第44話 標的になったった
ヤバい奴が来る! と愛理に急き立てられて、天狗3点セットを取り出し装着。
カゲミツと愛理を抱きかかえて、脱出しようとした矢先。
どぉぉぉぉぉんっ
爆音と共に重い金属製の大扉が吹っ飛ぶ。
「ア・リ・スぅぅぅぅぅッ!!」
現れたのは、迷彩服3型に身を包み、88式鉄帽を被り、着剣した89式小銃を構えた……自衛官?
こいつが、トルメク国第三王女アリス――10歳の幼女に求婚している『勇者アガタ』だって?
ロリコン、って以前に。
ドーランで塗りたくられて顔形こそ不明だが、迷彩服の胸を押し上げる二つのスイカ。
……女じゃないか??
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「き・さ・ま・がぁっ~、ここを襲撃した魔族かァァァっ~!?」
いきなりバレてるし!
「縣さん、落ち着いてちょうだい!」
「ぼ、暴力反対、心を開いて話し合いましょう……?」
知り合いらしい愛理が宥め、俺も両手を上げて敵意が無いことをアピールするが。
堂に入った構えで銃を肩付けし、照準をピタリと俺の体の中心に付けるアガタ。
話、聞いてない?
「アリスの仇ッ!!」
勇者の武器なら、イゾのリボルバーと同じで、とんでもない破壊力のはずだ。
しかも自動小銃型。
あの魔力弾を連続で撃たれたりなんかしたら、街ごと滅ぶんじゃね!?
「ちょっと待ってくれっ、ここで戦ったら、街が巻き添えになるってば!?」
「うるさいっ、死ねぇぇぇぇぇっ!!」
せめて、カゲミツと愛理だけでも守らなければ!
一緒に飛翔するために抱きついていた2人を突き飛ばした瞬間、既に安全装置が解除してあったのか、フルオートで火を噴く小銃!
ガガガガガッ
棒立ちになった俺の体に、撃ちこまれる無数の銃弾。
「ぐぁぁぁぁぁっ!?」
腹部から胸部にかけて、でかい焼きゴテを体の中に突っ込まれて掻きまわされるような、名状しがたい激痛に襲われた!
そのまま後ろに吹き飛んで壁に叩きつけられるが、銃弾を浴び続け、倒れることも許されず、着弾の度に衝撃で体が跳ねる。
まずい。
愛理の斬撃もそうだったが、勇者武器や勇者スキルの攻撃は、物理攻撃でも属性魔法でもない、無属性の魔法攻撃。
俺の物理防御力も、(光以外の)属性攻撃無効化のチートも、カゲミツの聖障壁魔法すらも無意味なのだ。
即死する威力ではないといっても、ダメージが通っているなら、このままではいずれ……
と、思ったら。
(あれ?)
穴だらけになった神官見習いのローブの中を滑り落ちていく、無数の小さな金属の塊り。
石造りの床にジャラジャラと散らばったソレらは、俺の体に当たってひしゃげた弾丸だ!
(バカな、実体のあるエネルギー弾、だと?)
いや、そんなことはなかった。
床に散らばる無数の空薬莢。
撃ち尽くしては何度も交換された弾倉。
凄く痛いけど。
(……これって、ただの実弾?)
ただの物理攻撃なら、ほとんど効かない体なんです、俺。
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まだだ。
まだ、ヤツを倒していない。
6本目の30連弾倉を叩き込み、ボルトストップを解除しロ-タリーボルトを前進させて初弾を薬室に装填。
いつでも撃発可能な状態で、銃口を再び魔族の体に向ける。
150発の5.56×45mmNATO弾を浴び、石造りの壁に縫い付けられたソイツの体。生身の人間なら、挽肉になっていなければおかしい。
そう、わたし――『縣結理』の仇名、『挽肉製造機』の名前通りに。
だが、人体をたやすく貫通するはずの5.56mmフルメタルジャケット弾の破片が、石造りの壁に当って跳ね返ってこない。
跳弾が無いということ、それはつまり、肉体を貫通していないことを意味する。
穴だらけのゆったりした法衣も、血に染まっていない。
やはり、雑魚とは違って通常の小銃弾では効かないらしいな。
ここに着く前に、『仕込み』をしておいて正解だった。
……出し惜しみは無しだ。
アリスの居ないこの世界に、もはやわたしが生きる意味など無い。
わたしのもう一つの仇名、『ワンマン・アーミー』の名に懸けて、目の前の魔族――おそらく『魔王』――コイツだけは、絶対に殺す!
