第5話 予定表にない予定
続き遅れてごめんなさい!できるだけ早く投稿できるようにします!それでは気を取り直して第5話お楽しみください!!
翌朝。
「……拓海ー」
「……ん」
「起きてー」
「……あと五分」
「昨日もそれ言ってたよ?」
「昨日の五分と今日の五分は違う」
「どう違うの?」
「気持ち」
「意味分かんない」
聞き慣れた声が、眠気の残る頭に響く。
俺は布団の中で寝返りを打った。
「……帰ってくれ」
「もう起こしに来ちゃったから無理」
「何でだよ」
「約束したでしょ?」
「……したな」
「じゃあ起きて」
「……」
仕方なく目を開ける。
そこには、いつものように琴葉が立っていた。
「おはよう、拓海」
「……おはよう」
「今日は素直だね」
「眠いだけ」
「朝ご飯できてるよ」
「……」
その一言で、俺は布団から出た。
「現金すぎない?」
「腹が減ってたからな」
「昨日も同じこと言ってたよ」
「知らん」
俺は制服に着替えながら、ふと机を見る。
昨日もらった鍵。
その隣に、一枚の紙が置かれていた。
「……何だこれ」
「ん?」
琴葉が覗き込む。
「……あ」
「お前が置いたのか?」
「うん」
「予定表?」
「そう」
紙には今日の予定が書かれている。
朝――登校。
一限――授業。
二限――授業。
三限――授業。
昼――昼食。
四限――授業。
五限――授業。
放課後――秘密基地。
「……なあ」
「なに?」
「一個増えてないか?」
「どれ?」
「秘密基地」
「昨日、拓海が行きたいって言ったから」
「……まあ、それはいい」
俺は紙を裏返した。
何もない。
「じゃあ、これは?」
俺は紙を戻す。
「『来週』って書いてある」
「……」
琴葉が一瞬だけ黙った。
「何?」
「何でもないよ」
「いや、明らかに何でもなくないだろ」
「ちょっとした予定」
「何の?」
「秘密」
「また秘密かよ」
琴葉は笑った。
「楽しみにしてて」
「……嫌な予感しかしない」
そう言いながら、俺は紙を机に戻した。
その時だった。
紙の端に、小さく赤い文字が見えた。
――『準備完了』
「……?」
俺がもう一度見ようとした瞬間。
琴葉が紙を素早く回収した。
「はい、おしまい」
「今、何か書いてなかったか?」
「気のせい」
「絶対見えたぞ」
「朝ご飯冷めるよ?」
「話を逸らすな」
「ほら、早く」
琴葉は笑っている。
けれど。
ほんの一瞬だけ。
その笑顔が不自然に見えた。
俺はそれ以上追及しなかった。
――この時は。
学校へ向かう道。
「そういえばさ」
「ん?」
「昨日の秘密基地」
「うん」
「どうやって見つけたんだ?」
「……」
琴葉が黙る。
「琴葉?」
「昔から知ってた場所」
「昔?」
「うん」
「俺も知ってた?」
「……知らないと思う」
「何で?」
「拓海、昔はあんまりこっち来なかったから」
「そうだったっけ?」
「そうだよ」
琴葉は前を向いたまま歩いている。
「昔ね」
「うん」
「この辺りに、よく来てたんだ」
「一人で?」
「……うん」
「何で?」
「秘密」
「またか」
「ふふ」
琴葉は笑う。
けれど、その笑顔の奥に何かある。
俺はそう感じていた。
「……琴葉」
「なに?」
「昨日の予定表」
「うん」
「『空白――あと少し』って書いてあっただろ」
「……」
「何のことなんだ?」
琴葉は答えなかった。
しばらく歩いた後。
「拓海」
「ん?」
「もしさ」
「うん」
「私が、拓海に何か隠してたら」
「……?」
「どうする?」
「内容によるだろ」
「例えば?」
「悪いことなら怒る」
「悪いことじゃなかったら?」
「……聞く」
「それだけ?」
「それ以上何があるんだよ」
琴葉は少し考えて。
「そっか」
とだけ言った。
「何だよ」
「ううん」
そして。
「じゃあ、いつか話すね」
その言葉が妙に引っかかった。
昼休み。
「拓海」
「ん?」
「今日、放課後すぐ帰らないでね」
「秘密基地だろ?」
「うん」
「分かってる」
「絶対だよ?」
「分かったって」
そこへ佐藤がやって来た。
「お前ら、また一緒かよ」
「悪いか」
「いや別に」
佐藤は俺の机を見る。
「……ん?」
「何だ?」
「それ」
「?」
佐藤が指差したのは、俺の鞄についた鍵だった。
「それ、何の鍵?」
「秘密基地」
「……は?」
「昨日、琴葉が作った場所」
「お前ら秘密基地まで作ったの?」
「俺も昨日知った」
「何それ」
佐藤が呆れたように笑う。
「で、今日は何するんだ?」
「知らない」
「お前、本当に何も知らされてないな」
「俺もそう思う」
「まあ、気をつけろよ」
「何に?」
「琴葉に」
「……」
俺は琴葉を見る。
琴葉は弁当を食べながら、こちらを見ていた。
「何で?」
「いや」
佐藤は少しだけ声を落とした。
「昨日、俺が水城から連絡もらったって話しただろ?」
「ああ」
「その後、もう一通来てた」
「何て?」
「『拓海にはまだ言わないで』」
「……」
俺は琴葉を見る。
「何のことだ?」
