第45話 スペース○ャトルになったった
「あと数分で、小型核弾頭を搭載した長射程誘導ミサイル(ATACMS)が上空に到達し、ここに垂直降下してくるわ。」
「 「 なんだってぇぇぇぇぇっ!?? 」 」
ファンタジー世界にいきなり核兵器ですかっ!?
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トルメク国の王宮へ訪れたアガタは、遠距離念話用魔道具で『諸王国会議議事堂が魔王の攻撃を受け、アリスが命を落とした』と知り、魔王に向けて小型核ミサイルを発射する準備をしてから、こちらに出向いたのだそうだ。
そして、俺の姿を見て魔王と確信し、どうやってか知らないが発射してしまった、と。
……なんて傍迷惑な勇者だ。
そんなモノ発射するなんて、むしろ、コイツが魔王だろっ!?
なんて言ってる場合じゃないな。
「ミサイルを止める方法は!?」
「ATACMSは、超音速で大気圏の上を飛来する短距離弾道ミサイルだぞ?
いくら魔法がある世界でも、地上から魔法やスキルで撃ち落とすことは不可能だ。」
イゾから受け取った勇者武器の回転式拳銃『6連発』の魔力弾なら届くだろうけど、超音速で飛んでるミサイルに当てるのは不可能だ。
「せめて、こちらにペトリオット地対空誘導弾を持ちこめていたら……」
なるほど、迎撃ミサイルか。
俺の探知画面スキルの範囲に入れば、弾道ミサイルの進路は分かるのだ。
イクシオルやカゲミツの稲妻なら、正確な狙いを付けなくても当たる。
地対空迎撃ミサイルの代わりが勤まるかもしれない。
いや、しかし、ライトニングの届く範囲まで近づけば、核の爆発に巻き込まれるかも……
いや、このままじゃみんな死ぬ!!
「カゲミツ、一緒に来てくれ、ミサイルを撃ち落としに行くんだ! 愛理はイクスを呼び出して、街の上空で迎撃準備を!」
「はい、おとーさん!」
「分かったわ!」
自動小銃で銃撃された時に落とした天狗面と団扇を拾い上げ、カゲミツと一緒に飛翔の準備に入る。
核の恐ろしさを知らないカゲミツを同行させるのは胸が痛むが、何もしなければここで死ぬのだ。
「いや、ムダだな……。仮に撃ち落とせても、落下地点――この街は核物質に汚染されるだろう。」
アガタの呟きに、思わず体が止まってしまう俺。
迎撃は不可能、迎撃出来てもこの街に放射性物質が降ってくる、と?
カゲミツやアリスを始め、この世界の人々は頭に『?』マークが浮かんでいる状態だが、俺と愛理は、絶望し言葉を失う。
ほんの数秒でさえ惜しいのに、何をしたらいいのか分からない。
時間を無駄にしながら、じりじりと焦燥感に苛まれる。
(いっそ、ミサイルの存在自体を消し去る方法でもあれば……
……
……
……ん、消し去る??)
そうだよ、撃ち落とさなくても、この街の上で爆発しなきゃいいんじゃない?
よし、閃いた!!
アレであーしてこーしてそーしてしまおう!
だが、そのためには超音速で飛来するミサイルに『触れる』必要がある。
上空で待ち構えるとしても、正面からミサイルにぶつかれば、ミサイルが爆発するかもしれない。
ミサイルと同じ速度で飛行して、相対速度が0の状態で触れるのがベストか。
しかし、天狗の翼でそんな速度が出せるのだろうか?
いや、迷っている暇はない!!
「カゲミツは、アルタミラやイゾ達に『街に近づくな』と伝言しに行ってくれ。
急いで!
俺は、出来る限りのことをやってみる。」
「おとーさんは、どうする気ですか?」
「キサマっ、1人で逃げるつもりかっ!?」
「相澤くん、何か思いついたのね?」
緊迫した状況。
正直、説明する時間も惜しい。
すぐにでも飛び立とうとした、その時。
「やっほー、アイザルト、遅いから迎えにきちゃった!」
全く空気を読まない女神が、議事堂の天井に開いた穴から舞い降りた!
