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北海道で霊術師として活動するには、専用の許可証が必要となる。
しかし、未成年では取得不可能。例外として、優秀な高校生であれば、試験を受けて許可証を得ることができる。
中学生である私たちは、随伴免除証を得ることで年齢制限を突破し、許可証を得る試験を受けようとした。
が、その必要はなかった。
いざ試験を受けようとしたら、免除証を持っているから問題ないという判断が下り、無事北海道で活動可能となる許可証を得られたのだ。
文章で確認したときは厳格なイメージがあったが、実際の判定はわりと緩くて拍子抜けしてしまった。
多分、そこまでして北海道で活動したがるのは変わり者だけだからだろう。
全体数が少ないから、トラブルらしいトラブルも起きず、ゆるゆる判定のまま今に至っているといった印象だった。
ただし、ナナちゃんだけは少し手間取った。
全ての高位霊術師に対し、北海道での活動自粛指示が出ているためだ。
そのため、高位霊術師が北海道入りする際には、別途専用の手続きが必要となる。
だけど、ここも想定を下回るゆるゆる判定ではあった。
ナナちゃんは、有名な家の出ではない。
そのため、野良の高位霊術師という括りで処理されたため、最低限の手続きで許可が下りてしまった。
これが名家の五属性とかだと、滅茶苦茶大変になるらしい。
まあ、こちらにとっては、ありがたい話である。
というわけで、準備を終えた私たちは北海道へと出発した。
メンバーは、私、レイちゃん、ナナちゃん。
それに加えて、レイちゃんの護衛が六名。
私の両親や社員の皆さんは別の仕事があるため、今回は不参加だ。
ナナちゃんの養父である先生も仕事があるので、今回は同行していない。
これだけ少人数であれば、雲上院家の自家用機でひとっ飛び、といきたいところだが、それはできない。
現地での移動手段が必要になるためだ。
向こうで車を調達する手も考えられるが、向かうのは最前線。
破損の可能性が高いので、車を借りると色々ややこしい。
それなら初めから持っていた方がいいという結論になった。
というわけで、食料や資材などを載せたワゴンでの行軍となる。
確保できた日数は移動日を含めて一週間。
往復で二~三日消費すると考えて、実際に行動できるのは四~五日だろう。
北海道へ到着後は、なるべく早くレイちゃんのお祖母さんと合流。
その後、同行の許可を得るために説得。
説得に成功すれば、そのまま滞在。時間ギリギリまで、お祖母さんのお手伝い。
参加に反対され、同行できない場合は、引き返して比較的安全なエリアで妖怪討伐をする予定だ。
お祖母さんは、最前線の一つで拠点の再構築を行っている。
事前に入手した情報では、かなり少ない人数で現地に向かったらしい。
前回の拠点崩壊で負傷したメンバーが同行できなかったためだ。
そういったこともあり、レイちゃんが心配している。
急いで北海道に行きたかったのも頷ける話だ。
なるべく早く合流し、元気そうな姿を見れば安心できると思うけど……。
道中は特にトラブルもなく、そのまま北海道に入り、函館に到着。
現地に着いてみると、拍子抜けするほど普通だった。
妖怪が大量にいて、人が住めない状況と聞いていたが真逆。
人も多く、賑やかで活気あふれる姿があった。
どうやら、この辺りは奪還に成功していて、日常生活が送れるレベルを取り戻しているそうだ。
実際に、北へ進んでいくにつれ人が減っていく。
それと同時に、土地の荒れ具合も加速していく。
人の手が入っていないため、荒れ放題なのだ。
気が付くと、人が住んでいないエリアに到達。
走っている車も私たちだけの状態となった。
ここから楔形になるようにして一般人が立ち入りできるエリアが減っていく。
そして楔形の先端に当たる部分に、レイちゃんのお祖母さんたちが構築した拠点がある。
周囲の雰囲気が変化していくにつれ、私たちの緊張感も高まっていく。
今のところ、妖怪とは遭遇していないが、いつ現れてもおかしくない気配だ。
ここから先は、より一層周囲を警戒して進んでいく必要があるだろう。
◆拠点で戦うとある霊術師
「また来たぞ!」
「くそ! 休む暇もなしか」
俺たちはバリケード越しに霊術を放ちながら、迫る妖怪を退治していく。
妖怪の群れが襲い掛かってきて、どのくらい時間が経過したのだろう。
睡眠時間が少ないせいか、あらゆる感覚が鈍くなってきている。
襲い掛かってくる妖怪を迎え撃つことに精いっぱいで、何も出来ていない。
部隊を再編成し、拠点にたどり着いたところまでは順調だった。
拠点の被害は少なく、そのまま利用できることが分かり、作戦の続行が決まる。
が、そこからうまくいかなかった。いや、むしろよく持ちこたえたというべきか。
とにかく、俺たちは窮地に陥った。理由は分かっている。人手不足だ。
前回の撤退で出た負傷者の全員復帰を待たずに、拠点の奪還を優先したことが裏目に出た。
結果、人が戻ってきたことを嗅ぎつけた妖怪どもが昼夜を問わず襲い掛かり、全く前に進めなくなってしまったのだ。
日を追うごとに状況は悪化し、疲労が蓄積していく。
「交代だ! 下がってくれ」
