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シャンデリアと乙女




「まずは、私を下ろしていただけませんか?」

「まずは?」



穏やかな微笑みでそう問い返され、こちらも負けじと微笑んだリゼットは、厳かにエリシアの方を見た。

彼女について、リディウスがあれこれ話していたが、今夜が王宮で舞踏会が行われる夜で、そこで、リディウスがエリシアをエスコートしていたのは間違いない。



エリシアは、リディウスを後見に得られなかった事で、その扱いが紛糾した来訪者である。


リゼットが、彼女が心を通わせていたというリディウスを奪い取ってしまったせいで、歴代最上位と謳われる程の力を持つ来訪者でありながら、後見人が決まらなくなってしまったのだ。


様々な議論や提案の後、エリシアはこの国の王宮預かりとなり、あくまでもこの措置は暫定であるという注釈付きではあるものの、現在は国王であるハリアードが後見を務めている。


けれども、王であるハリアードが、今回のような王宮で開かれる舞踏会でその同伴者を務めるのは難しい。

何しろハリアードは未婚の王であるし、なぜだか未だに王妃候補を定めていないともなれば、舞踏会で彼の隣を任されるのは、ゆくゆくは王妃にと望まれるこの国の高位貴族の娘たちだ。


その結果、王家の預かりであるエリシアに相応しいエスコート役がリディウスだけになるという仕組みは、成る程と思わせるものであった。

エリシアをリディウスに任せる為の、理由と環境作りだったのだろう。


とは言え、儀礼上、エリシアが王弟達とダンスを踊る事もあったが、彼等には妃がいるので、せいぜいが一回止まり。

となると、エスコート役のリディウスが会場に戻らなければ、エリシアも今夜の舞踏会の続きを楽しめないという事になる。



「まだ、舞踏会はこれからの時間ですよね?ひとまず、皆様は王宮に戻られてはどうでしょうか」

「それはやめておこう。君は先程から、窓や扉を見て逃走経路を計算し続けている事に、自分では気付いていないんだろう」

「う、美しい夜ですから、ついついお外を見てしまいますね!」



そう誤魔化したリゼットだったが、窓の外の夜は例えようもない美しさであった。


しゃわりとこぼれるような星の光で、屋敷の庭園の花々が、けぶるような光を帯びている。

それを取り巻く夜の光の向こうには、祝福を宿した宝石のような、美しい王宮が見えた。


これ程までに夜が明るいのは、星明かりの精霊の慶事だからだろうかと考え、それを受け入れる訳にはいかないリゼットはぎくりとする。

抱き上げられているので、こちらの反応がとても伝わり易い筈だ。

何を見て慄いたのかが伝わってしまったのか、リディウスが微笑みを深める気配があった。



「舞踏会の会場に……」

「今夜は戻るつもりはない。………ハリアード、君達は、そろそろあちらに戻ったらどうだ?」

「個人的に、こちらがどう着地するのかもかなり気になるが、そうだな………。ところで、お前が不在にするとなると、王宮の守りが手薄にはならないか?」

「悪いが、今夜は別件を優先するつもりだ」

「だろうな……。隣国からの客人達がいるから、出来れば戻って欲しかったが………」



そんなやり取りを聞いたリゼットは、焦り始めた。

このままリディウスだけがこちらに残るような口ぶりだが、せめて、途方に暮れたように立ち尽くしているエリシアを、王宮まで送り届けるべきだ。

一緒に過ごせば心も動くだろうし、リゼットは、その隙にここから脱走出来る。



「リゼット、念の為に重ねて言うが、私は、王宮には戻らないからな」

「いいですか、リディウス様。少しばかり紛らわしい物が魔術で付着しましたが、あなたは、エリシア様が大好きだったのでしょう?そんなお気持ちを胸に、こちらの物珍しい来訪者については後回しにして、すぐさまこの手を離して舞踏会にお戻り下さい!!」

