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35話.ついに直接対決

 収穫を終えた私達は貸し切りのカフェテリアで試食会を行うことにした。


 予定では殿下に収穫した作物を少し分けるだけのつもりだったけど、これだけ人が集まったらそうもいかないわよね。


「へへ、やっとこの時が来たな! ジュノのが美味そうに育つの見ながらさ、ずっと楽しみにしてたんだ」

「ジュノさんっ、わたしもお手伝いするね!」

「アタシはこんな女が作ったもんなんて食いたくないけど……ユアナが食うって言うなら逃げるわけにはいかないね」

『いいなー、あたしも食べたいなー』

「デザートも用意してくれる?」


 ……一人増えてる。

 厚かましくもデザートを要求してきたのは小生意気なハーヴィー先生だった。


「何故先生がこちらに?」

「わたしからお話したんだ。そしたら興味があるって言われて」


 私の質問に略奪女が答える。


 頑張るのはやめろなんて偉そうに忠告してきたくせに。一体どういうつもりなのかしら。


 そのハーヴィー先生は殿下から話しかけられていた。


「ハーヴィーさあ、最近ちょっと疲れてないか?」

「まあね。……最近現れた問題児のせいでいろいろ対策しないといけなくなったからね」

「問題児って、ロウエンのことか?」

「そいつもだけど、その前に禁術の透明化魔法使ったヤツもいたでしょ? そいつらを検知出来るようになる監視水晶の案を今練ってるとこでさ」

「そっか……あの手の魔法が世に出たら大変だもんな。いつもいろいろ考えてくれてありがとな、ハーヴィー」

「ちょ、だから撫でるなってば!」


 あの先生、魔道具の開発にも関わっているのね。

 魔道具は魔法が扱える者にしか作れないから、直接開発しているわけではないんでしょうけど。


「ハーヴィー先生の疲れを癒せるような甘いもの、作ってあげようねっ! ジュノさんっ!」


 略奪女がこちらへ元気に微笑みかけてくる。

 ご苦労様とは思うけど、そこまで先生に尽くしたくはないのだけど……。


 ……そういえば、亡霊が言っていたわね。

 クオレスは略奪女の作るものならなんでも好きだって。

 ……お手並み拝見といこうじゃない。

 クオレスが好きだっていうのがどんな味か、この舌で確かめてやるわ。


「ねえ、ユアナさん。私達、それぞれで数品ずつ料理を作らない? その方が効率良く進むの思うの」

「わあっ、それ楽しそうだね! お祭りでやるお料理対決みたい!」

「ついに直接対決ってわけかい。いいじゃないか。ユアナ、その女の鼻っ柱をへし折ってやりな!」


 意図せず勝負することになってしまったけど……いいわ。私だって食品開発を始めると決めてからこの数週間、料理の腕だって磨いてきたんだから。

 こっちこそその鼻を明かしてやる!




 まずは前菜のサラダ。

 そもそも作物の出来を見るための試食会だもの。素材の味がよくわかるものも用意しないとね。

 ドレッシングもシンプルにオイルとレモン汁を合わせて塩と香辛料で味付けしたものにした。


『トマトをちっちゃくしてミニトマトにしてみても面白そうじゃないですか?』


 ミニトマトがどんなものかは知らないけど、少し面白そうだったから亡霊が言った通りヴラドトマトにイレイズ・カースをかけて縮小化してみた。

 小さくて赤いのがコロコロとしていて……これはサラダに映えそうね。


 次はスープ。

 また亡霊から『今度はキャベツちっちゃくして芽キャベツにしましょう!』と言われたけど、イレイズ・カースをかけてもそこまで小さくはならなかったので普通に使うことに。

 豆や一口大に切った野菜を煮込んでハーブを効かせ、ミルクを加えてチーズを溶かしこみ、塩で味を調える。

 味付けに関しても亡霊が『これ入れたら美味しそうじゃないですか?』とかいろいろ口を挟んで来たけど、その辺りは全て無視することにした。


『たしかスープってコンソメ入れるって聞きましたよ! コンソメが無いなら作ってみましょうよ。あたし作り方知りませんけど、多分なんとかなりますって!』


 絶対なんとかならない。

 現代知識とやらで謎の暗黒物質を私に作らせたこと、忘れていないでしょうね……。


 そしてメインはキッシュのパイ。

 卵とミルクとチーズと下茹でした野菜を合わせて、焼いたパイ生地に流し込みハーブを乗せてオーブンへ。

 パイ生地作りはかなり練習したから自信があるわ!

