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 ◆九白真緒



 私がほっこりした視線を向ける先では、レイちゃんが随伴免除証を大事そうに掲げていた。


「フフフ、これが随伴免除証……。やりましたわ」


 いやあ、念願が叶ってよかったよ。


「さあマオちゃん、いつから行きましょうか」


「優勝したのはついさっきなのに、気が早いねえ」


「ですが善は急げといいますし……、何よりお祖母様が心配なのですわ」


「それは確かにそうだよね」


 実は、大会出場が決まった辺りで、一度レイちゃんのお祖母さんに連絡を取ろうとしたのだ。


 が、駄目だった。入れ違いになる形で、破壊された拠点の復旧に向かってしまったためだ。


 そのため電波が届かず、連絡不能状態となってしまった。


 まあ、そういった状況になるのは向こうでは日常茶飯事。


 何かあれば撤退してくるはずなので、危険な状況に陥っていることはないだろうとの予測だ。


 とはいえ、話ができないのは困った。


 お祖母さんの性格を考えると、連絡可能な場所まで戻ってくるのは、いつになるか分からない。


 つまり、このまま待っていたら、最速で随伴免除証を取った意味がなくなってしまうのだ。


 そう考えると、本格的に北海道で活動するのは後にするにしても、一度現地へ向かってお祖母さんとコンタクトを取りたい。


「明日から行きましょう!」


「うん、少し落ち着こうか。出発するのは、ちゃんと準備してからね」


「……はい」


 レイちゃんをしょんぼりさせてしまったが仕方ない。


 一応、いつでも北海道へ行けるように物資の準備は終了している。


 けど、それ以外はまだだ。色んなところに話を通しておかなければ。


 急にいなくなったら、何事かと思われるもんね。


 早速、明日から関係者に説明して回ろう。


 最後に、ナナちゃんとミカちゃんにも、お礼と挨拶をしておく。


「……っていう感じで、様子見に一週間ほど北海道へ行ってくるつもり。こうやって無事に向こうに行けるのも、二人のお陰。本当にありがとうね」


「ご協力、感謝いたしますわ」


 私とレイちゃんは、二人にお礼を言って頭を下げた。


 団体戦で優勝できたのは、ナナちゃんとミカちゃんの協力あってこそ。


 本当に助かった。向こうでお土産があれば、買ってこようかな。


「ふむ、短い間であったが、わらわも楽しかったぞ。もう、皆でフォーゲートをしないとなると少し寂しいがの」


 と、ミカちゃんが言う。


 第二フォーゲート部の活動は、大会出場まで。これにて廃部が決まる。


「まあ、部活じゃなきゃプレイしちゃダメってわけじゃないし、普通に遊べばいいんじゃない?」


 と、ナナちゃんが笑顔で肩をすくめる。


 部は解散だけど、私たちが集まることまで禁止されるわけじゃない。


 これからは普通に遊べばいいってだけの話だ。


「それもそうじゃな!」


 ナナちゃんの言葉を聞き、ミカちゃんが元気を取り戻す。


 彼女にとってフォーゲート部での活動は、かけがえのないものとなっていたようだ。


 四人で仲良くやれていたし、彼女がそういう風に思っていてくれたことは素直に嬉しく思う。


 と、ここでナナちゃんが、どこかソワソワとした様子で口を開いた。


「ねね、それよりさ、私も北海道に付いて行ったらだめ?」


「え?」


 ナナちゃんからの、意外な申し入れに驚く。


 こちらのリアクションを見て、説明不足と感じた彼女は話を続けた。


「いや、私も随伴免除証あるし。一週間って期間が決まっているなら、下見にも丁度いいと思ってさ」


「下見って?」


「私がフォーゲート部に入るのを決めた時のこと、覚えてる?」


「そういえば、北海道へ行けると分かったことで即決してくれたよね」


 あの瞬間、妙に食いつきがよくなったのを覚えている。


「そそ。これは将来の話になるんだけどさ、私、いつか北海道に行くつもりだったんだ」


「そうなの?」


 これはちょっと意外だ。でも、それならフォーゲート部に入った時の反応も頷ける。


「まあね。だって稼げそうじゃん? でも、現地の情報が少ないから、いつか調べたいと思ってたの。成人して北海道に行ったはいいけど、実際はデメリットだらけでしたってなったら、取り返しがつかないじゃん?」


