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【コミカライズ:1巻発売】私、異世界に来てまでレジ打ちやってます!  作者: 黄金栗
第三章 シレーナの海と心の波
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視界を良くする?



「沖に行くか?」


「い、いえ、出来れば足の着くところに行きたいです」


ウィルにがっしり腰を抱かれている状態だけど、今の私は「この手を離されたら沈んでしまう」という恐怖により、命綱のように思っていた。


「おい、このままじゃ動けないだろ」


「えっ、離さないで」


「…………」


投げ出されるのかと必死にウィルの濡れたラッシュガードを掴むと、ウィルが急に顔を背けた。

やだやだ、せめて足が付くところに連れて行ってください!


「……そうじゃなくて、ほら、手」


「うう……途中で離したりしないでくださいね」


「じゃあ、しっかり掴まっとけ」


そのまま、足が付く場所までウィルに運んで貰うと、ようやく落ち着いて周りを見ることが出来た。

途中2回ぐらいお尻が沈んでいって、笑われたけどね。

仕方ないじゃん、何でか沈むんだから!


透き通る程に綺麗な海の中で優雅に動く色鮮やかな魚達。

足の隙間をスイスイ泳いでいく様が見ていて楽しくて、水面ギリギリまで顔を近づける。

わーー!!すごいすごい!!

あっちにはサンゴが生えているし、あれはカメかも!?おっきい!!


「ウィル!!海の中スゴい……何故、手を私の首裏に置いているんです……?」


「そのまま沈んでいくかも知れないから、首根っこでも掴んでいようかと」


「し、失礼なー!!足が付くところで溺れませんよ!!」


相変わらずのウィルの皮肉に怒るけど、いや、待てよ。

これってもしかして皮肉じゃなくて、本気で心配して実行しようとしていたのかな。

いやいやいや、そこまで心配しないでください!


「それにしてもお前、泳げなかったんだな」


「うっ!」


ズバッと鋭利な言葉のナイフが私の心臓に突き刺さる。

小学校にあったプールの授業で25メートルを泳ぎきれなかった苦々しい記憶もついでに蘇ってきた。

ビート板があったら、いけたもんね、25メートル!

ただそう、身体が浮かないだけで……お尻が沈んでいくだけで……。


「やっぱり旅するなら泳げた方がいいですか?」


旅の最中、泳がないといけない時があるかもしれない。

そんな時、全く泳げないっていうのはウィルに余計な心配と仕事を増やしてしまわないか、ちょっと不安だ。

そう思って、おそるおそるウィルを見たけど、彼は全く気にしていないといった様子で「いや」とあっさり答えた。


「そりゃ泳げるに越した事はないが、シーナは冒険者じゃないんだし、無理して泳ぐ必要もないだろ」


「で、でも!万が一にも川とか海とかに落ちたら?ウィルに迷惑かけちゃうかも」


「今もそうだしな」


「申し訳ございません……」


思わずしゅんと項垂れると、ウィルが軽く目を細めながら笑った。


「まぁ、その時はさっきみたいに、抱えて泳いでやるよ。気にするっていうなら息を止める練習でもしとけ」


いつも通りの分かりにくい言葉。

でもそれが、ウィルなりの私に気負わせない為のフォローだってことはもう分かってる。

徐々にではあるけれど、ウィルのことをちゃんと見れるようになったんだな。


「私、息止めるのは得意です!」


両手で拳を作りながら、大きく宣言する。

泳ぐのは苦手だけど、水中に居るのは好きで、プールの中からゴーグルをつけて、水面をよく見上げていたなぁ。


「こんなに透けるぐらい海が綺麗なら魚とか手づかみで捕まえられないかなぁ。やっぱり潜らないと無理かな」


「潜っても流石に素手で魚は捕まえられねぇだろ……あぁ、でも視界は良く出来るぞ」


「視界を良くする?」


私が聞き返すのと同時に、目の上をウィルの掌が被さるように覆ってきた。


「補助術式展開、視界」


小さく、ウィルがそう呟いて、一瞬だけ視界が途切れ、直ぐに手は離れていく。

特に変わった感じはしないけど……。


「もしかして、おまじないってやつ?」


おばあちゃんの知恵袋ならぬ、ウィルおじいちゃんの知恵袋。

目を掌で覆うと視界が向上するとか!


「まぁ、似たようなものだな。ちょっと潜って海の中を見てみろ」


「わかった!」


良く分からないけど、とりあえずウィルの言う通りに海の中にざぶんと沈む。

ぶくぶくと泡にまみれながら水中で目を開いた時、私は思わず驚いて口から空気を吐き出してしまった。


(海が綺麗に見える!)


通常ならぼやけて見える水中の視界がゴーグルを付けているみたいにクリアだ!目の前を泳ぐ魚のヒレまで細かく見える。

それに海の中で目を開いているのに目も痛くない!凄い!!


「ゴーグル付けているみたいに水中が良く見えるよ!!」


驚きに吐いた空気を補う為に海の中から勢いよく飛び出す。

興奮気味にウィルを見ると、ウィルは私がこんなにも喜ぶとは思っていなかったのか、眉尻を下げたように笑った。


「ごーぐる?ってのは知らないが、よく見えて良かったな」


「何で何で!本当にウィルじいさんの知恵袋!?」


「じい……補助魔法で視界を保護と強化しただけだ。深い霧の中とか天候不良で見えづらい時に使う魔法なんだが、よく見えるだろ」


「うんっ!」


なるほどなぁ、補助魔法。

確かに魔法の使用方法だけを聞くと、斥候であるウィルらしい魔法だな。


「よーし!これなら水中の魚も捕まえられるかも!」


「本気で捕まえる気だったのか……」


シュッシュッ、と素振りをするみたいに腕を振る。

さながら鮭を狩る熊のように!

さながら木彫りの熊のように!!シュッシュッ!

沢山魚を捕まえて、バーベキューの足しにしちゃおう。


「………そんなことを思っていた時が私にもありました」


あれから、何度も何度も潜って魚を追いかけたんだけど、捕まえられるよ~って目の前をひらひらしているくせに、私が手を伸ばすと、いつの間にか居なくなってるの。

ムキになって、何度も繰り返している内に時間が立ってしまっていた。


「だから無理だって言ったんだよ」


「うーーいけると思ったの!」


捕まえたら直ぐウィルに見せるから!って意気込んだ癖に不甲斐ない。

ずっと待たせててウィル怒ってるかなって盗み見たけど、ウィルは自分も視界の補助魔法をかけて、水中からこっちを眺めていたりして、私の側にいてくれた。

心配してくれてたのかな、それとも……楽しいから側に居てくれたのかな。


「ウィル斥候だよね。シュパパッと鮭を取る熊みたいに、魚を捕れないの?」


「さけ……?」


「一回試してみて!」


「あ、おい!」


驚くウィルの腕を引っ張って無理矢理、海の中へと沈めてみる。

渋々と言った様子で、水中に目を凝らしたウィルが、じっと目の前を泳ぐ黄色い魚にそっと手を伸ばし……。


ふわりと両手で行き場を塞ぐように、魚を包み込んだ。


(あ!捕まえた!)


ウィルが私をチラッと見て、ニヤリと笑う。


どうだ、と言わんばかりの表情。

私はむうっときて、ウィルの背中を押すようにぶつかった。

その拍子に、ひらりとウィルの手から逃げていく魚を、ウィルと一緒に見上げながら。



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