第6話 「エルフ」
挨拶を終えると突然シンは黙り込んだ。
「シンさん?」
「あのさ、そのさん付けやめてくれ。あと敬語もな」
「え?でもいきなり呼び捨ては。それに敬語は元からなので難しいです」
「じゃあせめてさん付けはやめてくれ」
「…わかりました。ではシン…くん」
「わかった。それでいいよ。…っと、できた」
近くにあった少しヒビのはいった鏡を覗くと後ろでお団子をしてそこにかんざしが差してある髪型だった。
「シンさ…シンくん上手ですね」
「よく妹の髪結ってたからな」
一瞬だけシンが悲しい顔をした気がしたがすぐに笑顔になった。
「ありがとうございます」
「礼なんていいよ。…さて、これからどうすっかな?ずっとここにいても意味ないしな。お前はどうすんだ?」
「なにも考えていませんでした」
ふと、一つの疑問が浮かんだ。
「そういえばシン、くんはなぜ無事だったんですか?」
辺りを見回しても家などは全て瓦礫と化していて到底無事でいられる状況ではない。
「信じてもらえないかもしんないけど、あの爆発の時に死ぬと思った時に突然水が俺を包んだんだ」
にわかには信じがたい話しだがサクヤには一つ思い当たることがあった。
「…精霊かもしれないです」
「精霊って普通のやつには使役できないんじゃないのか?」
「本来精霊は軍の者しか扱い方を知らないはずです。なぜシンくんが精霊を」
この世界では精霊の力を借りて軍の人間が魔法を使うことがある。
環境を整えたり、時には騒動を鎮めるときにも。
未娘であるサクヤも使い方は知っている。
だが政府への暴動を防ぐために民間人には決して教えない。
その魔法をなぜ彼は無意識に発動させたのか。
考えを巡らせているとシンが口開いた。
「そういえば、俺の母さんはエルフの生き残りだった気がする」
「なるほど。エルフなら納得がいきます」
エルフは生まれながらにして魔法を使える一族のこと。
「精霊に愛されていた一族なら魔法が発動していてもおかしくありません」
「でも俺、魔法の使い方は知らないんだ」
「ならば私が教えます。魔法の知識なら習得してますから」
「よろしくな、サクヤ」
「はい」