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褐色肌の銀髪美女が、キツめの美貌に『のほほん』とした笑みを浮かべて、浮遊しながら降りて来た。
革鎧に麻のズボンという地味で平凡な女冒険者スタイルだが、そんな格好をしていても、並外れた美貌とプロポーションの良さが際立っている。
シグ達の護衛を頼んで、街道に残してきたはずのアルタミラだ。
俺が失敗した時に備えて、生き延びて、カゲミツを守り育てて欲しかったというのに。
……最悪のタイミングで、わざわざ核ミサイルの標的であるここ――死地に飛び込んで来ちゃったか、俺の愛しいドラゴンは。
「マウザーとシロに合流したら、アイギスの街に行った、っていうから~。
待ってたけど、遅いんだもん。匂いを辿って探しに来たわよ!」
そういえば、ドラゴンって結構嗅覚が発達してたんだっけ。
「さぁ、早く帰りましょうよ? カゲミツもおいで。」
……いや、待てよ。
死の大空洞でスカイダイブした時、スピード狂みたいな感じだったよな、ウチの嫁。
これは、最悪のタイミングじゃなくて、最高のチャンスかもしれない!
「いいところに来た!! アルタミラさん、自称『天空の覇者』で、大空では誰よりも早いんだったよね?」
「え? あぁ、確かに、ワタシは自称『天空を駆ける漆黒の女王』よ。ところで『自称』ってどういう意味なの……ぁむっ?」
天狗面を取っ払って、降り立ったアルタミラの腰を抱き寄せ、唇にキスをする。
当然、舌も入れている。
「んふっ。やだっ、アイザルトったら! そんなにワタシが恋しかったの? 後でじっくり……」
「いいから、俺が送る魔力全部使って、合図したら飛行魔法を!」
アルタミラとのキスは、彼女に俺の魔力を譲渡する手段のうち、2番目に効率のいい方法なのだ。
「え、なに、どういうこと?」
「い・い・か・ら、急いでぇ~!!」
天狗面を被って翼を拡げ、アルタミラを抱きしめて、ふわり、と飛翔を開始する。
『魔王が逃げるぞ?』とか騒いでる王族も居たが、急ぐのでスルーだ。
天井の穴を抜けて、故王宮の諸王国議事堂を見下ろす高さまで上昇。
2D探知画面でミサイルの位置を確認。
高度は不明だが、北から飛んでくる赤い輝点!
「いくぞ、アルタミラ! この上、やや北、天に向かって全力で、最高速だ!!」
「なんだか知らないけど、受け取った魔力全部使っていいのね? フフフ、燃えてきたわ! いくわよっ!!」
俺自身も翼に魔力を籠め。
目を爛々と輝かせたアルタミラが、獰猛な笑みを天に向けた瞬間。
世界が一瞬で下方に流れ去った!
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「こんなに高くまで来たのは初めてよ。さすがに魔力切れだわ。
……でも、キレイねぇ~……。」
俺の腕の中で、魂が抜けたように恍惚とするアルタミラ。
眼下には、青い海に囲まれた陸地が見える。
地球に良く似た、美しい惑星だ。
頭上には、漆黒の宇宙に浮かぶ、太陽のような恒星と瞬く星々。
天狗の翼の飛行速度に、アルタミラの飛行魔法の速度を加えた結果。
俺たちは凄まじい速度で雲を突きぬけ、成層圏を越え、気が付けば、ほんの一瞬で宇宙?に到達していた。
一体、どれだけの加速度で、マッハいくつ出てたんだ??
