ダイヤ、消えた、お金、出てきた
少し緊張しつつも、私はダイヤモンドが表示された状態で売却ボタンを押してみた。
すると、
ブブッ
『レジ内にお金がないため、釣り銭が出せません』
女性の機械音のアナウンスが流れた。
釣り銭?あぁ、そっか、レジの中にお金が全然入ってないから、お釣りが発生した時に返せなくて、金銭のやりとりができないって言ってるのか。
ということは、お金を入れたらいいのかな……?
「……ものは試しだ」
3段フリルのスカートにあるポケットに手を突っ込む。
そこから巾着袋を取り出すと、私は中に入っている金貨を確認した。
実は、援助金を役所から貰ったのはいいんだけど、どこに収納するか悩んでたんだよね。
最初はアイテムボックスに入れておこうかと思ったんだけど、いくら異世界人しか入れないとはいえ、鍵も閉まらなくて目の付かない所にお金をポンと置いておくのは抵抗もあって。
とりあえずトータの街に売っていた小さな巾着に入れていたけど、金貨ってそこそこ重い。
あと、大金をポケットに入れているのも地味に怖い。
でも、よくよく考えてみると、レジってお金を管理する機械だもんね。
保管って意味でもすぐ使えるだけお金を残して、他はレジに閉まった方が安全かもしれない。
「えっと、釣り銭準備、釣り銭準備」
液晶右上の機能選択を押し、そこから釣り銭準備のボタンを押す。
すると、お金を入れるトレイの蓋が開いた。
通常ならここにお客様からお預かりしたお金を入れたりする。
勿論、釣り銭のお金もここに入れたら良い筈なんだけど。
「とりあえず10ゴールドぐらい入れとこうかな」
役所で貰った援助金は14ゴールド。
そこから3ゴールドぐらいを旅の準備に使ったから残りは11ゴールド。
手持ちで1ゴールドあれば大丈夫だと思う。
足りなかったらレジから出せばいいしね。うん!
私は意を決して、お金の投入口に金貨を入れる。
ジーーーガチャン。
ん~懐かしい音。
このゴリゴリいいながらお金を収納していく感じ、バイトで何時間聞き続けてきたことか。
そんなことをぼんやりと考えていると、またまたあの機械音が響いた。
『お金の補充を完了しました。売却します』
「え?」
ピッ
とレジが鳴った。
すると、今度は釣り銭口から銀貨が2枚、チャリンと流れて出てきた。
慌ててダイヤモンドに目をやると、ない!
握りしめていたはずのダイヤモンドが消えちゃっている。
「どうした?」
突如として忙しなく周囲にダイヤモンドが落ちてないか確認し始めた私を見て、ウィルが声をかけてくる。
また何かしでかしたのか?って顔してるけど、違うもん!
「ダイヤ、消えた、お金、出てきた」
「なんでカタコトなんだよ……」
上手く説明できなくて、とりあえず起きた出来事をウィルへ伝えると、ウィルは暫く考えるような仕草でレジをじっと見た。
そして、出てきた銀貨を1枚取り、軽く触る。
「本物だな」
「ダイヤモンドを通して、売却ボタンを押したら、お金が出てきたんです」
「つまり……売ったってことか?」
「たぶん……」
「これも試してみてくれ」
ウィルが同じくモンスターが落とした爪を手渡してくる。
促されるままにスキャンしてみると、ディスプレイに爪の情報が出た。
・キラーラビットの爪
マクスベルン大陸に多く生息するキラーラビットから取れる爪。
長ければ長い程、価値が高い。
合計金額
80ブロンズ
そのまま、売却をぽちっと押すと。再び機械音のアナウンスと同時に、今度は銅貨がざらざらと出てきた。
その銅貨も手に取って、ウィルは再三確認した後、私にお金を戻した。
「鑑定スキルだと思ったら、想像以上に便利なスキルかもしれないぞ、それ」
「え?」
「所持する物が売り買いの可能な物であれば、その場で換金できるってことだろ?アイテムや素材って物は売れる場所まで持って行くのが一番ネックなんだ。でもそのスキルがあれば……」
なるほど、手に入れたその場ですぐ金銭に変えられるってことか!
いや、ちょっと待って。
これ、レジに入れた私のお金から出していたら、私が入れた10ゴールドが無くなるじゃない?
さすがにそれは困る!