交代要員の呼びかけに我に返り、仮設住宅の中へ入る。
すると、中にいたメンバーが今後の方針について話し合っているところだった。
「雲上院さん、これ以上は無理だ」
「元の人数より二割減っている状態だから、持ちこたえるだけで精一杯になっている」
「一旦下がって、怪我人の復帰を待とう」
皆の視線の先には雲上院咲耶さんがいた。
「分かりました。残念ですが、ここまでですね。撤退の準備を始めましょう。明日から決行します」
「よし。みんな、準備を始めてくれ! 外にいる連中にも知らせろ。急ぐぞ」
咲耶さんの決定を聞き、榊さんが指示を出す。
どうやら撤退が決まったようだ。
早速、撤退準備を手伝おうとすると、止められる。
さっきまで戦闘中だったんだから、休憩しろと言われてしまった。
確かに少し朦朧とするし、仮眠をとった方がよさそうだ。
準備を始めている連中には悪いが、寝袋にくるまる。そして意識を手放した。
数時間後、目が覚める。
どれだけ周囲が喧騒に包まれていようと、目を閉じれば意識を失い、数時間後には自動的に目覚めるようになってしまった。
それが今回の作戦での一番の成果かもしれない。
が、今は普段より周囲が騒がしい。撤退準備のせいかと思ったが違った。
どうやら、雲上院さんの姿が見当たらないらしい。
最後の目撃情報から行き先を予測すると、単独で先に向かったという結論に至った。
今回、怪我人が復帰する前に拠点に戻ったのには理由がある。
それは、大量の負傷者を出した原因である大型妖怪だ。
見た目は、直立すると四メートルを超える熊型の妖怪である。
あれは、とにかく堅い。こちらの攻撃をものともせず、重量を活かして突進してくる。
奴の攻撃により、こちらは致命的なダメージを受け、撤退した。
が、こちらもただやられっぱなしだったわけではない。
相手にそれなりのダメージを与えていたのだ。
その傷が回復する前に倒したい。
負傷者の回復を待っていては、大型妖怪の傷も回復してしまう。
だから強引に事を進めたのだ。
だが、結果は失敗。
大型妖怪に遭遇することなく、損耗を強いられ、前進すらできない状態となってしまった。
結果、撤退が決まった。が、雲上院さんは一人で何とかしようとしたのだろう。
確かに、少人数で隠れながら進めば、消耗を抑えつつ大型妖怪と会敵できる可能性はある。
しかし、その後はどうする。
戦っているうちに、他の妖怪の増援が来ることは必至。
もし、大型妖怪を倒すことができたとしても、周囲には多数の妖怪。
大型妖怪と戦って消耗した状態で連戦し、拠点まで戻ってくることなんて不可能だ。
そのことを理解した皆は、雲上院さんを追うことを断念。撤退に専念することとなった。
が、ここにきて妖怪の攻勢が激化。
守りの手を緩めて逃走することが叶わなくなってしまった。
誰かが残って妖怪をひきつけでもしない限り、動くに動けない状態だ。
「奴ら、こっちが逃げ出そうとしているのを察知したのか!?」
「急に大量に押し寄せてきやがった! このままじゃヤバいぞ!?」
防衛と撤退準備を並行して行っていたため、交代のローテーションが崩れ、全員で迎え撃つ形になってしまう。
それでも、じわじわと押されていく。
……このままではまずい。
やはり今回の遠征計画は無理があった。
雲上院さんの力になりたいと思ったがここまでか……。
「応援だ! 応援が来たぞ!」
という誰かの声を聞き、後方を振り返ると、ワゴンが三台止まるのが見えた。
すると、扉を開けて三人の女の子が飛び出してきた。
そして、俺たちに声をかけることもなく、いきなり霊術を放つ。
初めに桃色の髪の子が、風属性の霊術で大量の妖怪を一気に蹴散らした。
それは、お手本のように完璧な術。一目で分かる圧倒的な威力。
強力無比な術が、妖怪どもを無駄なく綺麗に蹂躙する。
俺たちは攻撃するのも忘れ、少女の霊術に魅入った。
次に金髪の子が、扇型の霊装をふるう。
すると糸のように細い霊気が直線状に放出された。
前の子に比べると心もとない。なんとも貧弱な攻撃に思えた。
しかし、その予想は裏切られる。
金髪の子が霊装を振るうと、それに連動して、放出された霊気が薙ぐ。
すると、霊気に触れた妖怪はことごとく断裂。
妖怪どもが細い霊気を境界線に上下に分かれていく。
まるで風景画を無造作に裁断したかのごとき景色が展開される。圧倒的猛威だ。
なんだ、あれは……。どう見てもただの霊気放出にしか見えないのに、とんでもない威力だ。
そして最後に、黒髪の子が指揮棒サイズの霊装を適当にふるった。
途端、極大の光線が暴威の権化となって顕現する。
ありとあらゆるものが消失し、眼前の見晴らしが数秒前と似ても似つかぬものに変り果てた。
……今のは一体何だ。霊気放出なのか?
とにかく、三人のお陰で妖怪は全滅。こちらが全滅を覚悟していたのに形勢逆転となった。
しかし、喜ばしい状態になったというのに、なぜか素直に喜べない。
むしろ、若干怖い。
俺たちが何人もの力で必死に抵抗していたのに、たった三人で戦況が逆転するなんて普通ではありえない。
というか、明らかに最後の一人がおかしい。
もしかして彼女は五属性なのか?
誤字、脱字報告ありがとうございます!