「………リゼット、ここは私の屋敷なのだが?」

「で、では、森にお帰り下さい!」

「……………森?」

「だってあなたは精霊でしょう?精霊は、森に住んでいるものです!!」



なぜ、こちらを覗き込む眼差しに、これまでのリディウスに見たことがないような執着が見えるのだろう。


どこか仄暗いとさえ感じてしまう光を孕むような瞳は、人間の瞳とは違う美しさだ。

その瞳を見返すと息が止まりそうになり、混乱したままそう言ったリゼットに、星明かりの精霊はくすりと笑った。


残念ながら、夜と星の系譜の精霊なので、森には住んでいないんだと大真面目に説明され、リゼットは祖国で隣人だった精霊達が森の系譜の精霊だった事を思い出した。



「森には、………住んでいないのですね」

「やけに森に拘るな。……それで、どうして君は、私に自分が対だと知られないようにしていたのかな?」

「………まさか、ここまでの経緯を見てこられても、まだ分からないのですか?」

「分からないから聞いているのだが………」

「あなたはエリシア様が大好きで、この屋敷の方々は私が大嫌い。そんなところに、暫定的に対である事が判明したくらいで、留まりたいと思いますか?」


怪訝そうな表情になりながらそう言えば、リディウスは、微かに眉を持ち上げた。

優しく微笑んではいるが、何とかしてこの拘束を解こうとしているリゼットがどれだけじたばたしても、その腕はぴくりとも動かない。



「………そうか。だが、私は君の後見人で、そもそも特定の女性を選んだ事は一度もない。こうして君を手放すつもりはないと宣言した以上、ここからはもう出られないから諦めて貰うしかないだろう」

「出られない………?」


その、若干背筋が寒くなる言い方は何だろうかとふるふるしていると、リディウスはなぜか、その言い方では足りなかったと思ったらしい。


「対ということは、伴侶だ。逃すつもりはないぞ?」

「あああ、そういうところです!!だから嫌なのだ!私は、恋愛結婚がしたいのです!!」

「…………ん?そうなのか?」

「人間の貴族階級なら政略による婚姻もありますが、幸いにして、私には、こちらの国で負うべきそのような義務はさっぱりありません。折角の自由なのに、対だからそうしたというようないい加減な理由で、この針の筵に置かれ続けたいと思う訳がないでしょう!」

「ふぅん………」



納得したのかしていないのか分からない表情で考え込んだリディウスに、こそこそと話しかけてきたのはハリアード王だ。

リゼットは初対面なのだが、鷹揚な気質なのか、どうにも親しげな口調である。


「…………お、おい。それをもう言うな。有り体に言えば、俺の、朝からの執務が立ち行かなくなるからやめてくれ!!」

「知った事ですか!見ず知らずの土地で、保護された翌日にあんなお披露目にぽいされて、そこから、自活出来ると言っているのに軟禁された挙句のこの冷遇の半年間ですよ?!こちらこそ、有り体に言えば、こんな国はどうなろうが知った事ではありません!………リディウス様、対のお役目は辞退させていただきますので、どうぞ私を解放して下さい!!なお、これ迄にかかった諸経費は、働いてお返しします」

「おかしな事を言うな。対である事は変えられないのに、そう言われて、離せば逃げるであろう君を離す訳がないだろう」

「…………くっ。………ほ、ほら、大好きなエリシア様がいますよ?夜会用のドレスを着ておられて、何て美しい方なのでしょう。こんなくしゃぼろな私より、あちらのご婦人の方が良いに決まっているので、あちらに引き取られて下さい」

「………リゼット、私は拾われた獣か何かなのかな?」

「獣除けで追い払えるなら、とっくにそうしていました!!」



ここで、リディウスはにっこり微笑み、背後の王達を振り返った。



「そろそろ帰ってくれるだろうか?どうも、リゼットの説得に時間がかかりそうだからな。これから、伴侶とじっくり話をしようと思う。何なら、逃げ出せないようにしておかなければいけないからな」