 同じくパイ生地でフルーツパイも作りましょう。これでデザートも出来たわね。




 審査はまず私の料理からということになった。


「う、うまい! 野菜自体の美味さもなんだけど、味付けも素材の旨さを更に引き出した味って感じでいくらでも食べられるよ! ジュノって料理上手いんだな!」

「こんな女が作ったものなのに味は優しい……」


 殿下はガツガツと料理を食していく。せわしなく食べているけど意外と行儀は良い。腐っても殿下ね。

 トワルテの方は素直に認めたくない様子だけど、美味しそうに頬張る姿は隠しきれていなかった。

 ふふん、手応えあったわね。


「……なってないね。フリルリーフはさ、手で千切らないとダメだよ。ほら、切った断面が変色しちゃってるでしょ? あと他の野菜の切り方も、繊維の方向をあまり意識してないね。それから味付け。ブイヨン用意する暇が無かったんだろうけど、ミノミルクとエアレーチーズでコク作ったスープに同じの使ったキッシュじゃくどいでしょ。もうちょっと全体のバランス考えなよ」


 文句をつけてきたのはハーヴィー先生だった。

 ぐっ……。言っている事は当たっているんでしょうけど……そこまで言う?


『ハーヴィー先生は料理上手設定ですからねえ……』


 料理まで出来るの? 勉強しか取り柄の無いヤツだと思っていたのに……。

 私は悔しさで顔が歪みそうになるのをこらえる。


「ええ。美味しいのにな……」

「こっくりはしてるけどあっさりしてて食いやすいだろ。……や、別においしいって訳じゃないけどね!」

「まあ、二人の言っている通り意外と食べやすいんだけどね。野菜が多いおかげかな。フルーツパイの甘さもちょうどいいし、個々の味付けのバランスはそれなりに考えているみたいだね。パイ生地はよく出来ていると思うよ。それで、使われている野菜と果物には全部呪いがかけられているんだっけ? 効果的に働いているやつとそうでもないやつがありそうだね。後でちょっと分けてよ。こっちでいろいろ調べてみたいから」


 どこまでも生意気……! 何ついでに私の作物を貰おうとしているのよ!


「そのような態度で分けたくなると思いますか?」

「これはアンタにとってもいい話だと思うけど? 結果によってはアンタのやろうとしている事に協力するかもしれないんだからさ」

「くっ……そういうこと、でしたら……」

『ジュノさんすっごく嫌そうな顔してますね……』


 私の魔法が認められる機会は逃せないから、大人しく従うけど……大人しく従いたくなる態度じゃないもの。


「ジュノさんのお料理、美味しそう……わたしも早く食べたいなあ」

「ユアナさんの分は審査が終わってからね」

『あたしも食べたいですー!』


 無理言わないでよ……。




 続いて略奪女の料理の審査にうつった。


 まず出てきたのは、私と同じくサラダ……のようだけど……。

 見た目こそ亡霊に作らされた料理とも呼べないゴミよりはマシだったけど、その物体から漂う異様な匂いに私は鼻をおさえた。

 鼻をつく刺激臭。これが、食べ物の匂い……? 薬品が腐ったような臭いなんだけど!


