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【コミカライズ:1巻発売】私、異世界に来てまでレジ打ちやってます!  作者: 黄金栗
第三章 シレーナの海と心の波
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ジャンケンぽん!



ウィルとリークさんはまだ納得しない様子だったけど、とにかく、夕飯はバーベキューにすると決まった。


「仕入れ場の場所を知っているのは僕だけだし、買い出しは任せておいて。それとも椎名君も散歩がてら、一緒に来るかい?外を歩く用の上着なら秒で作るからさ」


確かに、4人分の食料って凄い量になるよね。

夏のスーパーに来るパリピ達が買っていく量を見ていたら、カゴが2つも3つもあって、とでもじゃないけど1人で持てる量じゃないと思うし。

犬堂さんだけに任せるわけにもいかない、うん。


「分かりました!荷物持ちがんばりますっ!」


「荷物持ちじゃなくて、僕とデー……」


「いや、荷物持ちなら、リーク連れていけよ。こういう時の為に無駄に筋肉付けてんだろ」


ぐっと両手で拳を作り、犬堂さんに向かって意気込んだ私に割り込む形でウィルが言葉を被せてきた。


有無を言わさぬ態度に思わず頬を膨らます。

むぅ、私じゃ手助けにならないと言いたいの、ウィル。

これでも、24缶の箱ビールも5キロの米も持って走れちゃうんだからなーー!!

まぁ、でも多分、リークさんと比べられたら量は少なくなっちゃいますけど。


「行ってもいいが、ウィルはどうするんだよ。まさか自分一人だけ先に海で遊んでいよう、なんて考えじゃないよな」


リークさんが軽く肩を竦めながらウィルに言う。


「まさか。俺はコイツが海に浮かれて溺れないか監視する役目がある」


「溺れませんよ!!」


浮かれて溺れるって子供か!!

そりゃ、初めての海にドキドキワクワクはしてますけど!

……犬堂さんもウィルもうんうん、って納得したような素振りで頷かないでください!


「いやいや、私が言い出しっぺですし!!!アイテムボックスもありますし!」


「お前もケンドーも人前で出せないだろ、また問題起こしたいのか?」


ん?と何気なく顔を近づけてくるウィル。

お、脅すつもり!?そんな顔には屈しないぞ……!

うう、海の背景キラキラ効果が凄いっ!

必死の抵抗で顔ごと横に逸らしてみた所で、ようやくイケメンハイパワー呪縛から解き放たれた。


「それでも、私やっぱり気にしちゃいます……」


「じゃあ、ここは公平に、ジャンケンとかは?そうしたら勝っても気兼ねなく遊べるんじゃない?もし椎名君が負けても運命って事で」


ジャンケン!それだ!!

落ち込んでいた私を手助けしてくれる犬堂さんの提案に私は思わず手を叩いた。

ジャンケンなら確かに公平だし、神様の判断なら皆納得するし。


「ジャンケン?何だそれ」


「ウィル、ジャンケン知らないの?って事はリークさんも」


「オレは知ってるぞ。前にケンドーが教えてくれたヤツだよな」


「そうそう。これがグー、でこれがチョキ、これがパー。グーはチョキに強くて、チョキはパーに強くて、パーはグーに強い。まぁ、三竦みの遊びって感じかな。」


ウィルの顔の前で、犬堂さんが手を動かしながら説明する。

いつも思うけど、犬堂さんの手ってちょっとゴツゴツしてて指が長い。

職人さんの手だなぁ。


「理解した。ようは相手より強い奴を出せばいいんだな」


自分の手でグーとかチョキとかパーの形を真似て作るウィルの動作が少したどたどしくて可愛い……って思ったのもつかの間、瞬きをする暇に、ウィルはスムーズな動きで手を変えるようになっていた。

せ、成長が早い。


「よーし、それなら私も気兼ねなく遊べます!ちなみに同じのが出たらもう一回だからね!じゃあ行くよ。じゃーんけんっ」


「ぽん!」


皆の手が中央に集まるようにして出される。

私とウィルがグー。リークさんがチョキ。

つまり、私とウィルの勝ちだ。


「くっそ……今回はウィルに譲ってやるか」


「ふふ、残念だなぁ。じゃあ早速行くかい?」


「あぁ。上着だけ取ってくるから待っててくれ」


思いの外あっさりと納得したリークさんに、犬堂さんが問いかける。


時間はまだお昼前だけど、遊んでいたら夜なんてあっという間に来てしまう。

バーベキューの下準備とかしていたら、もっと早いかも。

だから、この時間から買い出しに行くのは分かるんだけど。


でも、せっかく海に来たばかりだっていうのに、犬堂さんとリークさんが行っちゃうのは、ちょっと寂しいなぁ。


「リークさんも犬堂さんも、早く帰ってきてくださいね。せっかく海に来たから2人とも一緒に遊びたい……なぁ、とか」


我が儘だっただろうか。

うーー、そもそもバーベキューをやりたいって言い出したのは私なのに、その準備をしようとしてくれる人に向かって、早く帰ってこいって言うのは失礼だったかな……!

失敗した!ごめんなさい!


「うっぐ、尊い……やっぱり僕は雫ちゃんと貝殻拾いしてから行っていい?」


音も無く、犬堂さんが私の手を両手でぎゅっと掴んだ。

麗しの貴族様みたいな顔立ちが今にも泣き出しそうなぐらいに顔が崩れていて、何だかポーズ的にアイドルの握手会で感動している人みたいだ。

そもそも、何で犬堂さん泣きそうになってるの!?


「ケンドー!行くぞ、オレも我慢してるんだ……ったく、斥候がジャンケンに本気出すなよなぁ……」


犬堂さんの奇行にオロオロする私を助けるかのように、リークさんがむんずと犬堂さんの襟首を掴んで引っ張っていく。


「雫ちゃーーーーん!!!」


ずるずると半ば引きずられながら浜辺を後にする犬堂さんの声が、穏やかな波に溶けていった。



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