「……確かに」


 北海道は妖怪の巣窟と聞く。ならば腕の立つ者にとっては、金の生る木と同義。


 ある意味、ナナちゃんらしい動機とも言える。


 ただ、本当にそんなにうまい話があるのかと、疑ってしまうのも頷ける。


 そういう意味で、下調べをしたいという理由は非常に納得がいくものだった。


「だからなるべく早いうちに、どんな場所か見ておきたくって。思ったほど美味しくなさそうだったら、別の道を考えなきゃいけないからね」


「そういうことだったのですね」


 ナナちゃんの事情を聞き、レイちゃんが相槌を打つ。


「だから、今回の大会で私も助かっちゃったんだよね。そして、また助けてもらっちゃおうってわけ」


「一緒に来て下さるなら、助けてもらうのは私たちの方だと思うのですが」


 ナナちゃんの言葉に、はて、と疑問顔になるレイちゃん。


「だってさ。一緒に行ったら出してくれるでしょ、旅費と滞在費」


 ナナちゃんが親指と人差し指で丸を作って、ニンマリ笑う。


「それはもちろんですわ。お客様として、しっかりとおもてなしさせていただきます」


「も~、分かってるじゃん。あんたたち二人がいるなら、危険地帯でも安全が確約されたようなものだし、絶対一緒に行くからね」


 レイちゃんの即答に気を良くしたナナちゃんは、彼女の肩に腕を回しダル絡みする。


 そんな調子で、しばらく酔っ払いのようなスキンシップを図ると、すっと離れた。


 その瞬間に、ぼそっと呟いたのが私の耳に届いた。


「それに、家族のために頑張るって言うんだから、協力したいじゃん……」


「え?」


 レイちゃんは何を言ったか聞き取れなかったようだが、私にはしっかりと聞こえてしまった。


 う~ん、ツンデレ。


「ん~ん、何でもない」


 何事もなかったかのように首を振るナナちゃん。


 と、ここまでの会話を聞いて、ミカちゃんがたまらずと言った感じで口を開いた。


「ぐ……、わらわも、一緒に……!」


 体を強張らせプルプルと震えながら、険しい顔で参戦を表明しようとする。


 が、それをナナちゃんがさえぎった。


「絶対無理。一週間もスケジュールを空けれないでしょ? それ以前に家の人が許してくれないじゃん」


「そんな! 全部言わなくても!」


 悲壮感たっぷりの顔で、がっくり崩れ落ちるミカちゃん。


 ナナちゃんの言葉がクリーンヒットとなり、四つん這いになったまま立ち上がれずにいた。


「まあ、危ないからしょうがないよ」


 ナナちゃんがミカちゃんの肩に手を添え、慰める。


 彼女の家の事情を考えると、どうしようもない話だ。


 でも、そこまで残念そうにしてくれているのなら、何かしたいところではある。


「じゃあさ、その代わりに、帰ったら皆で集まろうよ。お土産と土産話を持って帰ってくるからさ」


「いいですわね。時間が許すのであれば、お泊りにするのも有りですね」


「絶対! 絶対じゃぞ!」


「はいはい、分かりましたわ」


 復活したミカちゃんが、ガバッと立ち上がり、レイちゃんにしがみつく。


 彼女が低身長なせいか、二人の姿は甘える妹とそれをなだめる姉のような図に見えた。


 といった感じで、北海道から帰ってきた後の予定が決まると、そのまま現地解散となった。


 大した理由ではないが、全員で帰らなかったことには訳がある。


 フォーゲートは霊術師のみが出来るスポーツ。


 そんな大会で優勝したともなると、色々な人付き合いが発生する。


 大御所であるミカちゃんはもちろんのこと、大きい派閥に片足突っ込んでいるナナちゃんも同様だ。


 二人は、それぞれの派閥が絡む会合や会食へ参加。


 私たちはそういったしがらみがないので、帰宅。


 行き先が違うのである。


 私とレイちゃんは二人を見送った後、帰宅しようと駐車場へ向かった。


「待って!」


 すると、背後から声を掛けられる。


 振り返ると、炎泉部長がこちらへ駆けてくるところだった。


「部長?」


「お疲れ様です」


 私が不思議そうに首を傾げるのと同時に、レイちゃんが折り目正しく挨拶する。


 それに釣られて私も、慌てて頭を下げた。


「残っていた二人に聞いたら帰ったと言うから、慌てたわ。改めて、優勝おめでとう」


 走ってきたせいか、軽く息を弾ませた部長からお祝いの言葉を頂く。


「ありがとうございます。その、部長と部の皆さんにはご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでしたわ」


「すみませんでした」


 ここは筋を通して謝っておく。


 私たちが頭を下げたのを見て、部長は気にしなくていい、と首を振った。


「貴方たちもレギュラー選抜試合に参加できなかったんだし、おあいこよ。それに、貴方たちの実力を見抜いていれば、起きなかった問題だわ。つまり私の責任よ」


「それでも、混乱を招いてしまったことは確かですわ」


「レギュラーの方で試合に出られなかった人もいますしね。後日、部室に伺うので謝罪させてください」


 かなりの無茶をしたので、第一フォーゲート部の皆さんには迷惑をかけてしまった。


 後で、レギュラーの人にも謝りに行った方がいいよね。


「部員には私から伝えておくし、そこまで気にしなくていいわ。そもそも、貴方たちは優勝したのよ。誰も文句なんて言えないわ。それに知ってる?」


 と、部長が問いかけてくる。


「何のことでしょう?」


 疑問顔でレイちゃんがこっちを見てくるも、私も知らないので首を横に振る。


「第二フォーゲート部と第一フォーゲート部で、一位と二位を獲れたから校長が大喜びなの。しかも、第二フォーゲート部を鳳宮さんが創設して、一属性を率いて優勝に導いたというストーリーで周りに喧伝しているのよ」