もしもロケットに乗ってこの速度が出ていたら、急激な『G(加速度)』により物凄い慣性力が掛かって、ペシャンコになったかもしれない。
魔法による飛行だと物理法則から逸脱するらしく、慣性力が掛からなかったのだ。
計算外だったが助かった。
死の大空洞でデスバハムートと戦った時、カゲミツを抱っこしたまま高速でジグザグ飛行とか出来たのも、慣性力が掛からなかったお蔭のようだ。
そして、天狗の翼の風防機能があるお蔭で、超音速で空気の壁に叩きつけられずに済んだ。
これも、ヘタしたら一瞬で挽肉交りの赤い霧に変わってた可能性がある。
うん、魔法万歳。風神GJ!
さて、観光気分に浸ってる場合じゃないな。
ミサイルを探そう。
惑星の周りを覆う気体の層である大気圏は、地球なら高度800~1000kmくらいまでの層を指すのだが、NASAの基準では高度100kmより上は宇宙空間扱いになるのだそうな。
弾道ミサイルは、最初の数分間の加速で超音速に達し、空気抵抗のない大気圏外まで上昇すると、その後は惑星の重心を焦点とする楕円軌道を描いて、慣性で目的地まで到達する。
俺たちの居る正確な高度は分からないが、この辺りにいれば、大気圏に再突入(降下)してくるミサイルとすれ違うはずだ。
「アルタミラ、今からここを通るヤツを捕まえなきゃならない。
ソイツが通り過ぎたら、追い付いて、同じ速度で近づいてくれ。」
「わかったわ!」
「よし、もう一回魔力を充填しよう!」
天狗面を外し、再びアルタミラとディープキス。
翼が消えて風防機能が解除され、風防で守られていた空気が宇宙空間に逃げてしまったが、一応大気圏内なので全くの真空と言うわけでは無い。
時間的にもほんの一瞬だし、アルタミラも俺もこの程度で窒息死するようなヤワな生物じゃない。なにしろ、『暗黒魔竜』と『魔王(仮)』だから。
アルタミラに、キスでさっきより多めに魔力を注ぎ込んだ。
そして、天狗面を被りなおして翼を出現させる。
(……よし、準備万端整ったな。)
ミサイルがどれだけ速くても、探知画面で捉えていれば補足できるはず。
2D画面では、俺たちとミサイルのお互いの高度や位置関係が分からないので、3D画面に切り替え、ミサイルの位置を確認すると。
「……
……
……たった今通り過ぎてったぁぁぁぁっ!?」
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ミサイルって火を噴いて飛んでるイメージだったので、もっと簡単に目視で発見できると思っていた。
しかし、弾道ミサイルは大気圏の境界付近に上がるまでは加速するが、後は慣性で飛行し、再び大気圏に再突入して目的地に落下する。
この時点では音も光も発していないので、離れた場所を通り過ぎたミサイルを、思いっきり見逃してしまった!
「アルタミラさんっ、お願い急いで追いかけてぇっ!?」
「なに慌ててるのか知らないけど、これだけの魔力があれば余裕で追い抜けるわよ?」
「さっきみたいな超スピード追い抜いちゃ駄目なんだ。追い付いて、同じ速度になって、俺が触れるようにしてくれ!
……カゲミツ達の命が掛かってるんだ!!」
「それを先に言いなさいよっ!?」
カゲミツも一緒に連れてくるべきだったか、などと後悔してる場合じゃない。
目視でも、落下して行く細長いシルエットを捉えた。
ミサイルの先端部分が、大気圏再突入の際に起きる『熱の壁』(空気の断熱圧縮によって加熱される現象)により、赤く輝き出す。
陸地の一点に向かって、吸い込まれるように落下し続けるミサイル。
俺たちも天狗の翼とアルタミラの飛行魔法で、どんどんスピードを上げて追いかける。
来たときのスピードには遠く及ばないとはいえ、見る見る近づいて大きくなってくる陸地。
このスピードで落下して大地に激突すれば死は免れない。
思わず恐怖心が芽生えるが。
あのミサイルは、地表からの高度が1000mをきると、センサーで自動的に起爆する。
核爆弾の種類にもよるが、小型の戦術核はそれくらいの高度で爆発するのがもっとも効果的――人的被害が大きくなるからだ。
つまり、ミサイルが爆発する前に追い付かなければならない。
ミサイルとの距離が縮まるにつれ、それ以上に大地との距離が縮まっていく。
山や川、湖といった地形が分かるようになってきた。
(ヤバい。)
だが、あと少しでミサイルに手が届く!