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「死んだふりは止めたらどうだ? 『魔王』!」
「ひぃっ、違います違いますっ、魔王なんかじゃありません!」
慌てて『気を付け!』のポーズをしてしまう。
ついに恐れていた事態――『勇者に魔王認定されるイベント』が発生してしまった!
「お前、私たちと同じ『元日本人』の転生者だな? チート持ちの転生者で魔族、そしてあの破壊魔法とくれば、『魔王』で決まりだ。」
ピタリ、と着剣した小銃の銃口を俺に向けたまま、憎悪に満ちた視線で俺を睨む女戦士アガタ。
「そんな、聖者じゃなかったのか?」
「魔王だと……」
周囲の王族や随行者たちから、ざわめきが生じる。
警戒心と不安に満ちた人々の中には、トルメク国の父娘の姿もあった。
もはや完全な敵地だ。
「縣さん、彼は私の友人なの、魔王なんかじゃないわ!」
「どうしておとーさんにひどいことするの? 許さない!」
ただ2人の俺の味方、愛理とカゲミツが、銃口の前に立ち塞がる。
「邪魔をするな、失せろ、愛理!
力を持てば人は変わる。ソイツはもう心まで魔族になってるんだ。
チートの全能感に酔いしれ、他人の命など気にも留めない傲慢な『魔王』にな。
さもなければ、面白半分に、高出力の魔力弾を人が住む街に撃ちこんだりするものか!
ここで討ち取らねば、人を、街を、国を、……この世界を滅ぼすぞ!?」
冗談じゃない!
「待ってくれ!
確かに魔力弾を撃ち込んだのは俺だけど、あれは事故だったんだ。」
「あれが事故、だと?」
ぴくり、と片方の眉を上げ、疑いの表情になるドーラン塗りの女兵士。
「オーガとの戦いで、初めて撃ったから威力が分からなかっただけで、街を攻撃する気なんて無かったよ!?」
「だとしても、その気になれば、力を振るうことが出来る。」
「俺は、この世界を滅ぼす魔王なんかじゃない!
元の世界で死んだけど、運良くこの世界に転生できて。
新しくできた家族や仲間たちと一緒に、この世界で生きていきたいだけなんだ!!」
「そんなたわごとを、信じると思うか?」
「死者は既に蘇生したし、建物その他の被害は弁償する。
もともと、レア・アイテムを売却して代金を愛理に預けるつもりだったんだ。
信じてくれ!」
「わたしに見破られたから、そう言ってるだけだろう? 金で解決だと?
そんなことで、アリスの命が取り戻せるなら……って、ちょっと待て。
今何と言った??」
「レア・アイテム売った代金を」
「いや、その前」
「建物とか弁償するつもりで」
「その前!」
「死んだ人なら蘇生しました。」
「……なんだってぇぇぇぇぇっ!??」
――――――――――――――――――――
「聖者さまの言うことは本当です! たとえ魔族であっても、わたくし、この御方を信じます!」
このタイミングで王族たちの中から進み出たアリスを見て、がっくりと膝を着く女兵士。
ガタガタと震え出し、その手から89式小銃が滑り落ちる。
愛する者の生存を知り、歓喜のあまり……じゃないみたい。
ドーランで顔色が分からないが、むしろ、なんかヤバそう。
「なんてことだ! よりにもよって、このわたしが、アリスを殺すことになるなんて!?」
「アガタお姉さま、どうなさったの? アリスなら、聖者さまに助けて戴いて、この通り元気ですわよ?」
近付いたアリスをがばっと抱きしめ、許しを請い始めるアガタ。
「ごめん、アリス。ごめんね。アリスもお姉ちゃんも、ここに居る人たちも、みんな死ぬの。魔王を倒すためだから、仕方無いと思ったの。せめてわたしも一緒に死んでお詫びするつもりでここに来たのに。よりにもよって、生き返ったアリスをわたしが殺すことになるなんて……」
え、何? ちょっと聞き捨てならん話のような??
「お取り込み中すいませんけど、みんな死ぬってどういうこと?」
「縣さん、固有スキルの『ワンマンアーミー』で、何かしたのね?」
愛理の質問、というより確認に、うなずくアガタ。
「つい先ほど、トルメク国に置いてある『マルス――多連装ロケット自走発射機(MLRS)』から、長射程誘導ミサイル(ATACMS)を発射したの。通常のクラスター弾頭じゃなくて、米軍から預かって保管していた小型核弾頭が積んであるのよ。あと数分で上空に到達し、ここに垂直降下してくるわ。」
「「 ……なんだってぇぇぇぇぇっ!?? 」」
ファンタジー世界に核兵器とか、どっちが魔王だよっ!?
次話は3月半ば頃を予定してます。




