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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
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黒い天使日常編 『とある捜査官の憂鬱』3END

黒い天使日常編 『とある捜査官の憂鬱』3



ラファエロ逮捕から数日後。

練馬の飛鳥の家に呼ばれたサクラとセシルは、そこで飛鳥の追及を受けるが……。



ということで顛末編+後日談です。




 そしてさらに後日……。


 ここは練馬の飛鳥の家である。


 サクラとセシルは飛鳥に呼ばれてお邪魔していた。飛鳥の家では中々の贅沢である手巻き寿司パーティーという事で二人は喜々としてやってきた。


 晩御飯後、飛鳥の部屋に呼ばれると飛鳥は開口一番「びしっ!」と二人を指差した。



「お前ら! 有名な性犯罪者捕まえたってホンマか!!?」

「…………」

 二人は顔を見合った。

「なんで飛鳥がそれを知っているンですか?」

「よし! 認めた! やっぱり事実やったんやな!」

「どうせJOLJUから聞いたんでしょ?」


 だって他に事情を知っている者はいない。事情を知っていて口が軽いのはJOLJUだけである。まぁ飛鳥もプロではないが情報収集は得意だ。

飛鳥はネット探偵だ。海外のニュースもよく調べている。ネットでは大賞金首の犯罪者がNYで美少女たちとFBIが逮捕した、という記事を見て直感的にサクラたちだと思った。あのニュースはユージの事もエダの事も匿名で表には名前が出ていないが、それこそが飛鳥が確信した点だった。普通、そんな大手柄を立てれば名前や顔は出てくるはずだしFBIが黙っていてもマスコミは黙っていない。しかしサクラやユージたちなら完全に匿名を貫ける。


 ここまで調べた飛鳥は、鎌をかけてJOLJUに喋らせた。

 もっとも別に絶対口外してはいけない事でもない。


「あー、アレね。ま、アレもエダの幸運の一つなのかナ? あたしたちはあんまり事情は知らんゾ」

「なんやとー!? 折角色々取材して記事にしようと思ってたのにぃぃ!!」



 ……やっぱりそんなことか……相変わらず逞しい奴である。



 協力してやってもいいが、残念ながらサクラもセシルも事件はほとんど知らない。



 あの日、セシルがNY公演のためクロベ家にやってきた。セシルはNYではいつもクロベ家に滞在するのだ。セシルの来訪を知り、エダが南アフリカのマリーの家でダラダラと過ごしていたサクラに連絡、サクラはマリーを連れて転送機で合流……たまには皆で中華でも食べよう、という事になってエダの案内でチャイナタウンに行ったところ突然の逮捕劇である。ラファエロ=ビショップの事を知ったのは逮捕の後だ。


「あとは全部エダが手配しちゃった。あたしたちは一度調書受けただけでよくは知らん」

「私もです。基本はエダさんが皆上手くやったので」


 サクラは未成年以下の子供、セシルは未成年の有名音楽家、どちらもマスコミには出せない。マリーは全く事件の意味が分かっていない外国人。ということで、事件の事は基本エダとユージが打ち合わせて色々処置した。特に彼女たちは被害にあったわけでもないし、FBIのほうも子供のサクラたちに話をしようとは思っていなかった。


 飛鳥はそれでも疑っていたが、本当に二人は知らないと分かるとその場につっ伏した。



「くそー!! 折角のいいネタやのにぃー!! 手巻き寿司返せーっ!!」

「……ホント、いい根性してるな、お前」


 手巻寿司程度で買収する気か、安すぎるだろう……嘆く飛鳥を無視し、テレビゲームを始めたサクラとセシル。


 そうこうするうちに飛鳥も復活した。


「一つ気になることがあるんやけど? いや、記事にはせえへんで? ただの好奇心なんやが」

「だから詳しくは知らんって」

「結局、そのロリコン殺人鬼はお前らのうち誰を狙ってたんや?」

「誘拐して殺す気はなかったと思いますよ? ただ眺めていただけだったみたいですけど?」と答えたのはセシルだ。もっとも意識はサクラとやっている対戦ゲームのほうに集中している。


「さーね。拉致する気なら殺気が出るからね。殺気があればあたしもエダもセシルも気付く。そんなのはなかったからねー」

「お前ら、中華料理に夢中で気付かんかっただけやないんかい」

「セシルはそうかもね~」

「食い気に弱いのはサクラのほうですよね」


 あの昼食会、お金のないサクラとマリーはエダとセシルに出してもらった。ということで遠慮せず色んなものを買い込み満喫していた。勝手知ったるチャイナタウンだしエダやセシルもいるし、確かに暢気に過ごしていたサクラ。そこは認める。しかし皆が皆浮かれていたわけではない。


