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43話.成果

「甘美なる石となれ! メドューサ・カース!」


 私はトレイの上にある十個の菓子に呪いをかけた。

 菓子は私自身が作ったもので、スライムキャンディと呼ばれるねっとりとした飴である。念のため言っておくけど、本物のスライムは一切入っていないからね。

 呪われたスライムキャンディを一個ずつ手で押してみる。どれもカチカチに固まっていて、手がベタつくことも無い。


「やった……成功したわ! 魔法の範囲化!」

『おお! おめでとうございますジュノさん! いろいろ出来るようになりましたね!』


 廃城で悪霊や王女の霊と会った経験が身になったのか、衛兵から「以前より少し魔力が上がったような気がします」と言われた私は教室で魔法の試し打ちをしていた。

 今出来るようになった魔法の範囲化に加え、魔法の威力も少し上がり威力の調節が多少は出来るようになり、更にマナも切れにくくなっている。

 人間位の大きさ以上の物体にはこれまで通り、まるで効果が無いままなんだけどね……。


『これで大量生産も可能になりましたかあ……。食べ物屋さんの夢にまた一歩近づきましたね!』

「そんな夢を抱いた覚えはないけどね。一個ずつ魔法をかけるよりもマナ効率がずっと良いみたいだし、生産職に向いていることには違いないわ」


 そう言いながら私は今呪ったスライムキャンディを一つ口に入れる。

 ごく普通の硬い飴と化しているキャンディは口の中で転がすにつれ、呪いが徐々に解呪されていき本来のねっとりとした食感に戻っていく。

 以前ではここまで硬化させることも、徐々に解呪という芸当も出来なかった。それを考えればなかなかの進歩なんじゃないかしら。

 それに……。


「んんっ、我ながらおいしい! 香り付けに使った花の選択もバッチリね。品の良さと甘味らしさが良い具合にまとまっているわ!」

『いいなあ……! あたしも食べたーい!』

「それじゃあ食べてみる?」

『えっ』


 先ほどまで物欲しそうな顔で覗き込んでいた亡霊は喜ぶどころか渋い顔をしだした。


『なに意地悪言ってんですかジュノさん! 無理だってわかってるくせに!』

「私の中に入って食べれば味もわかるようになるんじゃないの?」

『えっ……!? そ、そんなことしちゃっていいんですか!?』


 そして今度はうろたえだす。


「入り方も出方もわかったでしょ? あなた相手なら私も追い出せそうな気がするし……一時的にならかまわないわよ」

『そ、そういうことなら……いいかなあ。虫に触れるのはいやなんでなるべくジュノさんが出してくれるとうれしいです』

「わかったわかった。尽力するわ」

『頼みますよ……? それではし、失礼しまーす……』


 おずおずとした様子で亡霊が私の中に入り込んでくる。

 それと同時に私の体が私のもので無くなっていく感覚が訪れた。

 だけど私の意識ははっきりとしていて、王女から体を奪われた時に感じた夢にたゆたう感覚は無い。


「うわあー、また入っちゃった。ジュノさん、大丈夫ですか?」


――ええ、平気よ。


「おおっ、ジュノさんの声が聞こえた! ジュノさんの声でジュノさんと会話するのって変な感じ!」


――声帯は私のものだものね。それよりほら、早く食べてみなさいよ。


「せっかちだなあ……あ、そういえばこの状態ってジュノさんが疲れちゃうんでしたっけ。それじゃ早速、いただきますね!」


 亡霊がスライムキャンディを一つ掴んで口の中に放り込んだ。

 味覚はこっちにも伝わってくるのね。さっき味わったものと同じ感覚が広がる。

 ……いえ、亡霊の方が口の中をせわしなく動かしている分飴の感触が口全体にまとわりついてくるわね。


「わわっ、なんですかこりぇ……!? 口の中の体温で溶けていくのとはまた違った感じですにぇ! ねっとりしていてなめらかで、後味はすっきり……これはいくらでも食べられそう!」


 飴をあっという間に舐めつくした亡霊は両の手で大量の飴を鷲掴みに――。


「一気に全部食べようとするんじゃない!!」

『ふぎゃっ!』


 これはいけない、と慌てて阻止しようとしたら思っていたよりも簡単に亡霊を体から追い出せていた。


 危なかった……! とんでもない量の糖を摂取してしまうところだったわ!


『いたたー……くはないけど、もー、ジュノさん! 出し方乱暴ですよ!』

「あなたが食べ過ぎようとするからでしょう! 私の体なんだからその辺ちゃんと考えなさい!」

『むー。だっておいしかったんですもん……。食事なんて久しぶりも久しぶりでしたし。もうちょっと食べたかったなあ』

「そんなに残念そうな顔しないでよ。また食べさせてあげるから」


 珍しく床に座り込んでいる亡霊を慰める。

 これからは新作を作る度に味見させてあげようかしら。……量には気を付けないとね。




 その後も私は範囲化の魔法の試し打ちを続けたのだけど、最大でもせいぜい一台の机の上にのる分までしか魔法をかけられないと分かった。

 生産職で活かすには少し心もとないわね……。少し上がった程度の魔力ではこんなものでしょうけど。


「やっぱりまだまだ魔力不足よね……。相変わらず小さいものにしか効かないし」

『……どうします? もっかい悪霊と交流しにいきます?』

「それはやめておくわ……代償が大きすぎるもの」


 クオレス以外の誰かを愛する想いを植え付けられるのは、もう嫌だった。

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