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――今度は、ゲートが地面に沈むように縮んだ。
まるで、ゲートがしゃがんでボールをかわしたかのような挙動だった。
結果、ボールがゲートの上を飛び越える形となり、打数を刻んで打ち直す必要が出てしまった。
「審判! 今、ゲートが下に沈んだように見えたんですけど」
「この辺りは湿度が高い。そのせいで遠くの景色が揺らぐんだ。とはいえ、君の見え方は異常だ。棄権して医務室に行くか?」
「…………いえ、緊張からくる一時的なものなので大丈夫です」
「そうか。体調不良なら、すぐに報告するように」
「分かりました……」
今回で二度目。しかも、審判の対応が完全にクロ。
間違いなく確信犯だ。まさか、運営サイドが仕掛けてくるとは……。
こちらとしては、素行の悪いやんちゃな学生がイタズラしてくる程度を想定していたのに。
これでは、不正を報告して審議にかけることも叶わない。
それにしても、あのゲート、伸縮の仕方が非常にスムーズだった。
あれは専用の機構が取り付けられているというより、霊術によるものだと考えるべきだろう。
ゲート自体が土属性か木属性で作られており、直前で伸縮する仕組みなのだ。
審判もグルのため、不正の申告はスルーされてしまう。
それどころか、体調不良と判断されて強制棄権にされかねない。
かといって、ゲートの動きを止めるようなことをすれば、不正な行動をしたとして退場処分となるのがオチだろう。
私は対策を考えながら、レイちゃんと入れ替わる。
「聞こえてた?」
「はい。異議を申し立てるのは危険ですね」
私と審判とのやり取りを聞いていたレイちゃんは正しく理解していたようだ。
「だから、ギャラリーがいなくなったんだね。運営が強制的に移動させたってことかな」
「そういうことじゃな。わらわがおるのに、よもやこのようなことをするとは」
これにはナナちゃんとミカちゃんも、さすがに驚いている様子。
「マオちゃんたちには悪いけど、一属性がぶっちぎりの一位を取ることが許せないってことだろうね。ここまで残った時点でベストテン入りは確定だから、一位以外で満足しろってことなんじゃない?」
と、ナナちゃんが妨害の意図を予測する。
確かに、ここまでくればベストテン入りは確実。
それだけの成績であれば、ミカちゃんに対しても面目が立つと考えたのかもしれない。
だけど、こちらとしては優勝しないと意味がないんだよねぇ。
さて、どうしたものか。
「ここまであからさまなことを何度も仕掛けてくるとはね……。あと二コースあるけど、最後の第十ホールはギャラリーが残っているよね?」
「そうだね。そこで順位が決まるし、カメラマンの撮影も入る。さすがに観客の移動はできないと思う」
私の問いにナナちゃんが頷く。
「なら細工できるのは、次の第九ホールまでか」
カメラと、ギャラリーがいるところで工作は仕掛けてこないはず。
つまり、妨害工作は次のホールで終わりだ。
「それなら案外なんとかなるかもしれんのう。前のホールでは打数を刻むことになったが、最終ゲートは全員センターに当てておる。序盤の貯金が効いていて、トータルスコアにはまだまだ余裕がある。ここと第九ホールを安全重視で刻んでいっても、十分お釣りがくるはずじゃ」
「うん。まだまだ射程圏内だね」
打数が増えたが、まだスコアは問題ないと、ミカちゃんとナナちゃんが言う。
確かにその通りだ。最初から周りを気にせずに攻めまくったのが功を奏した。
ここからは、慎重さ重視のプレイに変更すれば、貯金を活かして一位をキープできる。
というわけで、攻めたショットは抑えて正確さを重視。
きっちりとゲートを通過させることを一番にした。
結果、それほどスコアを乱さず第八ホールをクリア。
第十ホールはギャラリーがいると思われるので、細工が仕込まれているのは次の第九ホールが最後と思われる。
