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70話.【亡霊】元亡霊は悪役令嬢を救いたい 中編

 クオレスの居場所はハーヴィー先生が持っている瘴気探知の魔道具によって簡単に見つけることが出来た。


「あれだ。あの巨大な黒雲の中にいる。どんどん移動していっているみたいだね……」

「何処へ行こうとしているんだ?」

「あの方角は海しかないから……もしかしたら誰にも邪魔されないようにと海の果てにでも行くつもりなのかも」


 同じ飛竜に二人乗りしている先生とアニマがそんな会話をしていた。


「だとしたらあたし達、邪魔しに行ってるだけなんじゃ……?」

「そ、そんなことないよ! きっと……多分」

「どんなに離れたところであれだけの力だ。絶対環境に影響が出るし、遅かれ早かれ気づかれるよ」


 あたしが抱いた心配事をユアナちゃんとハーヴィー先生が否定する。それならいいんだけど。


 そんなあたしはトワルテの背中にしがみついて飛竜の二人乗りをしていた。

 みんな耳に風の音を吸収する魔道具をつけているおかげでこうして飛竜に乗っていても普通に会話が成り立っている。便利だなあ。


「しかしあれほど濃い瘴気の中に突入するのは至難の業でしょうね」

「あ、あれに突っ込むんですか……!?」


 だからちょっと離れたところを飛んでいるレイファード様の美声やその後ろで震えているビビ君のぶるぶる声もばっちり聞こえる。


「そこはまかせて。ちゃんと瘴気対策の結界を用意しといたから」

「さっすがハーヴィー! なんでも揃ってるな!」

「この魔道具、発案したのはクオレスなんだけどね。もしかしたらあいつもこうなる事を心のどこかで予見していたのかもね……」


 そう言ってハーヴィー先生はあたし達や飛竜達みんなに薄い膜みたいな結界をはっていった。




 瘴気の結界があっても真っ暗な中強風吹き荒れる黒い雲の中を進んでいくのは大変みたいだった。

 しかも……。


「もう気づかれたか!」


 雲の中から急に魔物が発生しだしてあたし達に襲い掛かって来る。

 みんなそれぞれ魔法で撃ち落して応戦していた。


「だったらあたしも……! 石になって落ちろ! メドューサ・カース!」


 だが魔物には効かなかった!


「くっそー、なんでえ!? みんなのは効いているのに!」

「お前さんわかってないねえ! 魔物に直接作用するタイプの攻撃は効かないのさ! 宙にでも魔法の弾を作ってから撃つとかしないとダメなんだよ!」

「あたしの魔法って直接かけるやつしかないんですけど!」

「だったらあっちの衛兵みたいに指くわえて見てなあ! シャイニングボール!」


 トワルテは作り出した光の玉を砲丸投げの要領で投げて魔物にぶつけていく。

 ちくしょう、折角魔法が使えるのにこれじゃあ逃げ惑うだけの一般人モブだよ!




 途中誰かが怪我することもあったけどユアナちゃんの回復魔法のおかげで大事に至る事も無く、みんななんとか黒い雲の中心、浮遊するお城へとたどり着つことが出来た。

 ……浮遊する城ってさあ、完全にラスダンだよね。元の乙女ゲーよりゲームチックな展開になっちゃってるな。


 そして城の周囲に着陸してもやっぱり魔物は押し寄せてくる。


「どうしよう……飛竜さん達を外に置いていったら皆やられちゃうよ」

「かといってこの巨体を城の中に連れて行くのも難しそうだな……」

「それでしたら今度こそあたしにお任せください! おりこうさんなハムスターになれ! ビースト・カース!」


 あたしはトワルテとあたしが乗っていた金色の飛竜、アニマと先生が乗っていた緑の飛竜、レイファード様とビビ君が乗っていた赤い飛竜、そしてユアナちゃんが乗っていた白い飛竜、ロウエンが乗っていた黒い飛竜、五頭の飛竜を小さなハムスターにした。

 なんでユアナちゃんとロウエンが一人乗りだったかっていうと、帰りにジュノさんとクオレスが乗る分の飛竜が必要だからね。


「ユアナちゃん、ハムちゃん達を手懐けて逃がさないようにしておいてください!」

「うんっ、みんなおいで!」


 ユアナちゃんの手懐けチートによって五匹のハムちゃん達はユアナちゃんの荷物入れの中に入っていく。ちょっとはお役に立てたかな?




