表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/148

104 

 


 ◆とあるフォーゲートコーチ



 俺は三沢。


 小遣い稼ぎのために、金持ちのガキのコーチを引き受けた守銭奴だ。


 今日は、そんなガキたちの晴れ舞台である大会の観戦に来ていた。


 俺の生徒である九白が、今日初めて打ったショット。


 第一ホールで放ったファーストショットを見て、ギャラリーは静まり返った。


 まあ、そうなるよな。俺は予想通りの展開を目にし、自然と口元が緩む。


 まだ移動していなかった成田の様子を見れば顔面蒼白。


 血の気が抜けて真っ白になっていた。


 そんな光景を見て、自分の苦労が報われたことをしんみりと実感する。


 今日まで本当に大変だった。


 強力すぎる霊気のせいでショットがまともに打てないプレイヤーのコーチング何て初めてだった。


 どうすればいいか分からないまま、手探りで指導を続ける毎日。


 焼き切れたり、破裂したりするボール。


 芝が燃えたり、地形が変わったりするコース。


 今まで経験したことのないトラブルの連続。


 それでも、ひたすら分析し、辛抱強く指導を続けた。


 結果、九白と雲上院はとんでもないプレイヤーへと成長を遂げた。


 いや、元々才能があったのだ。


 霊気が強すぎる弊害が出ていただけで、風の読みや、照準は正確無比。


 ショットに最適な霊気を放出できるようになった九白に敵はいない。


 そんな風に感慨に浸っていると、雲上院の番になり、ショットを打った。


 またもや、無言の沈黙がリアクションとなって返ってくる。


 雲上院も九白と同様のプレイができると言って過言ではない。


 九白に比べればショットの乱れや狙いの甘さがあるが、誤差の範疇だ。


 今大会は九白と雲上院の独壇場となることは間違いない。


 それに加え、残りのチームメンバーである兎与田と鳳宮も、かなりの逸材だ。


 二人とも霊力が高いため、強いショットを打つことができ、コントロールも申し分ない。


 九白と雲上院と比べると、上位プレイヤーの範疇に収まる力量だが、それは比較対象がおかしいだけ。


 他校の選手と比べれば、上位十人には入る腕だ。


 こういった学校の大会では、生徒が卒業していき毎年レギュラーが代わる。


 そういったことを考えると、この四人でチームを組めたのは幸運以外のなにものでもない。


 こんなメンバーが揃うことは、この先十年はないと言い切れる。


 そんな四人がチームを組んでいるのだ。ここから先、峰霊中学の快進撃を止めることは誰にもできないだろう。


 そう確信した俺は、余裕の表情でプレイを見守っていた。


 そんな中、異変は起きた。


 第七ホールで九番目のチームがプレイを終えたところで、ギャラリーに移動指示が出たのだ。


 かなり強い口調でコースからの退去を促され、渋々という感じで観客が移動していく。


 なぜ、ギャラリーを無理やり動かす?