「…………あ、ああ。そうだな。明日の執務には、………」

「出る訳がないだろう」

「……………そうか。一応、隣国の王族が訪問中で、かなり忙しいんだがな。そうだよな………」

「リディウス様、………え、」



ここで、思わずといった様子でこちらに華奢な手を伸ばし、リディウスの袖を掴もうとしたエリシアは、その手を振り払われた。


呆然と美しい薔薇色の瞳を瞠ったエリシアを、リディウスは、凍えるような瞳で一瞥する。



「帰れと言わなかったか?そもそも、私は、君をこの屋敷に招いていない。ハリアードが勝手に転移したのは、彼には友人としての訪問を許していたからだ」

「エリシア様、この方は素直ではないだけです!負けずに受け止めて差し上げて下さい。何なら、ハムと胡瓜のマスタードソースなサンドイッチを与えると、この生き物は落ち着きますよ!」

「私の好物を知っていてくれたのか。それは嬉しいな」

「ぎゃ!なぜこちらを見るのですか!!エリシア様は向こうにいます!」

「……………ところで君はなぜ、私が、この人間を好いているという誤解を?」

「…………大好きですよね?」

「立場上、同行する事が多かっただけだ。君が対だと思わずとも、そのような執着は一度も向けた事はない。彼女にも、周囲の思惑は政治的な意味合いもあるので都度否定はしないが、私にはそういう感情はないと説明してある。………君は、度々その境界を越えようとしたから、何度かそのように説明してあった筈だな」

「………っ、ですが………」



何かを言いかけ、エリシアは涙を浮かべて俯いた。

今のやり取りからすると、リディウスにとっては、あくまでもお役目の上でのエスコートだった訳だ。


たいへん紛らわしいが、確かに、有能な人材を国外に流出させないようにと、エリシアの相手が決まるまでは、リディウスがそのお相手かのように振る舞うという事もあったのかもしれない。

だが、国王ですら両想いだと思っていたようなので、残念ながらリディウスと周囲の間には、重大な認識の差異があったのだろう。



(でも、リディウス様がそのように考えて甘んじていたとしても、………エリシア様は、本当に想いを寄せておられたのよね?)



だとすればそれは、向けられた想いはあったものの、リディウスは受け取らなかったという事になる。



「……………そんな。………こんな美しくて可憐なお嬢さんが駄目なら、他の誰が、私からこの精霊を引き離してくれるのですか?」

「諦めることを推奨する。私は、これでも一途な方だからな」

「先程から心よりご辞退させていただくと伝えているので、それは、決して感じのいい主張にはなりませんからね?!」

「はは、リゼットは元気だな」

「伝わらない?!……くっ、種族の違いの弊害がこんなところに!!」

「…………ハリアード?まだいるつもりか?」

「っ、すまん。すぐに退出する!」



もう一度、凍えるような視線を向けられ、ハリアード王は慌てて後退した。

瞳に涙を浮かべて震えているエリシアの腕を掴み、強引に後ろに下がらせる。


先程から一言も喋らなくなったディラムは、国王が帰りたがっている事にすら気付かないのか、玄関までの案内をするでもなく、途方に暮れたように立ち竦んでただ震えているばかりだ。


その様子に少し項垂れ、ちらりと部屋の奥を見たハリアードは、もうぴくりとも動かなくなった騎士を一瞥し、溜め息を吐いた。

多分あれも、こちらで引き取った方がいいのだろうと考えたのがよく分かる表情で、額に手を当てていた。



床に突っ伏したまま動かない騎士は、リディウスの対応を見ていると、この屋敷に置いておけば、最悪、殺されてしまう危険もあった。

リゼットを傷付けたからという以前に、高位の人外者の屋敷で暴れただけでも不敬にあたる。

そうして齎される断罪は、得てして、人間と人外者とでは重さが違うのだ。


だが、多少性格に難があるとしても、子爵家の騎士なのであれば、騎士としての使い道はある方だろう。



(となると、王様としては、持って帰りたいのかな………)