 魔物の発生源だった黒い雲を抜けたから魔物もあんま出てこなくなるかと思ったけどそんなことはなく、乗り込んだ城の中でも変わらず魔物が大量に発生していた。

 いやむしろさっきまでより勢いが激しい。クオレスの怒りっぷりが伝わってくるみたいだ。


「どうする!? さっきから全然進めないぞ!?」


 みんなまだまだマナに余裕はあるみたいだけどここにきて気力が落ちてきている。こんだけ強い人達が一丸になって戦っているのに状況が一向に変わらないんじゃ、そりゃしんどくもなるだろう。


「むう!」

「にゅー!」


 そんな大変な時、何を思ったのかあたしの荷物からクッションちゃん達が飛び出してきてしまった。


「あっ、こら、まだ出てきちゃだめでしょ!」

「やたらでかい荷物背負ってると思ったら……なんでお前さんはそんなもん持ってきたんだい!?」

「もしジュノさんの闇堕ち展開が来たらこういう思い出の品的なものが絶対キーアイテムになると思いまして……」

「あ、あぶないよ! みんなもどってきて!」


 チート持ちのユアナちゃんの制止の声さえ聞かずクッションちゃん達は飛び跳ねながら魔物の攻撃と魔法が飛び交う前線へ出ていく。

 だめだ、このままじゃみんなが……!


 思わずあたしを目を覆いそうになったけど、予想した惨劇は起こらなかった。


「な、なんだ? 魔物のヤツら、あの生き物達を避けていくぞ……?」

「……それどころか、彼らを私達の魔法から庇った魔物までいましたよ」

「しかも遊んでやっているヤツもいないかい? あんなちっちゃい手で叩かれてやられたフリまでしちゃってさあ……」

「なんなのだあの和やかな光景は! あれでは真面目に戦っていたのが馬鹿らしくなるではないか!」


 あたしもアニマ達と一緒になって呆然とした目でその様子を眺めていた。

 クッションちゃん達のおかげで場の空気が一気に緊張感の無いものに変わってしまった。戦いも完全に中断してしまっている。


「……もしかして、クオレスさんが作った魔物だからなんじゃないかな? ジュノさんの魔力で作られたものには危害を加えないようにって教えられているのかも」

「それと似たようなものかもしれないね……。これは仮説だけど、魔物は魔力やマナでしか対象を識別することが出来ないんじゃないかな」


 ユアナちゃんの話にハーヴィー先生が同調する。


「つまり、魔物達にはジュノとあの生き物達の区別がついていないってことか?」

「おそらくは、ね。ジュノを守る為に出した命令がこんな事態を引き起こしたと見た方が自然じゃない? ……もしかしたらアイツら、使えるかもしれない」


 もしかしてクッションちゃん達はあたし達を助けるために飛び出したのかな?

 基本的にみんな臆病なのに、こんな大胆なことしちゃうなんてらしくない。自分達は襲われないとわかっていたのか、それとも……自分達を作ったジュノさんがピンチなことに気づいているのか。


 ハーヴィー先生がひらめいた作戦によってクッションちゃん達は一旦集められ、ユアナちゃん達が魔物との戦闘を再開させている間あたしとビビ君はクッションちゃん達にある事を教え込むことになった。