「でも、エダまで気付かないって事はないンだな、これが。エダはユージ並に日常から警戒心もって過ごしてるもん。殺気に関してはあたしらの誰よりも敏感♪」

「ふぅむ。そういえばそうなんやが」


 エダが殺気とか敵意に特別敏感なのは飛鳥も知っている。いや、エダだけではない。殺気に関しては三人共特別敏感だ。サクラはテレパシー、エダは第六感、セシルは研ぎ澄まされたプロとしての経験……それぞれ違う力だ。これだけ能力者がいれば誰かは気付く。しかし誰も気付かなかった。だからラファエロ=ビショップは、本当にただ見ていただけなのだろう。



「ちょっと待てや? お前、<非認識化>使ってたンやろ? 何で見られるねん?」

「最低レベルでね」と、サクラは答えながらコントローラーを置いた。対戦ゲームはセシルの勝ちで一段落ついた。

「あたしだけでなくてエダもセシルも使ってたわよ。皆、周囲にバレたくないモン」


 <非認識化>は視えているけど認識されない、という能力だ。すごい人混みのNYの繁華街でレベルを上げて完全に認識されなくなったら周囲の人間がぶつかってくるので返って危ない。だから皆最低レベルに調整していた。エダとセシルの<非認識化>はJOLJU特製のブレスレットの力だ。


「ちょっとマテ。じゃあラファエロとやらはどうやってオマエラを見ることができてん。基本見えへんのとちゃうんか?」

「所詮<非認識化>だからね。眼力がある人は見れるわよ。知力が高く病的なロリコン殺人鬼なら最低レベルの<非認識化>くらい見破っても不思議じゃない。マリーは持っていなかったから、そこから全員を認識したかもね~」


「ちょっと待ってくださいサクラ。その話、ちょっと変じゃないですか?」


 対戦ゲームに勝利したセシルもゲームコントローラーを置く。


「ラファエロ=ビショップがそんなに真剣に私たちを見ていたのなら、絶対気配を発しますよ。その視線なら私は気付きます。エダさんだって多分気付きますよ、サクラはともかく……」

「なんじゃとー! なんであたしは除外なのよ。なめとんのか!?」

「だってサクラは異性の視線なんてわからないでしょ? 恋なんかしたことないんだし」


 サクラはそれを聞きぶすっとふくれる。「お前は分かるンカイ!?」と突っ込もうと思ったが、どうせセシルはユージに対する憧れを延々と語るだけだしユージの魅力など語られたくもないから黙ることにした。


「そもそも、誰を見とったんや? 素朴な疑問として。そりゃあ大本命はエダさんやと思うけど……エダさん、年齢的に一番上やろ? ラファエロリコンの好みは12歳から16歳やという話やったど?」


 ラファエロ=ビショップを『ラファエロリコン』と訳す飛鳥。センスは悪くない。


 そういわれてみればその点も不思議だな……とサクラとセシルも首を傾げた。


 美貌、魅力という点でいえばサクラとエダがずば抜けている。エダは小柄だし長く美しい金髪と深く輝く碧眼で白人少女好きには完璧だ。そしてサクラの美貌は見るものを絶句させるほど妖艶で神々しく、もはや芸術の域にある。……喋らなければ……。


 しかしエダは19歳、サクラは10歳と対象年齢外である。


 とはいえエダは実年齢より少女っぽくよく高校生に間違えられるし、サクラは大人びていて10歳には見えない。つまりどっちも見ようによってはラファエロの対象範囲に入るのかもしれない。一番年齢的にラファエロ=ビショップの好みに合うのはマリーの14歳だが彼女は人種的には白人に近いがアフリカ系だ。白人至高趣味としてはどうなのだろう。セシルはフランス系の美少女だ。17歳だが米国のハイスクール女子と違って派手さはなく見た目は大人しい。クラシック音楽家として清楚で優雅な佇まいと雰囲気を持つからセシルの可能性も大きいが、<非認識化>を見破ったくらいならセシルが有名音楽家ということを知っていたかもしない。高知能の性犯罪者が狙うターゲットとは思えない。


 そういわれると……と、三人揃って頭を傾げた。全員、それぞれ魅力があるが、どこかラファエロ=ビショップの好みに外れる条件もある。


 服のセンスならエダが一番清楚でサクラが一番雑だ。セシルも私服は地味である。しかし欧州趣味ならマリーのシスター服というのはドストライクのはずだ。現にシスター服の少女をラファエロ=ビショップは描いている。


 こればっかりはサクラたちも知らされていない。多分エダもユージも知らないのではないか? 大本命は皆エダだと思っているし、そういうことで処理されているが実際どうだったかは分からない。というのも、当然ラファエロは取調べで誰を見ていたか話したはずだし、この手の性犯罪者は聞くに堪えない倒錯的で背徳的で猟奇的な妄想を口に出したはずだ。そしてそれがもしユージの耳に入れば、さすがに留置所に入れられた容疑者を叩きのめしたりはしないが、もっと怒っていたに違いない。事後処理をみるかぎりユージが怒る様子も不機嫌だという話も聞かなかった。ということは違うのだろうか……?