 審査員の三人も酷い顔をする中……いち早くそのサラダを口に放り込んだのはトワルテだった。


「ア、アハハハ! アハハハ! オイシイヨ、ユアナ! サッスガ、アタシのミコンダオンナ!」

「なにその喋り方!? 完全に無理しているでしょ!?」


 青ざめた顔で目を見開き体を震わせながら褒め称えるトワルテに、私は口を挟まずにはいられなかった。


「……うぶっ!!」

「吐くんジャナイよアニマァ!! ユアナを悲しませるようなマネはアタシがユルサン!!」

「……ボク、さっきの料理でお腹いっぱいになっちゃった。皆より小柄だからね。仕方ないね」


 今にも口に含んだ略奪女のサラダを吐き出しそうな殿下。

 その殿下の顎を抑えつけ無理矢理咀嚼させるトワルテ。

 そしてさりげなく戦線離脱するハーヴィー先生。


 ……どういうことなの。

 クオレスって略奪女の作った料理が、好きなのよね……?


「ユアナさん……ちゃんと味見した?」

「う、うん……。最初、ちょっと失敗しちゃったかなって思って、ちゃんと味見しながらいろいろ足していったんだけど……途中から自分でもよくわかんなくなってきちゃって……」

「そ、そう」


 まあ、失敗することも、あるわよね。


 私は自分にそう言い聞かせたのだけど……その後出てきた謎の煮込み料理でも、果物をふんだんに使った謎の……なにこれ、スープ? でも、トワルテと殿下はもがき苦しんでいた。


 これはおかしい……。

 でも……クオレスが好きなのよね?

 おかしいのはトワルテと殿下の方かもしれない……。


 その味を確認するため、私は略奪女の料理をいただくことにした。

 大丈夫。大丈夫よ。亡霊に作らされたものより見た目はマシだもの!




 結果。


 甘いとか、辛いとか、そういう話じゃない。

 舌が痺れる感覚と吐き気と寒気と全身が起こす拒絶反応が私を襲い、それでも醜態を晒さぬよう吐き出すのを必死でこらえる結果となった。


 ……クオレスウウウウ!!!


 この場にいる誰よりもクオレスに対して怒りが沸く!

 こんな料理の! どこが! いいっていうのよ!?


「ジュ、ジュノさん……? やっぱりお口に合わなかったかな……?」

「っ……口に合う合わないの問題じゃないでしょう! 謝って! 食材を作った私に謝って!! 毎日様子を見に行って害虫駆除したり慣れない魔道具使って温度管理したり支柱立てたり授粉作業したり追肥したりして作った食材を台無しにされた私に、あと私の指示した通りに天候操作してくださったアニマ様にも謝って!!」

「オ、オレは気にしてないから……」

「気にしてくださいませんか!?」

「ご、ごめんなさい……。わたしも、ジュノさんの作ったお野菜、絶対無駄になんてしたくなくてっ……どうにかしようってがんばったんだけど、がんばるほど舌が、なんにも感じなくなっちゃって……っ」

「完全に舌が麻痺しちゃってるじゃないの! そうなっている時点でとうの昔に食材は死んでるわよ! どんなに頑張っても死んだ者は生き返らないの! あなたの手で殺したのよ!!」

『なんでこんな状況でそんな深刻なセリフ出てくるんだ……』

「本当にごめんなさい……っ。みんなを死なせちゃって、ごめんなさい……っ!」


 私の非難に対し涙ぐむ略奪女。

 そんな略奪女の様子に見ていられなくなったのか、トワルテ達が身を乗り出してきた。


「ユアナ! ユアナの作ったメシ、ちゃんと美味いよ! その女が作ったのよりよっぽど美味しいさ!!」


 はあっ!?


「そうだ! どっちも美味しかったぞ!」


 殿下は同格扱い!?


「ボクは片方しか食べていないから判断できないけど……美味しくしようっていう気持ちは伝わって来たよ」


 その気持ちで生み出されたのがアレならそんな気持ちいらないわよ!


「というわけでこの勝負はユアナの勝ちだ!!」

「なによそれ!! そんなの納得できるわけないでしょ!!」

「そ、そうだよトワルテちゃん……そんなに気を使わなくてもわたしは大丈夫だから……」

「気なんて使ってない! アタシは本気だよ! おかわりだって食ってやるさあ!!」


 その後、いくら私が抗議しても『ユアナの勝ち・どっちも美味しい・審査放棄』の判定は覆らず、料理対決は略奪女の勝利で終わった……。

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