 そもそも、まだ九チームしか打っていない。


 残り一チーム、俺が指導した峰霊中学校の第二フォーゲート部が残ったままだ。


 違和感を覚えた俺は、物陰に隠れて運営の監視をやりすごした。


 フォーゲートのコースは木々に囲まれているため、簡単に身を隠すことができる。


 とはいえ、学生の大会中に運営の目から逃れるために隠れることになるとは……。


 俺は身を潜ませたまま、九白たちがコースで打つのを見守ることにした。


 九白がティーグラウンドに立ち、ショットを打つ。


 すると、打球がゲートのゲートポストに接触。ボールがグラウンドに落下した。


「っ! やりやがった……」


 一見、きわどいコースを狙いすぎたために起きたミスのように見えるが、違う。


 ゲートの方が動いてゲートポストに接触したのだ。


 完全な不正。妨害行為だ。


 しかも、ギャラリーを移動させて、ゲートを動かしたということを考えれば、主動は運営そのもの。


 ……最悪だ。


 学生の大会だぞ? まさか運営がここまでやってくるとは思いもよらなかった。


 そして、次のホールでも同じことが起きた。


 九白が打った後にゲートが下に縮み、ボールがその上を通り過ぎたのだ。


 あれではゲートを潜ったことにならない。一旦、後ろへ打って再度ゲートを潜りなおす必要がある。


 しかし、あれだけあからさまな妨害行為にあっても、九白はそれほど動揺していなかった。


 前のホールも、今回のホールもゲートが移動することを考慮してショットを修正。


 三枚抜きのような芸当はできなくなったが、高スコアを維持している。


 また、九白が妨害の種を明かすので、次に続くチームメイトたちは対策してショットを打つことができていた。


 普通に打つよりスコアが落ちるが、大幅な下落には至っていない。


 結果、妨害にあっても一位を堅持。二位との差が少し縮まったが、それでも大差。


 痛快な結果となった。


 が、迎えた第九コースの妨害は常軌を逸していた。


「……どういうつもりなんだ?」


 第一から第三ゲートが収縮しながら左右に高速移動し、最終ゲートが前後に揺れているのだ。


 なんだこれは……。


 初めからクリアさせる気があるとは思えない。


 あそこまで難易度を上げてしまうと、大会の進行にも影響が出るのではないだろうか。


 他のチームがプレイを終え、九白たちが第九ホールをクリアするのを待つことになる。


 ……そうか、棄権させる気なのか。


 ここで沼にはまらせて圧をかけ、プレイの続行を諦めさせるつもりだ。


「ふざけやがって……」


 俺は腹の底から強烈な怒りを覚えた。


 当然だ。あいつらの努力を一番知っているのは俺だ。


 四人全員、今日のためにひたすら練習を重ねてきたのだ。


 それが、何の理由があってこんな目に遭わなければならない。


 携帯端末で、ことの一部始終を撮影し後で暴露してやろうか。


 義憤に駆られた俺は、悪事を暴く策を巡らせた。


 そんな時、軽快なショット音が聞こえ、我に返る。


 九白が打ったのだ。


 俺は慌てて顔を上げ、ボールの行方を追う。


 視界にボールを捉えた瞬間、俺は目を疑う光景を目撃した。


「は?」


 一打。九白が打ったのは、一打だけ。


 そのたった一打が、収縮しながら高速移動するゲートを三枚連続で抜けた。


 打球は止まらず、後方へ反りかえって戻るところの最終ゲートのセンターへ命中。


 ギャラリーが全くいないホール全体に小気味のいい音が響く。


 俺は、目の前で起こったことの意味が理解できず、しばらく黙考してしまう。


 すると、またもや軽快なショット音が聞こえてくる。


 今度は雲上院が打ったのだ。


 打球は同じ軌道を通り、最終ゲートのセンターに命中。


 少し前に見たことと同じことが起きた。


「ははっ、嘘だろ?」


 目の前で起きたことが信じられず、思わず呟いてしまう。


 あんなコース、プロだって打数を刻まないと攻略できない。


 それを一打でクリアするなんてありえない。


 いくらなんでもおかしいだろ。


 あいつら、なんてショットを打ちやがるんだ!


 まさか、他の奴も……。


 と、集中してことの成り行きを見守ったが、奇跡のようなショットは雲上院までだった。


 二人とは打って変わって、兎与田と鳳宮は堅実に打数を刻んでコースをクリアしてみせた。


 いや、それだけでも凄いことだ。


 前の二人のショットが異常で霞んで見えたが、プロ顔負けのプレイだ。


 結果、二位との差が縮まるも一位を守ることとなった。


 迎えた最終ホール。


 第十ホールはギャラリーが移動していなかった。


 そのため、妨害工作はなし。


 そうなると、全員のショットが火を噴く。


 ガチンコの実力勝負で、あいつらが負けるわけがないのだ。


 最終ホールは、二位との差を広げる形でフィニッシュ。堂々の優勝となった。


「……まったく、とんでもない奴らだぜ」


 そう呟きながら、俺は録画したデータをコピーして自宅に転送。


 きっちりバックアップしておいた。


 この録画データを使えば、不正を追及することができる。


 だが、今のところ使うつもりはない。


 悪事を見逃すようで気分は良くないが、途中で思いとどまった。


 九白たちが、この大会に出場した理由を思い出したからだ。


 もし、不正が認められれば、大会そのものがなかったことにされる恐れがある。


 運営に不備があったとして、九白たちの優勝が取り消しになる可能性が考えられるのだ。


 そうなれば九白たちの目的は達成されない。


 彼女たちの今日までの努力も無になってしまう。


 それだけはできない。


 なにより、彼女たちの痛快なプレイが俺のモヤモヤした気持ちを吹き飛ばしてくれた。


 賞状を受け取り、皆で抱き合って喜び合う姿を見ていると、負の感情が一掃されていく。


 このデータは雲上院の父親にでも渡しておけば、有効利用してくれるだろう。


 そう確信した俺は、優勝を祝いに皆の下へ向かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