 その後三人で色々推理しあったが、あまり気持ちのいい話題ではないし、答えも出ないのですぐに終わった。



「そうや! 報奨金、エダさんが貰ったんやろ! 20万ドル! どうしたんや?」

「全額寄付したけど?」

「そのあたり、お前んトコはドライやな。ウチなら一割でも貰うケド」

「そのあたりはエダさんの深慮遠謀なんですけどね」

「そうなん? 税金対策やなくて?」


 そう、米国は寄付文化があるが、その全てが全てボランティア精神から来るものではない。高額納税者にとっては税金対策でもある。寄付をすれば大なり小なり税金が安くなるのだ。クロベ家の場合ユージがなんだかんだと高額収入を得る機会があり、その対策も理由の一つだ。


 だが本当の意味は、FBIのための処置だった。



「FBIとしては逮捕の功労者はエダでユージじゃない。よってユージは同僚からやっかみを受けることはない。対外的には逮捕したのはユージ……FBIが逮捕した、と公表できる。それもまた事実だから、手柄はFBI。FBIとしては面目躍如、問題ない」

「ふむ?」

「エダさんは匿名で全額募金しましたから、マスコミもかわせますしね」


 貢献者が未成年で匿名希望……有名な性犯罪者に狙われた……という理由なら、匿名を守る事はFBIとしてもマスコミに説明がしやすい。


 つまり、エダが即答した「匿名で全額寄付」という手は、関わった全員が納得できる、ここまで計算された賢明な判断だったのだ。コールが心からエダの聡明さに感服したのは、こういう事情である。


 飛鳥も、ようやくサクラの言っている意味が分かった。


「うぅーむ……それにしても20万ドル! 20万円なら分かるけど20万ドルをぽーんと諦められるなんて……ウチには理解できへん」

「知るか」

「ということで、飛鳥も記事にはしないでくださいね」

 二人はそういうと、対戦ゲーム第二戦を始めたのだった。



***


 その後……刑務所に送られたラファエロ=ビショップは、嘆くでも恨み言を吐くでなく、どこか幸福そうな笑みを浮かべていた。


 そんなラファエロが、刑務所で一枚の油絵を描きあげ、それを狭い独房の壁にかけ、毎日幸せそうにそれを眺めて過ごした。この絵を取り上げない、という条件で、彼は残り3人の少女の殺人と死体遺棄を認め、不幸な少女たちは親元に帰ることができた。


「私はついに天使集う理想郷に辿り着いたのだ。他の少女たちなど、もうどうでもいい」


 彼は終身刑を言い渡されたが、どこか満足げで一切の毒気は抜けてしまったらしい。彼は求め続けていたモノを見つけたのだろう。タイトルは『天使転舞理想の桃源郷』である。


 その後、そのラファエロの絵はマスコミにも取り上げられ、世間に知られることになった。


 絵は、花園の中4人の白いワンピースを纏った少女たちが仲良く戯れているというもので、その完成度は非常に高く、「譲り受けたい」とラファエロに接触した画商が何人かいたらしい。それほど、描かれた少女たちは清らかで、無邪気で美しく、そして愛らしかった。ほとんどの関係者はこの少女たちは彼の想像の理想を描いたものであろうと思いさほど気にしなかったが、ただ一人FBI・NY支局ユージ=クロベ捜査官だけは、その完成度の高い少女画を見て一言、呟いた……。




「殺しておけばよかった」と……。



 誰が……いや、誰らが描かれていたかは……いうまでもない事なので……あえていわないでおく。





 とある捜査官の憂鬱が晴れる日は、いつだろうか……?






黒い天使日常編 『とある捜査官の憂鬱』3でした。



これでこの話完結です。


珍しくユージが関わったのに人は死にませんでした。


そういえば銃も使っていないですし。まぁ今回は日常系ですから。


サクラの言うとおり<非認識化>は見えなくなる能力ですが、知っている人間には効果がなく、また機械には効果がなく、眼力ある人にも効果がないのでこういう事はありえるのです。

まぁ……これがないとエダやセシルはナンパがすごそうですしねぇ……。

結局オチとしてはエダはすごく聡い娘かつ魅力的な少女という事でオチですかね。今回サクラはほぼいたかいないかワカランゲスト扱いです。飛鳥はオチの解説役みたいなものかしらん。


ということでユージの憂鬱、いかがでしたでしょうか?


今度は別の日常系の予定です。まぁ飛鳥は出てきますね。こいつ登場率高いし。


なので「黒い天使日常編」はまだまだ続きます。

これからも宜しくお願いします。

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