近付いてくると、意外に小さい。
全長は4mくらい、直径60cmといったところか。
(うわっ、街が見えてきた!?)
街道が伸びているのも判別できる。
急がなければ。
もう、手が届く……
(――届いたっ!!)
「収納っ!!」
熱くなったミサイルの金属製外筒に触れ、『亜空間収納』のスキルを発動させた瞬間。
俺たちの世界から持ち込まれた最終兵器の姿は、なんらの痕跡も残さず消滅した!
――速度を落とし、空中で停止する。
眼下の景色は、飛行機の窓から覗いた時と近いモノになっていた。
たぶん、地表から数kmくらいの高さだ。
あと少し高度が下がっていたら、ミサイルが爆発していたかもしれない。
だが、時間の停止した『亜空間』に仕舞いこまれている限り、ミサイルが爆発することは無いだろう。
俺は、カゲミツを、愛理を、グリューネやシグの家族を、そしてアイギスの街を守ったんだ!
……もの凄く地味な方法――『ミサイルをアイテムとして収納する』ことで。
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極度の緊張から解放されて、全身の力が抜けそうだった。
知らない間に、グッショリと汗を掻いてるし。
もちろん冷や汗だ。
今になって、体が震えてきた。
震えながらしがみついている俺を、『なによ、情けないわねぇ』とか言いながらも、しっかりと抱きしめてくれるアルタミラ。
その体温を感じ、心臓の鼓動を聞いているうちに、『生きてる』って実感が湧いてきて、安堵の余り涙が出そうになった。
「あれで良かったの? ただ落ちてく物を亜空間に仕舞っただけじゃない?」
「いや、我ながら地味だけど、あれがベストな解決方法だよ。」
傍から見れば、ただ飛び回っただけにしか見えないだろうけど。
この世界の人に分かって貰えなくても構わない。
むしろ、核の危険性とか、誰にも知られなければそれに越したことは無い。
「どうしたのよ、アイザルト? 生まれたての飛竜の雛みたいに震えてるわよ。」
「良く分からない例えだね。カゲミツは生まれた時からしっかりしてたじゃん?」
「アノ子は特別よ! ワタシの娘だもの。アイザルトやワイバーンごときと一緒にしないでよね?」
親バカなアルタミラのセリフで、気分がほぐれてくる。
気を抜いたところで、アルタミラの両手が顔に伸びて来て、天狗の面を剥された。
「おぃおぃ、何するんだよ!?」
俺の翼が消えて、飛行し続けるアルタミラに抱きかかえられてしまう。
アルタミラの碧色の瞳が、俺の顔を間近で覗き込んだ。
こつん、とおでこをくっ付けて、お互いに抱きしめあう俺たち。
「良く分からないけど、ワタシの娘を助けてくれたんでしょ?
御礼しなきゃね。」
そう言って、アルタミラの方から俺にキスをする。
魔力のやり取りの無い、親密なキス。
次は、ただの恋人同士のような、情熱的なキス。
そして最後に、長年連れ添った夫婦のように、穏やかなキス。
「……アルタミラが一緒に飛んでくれなかったら、俺1人じゃ出来なかったよ。
それに、カゲミツは俺にとっても娘だし。」
「そうね、『ワタシ達の娘』だもんね。」
「あぁ。それじゃ、俺たちの大事な娘を迎えに行こうか。」
アルタミラの手から、天狗面を取り戻して装着。
翼を出して、故王宮を目指す。
そこに居る人々のことを想いながら。
カゲミツや愛理、それにトルメク国の父娘、……そういえば、『勇者アガタ』が居たな。
アノ人、どうしたらいいんだろう??
次話更新は、今月末を予定しています。