「さあ?」
琴葉は笑っている。
「俺にも分からない」
佐藤は肩をすくめた。
「まあ、俺は関係ないからな」
「逃げるなよ」
「巻き込まれる前に逃げるのが正解なんだよ」
佐藤は自分の席へ戻っていった。
「……琴葉」
「なに?」
「何か隠してるだろ」
「どうかな?」
「その返しは絶対隠してる」
「ふふ」
琴葉は楽しそうに笑った。
「放課後になったら分かるよ」
「……」
俺はため息をついた。
どうやら今日も。
普通の一日にはならないらしい。
放課後。
「行こう」
「うん」
昨日と同じ道を歩く。
けれど。
今日は琴葉の様子が少し違った。
「なあ」
「なに?」
「緊張してる?」
「……してないよ」
「してるだろ」
「してない」
「歩くの速くなってるぞ」
「……」
琴葉が少しだけ歩く速度を落とした。
「……分かった?」
「分かるわ」
「拓海、意外とよく見てるね」
「幼馴染だからな」
「……」
琴葉が一瞬だけ黙る。
「どうした?」
「ううん」
小さく笑って。
「嬉しいなって」
そう言った。
やがて。
昨日の秘密基地が見えてくる。
琴葉が鍵を取り出した。
俺も自分の鍵を取り出す。
「……」
「どうした?」
「拓海が鍵を出すの、なんか変な感じ」
「何で?」
「昨日まで私しか持ってなかったから」
「今日から俺も持ってる」
「うん」
扉を開ける。
昨日と同じ部屋。
机。
ソファ。
本棚。
二つのマグカップ。
そして。
「……ん?」
俺は壁を見た。
「写真、増えてないか?」
「……」
「琴葉?」
「気のせいじゃない?」
「いや、昨日なかっただろ」
壁には新しい写真が何枚か貼られていた。
学校。
帰り道。
秘密基地。
そして、その中に。
一枚だけ。
見覚えのない写真があった。
「……これ」
「……」
琴葉が黙る。
「いつ撮った?」
「昨日より前」
「いつ?」
「……ずっと前」
俺は写真を手に取った。
そこには。
小学生の頃の俺が写っていた。
ただし。
俺は一人だった。
「……これ、どこ?」
「公園」
「こんな写真、持ってたのか?」
「うん」
「誰が撮った?」
琴葉は答えない。
「琴葉?」
やがて。
「私」
「……」
「昔、撮ったの」
「何で?」
「拓海が一人でいたから」
「……」
俺は写真を裏返した。
裏には日付が書かれている。
十年前。
「……十年前?」
「うん」
「俺たち、何歳だ?」
「小学生」
「じゃあ……」
俺は写真を見つめる。
「何で俺、ここにいるんだ?」
琴葉は静かに答えた。
「拓海が、ここに来てたから」
「……」
「昔から」
その言葉に。
何かが引っかかった。
俺は壁を見る。
写真。
予定表。
秘密基地。
鍵。
そして。
琴葉が昔からこの場所を知っていたこと。
「……琴葉」
「なに?」
「お前、俺が忘れてること……知ってるのか?」
琴葉の表情が止まった。
「……」
「昔のこと」
「……少しだけ」
「何を?」
「それは……」
琴葉が目を伏せる。
「まだ言えない」
「また秘密かよ」
「ごめん」
その声は。
いつもの明るいものではなかった。
「でも」
琴葉は顔を上げる。
「いつか全部話す」
「……いつ?」
「拓海が、自分で思い出すまで」
「俺が?」
「うん」
「何を?」
琴葉は答えなかった。
代わりに。
机の引き出しから、一冊の古いノートを取り出した。
「これ」
「……?」
「拓海に見せるのは、まだ早いと思ってた」
「じゃあ何で出した?」
「今日なら……」
琴葉は少しだけ迷って。
「大丈夫な気がしたから」
「……」
俺はノートを見る。
表紙には。
俺の名前が書かれていた。
――『柊拓海』
「……これ、何だ?」
「拓海の昔のこと」
「……」
俺は手を伸ばした。
その瞬間。
琴葉がノートを閉じた。
「今日は、ここまで」
「おい」
「明日」
「明日?」
「一ページだけ見せる」
「一ページだけ?」
「うん」
「何でそんな制限するんだよ」
「その方がいいから」
「……」
琴葉はノートを大事そうにしまった。
そして。
「拓海」
「ん?」
「明日も来てくれる?」
「……」
俺は少し考えた。
「行くよ」
「本当?」
「ああ」
「約束?」
「約束」
琴葉は嬉しそうに笑った。
けれど。
俺はまだ知らなかった。
あのノートの一ページ目に。
俺自身が知らない、
十年前の「ある出来事」が記録されていることを。
そして。
その出来事こそが。
琴葉がこの秘密基地を作った本当の理由に繋がっていることを。
――翌日の予定表。
その一番上には。
いつものように学校の予定が並んでいた。
そして、一番下。
琴葉が誰にも見せていない欄に。
新しい予定が一つだけ書かれていた。
『拓海に、一ページ目を見せる』
その下には。
まだ誰にも明かされていない文字があった。
――『思い出したら、全部話す』
ちょこちょこ謎の文が出てきてますがこれは何なのでしょうか、そして拓海は琴葉の予定表にどう向き合うのか
。第6話お楽しみに!!