 子供ながらに、柱の当主を務める鳳宮未花が先頭に立って部を設立。


 さらには一属性の二人を鍛え上げ、優勝する。


 何とも耳に心地よいストーリーだ。


 しかも、それを校長が率先して推し進めたとなると、自分の手柄ともなりえる。


 抜け目のない動きである。


「まあ、それは初耳ですわ」


「私たちの印象が薄くなるし、好都合じゃない?」


「ええ。訂正は控える方が賢明ですわね」


 本来なら事実と異なるから、声を上げるべきところだ。


 が、今回に限って言うなら、その嘘に乗っかった方がメリットが大きい。


 一属性の私たちが活躍して優勝したとなれば、余計なヘイトを抱えることになる。


 それらをミカちゃんがやったということになれば、こちらへの注目が薄れてくれる。


 これからの活動を考えると、非常に都合が良い展開である。


 校長の思惑とは違うだろうけど、高采配だ。


 このことは後でミカちゃんに話して、了承を得ておこう。


「ふふ、謙虚なのね。いえ、したたかなのかしら」


「わたくしたちは目的さえ果たせれば、それで良いのです」


「そういうわけで、明日から北海道へ向かう準備をしなければならないので、これで失礼しますね」


「ごきげんよう」


 私たちは挨拶し、その場を立ち去ろうとした。


 けど、部長が前に回り込んでくる。


「待って」


 部長に引き留められ、「何か?」と、首を傾げるレイちゃん。


 一通り話せたと思ったけど、まだ用事があったのかな。


「……貴方達に謝りに来たの。後半のホール……、あの時私は運営の不審な行動に気づいていたのに、何もできなかった。見て見ぬふりをしてしまったの。本当に、ごめんなさい」


 そう言うと部長は深々と頭を下げた。


 大会時、第七ホールから第九ホールまでゲートが不自然な動きをした。


 そのことに気づいていたけど、何もできなかったと部長が謝ってくれる。


 でもまあ、あれは仕方ないんじゃないだろうか。


「結果は変わらなかったのですし、お気になさらないで下さい」


「一選手で運営に意見するなんて無理ですよ。それに何とかなったしね?」


 結局優勝できたし、いいよね、とレイちゃんに視線を向ける。


「ええ。あまり気に病まないで下さいね」


 レイちゃんも私と同意見で、逆に部長を気遣った。


 あの時、不正が行われるも、他の人間はそのことを当然と思い、むしろ歓迎する雰囲気があった。


 しかも、それを行っているのが大会運営。


 そんな状況で中学生が一人で立ち向かうのは、とても難しいことだろう。


 それに加え、部長は第一フォーゲート部を束ねる身、こちらに肩入れするような行為は安易にできない。


 そもそも、部長たちが妨害してきたわけじゃないし、そこまで気にしなくていいと思うけど。


 わざわざ謝りに来てくれるなんて、いい人である。


「部屋に残っていた二人と同じことを言うのね。まったく、貴方達はあきれるほど器が大きいわね」


 部長は肩をすくめて、微苦笑を浮かべる。


 と、ここでレイちゃんが洋扇で口元を隠した状態で、すぐさま否定する。


「そんなことはありませんわ。もし、優勝が取り消しになっていたら、あらゆる手を使って圧力を加えていたと思いますし」


「え」


『圧力』という言葉を聞き、身を固くする部長。


「そうだね。こんなところで足踏みしていられないし、弱みを握って脅迫くらいはしてたかもね」


 なるべく短期間で北海道へ行くために、やれることは全てやっていたと思う。


 そんな私たちの言葉を聞き、明らかな動揺を見せる部長。


 どうやら、私たちが思っていたほど善い人じゃなくて驚いたようだ。


 まあ、こう見えて、悪役令嬢とその取り巻きですから。


「そ、そうなのね……。それでも、貴方達のような人が北海道へ行ってくれることを心強く思うわ。本当は私たちが、やらなければならないことなのに……。感謝しているわ」


「それに関しても申し訳ないのですが、わたくしたちは北海道のために何かやるというわけではありませんの。あくまで身内のため。残念ですが、部長のご期待に沿えることはないと思いますわ」


「それでも、よ。自分は指をくわえて見ていることしかできないから、少しでも可能性を感じると嬉しいの」


「北海道へ行くのは、私たちだけですし、焼け石に水っていうか。あんまり期待されると、こちらが申し訳なくなってきますよ」


 大人数で行くわけでもないし、あまり期待されても困る。


 ぶっちゃけ、大した変化は望めないだろう。


「そうね。人に頼ってばかりでは駄目ね。私もいずれ行くわ、北海道に」


「それがよろしいかと思います」


「応援しています」


「ありがとう。貴方たちも気を付けてね」


 という感じで、炎泉部長とはお互いに鼓舞する感じでお別れとなった。


 さあ、これから北海道だ。




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