 それから多分一時間くらいした頃。


「すごいな……もう魔物を見かける事さえ稀になってきてるぞ」

「お城の中が静かになっちゃったね……」

「あの可愛らしい方々のおかげですね」

「それとボクが作った毒餌もね。……まあ、その材料も元はジュノが作ったものなんだけど」


 あたし達はこれといった障害も無く進むことが出来るようになっていた。


 あたしとビビ君がクッションちゃん達に教えたことは、ハーヴィー先生が用意したお団子を手分けしてお城中にばら撒いてもらうこと。

 材料は以前ジュノさんが呪いで改良した薬草で、魔物をおびき寄せる効果と食べた魔物を弱らせる効果があるやつだ。本当に魔物版ホウ酸団子になっちゃったよ。

 発生した魔物達はみんなあたし達のいない何処かで毒団子を食べてそのまま動けなくなっちゃってる。


 クッションちゃん達は今も団子を点々とばら撒きながらジュノさんを捜索中だ。見つかったら防犯ブザーみたいに音が出る魔道具で知らせてくれる手筈となっている。


「オレ達も手分けして探したほうがいいかもな」

「いや、それだとクオレスに遭遇した時がまずい。戦力は分散しない方がいいよ」

「ジュノさん達、何処にいるんだろうね……」

「んー、やっぱこういうので定番なのは玉座の間じゃないですか?」


 そんな感じでみんなと話をしていた時、甲高い笛の音が上の方から聞こえてきた。どうやらクッションちゃんが見つけたみたいだ。だけどその音は一瞬にして消えてしまう。


「クオレスが壊したか……!」

「だけど場所はわかった! 急ごう!」




 そうして辿り着いた先は本当に玉座の間だったけど、高い天井とステンドグラスの窓がある厳かな部屋の中で佇む二人はまるで結婚式場にいるみたいだった。


 部屋の隅では黒猫のクロエが震えていて、そのそばには壊れた防犯ブザーが落ちていた。ブザーが壊されてしまってもクロエ自身は無事なようで良かった。


「にゅっ」


 あたし達に気づいたクロエはすぐ駆け寄ってきて荷物袋の中に戻っていった。


「ありがとね、クロエ。……ジュノさん! 迎えに来ましたよ!」


 しかしジュノさんの方はあたしが声をかけても反応が悪い。こちらをゆっくりと振り向きはしたけど、ぼんやりとしたその瞳は黒く濁っていてどこを見ているかよくわからなかった。


「まずい……体が瘴気に侵されてる」


 真っ先にそう言ったのはハーヴィー先生だったけど、先生じゃなくてもそうだろうことは察しがつく状況だ。

 だってジュノさんはこんな瘴気だらけの城で結界も無しにずっといたわけだし、しかもいかにも瘴気で出来ていそうなドレスだって着ちゃっているんだから、むしろ衰弱していないのが不思議なくらいだ。……クオレスがジュノさんを魔人にするために作っている瘴気だからなのかな。


「だったらわたしが回復しますっ!」


「邪魔をするな」


 ユアナちゃんの行く手をクオレスの生み出す瘴気が阻む。

 そして瘴気から出てきたのは……魔物でも剣でもなく、魔法の石で作られたたくさんの爆弾だった。


「危ない!」


 咄嗟にビビ君があたしの体を腕の中に引き寄せて、もう片方の手に持っていた大きな盾で爆風を防ぐ。

 ビビ君は盾の裏側でやっぱりビビっているけど、その腕の力強さにやっぱり男の人なんだなって実感してしまった。

 触れ合うのはこの戦いが終わってからだって思ってたんだけどな、なんて色ボケした思考は捨ててあたしもビビ君と一緒になって盾の裏側で縮こまる。


 他のみんなは防御に徹することなく攻撃に出たみたいだ。盾の向こうでみんなの詠唱する声といろんな魔法がぶつかりあう音が聞こえる。

 やっぱりかなり苦戦しているみたいだ。クオレスの声は全然聞こえてこないのにみんなの悲鳴やうめき声は衝撃音と共に聞こえてくる。

 だけどこの戦いの勝利条件はクオレスを倒すことじゃない。

 ジュノさんを救って、クオレスを救うこと。

 そのためにあたし達は――どんな汚い手段でも使う。


 きっと今ならクオレスはこんなお荷物なあたしなんて眼中にも無いはず。


 その油断を突く。


 絶え間無い乱戦の中、あたしは勇気を振り絞って盾から身を乗り出した。

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