しかし、そんなハリアードの動きを、リディウスは見逃さなかった。



「………ハリアード、それは置いてゆくように。私の伴侶を傷付けた人間を、このまま屋敷から出すとでも?」

「…………そこをどうにかと頼んでみても、駄目か?最近は、この年代層のそこそこに使える騎士が少なくてな………」

「駄目だ」

「……………そうか。そうだよな」



恐らく、この国の王はとても優秀な御仁だったのだろう。

荒ぶる星明りの精霊を宥めつつ、隣のエリシアを保護しながら、尚且つ状況を整理し、確実に後退を続けている。


しかしそれは、どうしてもここから逃げたい人間の目には、羨望を禁じ得ない光景であった。



「私も、王様と一緒に行きたいです!」

「死刑宣告になるからやめてくれ?!」

「私は、このお屋敷中の方々に嫌われているのですよ?ここから出てゆける機会を得られるのなら、見知らぬ国の王様の一人くらい、どうなっても構わないと思いませんか?」

「そこは是非に配慮してくれないと困る!これでも、弟達はたいそうな腑抜けなんだぞ!!俺がいなくなったら、あっという間に国がおかしくなる!!」

「………まぁ。私は、この国の未来なんてどうでもいいのですよ?」

「あああ、そうだった………!!そうだったな!……リディウス、彼女を早々に伴侶にしてくれ。邪魔者はすぐに立ち去ろう。グレンも……」

「あの騎士は、置いてゆくようにと言わなかったか?」

「………はは、うっかりだな。さぁ、エリシア、俺達邪魔者は退出しよう」

「ですが、リディウス様は………」

「もう君も黙ろうか?!」



最後は、なりふり構わなくなってしまったのか、エリシアを抱えてばたばたと駆け去ってゆく黒髪の美しい王に、リゼットは小さく唸り声を上げた。


全く王族などお呼びではないのだが、寧ろ、相手があちらのハリアード王であった方が、余程話が通じたに違いない。

屋敷の門を抜けたところで道に捨ててくれて構わなかったので、是非に外に連れ出して欲しかった。


その後、リディウスがディラムに指示を出し、青ざめて震えていた家守りの妖精は、素早く部屋を出て行った。



「……………リゼット」


静かになった部屋に、柔らかな呼びかけが落ちる。


「私は野生向きの生き物なので、お外に解き放ってくれますか?」

「そうか。それなら、しっかりと手綱を付けておいた方がいいな」

「やめていただきたい………」

「私が伴侶として望ましくないのは、………君が対だと気付かずに、今日まで無関心でいた所為だな。この半年の間に君に強いた不遇は、謝罪のしようがない。使用人達については、この屋敷を出て別の邸を構える事で解決する。新しく雇い入れた者達に君の世話を任せるから、そこは安心してくれ」

「肝心の心が寄り添わないのに、決まった話みたいになっていますからね?!」

「決まったもなにも、私が君を対だと認めた瞬間から、君は私の伴侶だ。それは理解しているだろう?」

「………精霊めが、とんでもない乱暴な意見を展開してきました」

「余計な誤解などを与えないよう、敢えて出来る限りの距離を置いていたことで、愚かにも対だと気付かずにいたばかりか、君をすっかり萎縮させてしまったな。本当にすまなかった」

「そのまま、あとひと月、どうか気付かずにいて欲しかったです………」

「ああ。君の信頼を取り戻せるように、頑張らなくてはいけないな。……だが、まずは逃げられないようにしようか」

「ぎゃ!」




ちっともこちらの主張を理解しない精霊に身の危険を感じたリゼットは、ここから、戦いに戦った。



幸い、魔術の腕に覚えはある。



リゼットをお披露目に放り込んだ職員は、よりにもよってお披露目前夜に保護された来訪者を早々に手放したかったのだろう。

そうしてたった半日の滞在期間でお披露目に出されたリゼットは、正規の教育期間を経ていなかったので、評価数値を勝手に平均値にして報告されている。

だが、これでもリゼットは、なかなかの凄腕魔術師なのだ。



かくしてリゼットは、この美しい星明かりの精霊の、一本結びの髪の毛を根本から引っこ抜くくらいの覚悟で死闘を繰り広げ、けれども、やはり高位の精霊にはてんで敵わず、ぜいぜいしたまま床に儚く突っ伏す事になる。


