はこちらが受け持つので、土地勘のある人をお願いします」
私たちだけだと、道に迷う可能性がある。
できれば、その辺りをサポートしてくれる人を迎えたい。
そんな風に話し合いを進め、選抜メンバーが決まっていく。
そして、レイちゃんが立候補するように一歩前に出た。
「わたくしが行きます」
「じゃあ、もう片方は私だね」
二手に分かれるのだから、片方はレイちゃん、もう一方は私で決まりだ。
「私は……」
捜索メンバーが決まっていく中、ナナちゃんが言いよどむ。
その理由は分かっていた。
実はナナちゃんは、北海道に来てから不調に悩まされていた。
ずっと調子が悪いわけではなく波があるのだが、それがいつ来るか分からない。
そのため、思い切った行動に踏ん切りがつかなくなっていた。
特に今回は少人数で行くことが決まっていて、個人の負担が増える状況。
消極的姿勢が出たのは、自分が不調になった際に、同行メンバーに迷惑がかかることを考えたためだろう。
事情を知っていた私とレイちゃんは顔を見合わせ、ナナちゃんに言った。
「ナナちゃんはここに残ってもらっていい? 調子悪いんでしょ?」
「迷うのは分かりますわ。でも、ここで無理をしてはいけません」
「でも……!」
「できれば、一人拠点に残ってほしい。そうしないと、また大量の妖怪が来た場合、どうしようもない」
私たちがメンバーの選出で話し合っていると、榊さんから防衛に一人残って欲しいと言われる。
「撤退しないんですか?」
てっきり、私たちと入れ違いで安全な場所まで移動すると思っていた。
「雲上院さんや君たちが負傷した場合を考えると、この場は残しておいた方がいい。出発は君たちが戻ってくるまで遅らせる」
「それなら時間を決めておきましょう」
「そうだな。定めた時間になっても戻ってこなかったら迎えに行く」
「いや、そこは撤退するところでしょう」
榊さんが迎えに行くと言い出したので慌ててしまう。
「それはできない相談だな。雲上院さんのお孫さんと友人は絶対無事に帰さなければならない。これだけは譲れない。これは全員の総意だと思ってくれ」
榊さんがそう言うと、後ろにいた他の人たちも首肯する。
どうやら決意は固いようだ。
これは何としても時間内に戻ってくるしかないね。
「分かりました。それじゃあ、拠点の補強だけでもやっておきますか」
と、私は土属性の霊術を発動。
土を操って、拠点の周りに堀を作る。それに加え、銃眼付きの分厚い壁を作った。
車の通り道だけ残し、壁で四方を囲ってしまう。
よし、このくらいやっておけば、そう簡単に攻め落とされることもないだろう。
「じゃあ、行きますか」
「練習の成果の見せどころですわね」
私たちが出発準備に入ると、ナナちゃんが声をかけてくる。
「ここはちゃんと守っておくから、後ろのことは気にしないで」
ナナちゃんは、「絶対に守るから」と、強い決意を口にする。
これはありがたい。
後ろにナナちゃんが居てくれると思うだけで、前進に集中できる。
「うん、助かるよ」
「頼りにしていますわ」
私とレイちゃんは、お祖母さん救出のため、少数チームで予測エリアへ向かった。




