私の唇にキスをした
「ぐぅうっ!」
飛び散る血液と同時に背後へふらつく身体。
さっきとは形成が全く逆転した状況でもリークさんは油断しない。
大剣を両手に握り直し、まるで精神統一でもするみたいに息を細く吐く。
そして、刃の周囲をバチッと火花が散る。
小さなその火種は徐々に大きくなり、剣全体を大きな炎で包みこんだ。
「それ…、ウォリックさんがしてたやつだ!」
氷の魔法で剣を強化していたウォリックさん。
確かリークさんは、ノースベールの領事館でみっちり鍛錬を受けたんだっけ。
じゃあ、魔法剣士としてリークさんレベルアップしてたんだ!
「まずい、ヴァンペルト!」
リークさんの強化に慌てたのは、他ならぬダニエルだった。
あんなにも余裕綽々の表情で私達との問答を見てたっていうのに、それだけこの店内放送BGMの威力が凄いのかな。
おそるべき、とんちきスキル……って、呑気に考えてる場合じゃないよ!
ダニエルが槍をリークさんに向けて投擲しようとする。
それこそ、私には聞き取れない天使独自の呪文を唱えて。
「リークさん危ない!」
叫んだ言葉と同時に
カキンッ!
投擲された槍が勢いよく弾き返される。
槍は自動で持ち主の所へと戻っていくけど、ダニエルの所へ戻ったのは槍だけじゃない。
「呑気に飛んでるんじゃねぇよ、天使サマ。お前の相手は俺だ」
皮肉混じりな言葉を呟いて、それこそ弾丸みたいに跳んだウィル!
槍をダニエルが掴むのと、ウィルが斬り掛かるのはほぼ同時。
ウィルは私がレジで強化しているから、いつも以上に速度が早い!
私の目じゃ追いつけないぐらい。
キンッ、キンッ
って何度も攻撃が防がれても直ぐに追撃して、ダニエルに休む暇を与えない所か、徐々に攻撃が入るようになってるよ!
「どうした、下等な人間に押しやられる気分は」
「っく……!」
「羽根を全部もがれて、落とされる気分はどうだ、鳥!」
うぃ、ウィルさん?
なんだか何時も以上に殺意高めじゃないですか!?
「くそっ……ただのあんちゃんじゃなかったってわけねー……ヴァンペルト!!一時撤退だ!冷静になれ!!」
「させるかっ!!」
完全に怒りで我を忘れているヴァンペルトさんは、攻撃を受けてだらんとした左腕から血を流しながらも、全く逃げる気配を見せていなかった。
むしろ余計に煽られたみたいに私への執着を強めたいた、けど。
「ダニエル!……っ、おのれ、おのれ!」
あのダニエルって人が叫んだ瞬間、一瞬だけ意識が私から反れた。
まるで、あの人の言葉が強制的に頭から水をぶっかけて冷静にさせられようとしているみたい。
逃げてくれる?
この場を脱することができるのなら、私はむしろ逃げてくれるほうが助かるんだけど……。
「逃がしちゃ駄目だ。ここで彼らを逃がしたら、次襲撃してくる時は大量の天使を連れてくる。それにお姫様のスキルだって対策される。ここで……彼らを仕留めないと」
ノアさんが何時もとは違う、どこか真っ直ぐ前を見た表情で呟いた。
何かを決意したみたいに、瞬きをするのも忘れて、ヴァンペルトさんを見つめる。
「お姫様。僕に魔法の強化をしてくれないか」
「それは別にいいですけど……どうするんですか、ノアさん」
「鳥を鳥カゴへ永遠に閉じ込めるのさ」
ノアさんは真っすぐこちらを見つめてきた。
その綺麗なアメジストの瞳は、今までないような決意を湛えていて。
こんな場所なのに凄く綺麗に見えて、私は思わず見惚れてしまった。
「お姫様、お願いするよ」
「は、はい!」
いけないいけない、今は戦いに集中しないと。
レジでノアさんの魔法を×3倍にして……。
ピコン、とレジが鳴ると同時にノアさんの身体がキラキラとした光に包まれる。
強化の感触を確かめるかのように、手を何度も握ったノアさんは私の方へと近づいて、
「ありがとう。絶対に君を守るから見てて」
私の唇にキスをした。