このままでは、あの憎きファーロット子爵と同じ体勢なので、何とも許し難い状況だ。

慌てて這い上がったシャンデリアの上から懸命にリディウスを威嚇すると、こちらを見た美しい精霊は、目を丸くしてからお腹を抱えて笑い出すではないか。



「私は、どうしてもっと君を知ろうとしなかったんだろうな。自分の伴侶が、こんな愉快な女性だとは思わなかった」

「いいですか!これは正式なる威嚇で、あなたを楽しませる為のものではありませんからね!!」

「リゼット、そろそろシャンデリアの上から下りておいで。鎖を切って落とす事は簡単だが、そこから落ちるのは君も嫌だろう」

「下りるものですか。私は、この半年で嫌というほどに学んだのです。どれだけお相手が素敵な男性でも、どれだけ優しげに思えても、選び取る事で厄介事に巻き込まれそうな紐付けのご縁は、決して近寄ってはいけないのですよ!」

「………それで、恋愛結婚がいいと?」

「きちんと互いの愛情を育み、双方の環境や嗜好を理解してから選び合えば、このような問題は起こりません!」

「確かに効率的ではあるな。だが、君には私がいるから、その必要はないだろう」

「話が振り出しに戻った!!」



それにと、こちらを見上げたリディウスは、ひやりとするような美しい瞳を細めて微笑む。

その微笑みを見たリゼットは、とても嫌な予感がした。



「先程の君の話ぶりだと、環境に問題がなければ、私を気に入っていたように聞こえた。であれば、挽回の機会を得られたら、印象も変わるかもしれない」

「………あれは表面的な印象に過ぎず、内面的な評価は覆せません」

「そう言われる程、君とは対話を持っていない筈だが?」

「そのようにした結果、私がとても酷い目に遭ったので、それも大きな失点ですね」

「そうか。では、今からは、二度と無関心とは言われないように接しよう」

「え………」





答えに窮して絶句したリゼットが、その後どうなったのかは、とある精霊の庇護を受けた国の秘密である。



だが、その国には、とてもよく動いて元気で可愛いと伴侶を溺愛する精霊が暮らしており、最愛の伴侶に最初に恋をしたのは、伴侶がシャンデリアの上から野生の獣のように威嚇してきた時だと、あちこちで話しているそうだ。

シャンデリアの乙女と呼ばれる事になるその女性は、自分の伴侶が嬉々としてシャンデリアの話を始めると怒り狂うそうで、近隣諸国でも仲良しの夫婦だと有名である。



何しろ、その精霊は、シャンデリアの乙女に誓ったのだ。



きちんと誠意を示し、彼女が望んだ恋愛結婚という形を取ると約束し、その為に努力した。

そうしなければ、本気で対に国外逃亡される可能性があったと話す時だけ、愛妻家で有名な星明りの精霊は酷く遠い目になる。

シャンデリアの乙女の主張を言葉半分に聞いていたせいで、その精霊が脱走した婚約者をぼろぼろになって捜索する羽目になった出来事は、その国ではとても有名な話なのだとか。



リディウスは時々、仕事半ばでも走って屋敷に帰っていったが、その国の苦労人として知られる年若き国王は、何人たりとも彼の帰宅の邪魔をしてはならないと宣言したという。

大事な伴侶のご機嫌を損ねた精霊が明日以降仕事が出来るかどうかは、迅速な謝罪と誠実な対応によって決まると知っているからだ。


なお、シャンデリアの乙女の主張によれば、正式に伴侶になった後までも待ち合わせ時間を少し過ぎただけで真っ青になって帰ってくるのは、そろそろ面倒臭いとのことだった。

ただし、伴侶があちこちで嬉しそうに馴れ初めを話すのは、そろそろ禁止にするつもりだそうだ。













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