私たちは、静寂が支配する無人の第九ホールへ足を踏み入れた。
そこには――。
「こ……、ここまでやるか」
――最早なりふり構っていられない、そんな運営の思いが感じ取れるぶっ飛んだ光景が眼前にあった。
なんと、第一から第三ゲートまでが上下左右に伸縮しながら激しく左右に移動していたのだ。
それに加え、最終ゲートはヘッドバンギングでもしているかのように大きく前後に揺れている。
誰もいない無人のコースで、四つのゲートが一心不乱に踊っていた。
かなりシュールな光景である。
こんなもの、フォーゲートじゃない。こんなゲート、テレビ中継でも見たことがないよ。
というか、私たちが史上初の挑戦者になるのではないだろうか。
私たちが呆然と第九ホールを見つめていると、残っていた第一フォーゲート部の面々がニヤニヤしながら通り過ぎていった。
きっと私たちの驚く顔が見たくて、ギリギリまで待っていたのだろう。
そんな中、部長だけは苦々しい顔で視線を逸らしていた。
第一フォーゲート部を見送った後、コースをもう一度見た私は一言。
「これならいけるかも」
「そうですわね。これならなんとか……」
と、私の言葉に続くレイちゃん。
どうやら、私と同意見の様だ。
しかし、ナナちゃんとミカちゃんはこちらに懐疑的な視線を送ってくる。
「ねえ……、どこをどう見て、そういう判断ができるわけ?」
「若干引くのう……」
むう、味方からとは思えぬ言葉の数々。
だけど、こちらには行けるという確信がある。
「二人は慎重に刻めばいいよ。私たちは攻めるね」
「ふふ、策士策に溺れるとは、このことです」
レイちゃんが洋扇で口元を隠し、上品に笑う。
「……いや、溺れてないと思うけど。明らかに今までで最高難易度でしょ」
「ゲートのあの動きを見れば一目瞭然。製作者の絶対十打は刻ませようという強い意志を感じるのじゃ」
確かに、このコースからは妨害者側の“ここで食い止めたい”という、強烈な思念を感じる。
が、それとコースの難易度とは別問題なのだ。
ナナちゃんとミカちゃんがコースの難易度について力説していると、レイちゃんがやれやれといった様子で肩をすくめた。
「二人とも分かっていないようですね。マオちゃんがミスをしたのは、ショットを打った後にゲートが動いたからです。打つ前から動いているのなら、それに合わせて打てばいいのです。つまり、難易度は自ずと下がるわけですわ」
レイちゃんの言葉を聞いても、二人は納得できない様子だった。
「壊れた反復横跳び機みたいな動きをしてるのに?」
「合わせて打つとは……?」
ナナちゃんとミカちゃんは、腕組みして考え込み始めてしまう。
ここはさっさと打ってしまった方がいいだろう。
「まあ、見ててよ」
私は、そう言うとティーグラウンドへ向かった。
このコース、一見すると今までで一番難易度が高いように見える。
しかし、それは錯覚なのだ。
レイちゃんが言ってくれたが、今までミスしたのはショットを打った後にゲートが動いたから。
事前に動いているのなら、それに合わせて打つことができる。
多少ゲートが縮もうが、動こうが関係ない。
むしろ、ゲートが左右に動くことによって、ゲート同士が直線状に重なる瞬間が発生してしまっている。
今までのゲートは位置が固定されていたため、場所によっては打数を刻まざるを得ない場面があった。
しかし、このコースはゲートが動くことによって、全てが台無しになってしまっている。
レイちゃんが言った策士策に溺れるというのは、まさにこのこと。
ぶっちゃけ、普段やってる射撃訓練の的の方が小さいし、高速で動いている。
大きな的を四枚貫通させるだけ、と思えば容易い。
残念だが、私とレイちゃんに対しては失策なのだ。
高スコアを確信した私は、緩む口元を引き締め、ティーをセット。
目を閉じて深呼吸したあと、小さな霊装を構えた。