私は中に入れたお金を確認するべく、お金の投入口の横にあるボタンのひとつ「ドロア開閉」のボタンを押して、中を確認する。
今のバイト先は、お金をレジの中から店員が数えてるのではなく、自動釣銭機が導入されていた。
私達は投入口にお金を入れさえすれば、後は勝手に計算して機械がお釣りを出してくれるのだ。
だけど、一応レジには一定の金額を入れる料金ドロアという場所が存在する。
お釣りの小銭を束ねた棒金とかもここに入っているんだけど……。
「あ、お金入ってる」
元の世界では、ここにはお釣り用のお札と小銭が入っているけど、今はこの異世界に合わせてあるのか大きく仕切りがされて、そこに私が投入した10ゴールドがぴっちり並んで入っていた。
何で投入口から入れたのにドロアに綺麗に入ってるの。
こういう所だけチート能力なのか、このレジ!
まぁ、そもそもスキルとして顕現しているレジなんだから、そこの所何とかなってるのかな。
とにかく、私が入れた10ゴールドがそのまま入っているってことは……ダイヤモンドと爪を売却して出てきたお金は、私がレジに入れたお金とは別ってことか……うーむ、じゃあ売却すればするほど、私の資産が増えるってこと……?
そうだとしたら、思ってた以上に便利だし、これから旅をする上で欲しいものが出きても貯めたお金で買えるってことなのでは。
凄い、凄いじゃん!
「じゃあ、もっとモンスターを倒してアイテムをドロップさせるか」
「え!?何でですか!?」
なんとか解読できた自分のスキルに感動していた所を、唐突にウィルの性急な発言に引き戻され、思わず突っ込んでしまう。
「そりゃ、お前のレベル上げにもなるし小銭稼ぎも出来るからに決まってるだろ。ほら、倒していくから全部鑑定しろ」
「えええ~~!!」
そう言うなり、ウィルはピンク色の液体が入った小瓶を取り出し、シュッと霧吹きのように自分自身に吹きかけた。
匂いは特にしないし香水ではないみたい。
これは嫌な予感がしますね!
そんな事を考えると同時に、草むらからさっきのウサギが顔を出した。
それだけじゃない。
イノシシの頭に牛の角の生えたモンスターや、大きな蝶みたいなモンスターまで出てきて、思わず後ずさる。
なんで急に!? 絶対さっきウィルが吹きかけた液体のせいだよね!?
「腕慣らしに丁度良いな」
挑発的な笑みを浮かべながら、ウィルが黒い手袋を付けた。
手の甲の半分ぐらいからしかないフィンガーグローブってやつだと思うんだけど、あれってもしかして犬堂さんがくれた500ゴールドの手袋では。
手を握ったり開いたりを繰り返して手袋を馴染ませたウィルが、武器を手に地面を蹴る。
は、早い!!
手袋付けた瞬間から特に早くなってない?
一気にモンスターとの距離を詰めて息を付く暇もなく斬り付けていく様は、獲物を前にした猛禽類そのもの。
「ほら、さっさと鑑定しろ」
私はそんな姿を目に焼き付ける暇もなく、次々にアイテムや素材が投げ渡されて、大混乱です。
わんこそばならぬ、わんこ鑑定。
次々レジに通して、それを売却で換金して、レジに通して、換金して、レジに通して、換金して、レジに……。
「うぃ、ウィル……ちょっと、休憩……」
気付けば、周囲はすっかり夕日に染まってた。
どれぐらいスキャンしてたんだろう。
途中から値段なんて見ないで鑑定していたから正確な金額は分からないけど、お金を入れるように置いた麻袋はずっしりと重たい。
「そうだな。そろそろ暗くなってきたし、ここらへんで野宿するか」
「賛成ーーー!!」
うおー!と両手を振り上げて同意する。
スキルって1回や2回使うぐらいじゃ全然大丈夫だけど、何十回と繰り返すと体力がごっそり削られていくってのが分かりました。
今の私は初めてトータの街にやってきた時ぐらい、クタクタのヘロヘロだ。
流石のウィルもちょっとはやりすぎたと思ってくれたのか、もっと歩こうとは言わなかった。
街道から少し外れた場所に生えている大きな木の下で腰を下ろす。
そう、私にとって初めての野宿!
この時私はあまりにも疲れていて、レジのディスプレイに表示された
「バックヤード内の商品ロックが解除されました」
の文字に気付いていなかった。




